放課後教室

威

7

　悲哀を滲ませた泣き声が掠れ、嗚咽が啜り上げる音に紛れるようになる頃、威はじっと抱き締めていた葉人の体をそっと押しやった。 

「葉…」 
「……っ…、ぅ…」 

　流れ続けた涙の為か腫れあがった目元をそっと労わるように指で押さえ、 

「冷やすもの…用意するから」 

　葉人の涙で重くなったシャツを握り締め、そう言って立ち上がった。 

「…風呂、使うといい。そうしたらタクシーを呼ぶから……そしたら…」 

　見上げた威の顔は、葉人が今まで見てきた威の表情のどれよりも暗く、沈み、悲愴さを滲ませていた。 
　決意を見せるものの澱を溜めて沈み込んだ瞳に光はなく、それに見詰められる恐ろしさに葉人ははっと息を呑む。 


「そしたら……さ。俺、もう…葉には……関わらないから」 


　濁った瞳が、一瞬雫を湛えたような気がしたが、威はさっと顔を上げると背を向けた。 

　いつも見ていた背中が語る拒絶に、指の先が震えて行くのを葉人は止める事が出来ない。 


「あんなことを…して……葉を苦しめて……のうのうと隣になんか…もう居れない。今更って…言うかもしれないけど…」 


　振り返る事もしない。 

　真っ直ぐにこちらを見て、天真爛漫な笑顔を向けてくれていた威とそこに立ち尽くす威の違いに、眩暈を覚えて蹲った。