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藤の女
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しおりを挟むとろりとしたそれで喉を鳴らすと、ひくりひくりと体を震わせていた翠也が跳ねた。
「っ⁉ なっ」
衝撃で息を止めた彼の頬を撫でて微笑む。
「ご馳走様」
「ご……っご馳走様ではありませんっ あ、あんな場所から出たものをっ 」
翠也が言うのももっともだ。
男の淫水を飲み干す日が来るなんて思ってもみなかった。
臭くてまずいだろうし、何よりも気持ち悪い と。
けれどむしろ美味いと思うし、清々しささえ感じるのはどうしたことだろうか?
「嫌だったかい?」
「っ……ふ、ぅ、っ……ぅぅ」
ぼろぼろと泣き出した彼を宥めるために、拘束していた腕を解いて優しく抱き締める。
「卯太朗さんの口に、粗相をした……自分が、っ情けない……」
そう嘆く姿は消えてしまうそうなほどだ。
どうしてこうも、翠也は自分が悪いと思うのか……
性格に依るものなのだから仕方がないのかもしれないが、さすがに苦笑が零れる。
けれど、それも愛しいと思う。
しゃくり上げる彼をくすぐるように愛撫して、膝の上に乗せて背中を擦る。
軽いその重みとしくしくと泣く姿に寄り添いたくて、長く長く彼を抱き締め続けていた。
完成した鴛鴦を峯子に手渡すために、朝餉の知らせにきたみつ子に伺いを立てて貰う。
遠くに離れて最後にもう一度眺めていると、翠也が庭から顔を覗かせた。
「完成ですか?」
「あぁ」
入ってもいいかと尋ねてから、下駄を脱いで入ってくる。
鴛鴦の正面に椅子を置いて勧めると、素直に座る翠也の項をくすぐった。
黒い艶のある黒髪から覗くそれは隠されているようなのに、時折無防備に差し出されて、どうにもうずりと胸をざわつかせるのだから堪らない。
「ぁっ」
跳ねるように反応し、こちらを恨みがましい目で見上げてくる。
「ごめんよ」
くす と笑って鴛鴦についてなにくれと話をしていると、みつ子が呼びにきた。
「ああ、ちょうどよかった、坊ちゃんもお呼びでしたよ」
「僕も?」
そう言った翠也の頬が不自然に歪んだ気がした。
「翠也くん?」
「いえ……行きましょうか」
ふぃ と俺に向けられたのは、冷たい背中だった。
母に呼ばれて緊張する……そんな関係が俺にはわからず、峯子の部屋まで行く間ずっと押し黙っている翠也を見下ろしてどうしたのだろうかとそのことばかりを考えていた。
峯子は今日は秋の襲の色目で装っている。
気怠げに籐の椅子に座ってはたりはたりと団扇を動かす姿は、どこかの個展で見た美人画のようだ。
「あぁ、いらっしゃったのね」
とろりとした微笑みは手練手管に長けた色気を持つ。
固い蕾のような翠也にはない満開の色気を見た気がして、思わずこちらが恥じらってしまうほどだった。
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