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用心すべきは人生

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 ラセルトはそうでもなかったけれど、カティノはあからさまに当てが外れたぞと言う表情を隠しもしない。

「では……君とマリーン様の縁はー……」

 うん? と続きを促してみるもラセルトは言葉を区切ったまま首を傾げてしまう。
 その拍子にメタリックにも見える緑の髪が揺れて肩から流れ落ち、綺麗な流線形に沿うように滑っていく。

 ついつい動くものを見てしまうのは男の本能なんだっけ? と思いながらそれを見て、「縁って?」と尋ねた。

「私達の世界では縁がものを言う」
「はぁ?」

 縁故採用とか? そんな?

 ファンタジーの世界だと思っていただけに、不思議なものを想像していたオレは勝手に肩透かしを食らった気がして肩を落とす。

「マリーン様との縁は……どう考えればいいのか……」
「そうだな」

 カティノもむっと唇を曲げて長い爪のついた指先をくるくると回して考え込んでいる。

「あの、縁って言うのは……」
「縁はその名の通り縁なのよ、お互いの」

 この世界の常識らしきそれは、オレには全く未知の考え方だ。

「縁があればお互いが呼び合うって言う考え方だ」
「ってことはつまり、マリーン殿下の前世のオレは縁が強いって言えば強いけど血の繋がりはさっぱりだから弱いっちゃ弱い?」
「弱いと言うか、他人よね?」
「他人だな」
「他人ですよね」

 それはオレも考えたことがないわけではない事柄だ。
 マリーン殿下は前世の知識はあるみたいだけれど、だからと言ってオレのことを覚えているのかどうかはわからないし、そんなことはないとは思いたいけれど……オレのことを知らないと言ってしまえばそれで切れてしまう間柄だ。

 濃いようで、オレとマリーン殿下の縁は通りすがり程度にもないとも言える。

 いや、実際に顔を合わせたことのないオレはただの他人だ。

「その縁を辿ればマリーン様に会えると思ったんだが……」

 辿った先がオレだったが、縁は無いに等しい と。

「じゃあ、マリーン殿下の両親とかは?」

 オレの言葉に二人ははく と唇を動かしただけだ。
 なるほど……前世でも身内に縁がなかったが、それはこちらででもらしい。

 母方はもちろん、オレの父に至っては写真すらなくて親戚の類は一切いなかった。
 田舎に帰省することもなければ盆正月に参る墓もなくて、おじいちゃん達はいるのかと尋ねるオレに母は困ったように笑って返していた。

 来世もそれが付きまとうと言うのはなんの因果かと思う。

「あ、でも皇帝? の妹なら親戚も多いんじゃ……」

 そう言う王侯貴族系ってなんだかんだ血筋がものを言うんじゃないのか? って言うか、兄がいるだろ?



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