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しおりを挟む先輩がいなくなり、1人図書室に取り残されたタケルは、誰もいなくなった空間で大きく息を吐いた。
時刻を確認するとまだ予定時間には余裕がある。前回ここへ来た時とは違う理由で時間を潰すため本棚の中を歩き始めた。
自分の興味を引く本を適当に本棚から抜き取り装丁を捲る。開かれたページをパラパラと軽く目で追ってみるが、思うように頭の中に文字が入って来ず、思わず苦笑いしてしまう。
自分が考えるよりも自分は緊張しているみたいだ。
それでも時間をかけ、いくつか本を物色し机に置いたところで図書室の扉が開いた。
「悪い。待たせた」
予想よりも早く現れた待ち人の声に応じ、大丈夫だという意思表示を込め少しだけ口角を上げ相手と挨拶を交わす。
正直なところ、もう少し心を落ち着かせる時間が欲しかったが、そんなの相手に言えるわけがない。
作り笑いの練習がここでも役に立つとは思わなかったな、とタケルはこっそり微苦笑を唇に滲ませた。
本を積んだ席の目の前、丁度こちらと相対する席に蒼司が腰を下ろした。
「先輩はー」
「知ってる。後は全部任せるって伝言があった。最も、元々あの人はこの件に関して部外者だったから、全部任せるってのはおかしな話なんだけどな」
肩を竦めつつ口にした部外者、という単語に情けなくも敏感に反応し瞳を伏せてしまう。
声音から決して蒼司はそういった意味合いではなく、しかも自分へ向けたものでないと分かっていても、蒼司が言った言葉というだけで心が抉られ痛みが走った。
先輩と蒼司。2人揃ってタケルへ説明する場を設けたいと、今日という日に図書室で待ち合わせていたが、やはり遅れてくる蒼司を待たずに、先輩がいなくなった時点で適当な理由をつけて自分も帰ってしまったほうが良かったかもしれない。
蒼司へを好きな気持ちを失くしたくない。そう病院の非常階段から落ちる際、胸に宿った想いから前向きになろうとあの後決意してみたが、自分勝手に傷つく心を持て余す意志薄弱なタケルは早くも挫折しかけていた。
「すまなかった」
そんな後ろ向きな思考に取り憑かれていたタケルの耳に蒼司の突然の謝罪が届いた。
内側に沈めていた意識を浮上させ瞳を上げると、切れ長の黒い双眸がこちらを真っ直ぐ見つめていた。
「何でいきなり謝るの…?」
「偉そうに守るなんていっておいて、そのくせ、お前が酷い目に遭うのを止められなかったからな。遅くなったが説明より先にまずはしっかり謝るのがスジってもんだろ」
そう言いながら蒼司はタケルに向かいもう1度すまない謝罪を口にした。
揺るがない光。決めたことに関して良くも悪くも真っ直ぐな、そんなところが好きなんだよなと場違いながら再確認してしまう。
「あのさっ」
自分の好きな気持ちに押し出されるように言葉が口から零れ落ちた。
「あのさ、蒼司はあの娘のことどう、思ってたの?」
他にもっと聞きたいことも言わなくちゃいけないこともあるはずなのに、勢いづいた口は気づけばおかしな質問を勝手に口走っていた。
我ながら空気を読めないにも程がある。
鏡を見なくとも自身の顔色が一気に青褪めていくのが分かった。
聞きたかった、確かにそれは凄く聞きたかったけれど聞くタイミングは決して今じゃない。
その証拠に目の前の蒼司の反応がすこぶる悪いというか、明らかに停止していた。
言葉と水は零れ落ちたら元には戻らない。居た堪れずガタン、と勢いよくタケルは席を立つ。
その際、積んでいた本が雪崩れ、巻き込まれた自身のカバンが机の下に落ち派手に中身をぶち撒けたが、そんなのに構ってなんていられない。
「あ、あはは…。なんか待ってたら喉乾いちゃったなっと。俺、ちょっと飲み物買って来る!!」
蒼司の返事を待たず、タケルは不自然に上擦った明るい声を上げ一直線に図書室の外へと飛び出して行った。
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