上 下
31 / 50
4. ただでさえ顔がいいのにおめかししたらそりゃもう

4-1 おめかしアッシュ様

しおりを挟む
「……ご主人様、まだかなぁ」

 椅子に腰かけたまま、おれは暇な脚をぱたぱたと動かす。
 お屋敷の広間にいるのは、おれと、メイドさんが数人。メイドさんたちは、何だかうきうきしている模様だ。

「今日の『会合』は、正装で臨まなければなりませんからねぇ。私どもも張り切っていますのよ」
「アッシュ様が着飾ってくださる機会なんて、この年に一度くらいしかないんですもの!」
「あははー……」

 アッシュ様、いつも同じような服ばっかり着てるもんなぁ。たぶんそのあたり、無頓着なんでしょうね。
 きっとアッシュ様のお着替えを手伝っているメイドさんたちは、もっとテンションが上がってるんだろうなぁ。

 ――今日は、王都で行われる魔術連盟の会合の日。
 あれこれ言われていたこともあってか、アッシュ様はちゃんと出席することにしたみたいだ。
 今は出発前、ドレスアップ中のアッシュ様を待っている時間なわけですが。

「っていうか、おれはこの格好でいいの?」
「使い魔は会合には出ないというお話ですので……構わないと思いますよ」

 うーん。でもアッシュ様がこんなに時間をかけて支度してるなら、おれも何かおめかしするべきだったかな?
 なんて考えていると、メイドさんが言う。

「それに。メグム様にとっては、それが一番の勝負服なのでしょう?」

 ……あ。
 自分でリメイクした特製メイド服に、アッシュ様に買ってもらったシュシュ。普段着ではあるけれど、とびきり『かぁいい』おれの武装。
 目から鱗が落ちた気分だった。

「……うん。そうだよ、この格好のおれが一番かぁいいんだから」
「でしたらそれで参りましょう! 使い魔仲間の方々との話の種になるかもしれませんし!」

 メイドさんが、力強くこぶしを握って言う。
 そんな風に言われたら、自信爆上がりですよもう。……お屋敷の外に行ったって、おれはおれらしくいればいいんだよね。周りからどう見られるか、どう思われるかなんて、気にしないでいいんだ。アッシュ様みたいに。
 すると、広間の入り口のドアが開いて。

「メグム様~! アッシュ様の準備ができましたよ!」
「おー……!」

 お着替えが完了したアッシュ様の姿を、おれはいそいそと見に行く。

 ――そこに現れたアッシュ様は。

「……」

 いつものシャツとベストじゃなくて、白地に金の刺繍が入った上等そうなローブを着て。
 さらに、髪はかっちりとオールバックにしていた。

 こ、
 これは……。

(かっ……こいい……!)

 金髪と赤い瞳に『正装』の色合いがマッチして、史上最高にかっこいい。元から整った顔をしていたけど、綺麗に着飾った時の破壊力がここまでとは……。そこに立っているだけで絵画になってしまう。
 ヤバくない? こんなの、女の子みんな虜になっちゃうよ。

(おれも人のこと言えないけど……!)

 メグム、普段見られないご主人様のキメ姿に、ハートを鷲掴みにされております。いやはや、顔がいいのは分かっていたはずが……アッシュ様のポテンシャルを侮っていましたねぇ。
 おれが、その姿から目を離せずにいると……アッシュ様が深く息をつく。

「……はぁ。堅苦しいのはどうも苦手だ」
「いやいやいやいや……!?」

 一言目がそれぇ!?
 こんなにもかっこいいのに、なるべく早く脱ぎたそうな顔をしている。親戚の結婚式に連れられてきた子どもか?
 いやでも、気怠げな表情ですらも美麗だなぁ!?

「か、かっこいいですよご主人様!?」
「……そうか?」
「そうそう! おれもメロメロになっちゃうかも、なーんて……」

 おれは強めに肯定する。こんなに素敵な格好をしてるんだもん、もっと自信持ってくれた方が絶対にいい!

「……」

 ってあれ、黙っちゃったよ。
 うーん……ご主人様の感情が分からないなぁ。嬉しかったのかそうでもないのか……や、嬉しくなかったら、もっと不機嫌そうな顔をするか。
 おれの褒め言葉は素直に受け取ってもらえた……ってことで、いいんですかね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

(…二度と浮気なんてさせない)

らぷた
BL
「もういい、浮気してやる!!」 愛されてる自信がない受けと、秘密を抱えた攻めのお話。 美形クール攻め×天然受け。 隙間時間にどうぞ!

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

神獣の僕、ついに人化できることがバレました。

猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです! 片思いの皇子に人化できるとバレました! 突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています! 本編二話完結。以降番外編。

処理中です...