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呪詛
呪詛の主
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頬を優しく撫でられる感触に、真霧はそっと目を開けた。
いつの間に戻ってきたのか、洞窟の中で浪月の腕に抱かれていた。
「私は……」
言いかけて、はっとして下腹を撫でる。
触手の巣で鬼の種を注がれ、子を産んでくれと言われたことを思い出したのだ。
(まさか────)
「案ずるな。そなたは孕んでおらぬ」
「さ、さようでございますか……」
ほっと息を吐き、だがすぐに浪月を見つめ直す。
「……なぜ知っておられるのですか」
「水鏡に映っていたゆえな」
浪月が傍らの角盥を指し示す。
(では、全て見られていたのか……)
触手の卵を産みつけられ、産んだ鬼の子と交わり、種をつけられながらはしたなく極めた、あれら全ての痴態を。
あまりの羞恥に真霧は頬を真っ赤に染める。
見守られていたことには安堵を覚えるが、恥ずかしさを感じないわけではない。
複雑な思いの真霧に、浪月はさらりと告げた。
「帝の病だが、やはり呪詛による物とわかったぞ」
「なんと……」
疑ってはいたが、本当にそうであったとは。
真霧はしばし言葉を失う。
だが、肝心なのは、誰が呪詛を行ったか、だ。
「……では、呪詛の主も、わかったのですか」
「ああ」
「誰なのですか……?」
浪月は無言で真霧を抱き上げ、角盥を覗き込ませた。
「見よ」
水面に映っていたのは、荒れ果て、朽ちかけた寺だった。
「ここは……」
「右京の外れにある破れ寺のようだな」
浪月が細めた目で水鏡を読み取りながら答える。
都の西側である右京は土地が低く、湿地が多い。
そのため、近頃は住む者も減り、捨て置かれた家や寺は、夜盗や怪しげな者どもの隠れ家となっていることもあるという。
と、水鏡に波紋が広がった。
波紋に連動するように景色が動き、寺の中が映し出される。
護摩壇に向かい、一心不乱に呪を唱える法師らしき男がいる。
僧形だが、髪も髭も伸び放題でむさ苦しい。
そして、法師の背後にもう一人、男の姿が見えた。
真霧は目を凝らし、息を呑む。
「やはり……、そうであったか……」
護摩の炎に赤く染められているその顔は────左大臣影親の物だった。
いつの間に戻ってきたのか、洞窟の中で浪月の腕に抱かれていた。
「私は……」
言いかけて、はっとして下腹を撫でる。
触手の巣で鬼の種を注がれ、子を産んでくれと言われたことを思い出したのだ。
(まさか────)
「案ずるな。そなたは孕んでおらぬ」
「さ、さようでございますか……」
ほっと息を吐き、だがすぐに浪月を見つめ直す。
「……なぜ知っておられるのですか」
「水鏡に映っていたゆえな」
浪月が傍らの角盥を指し示す。
(では、全て見られていたのか……)
触手の卵を産みつけられ、産んだ鬼の子と交わり、種をつけられながらはしたなく極めた、あれら全ての痴態を。
あまりの羞恥に真霧は頬を真っ赤に染める。
見守られていたことには安堵を覚えるが、恥ずかしさを感じないわけではない。
複雑な思いの真霧に、浪月はさらりと告げた。
「帝の病だが、やはり呪詛による物とわかったぞ」
「なんと……」
疑ってはいたが、本当にそうであったとは。
真霧はしばし言葉を失う。
だが、肝心なのは、誰が呪詛を行ったか、だ。
「……では、呪詛の主も、わかったのですか」
「ああ」
「誰なのですか……?」
浪月は無言で真霧を抱き上げ、角盥を覗き込ませた。
「見よ」
水面に映っていたのは、荒れ果て、朽ちかけた寺だった。
「ここは……」
「右京の外れにある破れ寺のようだな」
浪月が細めた目で水鏡を読み取りながら答える。
都の西側である右京は土地が低く、湿地が多い。
そのため、近頃は住む者も減り、捨て置かれた家や寺は、夜盗や怪しげな者どもの隠れ家となっていることもあるという。
と、水鏡に波紋が広がった。
波紋に連動するように景色が動き、寺の中が映し出される。
護摩壇に向かい、一心不乱に呪を唱える法師らしき男がいる。
僧形だが、髪も髭も伸び放題でむさ苦しい。
そして、法師の背後にもう一人、男の姿が見えた。
真霧は目を凝らし、息を呑む。
「やはり……、そうであったか……」
護摩の炎に赤く染められているその顔は────左大臣影親の物だった。
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