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風聞

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ビビアンは、行き詰まっている入れ替わり問題を解決しようと、フィアナと 一緒に教会に戻ってきた。 
「母さん、前に妖精王の話をしてくれたでしょ」 
『ええ、覚えているわ』
良かった。お互いに頷きあう。

「それで、妖精王は どこに行けば会えるの?」
妖精王だから妖精の国にいると思うけど……。ううん。大丈夫。きっと行き来するゲートみたいのが あるはずよ。なるべく近場にあるといいけど……。それより心配なのは、私と会ってくれるかどうかと、いうこだ。
妖精の国も、人間界と同じように貴族じゃないと謁見できないとか、そんな面倒な条件があるんだろうか?

『残念ながら知らないわ。もう何百年も行方不明。噂では人に攫われたとか、戦で死んだとか色々あるけど、結局、本当の事は誰も知らないの』
「えっ?」
「はっ?」
嘘でしょ……。
隣のフィアナも驚いて言葉を発しない。
妖精王自体、存在が不明なら、一生妖精のままなの?
目の前が真っ暗になる。
私の帰りを待っている両親はどうなるの? 画家になるという私の夢は?
何一つ成し遂げることなく、全部失ってしまった……。二度と両親の瞳に私が映ることがない。 二度と両親に私の声が届かない。自業自得だと嘲笑うもう一人の自分の声が聞こえる。
( これからどうしたらいいの……)

ビビアンは力なくフィアナの 肩にとまった。すると、私の髪を指で撫でる。慰めてくれるの? ありがとうと唇を震わせながら微笑む。フィアナが居てくれて良かった。 私の気持ちを分かって
くれるのはフィアナだけだ。
「お母さん 他に知ってることはないの?」
『あと…… そうねぇ~、何かあったかしら?』
フィアナは諦めてないけど、何百年も行方不明なら 知っている人は誰もいない。無駄だと首を左右に振る。

妖精になって実感したのは、その数の少なさ。 あの生垣の精霊以外見たこともないし、存在を感じたこともない。フィアナのお母さんが知らないなら、手の打ちようがない。
『あっ!』
突然地面が揺れる。驚いてたたらを踏むフィアナにつられて自分の体も グラグラ揺れる。
『 なるほど、そう言うことね……』
妙に納得したようなフィアナのお母さんの声に眉をひそめる。 何か思い出したみたいだ。
「 お母さん何なの?」
『もしかしたら、妖精王に選ばれたのかもしれないわね』
そう言うと、私を意味有り気にチラリと見た。
その視線は何? 妖精王?
つられてフィアナが私を見る。 知らないと首を振ると、お母さんと向き合った。
今回の件と何か関係があるの?

「どうしてビビアンが、妖精王に選ばれるの?」
『あの後、私も色々考えたの。貴方たちは普通の入れ替わりと違うから、何か特別な事が起きているんじゃないかって。それで、気づいたのよ』
含みのある言い方にムッとする。 それはフィアナも同じらしい。
眉をひそめて、お母さんを見ている。
「それが、入れ替わりと関係が有るの?」
フィアナが至極真っ当な事を聞く。
それは私も知りたい事だ。どうして妖精王が、ここで出て来るのか分からない。
『妖精王は気まぐれで人を妖精にしたり、妖精を人にしたりするの』
「じゃあ、私たちは妖精王の悪戯でこうなったの!?」
フィアナの母親の言葉に いきり立って、 その場は忙しく飛ぶ。
人に断りも無くするなんて、理不尽だ。人生を弄ばれるなんて許せない。
「そもそも妖精王は どうしてそんな事をするの?」
『元人間を妻にする為よ』
「えっ? じゃあ、ビビアンを妻にする為に」
「えっ?!……ええー!」
青天の霹靂の 出来事に大声を上げる。
妖精王が私の知らないところで一目惚れして、妻にしようとしたって言うこと?私のどこが気に入ったのだろう。この赤い髪の毛、それともはしばみ色の瞳? まぁ……悪い気はしないけど……。 そう思って髪を後ろへ払いのける。

でもやっぱり嫌だ。どんなにハンサムでも、そんな独断的な男はお断り。
「どっ、どう言うこと?」
フィアナが 慌てふためきながらラフィアなの木を両手で掴んでゆさゆさと
揺らす。
「お母さん教えて!」
それを見て冷静になれた。葉っぱを ハラハラ落としながら、お母さんが
止めさせようと詳しく語る。
『代々、妖精王は妖精の中から妻を選ぶことはしないの。争いの火種になるから』
「成程、妖精界も大変なのね」
(どの世界でも権力争いはあるらしい。煩わしいな、そう言うの)

