放課後教室

Kokonuca.

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「苦くないか?」 
「ブラックなら、こんなもんじゃないですか?」 
「そうか、またミルク買っておくから」 
「ブラックで大丈夫ですよ」 

 立ち上る香りを楽しみながら、他愛ないやり取りを光彦とする。 
 ふと、家族の話になった。 

「下に弟が一人だな。小田切はお母さんと二人だったか?」 
「えぇ、ずいぶん前に別れたそうです。今はアメリカに戻ってるとか…」 
「アメリカ?じゃあハーフになるのか?」 

 コーヒーを飲み干して首を振る。 

「4分の1だけです」 
「クォーターか。なるほどな、ちょっと日本人離れしてるなって思ってたんだが…」 
「初めて言われました。髪が茶色いとは言われますけど」 

 そう言って亜麻色の髪を引っ張ってみせる。 

「あぁ確かに。書類に地毛って書かれてなかったら指導対象だったんだ」 
「えぇ!?」 

 がっくりと肩を落としながら、空のカップをテーブルへ置く。 

「駆け落ちして結婚したのに、別れるって…おかしいですよね…」 

 ぽつりと呟き、寂しそうに微笑む。 

「なんか…好きとか、愛してるとか…よくわかんなくなっちゃいます」 
「小田切…」 
「あっ…いや、うちの親の話です!」 

 慌ててそう言い、苦笑しながらうつむく。 

「すみません、変なこと言いました…」 
「俺は…」 

 そっと光彦の手が葉人の頬を包み込んだ。 

「俺はお前と離れる気はないぞ。絶対だ」 

 じんわりと広がる手の体温に、そっと頬を擦り寄せて微笑む。 

「…ありがとう……ございます」 

 そう言って光彦を見上げる葉人の目は、しっとりとした艶を含んでいる。 
 光彦が珈琲で温まった唇を指でなぞると、微かに潤んでいた瞳をそっと閉じた。


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