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第3章 偽りの王子と恋の試練?
3 過ぎ去りし因果の中で①
しおりを挟む…………ーーー寒い。
ここは、なんて寒いんだろうか。
寒くて、寒くて。
このまま、心まで凍りついてしまいそうだ。
「っ、くしゅん、」
寒さに震え、くしゃみをしたところで目が覚めた。
「寒っ」
ぶるり肩を震わせ手元に置いてあったスマホで時刻を確認すると、すでに日付けは変わり午前一時を過ぎていた。
どおりで身体が冷え切っているわけだ…。
目の前のテーブルに並ぶ、手づかずで冷え切った夕食を見つめ暗澹たる思いで息を吐く。
今日こそはと、気合いを入れて待っていたというのに。それで待ち疲れて居眠りって、ダメじゃん自分。
のろのろとした手つきで夕食にラップをかけ、冷蔵庫に入れようとして、冷蔵庫の中身が減っていることに気がつく。
「……そんなに僕の料理が嫌、なのかよ」
呟いた声音はもちろん、自室ですでに休んでいる恋人には届くことはない。
ーー恋人。
本当に自分とアイツとの関係は今も恋人同士と言って正しいのだろうか。
最近、ふとした拍子に思い浮かぶ自問自答を振り払い、就寝の準備をするべく洗面所へと向かう。
スイッチを押し煌々と、洗面台の灯りの下、鏡に映し出されるのは黒髪で日本人特有の凹凸の少ない平凡な男の顔。
「…ひっどい顔」
青白くて痩せこけた頬は如何にも不幸を背負ってますアピール満載だ。これじゃあ、帰って来ても顔を合わせたくないと思うのも仕方がない。
疲れて帰ってきたのに、こんなしけた面した男に出迎えられたくないよな。
自嘲に唇を歪ませて、洗顔をして手早くタオルで拭う。
「ん?」
拭いた自分の顔に一瞬だけ、別の誰かの顔が重なったて見えた。
目を瞬き、鏡を良く見ても映っているのは生まれてきてからずっと見てきた自分の顏だけ。それならもしかしてと、期待を込めて振り返ってもそこには期待した誰かの姿は影も形も見えなかった。
(…ま、いるわけないっか)
今頃アイツは夢の中だ、こんな時間にこんな場所に気紛れでもいるわけはない。
そう分かっていても落胆する気持ちに肩を落とし、歯を磨いてから洗面所を後にする。
明日は鍵当番だから早めに出なければならない。
朝は一日の時間の中で唯一、アイツと顔を合わせられる時間だ。最近はまともに話せてはいないが、それでも僕にとって貴重な時間だった。
明日はそれが叶わないから、せめて今日のうちに顔を見ておきたかったというのに…。
まだ温まっていない布団の中に潜り込み、僕は自分で自分を抱きしめてギュッと目を瞑った。
(大丈夫。まだ僕は大丈夫だから)
今日は多分、仕事が忙しくて疲れていたから、話すのが億劫だったんだ。だから、僕を起こさずに自室に入ってしまったんだ。
一晩しっかり寝れば顔色も良くなるし、笑えば多少マシな顔になるだろう。そうして、機会を待てばきっとまた僕と話をしてくれるはずだ。
(大丈夫、大丈夫…)
しかし、望んでも冷え切った身体に中々眠りの淵はやって来なくて、時間ばかりが無情に過ぎていく。
(…大丈夫、…大丈夫…)
気を抜けば思考が良からぬことばかりを考えてしまいそうで、
(…大丈夫、…大丈夫…大丈夫…)
結局一晩中、何が大丈夫なのか分からなくなるぐらい、ただその言葉だけを必死に唱えていた。
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