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第一章 悪役転生?そんなことよりご飯が大事
八杯目 最高のスパイス
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照りつける太陽、舞い上がる土埃。元気に飛び交う昆虫たちと、その向こうに広がる広大な畑。
端から見ればのどかなそこに似つかわしくない、だらけきった少年が二人ばかり見受けられる。
雨風に晒されささくれだった丸太ベンチに突っ伏したまま、シュトラールがレモン水を一息に煽る。
「しかし、この暑さは流石に堪えるね……。ミゲルは大丈夫かい?」
「まぁ、辛うじて……。でももう腕が上がらない。何故あいつはあぁも涼しい顔をして作業して居られるんだ……!」
ミゲルの野菜拒否を矯正すべく、ぶち切れアンジェリカが二人を連れてきたのはクランペット公爵領随一の大きな農園だった。ちなみに、アンジェリカ自身は昨年からしょっちゅう視察と言う名目でお手伝いに来ては形の悪い野菜の再利用方として野菜ジュースやチップス等の加工商品のアイデアを授けたり、前世で町の農家さんたちに再三仕込まれたノウハウでおばあちゃんおじいちゃんと雑談したりして、今やすっかり可愛い孫ポジションにおさまっている。
「あっはっは、丁度夏場だからねぇ。お貴族様には辛いでしょう。どーぞ、冷やしたキュウリとトマト置いときますから」
「ありがとうございます。剣技だ体術だと護身の為に再三叩き込んできて体力はそれなりだと思っていたが、農作業というのは勝手が違うね。一時間おきに休まないと動けないとは、我ながら情けない」
そう苦笑するシュトラールだが、本来はそれが普通である。
とにかく、なんにせよ昼から農作業のお手伝いに馳せ参じて既に五時間。すっかり日射しも傾いた。
三人が請け負ったのは畑の一角の雑草取りと収穫だが、これがまぁ意外と厄介で。不慣れなシュトラールとミゲルがちまちまと進む中、アンジェリカは二人の五倍程の速さでさっさかと先に進んでいく。
それに負けず嫌いな兄が対抗。張り切ってアンジェリカに追いつこうとしたものの、すぐに疲れて動けなくなってしまい……ご覧の有り様という訳であった。
ちなみに、二人がダレている今もずっとアンジェリカはコツコツと作業を進めている。
「あぁもう、一体なんなんだ……!」
ぐったりしているミゲルに苦笑し、シュトラールが氷水から上げたキュウリを折って半分差し出す。
「まあまあ、とりあえず食べたらどうだい?お腹が空いているだろう」
「……殿下、それそのまま齧るんですか?」
「え?あぁ、そのつもりだけど?」
「…………………………………………………………………正気か?」
「はは、ずいぶん溜めたね」
化け物でも見るような眼差しのミゲルに笑いつつ、本当にシュトラールは野菜をそのまま丸かじりしていた。その間、すっかり慣れてしまった王子付きの護衛達は素知らぬ様子で見て見ぬふりをしている。
「アンジュが、『本当に新鮮なら生が一番!』と良い野菜や果物を見つける度に食べさせてくれるものだから、すっかり慣れてしまったよ。業に入っては業に従えと言うだろう?それに、」
「キュウリ等の夏野菜には炎症を抑えたり身体を冷やしてくれる効能があるから、火照っている時に食べるのは合理的なんですよ」
「あぁアンジュ、お疲れさま」
「ラル様もお手伝いありがとう。でも、今日のはお兄さまへのお仕置きだから無理しなくて良かったのに」
「私もアンジュの料理にはいつも感謝しているからね。その食材を作っている実際の場に来たんだ、見ているだけなんて勿体なくて出来ないよ」
(言葉遣いが戻っている……)
畑仕事中のアンジェリカは、そりゃあ厳しかった。熱中症対策の為にレモン水は作ってくれたし休憩もまめにくれたが、作業そのものを少しでも蔑ろにしようものなら『まだわからんとね?』と笑顔で見下され、肝が冷える思いだった。
それも終盤になると、段々見られる度に変な所がゾクリとうずくようで、これ以上そこを突いてはならないとミゲルは必死に作業した。
