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ストレプトカーパスの花
57.ミセバヤ
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何やってんだよこんなとこで。何でいるんだよ。いままでどうしてたんだよ。
次々に言葉が思い浮かぶのに、何一つ口に出せない。
見つめた主税は懐かしい、困ったような笑みを浮かべて俺を見ている。
前髪は?あのダサい眼鏡はどうしたんだよ。
なんでそんなに男前になっちゃんったんだよ。
自分の気持ちに気付いてしまった、花の意味を知ってしまった俺に、そんなの見せられたら。
鼓動がどんどん速くなる。
続く言葉が出てこなくて、主税を見つめた。
妙なことを口走ってしまいそうだ。
「あの、それじゃ…」
短くそう言って、主税は目を逸らして人の輪から逃げていってしまった。
思わず手を伸ばしかけて、かろうじて堪える。
今は、仕事だ。
一通りの挨拶周りを終えて、宴もたけなわ。
挨拶の最中も人混みにまぎれた主税を探してばかりだった。
こんなに気もそぞろじゃ駄目だ、と、何度も自分に言い聞かせるのに、気付けば主税を探してしまう。
「白鳥、調子悪い?」
見かねたんだろう、同僚から声がかった。絶不調だよ。
いや、いいと言えばいいのか。光明が見えたんだ。
名刺を貰って連絡先は抑えた。明日にでも電話して話をつけてやる。出るまで鳴らしてやる。
そう思いなおすと気が晴れて、同僚にすまなそうな顔を作って「ごめん。ちょっと気が散ってただけ」と正直に謝った。
「そう?珍しいな。まぁいいんだけど」
気にしてない素振りでそう言われてホッとする。
ちょっと、ホント、冷静さを欠いている。
閉会の挨拶が終わり、改めてあちこちで挨拶合戦をやってる人達を見ながら帰り支度を整える。
ホントは今すぐ主税と話に行きたいけど主税にも立場があるだろう。ぐっと堪えた。
込み上げるもどかしさに内心悶えていると、不意に後ろから声がかかる。
「あぁよかった、まだいてくれて。白鳥くん、助けて」
振り返ると開発部の…誰か。
誰かは困ったように眉尻を下げてしきりに外部卓を気にしている。
「櫟先生と知り合いだよね?来てくれない?」
嫌な予感がして、すぐにそちらへ向かって歩き出した。
主税になにかあったんだ。そうじゃなかったら俺が呼ばれる理由がない。
不安が込み上げて歩く速度があがる。
外部卓では2.3人の人が困った顔をした主税を囲んでいた。
「いや、ほんと、だいじょうぶです。かえれますから」
よかった。倒れたとかじゃないみたいだ。
ほっと力を抜いて、後ろから着いてきていた誰かに声を掛ける。
「どういう状況?」
まず最初に聞くべきだった。不安過ぎて先に身体が動いてしまった。
ホント、主税のことになると冷静じゃない。
「僕らが飲ませすぎちゃったみたいで、先生凄い酔ってるんだ」
酔った?主税が?あの酒豪が?
