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破瓜
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しおりを挟む余程の馬鹿面を晒していたのか、翠也は俺の視線を避けるように身を引いて項垂れた。
「女の身でもないのに、何をと思ってしまうのですが……」
けれど、と続ける。
「僕は……」
言葉を探しあぐねた翠也は言葉を切った。
「……発作を抑えるためなのは承知ですが、それでも、あ 貴男に、好いて欲しいと思うんです」
恥じらいを含む思いつめた顔で俺を見る。
「ここに袋なんてないのに、……卯太朗さんの 子種を含みたいって……」
ぱたりと俺の手の甲に涙が落ち、銀の軌跡を残して服に沁み込んでいく。
「だから……卯太朗さん」
泣きながら俺の首にしがみついた。
「情けをください」
蚊の鳴くほどのその声が、彼の精一杯さを物語る。
震えるほど強くしがみついた翠也の涙で首筋が濡れて冷たいはずなのに、どうしてか温かいと思ってしまう。
翠也が絞り出した言葉が嬉しかった。
なのに、それ以上に苦しくて……
息苦しさを訴える肺に喘ぐように息を入れ、翠也の小さな顔を両手で包み込んだ。
こちらに顔を向けようとしても、視線を逸らして俺を見ようとはしない。
「翠也」
名前を呼ぶと叱られた子供のように不承不承ながらにやっとこちらを見た。
涙で濡れた桃の頬。
噛み締めた紅い唇。
鮮やかに濡れた瞳。
それらを見て美しいと思っていた気持ちが、愛しいにすり替わっていることに気づく。
絵に留めることができたらいいと言う思いが、いつの間にか触れたくなった。
触れたらもっと欲しくなって……
質の悪い熱病のように彼に焦がれて手を伸ばす自分がいた。
蜘蛛の如く彼を絡め捕ったはずが、羽虫が火に誘われるように彼に焼かれてしまったようだ。
身分違いなのだと納得したはずだし、承知もしている。
けれど、たまらなく欲しくて。
「……」
一線を越えなければ、風邪が治るように彼への好奇心も薄れると楽観していた。
なのにそう言うことに疎い翠也が必死に絞り出した言葉が、胸の奥をくすぐったいように締めつける。
俺の言葉を待つ彼の目に再び涙が盛り上がり、玻璃のような光を湛えて……
また、後悔するのだと思う。
多恵の時のように、何も支える力を持たないのに手に入れると後悔する。
わかっている、知っているのに抗いようもなく俺は翠也の唇に口づけた。
ちゅく と滑らかな柔肌に吸いつくと、翠也の体がはっと身じろぐ。
「う た、ろ……さ……」
彼自身、事態が把握できてなかったのか不安げに服を握り締めてきたのはしばらくしてからだった。
柔らかな唇は女のそれと大差ない。
むしろ時折かさついていた多恵のものよりもしっとりとした滑らかさだ。
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