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4. ただでさえ顔がいいのにおめかししたらそりゃもう
4-3 控え室での出会い
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――気付いた時には、全く別の場所にいた。
高級そうな雰囲気が漂う、白い壁に紫の絨毯。どうやらここが、魔術連盟の本部……の、ロビーみたいだ。おれたちの他にも、白いローブの魔術師や使い魔の姿がちらほら見られる。
「……着いたぞ。気分はどうだ」
「んー……? なんかちょっと、ふわふわするような気も……?」
「……その程度なら問題は無さそうだな。転移魔術を使った際の、よくある副作用だ。すぐ治る」
副作用……まあ、そうか。一瞬で別の場所に移動するんだもんねぇ。感覚としては、寝てる間に目的地に着いちゃってた……みたいな? この足元の覚束なさは、寝起きにも似ている気がする。
おれが普段通りの感覚を取り戻すべく、その場で軽く足踏みをしていると……にこにこと笑みを浮かべた人影が、こちらに近づいてきた。
「どうも、どうも! お待ちしておりましたよ、アッシュ殿」
藍色の髪の、背の高いお兄さん。
ええっと、前にお屋敷に来てた……マグノリアさん、だっけ。そういえば、魔術連盟の人だって言ってたもんね。
「ああ……たいへん麗しいお姿で! 私、胸のトキメキが止まりません!」
「……」
そう言いながら、胸を手で押さえるマグノリアさん。うーん、今日もアッシュ様のことが大好きでいらっしゃる。
肝心のアッシュ様は、やっぱり顔色一つ変えておりませんけどね……。
「ささ、こちらへ。魔術連盟の皆様がお待ちですよ。……ああ、鞄もお預かりします」
ひょいっと片手で鞄を受け取られる。なんか……軽々と持ってますね。見かけによらず力持ちなんだなぁ。
そしてマグノリアさんは、手で別の方向を示して。
「使い魔さんはあちらの控え室へどうぞ。ごゆっくりお過ごしくださいね」
「はぁい」
さてと、ここからは別行動かぁ……。おれは別れる前に、アッシュ様にこそっと耳打ちする。
「頑張ってきてね、ご主人様」
「はぁ……」
おれの激励は、深い溜息で返された。
いやー、とことん気が乗らなさそうだな。人の多い場所が苦手、かっちりした服装も苦手……それにたぶん、魔術連盟の偉い人たちと話すのも苦手なんだろうし。
いつもはアッシュ様がおれに対して心配しがちなのに、今日はおれの方が保護者みたいな気分だ。まさかそんな日が来るとはねぇ。
「えーっと……失礼しますー……」
やって来た控え室には、既に何人もの使い魔がいた。
ソファに座っている人、お喋りしている人、本を読んでいる人。そしてやっぱりみんな、猫耳と尻尾が生えている。わー、もふもふ天国だぁ……。
(で、おれはどうしましょうか)
とりあえず、魔法陣で移動した後のふわふわ感は覚めたので、何か行動してみても良いのですが。
使い魔の知り合いはファーくんしかいないし……そのファーくんも、どうやら近くには見当たらないし。一旦、どこかすみっこにでも座って様子を窺おうかな、なんて思っていると……。
「――あら。あなた、新入りね?」
鈴が転がるような可憐な声が、おれに投げかけられた。
そこに立っていたのは、薄茶色の髪をゆるいツインテールにした、小柄な使い魔の女の子。でも、何より目を引くのは……その服装だった。
白いブラウス、パニエでふわふわのスカート、そしてヘッドドレス。
(わ。正統派ロリィタだ……!)
いいよなぁ、ロリィタ。いつか機会があったら着てみたいなって思ってたんだ。
おれが気を引かれている、その間に……女の子はおれの耳のてっぺんから爪先まで、じっくりと視線を巡らせる。うーん、念入りな新人チェック。
「……ふぅん。アッシュ様は『こういうの』が好みでいらっしゃるの?」
「や、この格好はおれの趣味で……」
おれが口を開くと……彼女は、ぱちり、と丸い目を瞬かせた。
「……あなた、男の子?」
う。初対面じゃ、やっぱり驚かれますよねぇ……。
この前アッシュ様とはぐれた時に向けられた、嫌な視線が頭によぎりつつも……おれは、黙ったまま頷く。
すると女の子は、まあ、と口元に手を当てた。
「なんてこと……あの天才魔術師様に、男の娘趣味がおありとは……」
「いえあの、だからおれの趣味ですってば」
まずい。アッシュ様にいわれの無い性癖が捏造されてしまう……!
