上 下
45 / 70
人生の先は谷底

8

しおりを挟む



「  ────10」

 やっと二桁になった! と思った途端、「11」と続く。

「12」と続けられて……会場がしんと水を打ったように静まり返った。
 それぞれの人が息を吸う音すら聞こえるような中で、二人の数字を告げる言葉だけが掛け合いのように聞こえ続ける。

「17」
「20」

 ザワ と人々が騒ぎ出す。
 会場すべての人間が二人のやり取りに固唾を飲み……そして男が手を下げた瞬間「あぁ!」と溜息のような声を上げた。

 張りつめていた空気が緩んで、客席を縫うように一人の背の高いフードの人物が歩み寄ってくる。
 オレが籠に詰められているせいで、視界が地面に近いって言うこともあるんだろうけれど、それを抜きにしてもそのフードの人物は大きく見えた。

 肩幅ががっしりとしているのがフードの上からでも見て取れたが、それ以外はすべてフードの下で謎に包まれている。

 声からしたら……多分、女。

 少しハスキーな感じもしていたから、もしかしたら声の高めの男かもしれなかったけれど、どうせ買われるなら希望として女性に買われたいと思うのが男心だ。

「おめでとうございます」
「ああ」

 そう言うとフードの人物は手袋をはめた手で宝石のあしらわれた木札を司会の男に手渡す。
 司会はそれを矯めつ眇めつ見つめ、宝石部分をルーペで覗き込んでから小さく頷いて、籠の鎖を持った男に運ぶようにと指示を出した。

 ずりずりと引っ張られていく最中に顔が見れないものかとフードの中身を覗き込もうとしてみたが、オレから見れたのはすっきりとした顎のラインだけだった。

 とは言え、その柔らかそうな丸みを見て女だなってほっとしたのだけれど。





 応接間はこじんまりとしていた。
 狭いと言っても過言じゃない。

 そこに無理やり応接セットを詰め込んだかのような部屋の造りで、やはり建物はボロボロなのにその応接セットだけは高級感を出そうとしているのかピカピカしていた。

「では、こちらでお支払いになります」
「ああ」

 最終的に20……円。

 駄菓子屋の商品かなぁ……なんて思いながら、そう言えばオレの前のトカゲは幾らで売れたんだろうかと思考を変える。
 鳴き声がちょっとアレだったけど、それでも虹色に見える金色のウロコは綺麗だったし、同じ色の瞳は愛嬌があって可愛かった。

 なんでだか意思の疎通もできていたみたいだから、傍にいたら話し相手とかになってくれそうな雰囲気だったと思う。

「それでは、20億ギーになります」
「ああ。今、使い魔に取りに行かせている。さすがに持ち歩く金額ではないからな」
「さようでございますね、ではお茶をお持ちしても?」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

処理中です...