(だが、今ならこっそり別の馬車で屋敷に戻れるかも知れない)
既に空腹は限界だが、生の野菜を丸かじりなんて冗談ではない。そうこっそり立ち上がった瞬間、ぐにゃりとはげしく視界が歪んだ。
幸いめまいは一瞬で倒れる前に持ち直したが、異変に気づいたアンジェリカとシュトラールにベンチへ座らせられてしまう。
「こーら、酷使した身体に塩気も入れんと動きよったらそりゃあ倒れるでしょう。ほら、食べり!!」
「いや、要らな…………っ」
ずいっと差し出されたのは、アンジェリカ特製もろみ味噌付キュウリ。拒もうとしたところで、ミゲルの腹の虫が鳴いた。
数十秒睨み合い、空腹に耐えかねたミゲルはキュウリに小さくかじりつく。
そしてそのままゆっくりと、一本をきちんと食べきった。
「美味しいだなんて、そんな馬鹿な……!」
「どれだけ嫌いなんだい?」
「やっぱり食わず嫌いだったか」
ミゲルのリアクションにシュトラールは困惑し、アンジェリカは苦笑する。
「空腹は最高のスパイス!常に食べ物が身近にあると思うと、人は感謝を忘れるからね。その食材にどれだけの労力が必要か、これでわかったでしょう」
「ーー……あぁ、すまなかった」
「よし、食べれてえらい!明日からちょっとずつ、いろんな野菜に挑戦しましょうね」
ようやくミゲルに笑みを向けたアンジェリカに周囲が心底安堵する中、当の彼女は『お腹が空きました~』とタライにトマトを取りに行ってしまう。
「ミゲル?どうした、難しい顔をして……」
「あ、いや……、何故だか、褒められるよりも叱られたほうが胸に迫るものがあるような気がして。これは一体なんだろうと」
「よし、今すぐ忘れようか!」
そんな妹の背を見つめながらそんな爆弾発言をかましたミゲルに、動揺したシュトラールが彼の頭を思い切り叩いた事によりミゲルは気絶。起きたときには記憶が一部抜けていて爆弾発言は無かったこととなり、新たな扉が開かれるのは辛うじて阻止されたのだった。
「川の水で冷やしたトマト、美味しいです」
(そう言えば凛ちゃん、トマト嫌いだったなぁ。……凛ちゃんだけでも助かって、元気にしてたらいいなぁ)
端から見ればのどかなそこに似つかわしくない、だらけきった少年が二人ばかり見受けられる。
雨風に晒されささくれだった丸太ベンチに突っ伏したまま、シュトラールがレモン水を一息に煽る。
「しかし、この暑さは流石に堪えるね……。ミゲルは大丈夫かい?」
「まぁ、辛うじて……。でももう腕が上がらない。何故あいつはあぁも涼しい顔をして作業して居られるんだ……!」
ミゲルの野菜拒否を矯正すべく、ぶち切れアンジェリカが二人を連れてきたのはクランペット公爵領随一の大きな農園だった。ちなみに、アンジェリカ自身は昨年からしょっちゅう視察と言う名目でお手伝いに来ては形の悪い野菜の再利用方として野菜ジュースやチップス等の加工商品のアイデアを授けたり、前世で町の農家さんたちに再三仕込まれたノウハウでおばあちゃんおじいちゃんと雑談したりして、今やすっかり可愛い孫ポジションにおさまっている。
「あっはっは、丁度夏場だからねぇ。お貴族様には辛いでしょう。どーぞ、冷やしたキュウリとトマト置いときますから」
「ありがとうございます。剣技だ体術だと護身の為に再三叩き込んできて体力はそれなりだと思っていたが、農作業というのは勝手が違うね。一時間おきに休まないと動けないとは、我ながら情けない」
そう苦笑するシュトラールだが、本来はそれが普通である。
とにかく、なんにせよ昼から農作業のお手伝いに馳せ参じて既に五時間。すっかり日射しも傾いた。
三人が請け負ったのは畑の一角の雑草取りと収穫だが、これがまぁ意外と厄介で。不慣れなシュトラールとミゲルがちまちまと進む中、アンジェリカは二人の五倍程の速さでさっさかと先に進んでいく。
それに負けず嫌いな兄が対抗。張り切ってアンジェリカに追いつこうとしたものの、すぐに疲れて動けなくなってしまい……ご覧の有り様という訳であった。
