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パンジーの花
46.あなたを想うと胸が痛む
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彼に花を贈りたいなと思った。
僕は臆病だから、僕の気持ちを口には出せない。
彼は僕の気持ちには気付かないかもしれないけど、それでいい。僕の自己満足だ。
あの日から薫くんから何度か連絡が来てたけど、全部読めずにいた。
マッチングパーティーで出会った仲だ。きっとそういう相手ができたんだろう。
でもそんな話を聞かされたら僕はもう正気でいられる自信がない。きっと心が凍り付いてしまう。
この前会った人は僕とは正反対の人だった。僕は端から相手にされてなかったってことだ。
それなのに僕ときたら、一人で勝手に浮ついて幸せなんて感じて、勝手に諦めた気になって勝手に傷ついて。ずっと一人相撲を取ってたわけだ。
自分がどうしようもなく恥ずかしくなった。
今日は土曜日。
先週までは、彼に会える喜びで浮足立ってドキドキしていた。でも今日はそんな気持ちは欠片ほども沸いてこなかった。
今日で最後にしよう。そう決めてるから。
1階に降りて、花屋さんへ向かう。奥さんが僕に気付いて心配そうな顔をした。
事前にお願いして、花束を作ってもらっている。
「こんにちは。無理言ってすみません」
奥さんに迎え入れて貰って、中に入る。中は相変わらず洗練されていて、彼を思い出したことを思い出した。
「それは全然いいんですけど…、大丈夫ですか?」
その花が持つ意味を、彼女が知らないわけがない。
思えば、彼女はいつも僕を応援してくれていた。こんな花を、こんな花というと花に失礼だけど、こんな花言葉を贈る僕を心配してくれるその優しさに、少し救われる気がした。
「大丈夫ですよ。もう」
もう大丈夫。心は凪いだように落ち着いている。
思考を止めて、感情を抑えていれば波風はたたない。
用意された花束を受け取って、お礼を言ってお店を後にした。
何も約束はしてない。彼はあの人と出かけているかもしれない。
居なければ部屋の前に置いて帰ろう。
気持ち悪いって思われるかもしれないけど、これが最後だから許してほしい。
彼の部屋の前に立って、胸がぎゅっと締め付けられた。心にさざ波がたつ。
あぁ、あのシリーズ、最後まで見れなかったなぁ。
並んだDVDを見て、こんなに沢山彼と会えるんだって、心が弾んだのを覚えてる。
彼はあの人とDVDを見るんだろうか。「これ、好きなんだよね」って言って。
駄目だ。余計なことを考えるな。蓋をした感情が溢れてしまう。
部屋のチャイムを押すと、中でごとんと音がして走り寄ってくる足音がした。
ガチャンと鍵が開いて、勢いよくドアが開く。
「主税…!」
ちょっと焦ったような顔をして薫くんが僕を見た。
その顔も、可愛い。心臓がしくしく痛んで、鼻がツンと痛くなる。
「急に、ごめんね。お願いしたいことが、あって」
花束を押し付けてスマホを取り出す。
「主税、俺も話が…!」
聞きたくない。聞いたら僕は多分ここから一歩も動けなくなる。みっともなく泣いて、君を困らせてしまう。
「連絡先、消して。もう、会うのやめよう」
言いながら、彼の目の前で連絡先を消す。ゲームのフレンドも削除してある。
これで僕と彼とは出会う前に戻る。
でも、ほんの少し、ほんの少しだけ、未練がましい僕がいる。
彼がこんなことを言う僕に怒ってくれたら。
意固地になってる僕の心を溶かしてくれたら。
そしたら、君が好きだって伝えるよ。
僕は臆病だから、僕の気持ちを口には出せない。
彼は僕の気持ちには気付かないかもしれないけど、それでいい。僕の自己満足だ。
あの日から薫くんから何度か連絡が来てたけど、全部読めずにいた。
マッチングパーティーで出会った仲だ。きっとそういう相手ができたんだろう。
でもそんな話を聞かされたら僕はもう正気でいられる自信がない。きっと心が凍り付いてしまう。
この前会った人は僕とは正反対の人だった。僕は端から相手にされてなかったってことだ。
それなのに僕ときたら、一人で勝手に浮ついて幸せなんて感じて、勝手に諦めた気になって勝手に傷ついて。ずっと一人相撲を取ってたわけだ。
自分がどうしようもなく恥ずかしくなった。
今日は土曜日。
先週までは、彼に会える喜びで浮足立ってドキドキしていた。でも今日はそんな気持ちは欠片ほども沸いてこなかった。
今日で最後にしよう。そう決めてるから。
1階に降りて、花屋さんへ向かう。奥さんが僕に気付いて心配そうな顔をした。
事前にお願いして、花束を作ってもらっている。
「こんにちは。無理言ってすみません」
奥さんに迎え入れて貰って、中に入る。中は相変わらず洗練されていて、彼を思い出したことを思い出した。
「それは全然いいんですけど…、大丈夫ですか?」
その花が持つ意味を、彼女が知らないわけがない。
思えば、彼女はいつも僕を応援してくれていた。こんな花を、こんな花というと花に失礼だけど、こんな花言葉を贈る僕を心配してくれるその優しさに、少し救われる気がした。
「大丈夫ですよ。もう」
もう大丈夫。心は凪いだように落ち着いている。
思考を止めて、感情を抑えていれば波風はたたない。
用意された花束を受け取って、お礼を言ってお店を後にした。
何も約束はしてない。彼はあの人と出かけているかもしれない。
居なければ部屋の前に置いて帰ろう。
気持ち悪いって思われるかもしれないけど、これが最後だから許してほしい。
彼の部屋の前に立って、胸がぎゅっと締め付けられた。心にさざ波がたつ。
あぁ、あのシリーズ、最後まで見れなかったなぁ。
並んだDVDを見て、こんなに沢山彼と会えるんだって、心が弾んだのを覚えてる。
彼はあの人とDVDを見るんだろうか。「これ、好きなんだよね」って言って。
駄目だ。余計なことを考えるな。蓋をした感情が溢れてしまう。
部屋のチャイムを押すと、中でごとんと音がして走り寄ってくる足音がした。
ガチャンと鍵が開いて、勢いよくドアが開く。
「主税…!」
ちょっと焦ったような顔をして薫くんが僕を見た。
その顔も、可愛い。心臓がしくしく痛んで、鼻がツンと痛くなる。
「急に、ごめんね。お願いしたいことが、あって」
花束を押し付けてスマホを取り出す。
「主税、俺も話が…!」
聞きたくない。聞いたら僕は多分ここから一歩も動けなくなる。みっともなく泣いて、君を困らせてしまう。
「連絡先、消して。もう、会うのやめよう」
言いながら、彼の目の前で連絡先を消す。ゲームのフレンドも削除してある。
これで僕と彼とは出会う前に戻る。
でも、ほんの少し、ほんの少しだけ、未練がましい僕がいる。
彼がこんなことを言う僕に怒ってくれたら。
意固地になってる僕の心を溶かしてくれたら。
そしたら、君が好きだって伝えるよ。
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