「そうなの?」
フィアナが不思議そうに首を傾げるが、私は嫌と言うほどその理由が分かる。人間社会も高い地位に就きたがる女たちで、醜く争っている。そういう女は、他の女たちを見下したいだけだ。そんな生き方のどこが良いのか
分からない。地位よりも、お金よりも、大切なのは、お互いを尊重し合えるかだ。
 (だからと言って勝手に選ぶのはどうかと思う)
「妖精王は花嫁を探しているの?」
『独身なのは確かよ』
「でも、それだけならフィアナが巻き込まれた理由にはならないわ……」
フィアナの母親の言う通りなら、私にだけ魔法を使って妖精にすれば事は足りる。
態々私とフィアナを入れ替える必要はない。
『 ……… 』
「 ……… 」
「 ……… 」
誰も肩が黙り込んで重苦しい空気がその場を支配する。 解決しそうになったが、何一つ解決しなかった。僅かに掴んだ手がかりも、途切れてしまった。
今までの時間は何だったの?

私は一体どうなってしまうんだろう……。フィアナと 同じように新しい生活を考えないといけないんだろうか? だけど、フィアナと違って私は そう簡単に諦められない。他に道はないんだろうか?


フィアナは、すっかり考え込んでいるビビアンを見て心が痛い。
力になりたいのに、何といえばいいのか分からない。
だけど、妖精に戻れない私と違ってビビアンは、まだ人間に戻れるチャンスがあるかもしれない。
精霊達に聞けば、他の手がかりが分かるかも。 まだ妖精の力が残っているから、聞いて回ればきっとなんか見つかるはず。
 そう自分を奮い立たせる。

*****

フィアナは 落ち込んでいるビビアンを 少しでも元気付けようと、フルーツの盛り合わせを用意した。日頃の 感謝の気持ちも込めて。
「どうぞ召し上がれ」
 皿に向かって手を小刻みに振る。
「これどうしたの?」 
目をキラキラさせて近づいて来る。
食べ物が喉を通らないぐらい深刻に思い詰めているのかと心配していたが、純粋に喜んでいる姿に安心する。
本当にフルーツが好きなのね。

「コックさんに頼んで作ってもらったの」
 オレンジは横からギザギザに切って花の形。林檎はV字に切ってずらして葉っぱみたい。葡萄は6等分に切り込みを入れて、皮を半分だけむいてある。 他の果物も工夫されて見た目も華やかだ。
 私が作れれば良かったんだけど、残念ながら私のスキルでは無理だ。
ビビアンが皿の縁に座る、と早速 自分の顔より大きな葡萄にかぶりついている。 そんな姿に微笑んでいたが、そうだと、ポンと手を打つ。

「ビビアンは、サム・ウィリアムズって知ってる?」
「知っ てるわ。大物よ」
大物?
体が大きいってこと? どういう意味だろうと首をかしげる。すると、ビビアンが食べるのを止めて腕組みして、また何か考え出す。

やっぱり、まだショックから立ち直ってないんだ。 だけど、私には こんなことしかしてあげられない。 ため息と共に目を伏せる。
「フィアナ」
 ビビアンが私の名前を呼んだ。 だけど、声音が厳しい。急にどうしたんだろう?
「パーティー 行くんでしょ。私が言ったこと忘れてないわよね」
何だ。私のことを心配してくれてたんだ。



そう聞くとニコニコ顔でフィアナが、こくりと頷く。
「もちろん、覚えてるわ、ベスに気をつけろでしょ」 
心配だ……。子を見送る親のようだ。
フィアナの恐ろしいのは猫とか犬とかの動物だろう。 だけど、人間はそうじゃない。
噛みかれるより、大怪我をする。そのことを分かってない。もっと、教えておかないと駄目だ。大事なことだと分からせるようにフィアナの目の前で指を指す。
( 社交界デビューするのにどうして、シャぺロンをつけないのよ!)
市井の者だと言えば、知らないことがあっても変に思われないのに。心配するところが間違っていてる。

「フィアナ、ダンスを申し込まれたら 踊ってもいいけど」
どうせ足を踏むから逃げていくだろう。
「酔っ払いとか、下心がある人間が近づいたら 声をかけられる前に、テラスに逃げるのよ」
「分かったわ」
コクコクと頷くフィアナを見てため息を 押し殺す 。絶対分かってない。
一緒に行ければ男たちを追い払うことができるのに!
あとは、運に任せるしかない。
(神様、どうか フィアナをお守り下さい)


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