貴公子、淫獄に堕つ

桃山夜舟

文字の大きさ
上 下
31 / 56
帰還

牛車※

しおりを挟む
 右大臣による東宮呪詛の証を得られないまま、奉納祭は終わってしまった。
 だが、望みは残されていた。

 直会なおらいの後、真霧まきりは一昼夜、昏昏こんこんと眠り続けた。
 そして目を覚ました真霧に、浪月ろうげつは告げたのである。

 ────さる貴人の元を訪うゆえ、共に参るように、と。


 そして今、真霧は浪月とともに牛車に揺られ、その貴人が待つという都の邸に向かっていた。
 浪月はいつもどおりの黒衣姿だが、真霧は半月ぶりにうすぎぬを脱ぐことを許され、桜色の布衣ほいを身に纏っている。

(ついにこの時が……)
 
 さる方とは信徒達が話していた大臣に違いなく、おそらくは右大臣のことだ。

 右大臣と対面を果たせたら、どうにかして呪詛にまつわる話を聞き出さねばならない。
 牛車の前駆は馴染みのある者にしてもらいたいと願い出て、左大臣の家人の武者たちを配してもらった。
 彼らには、真霧が右大臣と対面している間、邸内で何か呪詛につながるものがないか探すよう、密かに言い置いてある。

 呪詛の証を得ることができれば、神子の真似事から解放される。
 元の暮らしに戻れるだけではなく、左大臣の引き立てで出世もできるはずだ。

 だが、なぜだろうか。

 そんな己の姿を、うまく思い浮かべることができない。
 つい半月前まで当たり前だった貴族として生き方が、今はなにやら遠く感じられる。
 都に戻ればまた地位や出世のため公卿に擦り寄り、作り笑いを顔に貼り付けて過ごす日々が始まるだろう。
 そしてそこには当然、浪月はいない────



「どうした」

 知らず物思いに沈んでいると、不意に浪月に声をかけられた。

「浮かない顔をしておる」
「いえ……、その、高貴なお方に御目通りをすると思うと、気おくれいたしまして……」

 咄嗟に笑みを浮かべて取り繕う。
 すると、向かいから伸びてきた手に抱き寄せられた。

「ならば、気の緩むようにしてやろう」
「あ……」

 顎をすくいあげられ、唇を塞がれた。
 薄く開いた歯列の隙間から舌が入り込み、真霧のそれを絡め取る。

「ん……ふっ、んんっ」

 上顎を擦られ、口内をかき混ぜられると、すぐに体から力が抜け、身の内が熱くなり始めた。
 快楽に慣らされた体は、口付だけでたやすく昂ぶってしまう。

「はぁ……ん……」

 息を乱し、広い胸にくたりと身を預けた。
 浪月は、僅かに乱れた真霧の艶やかな黒髪を耳にかけ、露わになった耳朶を食む。

「あ……っ」

 思わず高く声を上げそうになり、慌てて唇を噛んだ。
 ここはあの社ではなく、牛の手綱を握る牛飼童うしかいわらわは信徒ではない。
 みだりがましい声など聞かれてはならない。

 だが、そんな真霧の心中など知らぬげに、浪月は首筋に甘く歯を立てると、布衣のたもとから手を忍び込ませ、その下の単衣ひとえの襟を割った。
 探りあてられた胸の突起を指先で転がされ、びくんと体が跳ねた。

「ふ、う……ん……っ」

 きゅっと摘み上げられれば、ぞくぞくと胸の先が疼いて、蜜が滲み出してしまう。

「浪月様……、衣が……」

 濡れてしまうから今はやめてほしいと訴えたつもりだった。
 だが、浪月は片手で胸をいじめながら、器用に反対の手で衣の留め具を外した。
 そして前を開き、単衣の襟を大きくはだけると、乳首から滴る雫を吸い取った。

「んんっ」

 漏れかけた声を、口元を押さえて必死にこらえた。
 舌先で転がされたかと思うと緩急をつけて吸われ、びくびくと腰が跳ねてしまう。
 とめどなく濡れる胸粒を嬲りながら、浪月の手は真霧の袴の紐をほどき、臍の下へと潜り込む。

「ぁ……う……っ」

 既に形を変えていた中心を握り込まれ、直裁な刺激に腰が浮いた。
 浪月は真霧を後ろから抱きすくめ、片手で胸の先を転がしつつ、もう片方の手で花芯を握り、上下に扱き立てる。

「は……あっ」

 立てた膝を震わせ、丸めた足指で床の畳を擦りながら、真霧は快感を堪えた。
 だが、花芯を弄んでいた手は、更に奥へと忍び入ってしまう。

「あ、そこは……っ」

 先走りで濡れた指が、窄まりにつぷりと挿し入れられた。

「くう……っんっ」

 浪月の指は真霧の弱い所を知り尽くしていて、粘膜を掻き混ぜながら抜き差しされると、あふれだす快感に腰がわななく。
 
「や、は……、あ、そんなに、された、ら……っ、ん、んう……っ」

 いつの間にか袴も剥ぎ取られ、ずるずると崩れ落ちた体の上に浪月がのしかかる。
 秘肉がとろけきったところで指が引き抜かれ、指よりずっと大きな物で貫かれた。

「ああぁ……───ッ」

 一息に奥まで突き込まれ、高い喘ぎが漏れた。
 挿れられただけで甘く達してしまい、白い喉を反らし、がくがくと身を震わせる。
 蠕動する媚肉を擦りながら一度引き抜かれたかと思えば、すぐに最奥を突かれ、吐息で湿った唇からまた高い声がこぼれ落ちた。
 繰り返し敏感な肉壺を擦られ、嬌声を止められない。

「よいのか、そんなに声を上げて。聞かれてしまうぞ」

 意地悪気に囁かれ、真霧ははっとして唇を噛んだ。
 牛車の車輪の音に混じり、少し離れたところから人の声が聞こえてくることに気づく。
 畑仕事に精を出す者達が、何か声をかけあっているらしい。
 いつの間にか山道を抜け、田園に差しかかっていたようだ。

「ふ、くう、ん……」

 唇を噛んで声を堪えるが、浪月の律動と牛車の揺れとが相まって、真霧を翻弄する。
 覆いかぶさる浪月の肩越しに、牛車の天井が揺れている。
 車の中で、淫らな行為をしているのだとまざまざと感じられ、頬がかあっと熱くなる。

 やがて都に入ったらしく、通りを行き交う人も増え出した。
 普段どおりに暮らす人々の気配を感じながら淫蕩にふける背徳に、羞恥とそれを上回る興奮を覚えてしまう。
 倒錯した状況に心はついていけないのに、体は昂るばかりで。


 ぐいと体を起こされ、貫かれたまま向かい合わせに膝の上に乗せられた。

「ひ…ん…っ」

 自重でより深く突き刺さり、強すぎる快感に目の前が白く弾ける。
 浪月は真霧の衣の袖を抜いて全て脱がせると、下から大きく突き上げ始めた。

「んっ、は、ぁあ……っ」

 一人だけ裸に剥かれ、恥ずかしいのに気持ちがよくて、声を殺して啜り泣きながら浪月の首に縋り付く。
 牛車が揺れるたびに、最奥をぐぽぐぽと抉られ、稲妻のような愉悦が何度も体を貫く。
 もうずっと達し続けていて、尖り切った胸の先端からも花芯からも蜜があふれ続けている。

「は、ぁ……っ、も……っ、あ、ああ……っ!」

 もはや声を堪えることもできず、首に回した手に力を込めると、浪月が唇で真霧のそれを塞いでくれた。
 口付けの合間に、浪月が囁く。

「……何人も情愛には抗えぬ。それを覚えておくがよい」

 悦楽に霞む意識に、その声が滑り込む。
 それは魔斗羅の教えなのか。
 それとも、浪月自身の言葉なのか。

 だが、もはや意味を問い返すこともできず、ただ突き上げられるままに快楽に身をくねらせるばかりだった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騎士団長淫欲の罠に墜つ

彩月野生
BL
騎士団長がいろんな魔族にヤられたり、ついには……みたいな話です。 後味は悪くない、はず!? (誤字脱字報告不要)

堕ちた父は最愛の息子を欲に任せ犯し抜く

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

愛され副団長の愛欲性活

彩月野生
BL
マウウェル国の騎士団、副団長であるヴァレオは、自国の王と騎士団長、オーガの王に求婚されてしまう。 誰も選べないと話すも納得されず、3人が結託し、誰も選ばなくていい皆の嫁になれと迫られて渋々受け入れてしまう。 主人公 28歳 副団長 ヴァレオ 柔らかな栗毛に黒の目 騎士団長を支え、王を敬愛している。 真面目で騎士である事に誇りをもっているため、性には疎い。 騎士団長 35歳 エグバート 長い赤褐色の髪に緑の目。 豪快なセックスで言葉責め。 数多の男女を抱いてきたが、ヴァレオに夢中になる。 マウウェル国の王 43歳 アラスタス 長い金髪に青の目。紳士的だがねちっこいセックスで感想を言わせる。 妻がいるが、愛人を作ったため追い出した。 子供がおらずヴァレオに産ませようと目論む。 イール オーガの若い王だが一番の巨漢。180歳 朱色の肌に黒髪。シャイで優しいが、甘えたがりで乳首を執拗に吸う。 (誤字脱字報告不要)

神父は傭兵に弄ばれる

彩月野生
BL
傭兵の集団に弄ばれる神父。

美しい側近は王の玩具

彩月野生
BL
長い金糸に青目、整った顔立ちの美しい側近レシアは、 秘密裏に奴隷を逃がしていた事が王にばれてしまった。敬愛する王レオボールによって身も心も追い詰められ、性拷問を受けて堕落していく。 (触手、乱交、凌辱注意。誤字脱字報告不要)

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

調教済み騎士団長さまのご帰還

ミツミチ
BL
敵国に囚われている間に、肉体の隅に至るまで躾けられた騎士団長を救出したあとの話です

【完結】恋人の為、絶倫領主に抱かれてます〜囚われ寝取られる〜

雫谷 美月
BL
エリアートの恋人のヨエルは、騎士団の仕事中に大怪我を負い一命を取り留めたが後遺症が残ってしまう。騎士団長から紹介された光属性の治癒魔法を使える領主ジャルミル=ヴィーガントに、ヨエルを治療してもらうことになった。しかし光属性の治癒魔法を使うには大量の魔力を使用し、回復にも時間がかかるという。素早く魔力を回復するには性行為が必要だとジャルミルから言われ、エリアートはヨエルには秘密のまま協力する。ジャルミルは温厚な外見とは裏腹に激しい獣のような性行為をし、エリアートは次第に快楽に溺れていってしまう。 ・外面はいい絶倫邪悪な領主✕恋人のために抱かれる青年 ・領主の息子の邪悪な少年✕恋人のために抱かれる青年 【全12話】 【他サイト(ムーンライト)からの転載となります】 ※メリーバッドエンドになります ※恋人がいる受けが寝取られる話です。寝取られ苦手な方はご注意ください。 ※男性妊娠の話もあります。苦手な方はご注意ください。 ※死ぬ登場人物がでます。人によっては胸糞展開ですのでご注意ください。 ※攻めは3人出てきます。 ※なんでも許せる方向けです。

処理中です...