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ファイナルチャプター Youth. Betrayal And The Awakening 若さ、裏切り、そして目覚め

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<<……zzh ……… こちらウィリアム! リトルホークか!? 一体何がおきてるんだこれは!?>>
 ウィリアムからの返答に、リベルタは安堵の声を漏らした。
「大丈夫なの!? そっちは今どうなってるの!?」
「月が吹き飛んだ! 何がおきてるんだ!?」

 惑星、bellows-23の空は赤く染まっていた。bellows-23の衛星である、直径1349kmの岩塊は突如崩壊し、撒き散らされた破片が星の大気を燃やした。
 幸いなことに、ダレル社との戦いで活躍したタレットは健在であり、大型の破片を自動除去していた。
 惑星上の人々(正確には月が出ている地域の人々)は皆空を見上げた。bellows-23にあるもう一つの月とbellows-23自身の引力により破片は別れ、まるで二つの星に輝くアーチがかかった様に見えた。
「世界の終わりだ! 破滅の時だ!」「アレを見ろ! アーチの怒りだ!」

 エリーの発信とこの示威行為は人々の心に恐怖を植えつけた。銀河中のあらゆる場所でこの光景は中継された。

<<リベルタ! リベルタ! なんだよあれは、エリーがやったのか!?>>
 通信の相手はコードウェルだ。
「おじさん! ……そうだよ 全部エリーが……」
<<<一体全体どうなってるんだ!?>>
「ごめん、今説明する暇は無いの あの人を止めなきゃ」

<<この放送を聴く全ての人たちへ 私はアーチエンジェル アーチの力を見たことでしょう 我が望みは人類同士の争いではない 一つの旗の下に集い、備えることだ かつての祖先の過ちを正し、来る戦いへの希望となることだ 人類よ、アーチサイドへ来るがいい! 繰り返す、こちらはアーチエンジェル すべての人びとのためにこの放送をしている>>

「あの人、自分に酔うタイプみたいだね」
「冷ましてやろう」
 リベルタはZERO-NEMOに向けて拳を突き出した。ZERO-NEMOもそれに応えて拳をあわせる。
「ヨーし! BGMはどウスる!? アー、野暮だったカ?」

 エリーが装置から離れ、二人に向き直った。
「下に居たらよかったのに…… これは戦いの最初の狼煙よ 邪魔はもうできないわ」
 女はアーチファッソルの欠片を握り締め、胸元へよせる。石と女の体の両方が赤く輝きだし、光りのベールが周囲に放たれる。
 彼女が散々使ってきた、アーチファッソルを無効化する空間だ。
 だが今までとは桁違いにその範囲が広い。アーチファッソルの力をコントロールしているのだ。

 ZERO-NEMOが顔を押さえてもがいた。スーツの力をフルに使って動いている彼にとって、それを失うのは、ぬかるむ泥の中に頭まで沈められたようなものだ。
 ZERO-NEMOがヘルメットを操作すると、丁度目にあたる部分だけが開いた。刃物を思わせる、切れ長で鋭い目をしていた。

「くそ、バリアを破れるかカウガール?」
 いつものスピーカーから流れる音ではなく肉声だった。
「へぇ、そんな声してたんだ」
 ZERO-NEMOは応える変わりに不快げな視線をリベルタに向ける。
「わかってるわかってるっ!」
「あー、ヤツのバリア量を概算シテみたが…… 銃の最大出力の数百倍ノ威力が必要だナぁ 戦艦が何機も必要だ!!」
「ならばワタシの剣で」

「無理よ、ZERO-NEMO、リベルタ このバリアは破れない、アーチの技術なのよ! 体がバラバラになるだけよ いいかしら、私には覚悟があるのよ、何に変えても成し遂げるって!」
「覚悟だと、片腹痛い」
 斥力のベールの向こうで、声を荒げる女にむかってZERO-NEMOが進みでる。

「覚悟があるならば、何故あそこで殺さなかった? ワタシは命に代えても貴様を討つ覚悟がある」
 ZERO-NEMOがブレードを抜く。腕を高く、頭の高さまであげ、刃先を相手に向けて雨垂れのごとく構えた。

