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2. ご主人様はクールで過保護

2-4 異世界魔術事情

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「……つまり、『萌え』というのは……愛やら、トキメキやらといった概念なのか」
「んー、まあ、そんな感じ?」

 やや卵の崩れたまかないオムライスを、スプーンに乗せて口に運ぶ。
 イケメンが大真面目に『萌え』について分析してるの、やっぱりだいぶ面白い図だな。笑ったりしたら絶対怒られるけど。

「それを食べ物や飲み物に込めるまじない……と。なるほど、俺たちの使う魔術に通じるものがあるな」

 通じるんだ……?
 もしかしたら、元の世界のメイド仲間の子たちも、異世界に来たら救世主とかになれちゃうのかもしれない。メイドの冒険譚……ラノベ一本書けちゃいそうだな。
 それはそれとして。

「……おれ、この世界の『魔術』のこと、まだあんまり分かってないんだけど。魔術師って、何するの?」
「そうか、確かに説明する必要があるな」

 アッシュ様は軽く頷くと、おれのために講義を始めてくれた。

「伝承では、魔術にも様々な形態があると言われているが……現状、この世界で使われている魔術は、気軽に使えるようなものではない」
「そうなんだ?」
「封印、魔除け、浄化など……用途に応じた魔法陣を描き、そこに杖で魔力を込めることで魔術を実行することが出来る」

 なるほどね……思ったより難しそうだなぁ。
 もぐもぐとオムライスを頬張りながら、呑気なことを考える。せっかく異世界に来たんだし、おれも魔法が使えたら……なんて思ったんだけど、厳しいっぽいか。(萌えチャージも魔法のようなものではあるけど……)

「『魔術師』の称号は、魔術を使うための資格のようなものだ。然るべき教育を受け、試験に合格することで『魔術連盟』に認められ、魔術師を名乗ることができるようになる」
「魔術連盟……あ、前にメイドさんが言ってた気がする」

 優秀な魔術師だけが加入できる組織、みたいな話だったような。話を聞く感じ、魔術師の業界では重要な組織なんだろうな。

「じゃあ、『魔術師』って資格みたいなものなんだ。魔術師じゃない魔術師は魔術師じゃないの?」
「早口言葉か」

 おれも今にも噛みそうだった。

「魔術連盟に認められていない者は、一般に『魔術使い』と呼ばれるな。見習いの者や、認可されていない魔術を使っている者などが該当する」
「……それ、混ぜちゃっていいのかなぁ」
「それ以外にちょうど良い名称がないからな。後者は『黒魔術使い』と呼ばれることもあるが」

 黒魔術……また怪しげな言葉が出てきたなぁ。難しい話ばっかりだけど、聞きたいことが多すぎる。

「俺の主な仕事は、各種結界の補強や、魔術研究なんだが……魔術連盟からは、あまり良い顔をされないな」
「……え、なんで?」
「魔術連盟としては、魔術の権威を知らしめるために、もっと派手なことをやってほしいんだそうだ」

 そう言うアッシュ様は、何だか苦い顔をしている。
 うーん。組織との方針の違いか……それは大変だよなぁ。
 おれを召喚した事情もそうだけど、天才だからって好き勝手にやらせてもらえるわけじゃないってことか。社会人の苦労を感じるぜ……。

「おれ、よく分かんないけどさー……ご主人様がやってるみたいな、コツコツ積み上げてくことこそが、魔術の重要さを広めるためには大事なんじゃないの?」
「……分かってるじゃないか」

 そうかな?
 ぱっと思ったことを言っただけなんだけど。
 アッシュ様は、おれのその反応が少し意外なようだった。

「お前は、派手な魔術の方が好きかと思っていた」
「偏見だなぁ……。確かに憧れはするけどね? ご主人様がやってることも、プロっぽくてかっこいいなって」

 服を作るにも、リメイクするにも……材料の準備や下調べ、縫い方の研究とか、いろいろやることはあるもんね。かぁいい服ほど、見えないところに手間がかかってる。

「実際、魔術のプロフェッショナルなんだもんね。ご主人様って」
「……そう言ってもらえるのは、有り難いな」

 アッシュ様は、笑って……はいないけど、少し柔らかい表情をしているように見えた。

 そんな、アッシュ様や魔術のことについていろいろ知れたお昼でした。
 ふふ、何だかお腹も心もいっぱいになった気分だなぁ。
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