棘の鳥籠

Kokonuca.

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 雰囲気も良く、性的マイノリティが多く集まる初心者でも入りやすい感じの店だ と。

 同性愛と言う大ぴらにできない性指向ではあったけれど、それでも愛し愛される相手が欲しくなかったわけじゃない。
 この機会にそう言った相手を見つけることができるんじゃないかって、細やかに期待しながら赴いたそこで……

 苦い思い出に唇を噛んだ。

「な、何もなかったんですっ! あの人とは、ちがっ……全然知らない人で……、だからっそんなんじゃなくてっ」

 経験していなくても、性的マイノリティがどう見られるかなんて痛いほどわかっている。
 だから、カミングアウトすることができなかったのだし、知られてしまった結果この会社にいることが難しくなるんじゃないかと言うことも簡単に想像できた。

「お……お願い、しま……」

 恐怖で力の入らない手で部長のスーツに縋り、繰り返し首を振る。
 底の知れない恐怖に溢れ出した涙を止めることができずに顔を歪めた。
 
「だ、だれに、も、っ」

 頬を伝う涙がたったっと小さな音を立てて床を叩く。
 みっともない姿だったろうと思う。

 実際に部長はその姿を見て呆れたのか、何も言わずに立ち去ってしまったのだから……


 そしてそのまま、僕が怯えていたような何かがあるわけでもなかった。





 びくびくと腰が震える。
 ナカが蠢いて、佐伯のモノを扱いてそこから出る苦い水を飲み干そうとしているのをぼんやりと遠くに感じる。

「戻ってこい」
 
 軽く頬を叩かれ、達した衝撃で意識がぼんやりしていたことに気がついた。

「ぶ、ちょ……」

 息を切らしながら視線を巡らせると、目尻に溜まっていたらしい涙が零れてこめかみを伝う。
 そのくすぐったさを拭おうとした手を取られ、何事かと思っていると佐伯の唇が指を食んだ。

「拭うな。お前は泣き顔に価値があるんだから」

 熱く柔らかな唇の奥の歯がわずかに皮膚に食い込む。
 すぐ下に骨のある薄い肌はじわりとした痛みを訴えていたけれど、それですらイった体には毒のようにきつい快感をもたらす。

「は、ぁっ  ……っン、それ……」

 さらに快楽に落とされるのを嫌がって逃げを打つも、頭を押さえられてはそれもできなくなった。
 シーツにだらしなく涎を擦りつけながら、佐伯が押し込んでくる質量を諾々と飲み込めば……

 視界が真っ白になるほどのチカチカとした気持ち良さに、訳のわからない声を上げてしまう。

「ぃ、ああああっごりゅごりゅ、しな、ぃ、ァっ! カリで、ナカ……」

 ひぃ と喉に張りつくような嘆願を繰り返す。

「つぶ、つぶさ……ひ、ィっぶちょ ぉっ! アっ、こわ、こわれ……あ、頭、おかし……ぁ、あっ」

 突き上げられて脳味噌が焼き切れておかしくなってしまいそうな僕とは違い、情事に耽っていると言うのに部長は乱れることがない。

 

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