「貴方達を殺したくはない!」
「もう遅い!」

 ZERO-NEMOが突きかからんとするも、女は端末を操作し、周囲にアーチの球体を出現させた。
 この球体は遺跡の何処からか転送されてきており、恐らくは無尽蔵に沸いてくる。ZERO-NEMOは舌打ちしつつ、球体の排除を余儀なくされた。

「どースンだリベルタ! あの女、ホッといたラまた撃つカモしれネーぞ!」
「ええ! 従わないと言うのなら、何度でもアーチの力を使わせてもらうわ! 人の居る星でもね!」
「オい、リベルタ!」
「うるさい! んもー頭に来た! 何がエンジェルよ馬鹿馬鹿しい!」
 リベルタはカウボーイハットを足元に投げ捨て、地団駄を踏みながら、髪の毛を無茶苦茶に書き乱した。

「支配者を倒す!? それで、こんどはあんたが支配者になるわけ? ふざけないで! ぜっっったいにお断りよ!!」
「リベルタ、私は人々を」
「うるさい、だまれこのクソビ【Ccensored】ピ-チ!Fu【Ccensored】ピ-ing Cu【Ccensored】ピ-t!! ZERO-NEMO! 少し待っていて!」
 癇癪を起こしつつ、リベルタは走り出した。向かう先はコンパイラーのある小さな小屋だ。
 女はリベルタの剣幕に呆気にとられ、ZERO-NEMOは無言のまま、球体との戦いを続けている。

「オイオイ、どースんだよ!? コンパイラーで何か作ルノか? ちゃンと動くんダロうな?」
「動くわよ! グリップ君も動いてるでしょ!」
「そラそうダな」
「それに作るんじゃない、転送させるの! もう一度ウィリアムに繋いで! ウィリアム! 早く応答してウィリアム!」
 ほとんど叫ぶ様にしながら、リベルタは小屋に駆け込み、転送装置付きのコンパイラーの元へ向かった。
 そして装置をブーツで思い切り蹴り飛ばすと、甲高い電子音と供にコンパイラーが作動する。
「ほら動いた!」


<<今度はなんだ!? 街は大混乱で大変なんだ!エンジェルのもとへ行きたいって奴等が大勢いる!>>
「天国に送ってやったら!? 良い? 株主命令よ! よく聞きなさい!!」
<<え、あ、ああ、はい>>
「今すぐにこれから送る座標コードにオフィスにあるアーチファッソルを送って! あのでかいやつ! すぐ!!」
<<な、なんだってこれは…… うう、わかりました!>> 
「リベルタお前マサか!」
「グリップ君!」
「……わかっタヨ 今、コードを送信シた」
「そうこなくちゃ!」
 程無くして、コンパイラーにアーチファッソルが転送された。小さな塊だが、それでも10グラムの物体を亜光速まで加速できるだけの莫大なエネルギーを持っている。確実にアーチの兵器に貼られたバリアを貫通できるだろう。だが。

「ごめんねグリップ君…… 」
「バカ! なんデ俺ニ謝るンだ 俺ハただのAIダゾ」
「でも……」

 リベルタはこのアーチファッソルを使って強引に銃を撃つつもりだった。だが設計を遥かに超えたエネルギー量に、銃本体は耐えられずに崩壊する事は確実だろう。それに、その猛烈な反動を受けるのは少女自身だ。

「他に方法ハ…… まぁ無イわなァ アア、AIは天国ニ行けネぇからナ アノ男に謝る事モできネェな!」
「アハハハ! 仕方ないね! ま、パパもきっと褒めてくれるよね だって大勢の人を助けられるわけだし!」
「違いナイな アー でもお前ハまだ10ニなっタばかリだっテのに……」
「大人になったらきょにゅーになるはずなのにね よっし、それじゃぁ行こっか ZERO-NEMOが待ってる」

 銃内蔵のスピーカーからアコースティックギターの乾いた調べが流れ出す。

 小屋から歩き出た少女が拍車付のブーツのつま先をそこへと向ける。
 刺繍入りの上等な皮製で、つま先は鳥のくちばしの様に尖っている。
 カウボーイ・ジーンズには金ピカのチャンピオンバックル きっちりと着込んだフリンジ付のシャツ
 痩せているが日に焼けた小麦色の肌 そばかす 丸みを帯びたアーモンド形の目は碧眼 肩まで伸びた金髪  途中で拾い上げた白いキャトルマンハット
 腰に巻かれたホルスターにはもちろん使い込まれたシングルアクションのリボルバー銃。
 どこからみても完璧なカウボーイスタイルだ。