「…どれだけ飲ませたんですか」
じっとりと睨みつけると誰かは降参するように胸の前で両手を上げた。
「いや、先生もけろっとした顔で凄い飲むから…」
想像できない。
アイツはそういうタイプじゃない。こういう場ではしっかりセーブできるはずだ。
卓についておろおろする主税を見ると、何だか初めて出掛けた日のことを思い出した。
その目が俺を捉えて、気まずそうに逸らされる。
「かお、しらとりさん、ほんと、だいじょうぶ」
とろんとした目付き、上気した頬。大丈夫じゃないな。
とは言え、まっすぐ立ってるし、意識もはっきりしてるみたいで、そこは安心した。
「俺送ってくんで、大丈夫ですよ」
帰ろうとする主税を身体で阻止していた開発陣に向かって声を掛けて、主税の腕を抱えるように掴んだ。
「…主税がなんて言っても、送ってくからな」
低く囁くと、主税は「くぅ」と鳴いた。
次々に言葉が思い浮かぶのに、何一つ口に出せない。
見つめた主税は懐かしい、困ったような笑みを浮かべて俺を見ている。
前髪は?あのダサい眼鏡はどうしたんだよ。
なんでそんなに男前になっちゃんったんだよ。
自分の気持ちに気付いてしまった、花の意味を知ってしまった俺に、そんなの見せられたら。
鼓動がどんどん速くなる。
続く言葉が出てこなくて、主税を見つめた。
妙なことを口走ってしまいそうだ。
「あの、それじゃ…」
短くそう言って、主税は目を逸らして人の輪から逃げていってしまった。
思わず手を伸ばしかけて、かろうじて堪える。
今は、仕事だ。
一通りの挨拶周りを終えて、宴もたけなわ。
挨拶の最中も人混みにまぎれた主税を探してばかりだった。
こんなに気もそぞろじゃ駄目だ、と、何度も自分に言い聞かせるのに、気付けば主税を探してしまう。
「白鳥、調子悪い?」
見かねたんだろう、同僚から声がかった。絶不調だよ。
いや、いいと言えばいいのか。光明が見えたんだ。
名刺を貰って連絡先は抑えた。明日にでも電話して話をつけてやる。出るまで鳴らしてやる。
そう思いなおすと気が晴れて、同僚にすまなそうな顔を作って「ごめん。ちょっと気が散ってただけ」と正直に謝った。
「そう?珍しいな。まぁいいんだけど」
気にしてない素振りでそう言われてホッとする。
ちょっと、ホント、冷静さを欠いている。
閉会の挨拶が終わり、改めてあちこちで挨拶合戦をやってる人達を見ながら帰り支度を整える。
ホントは今すぐ主税と話に行きたいけど主税にも立場があるだろう。ぐっと堪えた。
込み上げるもどかしさに内心悶えていると、不意に後ろから声がかかる。
「あぁよかった、まだいてくれて。白鳥くん、助けて」
振り返ると開発部の…誰か。
誰かは困ったように眉尻を下げてしきりに外部卓を気にしている。
「櫟先生と知り合いだよね?来てくれない?」
嫌な予感がして、すぐにそちらへ向かって歩き出した。
主税になにかあったんだ。そうじゃなかったら俺が呼ばれる理由がない。
不安が込み上げて歩く速度があがる。
外部卓では2.3人の人が困った顔をした主税を囲んでいた。
「いや、ほんと、だいじょうぶです。かえれますから」
よかった。倒れたとかじゃないみたいだ。
ほっと力を抜いて、後ろから着いてきていた誰かに声を掛ける。
「どういう状況?」
まず最初に聞くべきだった。不安過ぎて先に身体が動いてしまった。
ホント、主税のことになると冷静じゃない。
「僕らが飲ませすぎちゃったみたいで、先生凄い酔ってるんだ」
酔った?主税が?あの酒豪が?
「…どれだけ飲ませたんですか」
じっとりと睨みつけると誰かは降参するように胸の前で両手を上げた。
「いや、先生もけろっとした顔で凄い飲むから…」
想像できない。
アイツはそういうタイプじゃない。こういう場ではしっかりセーブできるはずだ。
卓についておろおろする主税を見ると、何だか初めて出掛けた日のことを思い出した。
その目が俺を捉えて、気まずそうに逸らされる。
「かお、しらとりさん、ほんと、だいじょうぶ」
とろんとした目付き、上気した頬。大丈夫じゃないな。
とは言え、まっすぐ立ってるし、意識もはっきりしてるみたいで、そこは安心した。
「俺送ってくんで、大丈夫ですよ」
帰ろうとする主税を身体で阻止していた開発陣に向かって声を掛けて、主税の腕を抱えるように掴んだ。
「…主税がなんて言っても、送ってくからな」
低く囁くと、主税は「くぅ」と鳴いた。
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