上 下
3 / 29
第1章 幼年期

第3話 日常

しおりを挟む
「グラリス。お父さんはね、ものすごーく強いんだよ」

 そんなことを聞かされながら俺はお母さんに身体を洗われていた。

 お父さんはこの世界で最強と呼ばれる2つのパーティのうちの1つ、グランディスのリーダーらしい。

 まぁなんだろう。最強パーティが2つってことは最強じゃないじゃないかとも思ったが、それは置いといて。
 お母さんはそれ以外にも色んなお話をお風呂に入っている時にしてくれる。

 俺が言葉を理解していることを知っているかのように沢山話しかけてくれるおかげで俺も色んな知識が身についていった。

 例えば、冒険者の役職には剣を使って戦う剣士、魔法を主体として戦う魔法使い、その両方を扱う魔剣士が存在するということ。ちなみにお父さんは3つの役職の中で1番珍しい魔剣士らしい。

 俺も大きくなったら魔剣士ってのになってみたいな。こうスパン!  って切ってババッ!  と魔法攻撃。いやぁ、こんな厨二病みたいな事が現実でできるなんて夢にも思わなかったな。

 そのほかに、この世界には二神龍じしんりゅうと言って、風神と雷神と呼ばれる龍が存在するということ。この龍達は人々からものすごく崇められているらしく、晴天が続く理由はこの2匹にあるらしい。

「それでねお父さんはしっかりしてそうに見えるけど意外とおっちょこちょいでまたそんなとこが可愛くてね。それでそれでね……」

 惚気が始まったらにひひとこのベイビースマイルで上手く話を流す。

 奥さん惚気けるのはいいですけど僕、一応あなた方の子どもですからね!  普通我が子に惚気ける親なんていませんからね!

 そんなこんなで俺はお風呂を済ませてもらった。

 ──────

「いただきます。ラミリス様」

 食事の時間だ。

 お母さんは身体はあまり良くないが、料理だけはと言って毎日作ってくれる。

 エイミーに全部任せるのもあれだからとか言っていたが、恐らく趣味の範囲内なのだろう。

 ここだけの話エイミーが料理が苦手なのは本人から沢山聞いてる。良かったなエイミーよ。

「ふー、ふー、グラリス様。あーんですよ」
 俺用に作ってくれたお粥のような物をエイミーからあーんしてもらった。うまい。そして苦しゅうない。

 俺はにひひ、とベイビースマイルを見せつけた。

「わぁ~グラリス様!  なんとお可愛いこと~」

 俺がエイミーに笑顔を見せるとこんな感じに毎回目をキラキラさせて褒めてくれる。これは話せない俺の欠かせない日課である。

 エイミーは俺の笑顔が見たいがために沢山ふーふーして沢山あーんしてくれる。

「エイミー私の子だからそろそろ子育てさせてちょうだい。エイミーのご飯が冷めてしまうわ」

 優しい口調でエイミーにそう伝えると「ありがとうございます」と言ってエイミーはお母さんにスプーンを渡した。

 エイミーはスプーンを渡してからすかさず自分のスプーンを掴み「いただきます!」と勢い良く2度目の挨拶をしグラタンのような物をふーっと1回息をふきかけて口の中に放り込んだ。

 一口目を2、3回咀嚼をしたあと、エイミーはとても美味しそうにバクバクとグラタンを食べ進めた。

 はぁ……なんと可愛らしい子なんだ。恐らく高校生だった頃の俺と同い年、いやそれよりも年下だと思う。そんな子がこんなにもしっかりしていてでも自分に素直でちょっぴりドジで。完璧なメイドだと言える。早く成長して沢山お話がしたい。

 こうして俺はお母さんにご飯を食べさせてもらい無事完食することが出来た。

「ラミリス様!  今日も美味しかったです!!」

 エイミーのその声が今日も家中に響き渡った。

 ──────

 ご飯を食べお昼寝をした後、俺はまた探検を始めた。子どもの好奇心舐めるでないぞ。

 俺は今、書斎にいる。絵本のようなものから、俺の元いた世界で言う、ある魔法を使う物語のような、ものすごく分厚いものまで沢山の種類の本があった。

 かなり広い書斎を四つん這いで移動していると一際オーラを放っている本を見つけた。それは1番奥の本棚の一番下の段にしまわれていた。

 俺はなんだろうと言う興味本位で両手を使って頑張って引っ張った。なかなか抜けなかったが1分ほど格闘してようやく抜けた……と、思ったら抜けた反動で俺は後ろにゴロゴロと2回転ほど転がってしまった。

 いててと腰をさするふりをしながら、体を上手く使いゴロンと起き上がり本を見てみると抜かれた衝撃でページが開かれていた。

 俺はオーラなどお構い無しに開かれたページを覗き込んだ。その時だった。

 ペラペラペラペラペラペラペラペラ

 本はものすごい勢いでページをめくりだし、ものすごい風が吹き上がった。それと同時に赤、青、白、紫、黄色などその他無数の色の光が現れた。

「ばぁぁ?」

 俺はなんだこれとキョロキョロ見ていると、空中に待っていた光が全て俺の小さな身体目掛けてなかなかのスピードで飛んできた。

 俺は反射的に目を瞑ってしまった。
 なんだなんだこれは。よからぬものを見つけてしまったかもしれない。

 赤子ながら割と焦った俺は、もう何の変哲もないその本を頑張って閉じ、頑張って本棚の元の場所へと戻した。

 危ない危ない。今日はもうリビングに戻ってエイミーちゃんに構ってもらおう。
 そう思った俺は四つん這いでとぼとぼとリビングへと向かったのであった。

 後に知ることとなるが、この本の最後のページに書かれている言葉。
 それは、「選ばれし者」である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゲイ男優育成所

かば
BL
権田剛のゲイ男優育成物語 ただのエロオンリー

季節は夏の終わり

ななしのちちすきたろう
恋愛
豊満な乳房の柔らかい感触。 女の汗ばむ体の熱量が男の手の中で伝わっていくのだった。 揉みしだかれる女の乳房の先からは、じんわり白いミルクがにじみ出てきていた…。

憧れの剣士とセフレになったけど俺は本気で恋してます!

藤間背骨
BL
若い傭兵・クエルチアは、凄腕の傭兵・ディヒトバイと戦って負け、その強さに憧れた。 クエルチアは戦場から姿を消したディヒトバイを探し続け、数年後に見つけた彼は闘技場の剣闘士になっていた。 初めてディヒトバイの素顔を見たクエルチアは一目惚れし、彼と戦うために剣闘士になる。 そして、勢いで体を重ねてしまう。 それ以来戦いのあとはディヒトバイと寝ることになったが、自分の気持ちを伝えるのが怖くて体だけの関係を続けていた。 このままでいいのかと悩むクエルチアは護衛の依頼を持ちかけられる。これを機にクエルチアは勇気を出してディヒトバイと想いを伝えようとするが――。 ※2人の関係ではありませんが、近親相姦描写が含まれるため苦手な方はご注意ください。 ※年下わんこ攻め×人生に疲れたおじさん受け ※毎日更新・午後8時投稿・全32話

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

【R-18】魔王を倒したはずなのに〜勇者に待っていたのは洗脳悪堕ちNTR地獄でした〜

ミズガメッシュ
恋愛
世界を征服するためには、勇者を生き地獄に叩き落とすのが最善手である。 そう考えた魔王は、ある作戦を実行することにした。

妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。 もしかして……また俺かよ!! 人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!! さいっっっっこうの人生送ってやるよ!! ☆ こちらの作品は元あった作品を改変したものとなります。軸は変わりませんが時系列や新たなエピソードなど変わる部分が多々あります。ぜひお楽しみください

サレ夫が愛した女性たちの追憶

しらかわからし
現代文学
この小説は、自身の私小説を元に書き、仕事の部分を含めた私小説は某ブログで記載しています。 愛と欲望、裏切りと再生をテーマに女性たちと交錯し、互いに影響をし合いながら変化していく、様子を描きました。

托卵だった娘が『パパのお嫁さんになる!』って言っているのだが?!

令令令 Rey_Cubed
恋愛
彼の人生は幸せだった。娘が血のつながらない『托卵』だと知るまでは。 綺麗な妻と可愛い娘とモテる息子に恵まれて幸せな人生を歩んできた加賀美尊親(かがみたかちか)はある日、娘と自分は本当は血がつながっていないことを知ってしまう。 今までの人生が揺らぐ尊親は自暴自棄になりかけ、血の繋がない娘は事実を知って、隠していた父親への『恋』を吐露する。そして血の繋がらない二人はただの男女としてお互いに感情を交わらせる。 これは家庭内不純愛であり、そしてホームドラマである。

処理中です...