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第二章 人生やっぱり甘くない
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しおりを挟む「ここは犯罪奴隷だけど、貴族とか商家階級の人間ばかりだから荒れてるいる人は少ないけど……危ないから絶対に私と行動してね」
念を押すように言われた言葉を胸中で繰り返しながら、ひよこのようにルーの後ろをついていく。
ほっそりとした体つきだと言うのに、ルーは畑の作物を籠いっぱいに入れては軽々と担ぎ上げた。
オレがそれをなかなか持てないでいると、小さくくすくすと笑ってくれる。
それは馬鹿にしたような笑いではなくて、なんだか出来の悪い弟を見守るかのような温かさがあった。
「オレ、奴隷なんだから怒鳴りつけられて鞭振るわれて、飯も水もほとんどもらえないものだとばかり思ってた」
「なにそれ、奴隷は資産なのにそんな扱いされるはずないわ」
にこにこと返されて……こんなところに召喚されてふてていたオレは恥ずかしくなった。
女の子の横乳が見えそうで見えないのが難点なだけで、それ以外では普通の生活そのままだった。
もちろん、労働と言うものが付いて回ってはいたけれど、どうにも人力で解決しなさそうなことを無理やりやらせようとしたり、肉壁にするためにってことで戦争に連れていかれる気配はない。
「とは言っても、これもすべてマリーン殿下の政策によるものなのよ」
「マリーン……殿下」
オレはその怪しげな名前にピンときて、前のめりになりながらルーにその人物のことを尋ねかけた。
「そのマリーン殿下って⁉︎」
「あ、トーマは記憶喪失だものね」
うふふ と笑うルーを見るとちょろすぎて心配になってくる。
チョロイン……なんて言葉が浮かんだけれど、失礼だから頭の片隅に追いやった。
「マリーン殿下は現国王のリヒトー陛下の妹君なの」
そう言うルーの目がきらりと光った。
それはクラスの女子が推しの話をする時の雰囲気に似ていたから、思わず一歩二歩と後ずさる。
「マリーン殿下は魔法に剣に優れていて、黒髪黒目のすごく綺麗な方でね!政にもどんどん参加されて、統一されたばかりで言語がばらばらだったこのグランディ帝国に共通語を普及させた方なのよ!おかげで識字率と意思の疎通が今までよりもできるようになって、言語が問題で諍いのあった種族のもめごとがなくなったり、共通語と共に基本的な読み書き普及も行ったから仕事にあぶれる人が少なくなってね!」
ぐいぐい……と来られて、ルーとの距離がびっくりするくらいに縮まった。
本人は気づいていないだろうけれど、嬉しそうに話す時に漏れる鼻息がオレの頬をくすぐって……オレ一人、非常に気まずい。
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