おれは、この場に不在のご主人様の名誉を守るため、彼女のために説明を繰り広げることになったのだった。
高級そうな雰囲気が漂う、白い壁に紫の絨毯。どうやらここが、魔術連盟の本部……の、ロビーみたいだ。おれたちの他にも、白いローブの魔術師や使い魔の姿がちらほら見られる。
「……着いたぞ。気分はどうだ」
「んー……? なんかちょっと、ふわふわするような気も……?」
「……その程度なら問題は無さそうだな。転移魔術を使った際の、よくある副作用だ。すぐ治る」
副作用……まあ、そうか。一瞬で別の場所に移動するんだもんねぇ。感覚としては、寝てる間に目的地に着いちゃってた……みたいな? この足元の覚束なさは、寝起きにも似ている気がする。
おれが普段通りの感覚を取り戻すべく、その場で軽く足踏みをしていると……にこにこと笑みを浮かべた人影が、こちらに近づいてきた。
「どうも、どうも! お待ちしておりましたよ、アッシュ殿」
藍色の髪の、背の高いお兄さん。
ええっと、前にお屋敷に来てた……マグノリアさん、だっけ。そういえば、魔術連盟の人だって言ってたもんね。
「ああ……たいへん麗しいお姿で! 私、胸のトキメキが止まりません!」
「……」
そう言いながら、胸を手で押さえるマグノリアさん。うーん、今日もアッシュ様のことが大好きでいらっしゃる。
肝心のアッシュ様は、やっぱり顔色一つ変えておりませんけどね……。
「ささ、こちらへ。魔術連盟の皆様がお待ちですよ。……ああ、鞄もお預かりします」
ひょいっと片手で鞄を受け取られる。なんか……軽々と持ってますね。見かけによらず力持ちなんだなぁ。
そしてマグノリアさんは、手で別の方向を示して。
「使い魔さんはあちらの控え室へどうぞ。ごゆっくりお過ごしくださいね」
「はぁい」
さてと、ここからは別行動かぁ……。おれは別れる前に、アッシュ様にこそっと耳打ちする。
「頑張ってきてね、ご主人様」
「はぁ……」
おれの激励は、深い溜息で返された。
いやー、とことん気が乗らなさそうだな。人の多い場所が苦手、かっちりした服装も苦手……それにたぶん、魔術連盟の偉い人たちと話すのも苦手なんだろうし。
いつもはアッシュ様がおれに対して心配しがちなのに、今日はおれの方が保護者みたいな気分だ。まさかそんな日が来るとはねぇ。
「えーっと……失礼しますー……」
やって来た控え室には、既に何人もの使い魔がいた。
ソファに座っている人、お喋りしている人、本を読んでいる人。そしてやっぱりみんな、猫耳と尻尾が生えている。わー、もふもふ天国だぁ……。
(で、おれはどうしましょうか)
とりあえず、魔法陣で移動した後のふわふわ感は覚めたので、何か行動してみても良いのですが。
使い魔の知り合いはファーくんしかいないし……そのファーくんも、どうやら近くには見当たらないし。一旦、どこかすみっこにでも座って様子を窺おうかな、なんて思っていると……。
「――あら。あなた、新入りね?」
鈴が転がるような可憐な声が、おれに投げかけられた。
そこに立っていたのは、薄茶色の髪をゆるいツインテールにした、小柄な使い魔の女の子。でも、何より目を引くのは……その服装だった。
白いブラウス、パニエでふわふわのスカート、そしてヘッドドレス。
(わ。正統派ロリィタだ……!)
いいよなぁ、ロリィタ。いつか機会があったら着てみたいなって思ってたんだ。
おれが気を引かれている、その間に……女の子はおれの耳のてっぺんから爪先まで、じっくりと視線を巡らせる。うーん、念入りな新人チェック。
「……ふぅん。アッシュ様は『こういうの』が好みでいらっしゃるの?」
「や、この格好はおれの趣味で……」
おれが口を開くと……彼女は、ぱちり、と丸い目を瞬かせた。
「……あなた、男の子?」
う。初対面じゃ、やっぱり驚かれますよねぇ……。
この前アッシュ様とはぐれた時に向けられた、嫌な視線が頭によぎりつつも……おれは、黙ったまま頷く。
すると女の子は、まあ、と口元に手を当てた。
「なんてこと……あの天才魔術師様に、男の娘趣味がおありとは……」
「いえあの、だからおれの趣味ですってば」
まずい。アッシュ様にいわれの無い性癖が捏造されてしまう……!
おれは、この場に不在のご主人様の名誉を守るため、彼女のために説明を繰り広げることになったのだった。
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