ちなみに、二人がダレている今もずっとアンジェリカはコツコツと作業を進めている。
「あぁもう、一体なんなんだ……!」
ぐったりしているミゲルに苦笑し、シュトラールが氷水から上げたキュウリを折って半分差し出す。
「まあまあ、とりあえず食べたらどうだい?お腹が空いているだろう」
「……殿下、それそのまま齧るんですか?」
「え?あぁ、そのつもりだけど?」
「…………………………………………………………………正気か?」
「はは、ずいぶん溜めたね」
化け物でも見るような眼差しのミゲルに笑いつつ、本当にシュトラールは野菜をそのまま丸かじりしていた。その間、すっかり慣れてしまった王子付きの護衛達は素知らぬ様子で見て見ぬふりをしている。
「アンジュが、『本当に新鮮なら生が一番!』と良い野菜や果物を見つける度に食べさせてくれるものだから、すっかり慣れてしまったよ。業に入っては業に従えと言うだろう?それに、」
「キュウリ等の夏野菜には炎症を抑えたり身体を冷やしてくれる効能があるから、火照っている時に食べるのは合理的なんですよ」
「あぁアンジュ、お疲れさま」
「ラル様もお手伝いありがとう。でも、今日のはお兄さまへのお仕置きだから無理しなくて良かったのに」
「私もアンジュの料理にはいつも感謝しているからね。その食材を作っている実際の場に来たんだ、見ているだけなんて勿体なくて出来ないよ」
(言葉遣いが戻っている……)
畑仕事中のアンジェリカは、そりゃあ厳しかった。熱中症対策の為にレモン水は作ってくれたし休憩もまめにくれたが、作業そのものを少しでも蔑ろにしようものなら『まだわからんとね?』と笑顔で見下され、肝が冷える思いだった。
それも終盤になると、段々見られる度に変な所がゾクリとうずくようで、これ以上そこを突いてはならないとミゲルは必死に作業した。
(だが、今ならこっそり別の馬車で屋敷に戻れるかも知れない)
既に空腹は限界だが、生の野菜を丸かじりなんて冗談ではない。そうこっそり立ち上がった瞬間、ぐにゃりとはげしく視界が歪んだ。
幸いめまいは一瞬で倒れる前に持ち直したが、異変に気づいたアンジェリカとシュトラールにベンチへ座らせられてしまう。
「こーら、酷使した身体に塩気も入れんと動きよったらそりゃあ倒れるでしょう。ほら、食べり!!」
「いや、要らな…………っ」
ずいっと差し出されたのは、アンジェリカ特製もろみ味噌付キュウリ。拒もうとしたところで、ミゲルの腹の虫が鳴いた。
数十秒睨み合い、空腹に耐えかねたミゲルはキュウリに小さくかじりつく。
そしてそのままゆっくりと、一本をきちんと食べきった。
「美味しいだなんて、そんな馬鹿な……!」
「どれだけ嫌いなんだい?」
「やっぱり食わず嫌いだったか」
ミゲルのリアクションにシュトラールは困惑し、アンジェリカは苦笑する。
「空腹は最高のスパイス!常に食べ物が身近にあると思うと、人は感謝を忘れるからね。その食材にどれだけの労力が必要か、これでわかったでしょう」
「ーー……あぁ、すまなかった」
「よし、食べれてえらい!明日からちょっとずつ、いろんな野菜に挑戦しましょうね」
ようやくミゲルに笑みを向けたアンジェリカに周囲が心底安堵する中、当の彼女は『お腹が空きました~』とタライにトマトを取りに行ってしまう。
「ミゲル?どうした、難しい顔をして……」
「あ、いや……、何故だか、褒められるよりも叱られたほうが胸に迫るものがあるような気がして。これは一体なんだろうと」
「よし、今すぐ忘れようか!」
そんな妹の背を見つめながらそんな爆弾発言をかましたミゲルに、動揺したシュトラールが彼の頭を思い切り叩いた事によりミゲルは気絶。起きたときには記憶が一部抜けていて爆弾発言は無かったこととなり、新たな扉が開かれるのは辛うじて阻止されたのだった。
「川の水で冷やしたトマト、美味しいです」
(そう言えば凛ちゃん、トマト嫌いだったなぁ。……凛ちゃんだけでも助かって、元気にしてたらいいなぁ)
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