 少女はホルスターから抜いた拳銃のグリップからケーブルを引き出し、アーチファッソルに直結させた。
 ZERO-NEMOは次々と湧き出す球体を必死で征していた。

「誰にも支配なんかされない 正しいとかそんなのどうでもいい 自由リベルタのために私は撃つ!」

 少女の瞳が赤く輝き、手にした鉱石もまた輝きだした。少女はリボルバーをアーチの兵器へと向ける。
 女が何かしらを叫んでいる。ZERO-NEMOは少女を一度だけ振り向き、小さく頷いただけだった。
 少女が腕を伸ばし、撃鉄を引き起こす。そしてに指をかけた時、その腕を背後から掴む者が居た。

『うわははははは!! ロックンロール!!』
 太く、力強い腕で男はリベルタの銃を支えた。その男はダレル・ブラックサークル。
「えっ!? 何よあんた! 邪魔しないで!」
『いいからこのまま撃てよ! お前は最高にロックンロールだぜ!』
「あーもう! どうなっても知らないからね!」

 リベルタは引き金を引いた。

 BLAME!

 それと同時に猛烈な爆風があらゆるものをなぎ払った。
 莫大なエネルギーが瞬時に解放され、重さ10グラムの銃弾は光速に近い初速で射出されたはずだ。弾丸は衝撃に耐えられずに急激に減速しながら崩壊し、バリア装置に命中したのはほんの微かな破片だけだった。
 だがそれで十分だ。破片はバリアを突き破り、アーチの兵器を粉々に砕き、吹き飛ばした。
 巻き上がった猛烈な粉塵が落ち着いてくると、周囲に動くものは何もなくなった。
 
 
 
 
 
 様に見えた。
 砂山が動き出し、裸の大男が勢いよく上半身を起こした。男は咳き込みつつ、体を起こし、手につかんでいた少女を引き上げた。少女もまた、口から砂を吐き出しながら咳き込む。
「生きてる…… あたし生きてる!?」
『ああ、生きてライブるぞ、嬢ちゃん』
「ZERO-NEMOは!?」リベルタはダレルの手にぶら下がりながらあたりを見渡す。
<<ワタシも無事だ>>
 ZERO-NEMOから通信が入った。すこし離れた位置からこちらに近づくZERO-NEMOの黒いシルエットが見える。通信ができているという事はエリーの呪縛から解かれたのだろう。
 ZERO-NEMOは手に何かを引きずっていた。それは気を失ったエリーだった。

「結局みんな生き残ったわけだな それで貴様は何故味方したんだダレル?」
『エンデュミオンだ 奴が今回の俺のをチャラにするから、その代わりにお前らを守れとよ!』
「随分気に入られたものだな 銃はどうしたリベルタ?」

 リベルタはダレルの手から降り、俯きながら握り締めた手を開いた。そこには銃身が消し飛び、グリップ部分だけになった銃が握られていた。
 もはやただの残骸と化したそれを、少女は愛おしそうに撫でた。
「ピュイー」グリップが明滅し、口笛の様な音を立てた。
「アーアー、なんダかスッキリしちマッたなァ!」
「うわぁ喋ったぁ!?」

 かくして10才のガンマンは英雄として銀河にその名を轟かせる事となった。
 それから程なくして、エンデュミオン社の艦隊が廃鉱山に着陸した。エリーは犯罪者として捕らえられ、収監される事となった。
 抜け目の無いエンデュミオン社CEO、エペイオスは銀河各地にあるアーチの遺跡を、同社が主席となっている銀河企業連合による管理を宣言した。これは後に新たな火種となるが、それはまた別の物語だ。
リベルタとZERO-NEMOはまた互いの旅に戻った。運命がまた二人を繋ぐその時まで。


 どこかの世界の 宇宙のどこか

 空に瞬く光を追いかけ人々は星を渡り歩いた

 荒れ果てた宇宙の荒野を、銃を手に切り開き続けた人々は

 いつしか暴力に支配されるようになった

 彼等の手に常に握り締められるのは 銃と赤く輝く石だった

 これは銃が銀河を支配した世界の物語


 ガンズ・アンド・シッスル Fin.
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