2 / 17
第一章 悪役転生?そんなことよりご飯が大事
一杯目 異世界初日の朝ごはん。地雷王子を添えて《前編》
しおりを挟む
目が覚めたら、ここは天国かと見紛うようなふかっふかのベッドの上だった。
むくりと起き上がると、銀色の髪が波打って煌めく。
(ここすごいお部屋だな、今時の病院はホテルみたいなんだねぇ……)
ここに凜が居てくれたなら『そんなわけ無いでしょおバカ!』と突っ込んでくれたのだろうが、生憎いまここには彼女しか居ない。
まだ眠くてぼんやりした陽菜の腹の虫が小さく鳴いた。
(なんにせよ、お腹が空いたなぁ……)
やたらと高く感じるベッドから下りて、これまた豪奢なドアをノックする。廊下に待機していた侍女が薄く扉を開いてこちらを見たので、陽菜はぺこりと頭を下げた。
「おっ、おはようございますお嬢様。本日はお早いご起床で……!」
「おはようございます。あの、お腹が空いてしまったので朝ごはんを頂きたいのですが、病院食は何時に来ますか?」
と、そこにタイミングよく朝食を運んできたであろう侍女が、唖然とした顔でそれから手を離してしまった。
けたたましい音を立てて落下したパンやらスープやらを勿体ないと眺める陽菜の肩を、その侍女が両手で掴む。
「ア……アンジェリカお嬢様が私達使用人に頭を下げるだなんて……!発熱ですか!?それとも頭痛!?あぁなんてこと、本日は婚約の顔合わせに第一王子殿下がお見えになる日ですのに……!」
『とにかく今すぐお医者様に!』と二人がかりで持ち上げられて、そこでやっと自分の身体が子供サイズであることに気付く。
担がれながら見えた窓に映る顔を見て、陽菜はようやく自分があの乙女ゲームの悪役令嬢になっていることを理解したのだった。
『なるほど……。これが流行りの“異世界転生”って奴ですねぇ』
『なんであんたはそんなに呑気なの!』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「特に異常は見当たりませんし、軽い疲労ではないですかな」
陽菜、改め悪役令嬢アンジェリカを診察してくれた医師の診断に、付き添っていた侍女達は口々に抗議しだす。
「そんな訳はありません!お元気なお嬢様が私達に頭を下げて、しかも敬語だなんて……!」
「そうです!体調不良でないのなら、天変地異の前触れとしか思えません!!」
「い、いやしかし、意識もはっきりしていて熱はもちろん、咳や関節の痛みもない。至って健康そのものですぞ」
尚医師に喰い下がろうとする彼女達の後ろで、アンジェリカの腹の虫がまた鳴いた。
「あのぉ、今日はお客様が来るんですよね?私は本当に元気なので……とりあえず、ご飯にしませんか?」
「えっ……、で、でも」
「お台所はあっちかなぁ、異世界の調理器具なんて楽しみです」
「あぁぁぁぁっ、お待ち下さいお嬢様!厨房なんて主人が入る場所ではありませんから!!」
「……しばしお会いせぬ間にずいぶん穏やかになられたと思ったが、物腰が変わられてもわがままは相変わらずらしい。この館務めの皆様は気の毒じゃな」
そうため息をこぼし、医師はこっそり家路についたのだった。
むくりと起き上がると、銀色の髪が波打って煌めく。
(ここすごいお部屋だな、今時の病院はホテルみたいなんだねぇ……)
ここに凜が居てくれたなら『そんなわけ無いでしょおバカ!』と突っ込んでくれたのだろうが、生憎いまここには彼女しか居ない。
まだ眠くてぼんやりした陽菜の腹の虫が小さく鳴いた。
(なんにせよ、お腹が空いたなぁ……)
やたらと高く感じるベッドから下りて、これまた豪奢なドアをノックする。廊下に待機していた侍女が薄く扉を開いてこちらを見たので、陽菜はぺこりと頭を下げた。
「おっ、おはようございますお嬢様。本日はお早いご起床で……!」
「おはようございます。あの、お腹が空いてしまったので朝ごはんを頂きたいのですが、病院食は何時に来ますか?」
と、そこにタイミングよく朝食を運んできたであろう侍女が、唖然とした顔でそれから手を離してしまった。
けたたましい音を立てて落下したパンやらスープやらを勿体ないと眺める陽菜の肩を、その侍女が両手で掴む。
「ア……アンジェリカお嬢様が私達使用人に頭を下げるだなんて……!発熱ですか!?それとも頭痛!?あぁなんてこと、本日は婚約の顔合わせに第一王子殿下がお見えになる日ですのに……!」
『とにかく今すぐお医者様に!』と二人がかりで持ち上げられて、そこでやっと自分の身体が子供サイズであることに気付く。
担がれながら見えた窓に映る顔を見て、陽菜はようやく自分があの乙女ゲームの悪役令嬢になっていることを理解したのだった。
『なるほど……。これが流行りの“異世界転生”って奴ですねぇ』
『なんであんたはそんなに呑気なの!』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「特に異常は見当たりませんし、軽い疲労ではないですかな」
陽菜、改め悪役令嬢アンジェリカを診察してくれた医師の診断に、付き添っていた侍女達は口々に抗議しだす。
「そんな訳はありません!お元気なお嬢様が私達に頭を下げて、しかも敬語だなんて……!」
「そうです!体調不良でないのなら、天変地異の前触れとしか思えません!!」
「い、いやしかし、意識もはっきりしていて熱はもちろん、咳や関節の痛みもない。至って健康そのものですぞ」
尚医師に喰い下がろうとする彼女達の後ろで、アンジェリカの腹の虫がまた鳴いた。
「あのぉ、今日はお客様が来るんですよね?私は本当に元気なので……とりあえず、ご飯にしませんか?」
「えっ……、で、でも」
