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3. 天才魔術師の地味なお仕事

3-7 迷子の迷子の使い魔さん

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(げ、ヤバ……!)

 すうっと頭が冷たくなる。
 離れるなって言われてたのに! しっかりやらかしてしまった。
 今回に関しては、完全におれが悪いよなぁ……。

「みゃ~?」
「……ご、ごめんね。おれ、行かなきゃ」

 おれは首を傾げる猫に別れを告げて、通りを早足で歩き始める。往来をきょろきょろと見回しながら、ご主人様に呼びかけてみる。

「アッシュ様ー……! どこー……?」

 やっぱり返事は聞こえない。
 歩いてきたのと逆の方……だから、こっちに向かったと思うんだけど。アッシュ様、歩くの結構速かったもんなぁ。脚が長い人はこれだから……。
 そうやってご主人様を探し回っていると、何と言うか。

(……うー……)

 何とも言えない……嫌な視線がおれに向いているのを感じる。
 いや、分かるよ。猫耳と尻尾が生えていて、メイド服で、でも声は男で。そりゃ目立つよね、おれ。気になっちゃうよね。

「……あの子……」
「ええ……ちょっと……」

 雑踏に紛れてはっきり聞き取れはしないけど、明らかにおれの方を見てコソコソ話してる人もいるし。
 そうだよ。
 外に出るってことは、こういうこと。

(やっぱりおれって、『変』なんだよね)

 そう、実感してしまう。
 お屋敷のメイドさんたちも、アッシュ様も、ローレル様もファーくんも……おれの格好を受け入れてくれたけど、それはただ、ラッキーだっただけで。これが現実なんだ、きっと。
 この世界でも、それは……変わらないんだ。

(……だめ、負けるな)

 おれは、ぐっとスカートを握って自分を励ます。
 俯いてちゃいけない。前を向かなきゃ。アッシュ様を見つけなきゃ。
 人、人、人の合間を縫って……話し声や呼び込みの声も、流し聞きして……。あちこちに向いていた意識が、今は、アッシュ様を探すことだけに集中していた。
 そして……。

「!」

 人混みの中――こちらへ引き返してくる人が、目に留まる。
 それは背の高い、金髪の。

「……ご主人様!」

 おれは駆け足で、通行人の間を縫って進んで――ばっ、とアッシュ様の懐に飛び込む。
 ……って、安心のあまり抱きついちゃった。男同士とはいえ、こういうのは良くないね。

「……」

 ほら、アッシュ様も戸惑ってる。戸惑ってる顔も美麗だなぁもう。
 しばらく無言でおれのことを見下ろした後……アッシュ様は、深々と溜息をついた。

「……はぁ。離れるなと言っただろう」
「ごめんなさい……!」

 頭を下げて素直に謝る。おれの注意不足で、はぐれちゃったんだもんね。言い訳はナシ。
 ……怒ってるかな、ご主人様?
 そう思って少し顔を上げようとすると、ぽむ、と頭の上に手を置かれた。

「……心配したんだからな」

 そう言って、おれの頭を撫でるアッシュ様。
 ああ……何だか安心するなぁ、この感覚。くすぐったいけど落ち着く、そんな感覚。

「リードでも繋いでおけば良かったか……」
「いや流石に過保護がすぎるって! それ完全にペット扱いじゃん」
「そうだな……なら止めておくか」

 と、真剣なトーンで言うアッシュ様。……え、冗談ですよね? 本気じゃないですよね?
 まあ、とにかく……合流できてほっと一息。
 アッシュ様に頭を撫でてもらうのは気持ち良くて……あんなに皮膚を刺していた周りからの視線も、心細さも、いつの間にか気にならなくなっていたのだった。
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