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しおりを挟む怯えさせないようにしゃがんで尋ねかけると、狼狽えてきょろきょろと辺りを見回し始めた。
「迷ったの?」
話しかけてみるが反応が返らず、小さな子供との接し方が分からない僕はこれ以上何と言っていいの途方に暮れ、同じようにきょろきょろと辺りを見渡した。
親らしき人は……
「 すみません、うちの子です」
視界の端に映った白い靴が慌ててこちらに駆けてくる。
細い足首が映って、会社勤めには向かない華やかで落ち着いたワンピースが目に入った。
顔に覚えは ない。
見上げるのも失礼かと、立ち上がって会釈する。
「見つかってよかったです」
「ご迷惑おかけしました」
「いえ、 こちらに御用が?」
服装通りの華やかな女性で、はっきりとした目鼻立ちは誰が見ても美人だと太鼓判を押すだろう。
嫌味ではない程度に鼻をくすぐるのは、香水……多分くちなしの匂いだ。
自分から言い出さなければ、子持ちには見えない。
「いえ、もう呼んでいただいているので」
にこりと笑う顔に釣られて「そうですか」と笑い、会釈して立ち去ろうとした時に部署のゲートが開いて見慣れた人が顔を見せた。
「 ────どうした」
ふ と、呼吸が乱れた気がした。
「父さんが孫に会いたいって言うから、来ちゃった」
首を傾げて言う姿は、人によってはあざとい姿なのかもしれなかったが、それが極々自然に見えるのはそう言う動作に慣れているからなのか……
「そうか。上まで送って行こう」
どっと汗が出る。
いつもより幾分柔らかい声音に、
いつもより幾分柔和な表情に、
目の前の人が誰だかわからない錯覚に陥りそうだった。
「 さすがに佐伯部長もお子さんの前では笑うんだね」
そう言われ、同じ部署の木村が隣に来ていることに気が付いた。
視線の先の佐伯は子供を抱き上げて……
「奥さん美人だね」
「奥さん……初めて見ました」
「ちょくちょく来られるのよ。差し入れも頂いたから。会長の孫で社長の娘で、将来有望な旦那さんがいて、 あーあ」
非の打ち所がない家族像だと、エレベーターが閉まっていくのを見送る。
カチン と歯が鳴ったのは隣には気づかれなかったようだが、扉が閉じきる一瞬、佐伯がこちらに目をやったような気がした。
経営企画の資料室のドアを開ける。狭いそこは人がいるかいないかを確認するのに苦労はいらなくて、僕はさっと辺りを伺ってドアから一番遠い隅に背中をつけて座り込んだ。
無機質な冷たい壁よりも、僕自身の体温の方が低いんじゃないかと、両手を擦り合わせている途中で震えに気づいた。
カタカタと、自分の意志の外で震える体を抑え込むようにして頭を伏せる。
心臓がうるさくて、止まれと思う。
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