「お台所はあっちかなぁ、異世界の調理器具なんて楽しみです」
「あぁぁぁぁっ、お待ち下さいお嬢様!厨房なんて主人が入る場所ではありませんから!!」
「……しばしお会いせぬ間にずいぶん穏やかになられたと思ったが、物腰が変わられてもわがままは相変わらずらしい。この館務めの皆様は気の毒じゃな」
そうため息をこぼし、医師はこっそり家路についたのだった。
0
お気に入りに追加
193
あなたにおすすめの小説
派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。
木山楽斗
恋愛
私は、恋愛シミュレーションゲーム『Magical stories』の悪役令嬢アルフィアに生まれ変わった。
彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。その性格故に、ゲームの主人公を虐めて、最終的には罪を暴かれ罰を受けるのが、彼女という人間だ。
当然のことながら、私はそんな悲惨な末路を迎えたくはない。
私は、ゲームの中でアルフィアが取った行動を取らなければ、そういう末路を迎えないのではないかと考えた。
だが、それを実行するには一つ問題がある。それは、私が『Magical stories』の一つのルートしかプレイしていないということだ。
そのため、アルフィアがどういう行動を取って、罰を受けることになるのか、完全に理解している訳ではなかった。プレイしていたルートはわかるが、それ以外はよくわからない。それが、私の今の状態だったのだ。
だが、ただ一つわかっていることはあった。それは、アルフィアの性格だ。
彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。それならば、彼女のような性格にならなければいいのではないだろうか。
そう考えた私は、地味に謙虚に生きていくことにした。そうすることで、悲惨な末路が避けられると思ったからだ。
悪役令嬢と攻略対象(推し)の娘に転生しました。~前世の記憶で夫婦円満に導きたいと思います~
木山楽斗
恋愛
頭を打った私は、自分がかつてプレイした乙女ゲームの悪役令嬢であるアルティリアと攻略対象の一人で私の推しだったファルクスの子供に転生したことを理解した。
少し驚いたが、私は自分の境遇を受け入れた。例え前世の記憶が蘇っても、お父様とお母様のことが大好きだったからだ。
二人は、娘である私のことを愛してくれている。それを改めて理解しながらも、私はとある問題を考えることになった。
お父様とお母様の関係は、良好とは言い難い。政略結婚だった二人は、どこかぎこちない関係を築いていたのである。
仕方ない部分もあるとは思ったが、それでも私は二人に笑い合って欲しいと思った。
それは私のわがままだ。でも、私になら許されると思っている。だって、私は二人の娘なのだから。
こうして、私は二人になんとか仲良くなってもらうことを決意した。
幸いにも私には前世の記憶がある。乙女ゲームで描かれた二人の知識はきっと私を助けてくれるはずだ。
※2022/10/18 改題しました。(旧題:乙女ゲームの推しと悪役令嬢の娘に転生しました。)
※2022/10/20 改題しました。(旧題:悪役令嬢と推しの娘に転生しました。)
当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。
可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?
悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?
りーさん
恋愛
気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?
こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。
他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。
もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!
そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……?
※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。
1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前
悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました
雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた
スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ
この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった...
その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!?
たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく
ここが...
乙女ゲームの世界だと
これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる