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22 もう 二度と・・
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暗瞬(アンシュン)は、最悪の事態を覚悟して欄干から下に飛び降りた。 しかし、明芽(ミンメイ)の姿も角英(カクエイ)の姿も無かった。
血も何もない。
(心中したわけでは無いのか?)
角英が 明芽を連れ去られた事に怒りもあったが、 殺されて無かったと安堵する。
しかし、角英が何をするか分からない。
一刻も早く明芽を助けなくては。
暗瞬は瘴気の姿になると、上空から 二人の行方を 探す。しかし、木々ばかりで 建物も人影もない。
明芽を連れては、そう遠くへは 行けないはず。
それに、そんなに時間は経ってない。
それなのに、何一つ手掛かりらしい物が 見つからない。
(一体どこ行ったんだ?)
気ばかり焦っているとキラリと光るものに目が留まる。その輝きに 引き寄せられる様に降りてみる。
拾い上げると、それは 紫水晶だった。
(これは・・)
馴染みの品に自然と微笑む。
間違いない。この近くに明芽が居る。
辺りを探る。しかし、それらしい建物が無い。
森の中を探そうとすると すぐに行き止まり 何かが行くてを阻む。 言えないソレに 触れると板塀に変わる。
板塀? どうしてこんな物を 隠しているんだ。
・・もしかして これは目眩ましか?
( 何を隠している・・)
手から 瘴気を出して 板塀を撫で付けると、 焦げた跡がある 城壁が現れる。
それを見て暗瞬はピンとくた。
間違いない。 ここは蒼の国だ。
この焦げが、何よりの証拠だ。
中に入ろうと城門の扉を押すと 侵入を拒むように パチパチと雷のよくなものが攻撃してくる。
強力な術式が使われている。
どうしたものかと城壁を見上げる。
「・・・」
結界は空へと続いている。どうやら、国全体を覆うよに術をかけているらしい。
術 を解くことも出来るが 壊す方が早いと 判断すると、 そのまま垂直に城壁を登っていく。
パチッパチッと私を捕らえようと 雷が追いかけてくる。 てっぺんまで登りきると 明芽を探しながら中心に向かう。
しかし、すぐにその足が止まる。
敷地を埋め尽くすほどの 幽鬼の数に我が目を疑う。
(これは・・どう言う事だ・・)
多分、15年前の 『十日 業火’』で、 亡くなった者たちだろう。 しかし、角英は、どうして わざわざ幽鬼を保管しているんだ?
ただの猿の妖魔では、使い道など無いのに・・。
解せないが 今は明芽を助ける方が先だと 考えるのをやめる。
どこだ。どこに居る。
必死に下を探していると動くモノを見つける。
数人が一箇所に集まっている。 その中にその見覚えのある衣が。私が 贈ったものだ。
「明芽・・」
その元気な姿に やっと肩の力を抜く。
(良かった。生きている)
亡骸が無かったから 死んでいないと予想はしていたが 自分の目で確認するまでは 安心出来なかった。
しかし、その中に見慣れなれ無い人間を見つけて首をひねる。
「んっ?・・明芽、永春、角英・・もう一人は誰だ?」
どこか懐かしさを感じさせる紫色の髪の男は 自由奔放に髪を遊ばせている。
(黒龍神?・・まさか・・否、無い。無い)
暗瞬の頭に嫌な中年男の顔が浮かんだが 、すぐに消し去る 。
兎に角 降りてみよう。
結界がパチッパチッと侵入者である自分を攻撃してくる。
( 正直、木の枝で 突かれる程度の痛みしか 感じ無い)
無視して 結界を壊そうと 自分の手のひらを置くと 力任せに押してみる。すると、バキッと乾いた音をたててヒビが入る。
(よし。行ける)
大丈夫だ。もう二度と明芽の手を離さない。
ヒビが結界全体に広がっていく。 もうすぐだ。 そしたら、この胸の中に もう一度 明芽を抱きしめることができる。
暗瞬は力を込めて押し続ける。
***
明芽は静かになった3人を見て 満足気に頷く。
これで話ができる。 そう思っていると 雷のようなバリバリという音が 頭上から聞こえる 。
一斉に皆が空を見る。
「 雷 ですか?」
「どこから聞こえてくるんだ?」
『 この音は何だ?』
空に大きな亀裂が入っている。
(まさか、空が裂けるの ?)
『お前の仕業だな』
「ちっ、違う。俺じゃない」
『嘘をつけ!』
お父様が、角英の胸ぐらを掴んで 白状しろと詰め寄る。揉めている 二人の横で空を見て永春様が、冷静に 分析する。
「仙剛様、どうやら 結界を壊しているようです」
『結界?』
お父様が、角英を解放すると、自分も空を見上げる。
目が離せないでいると、 そのヒビの中心に しゃがんでいる人を見つけた。
目を凝らして見ると 赤い双方が輝いている。
(ああ、あの深紅の瞳は・・)
私の目印に気づいてくださったんだわ。
本当に来てくださった。 それだけで胸が、いっぱいだ。
「暗瞬様ー!!」
明芽は手を振って愛しい人の名を呼ぶ。
「ええ、暗瞬が無理やり結界を壊そうとしているんですよ」
『なるほど』
永春様の言うとおり 全体にヒビが入っている。
「そんなバカな・・。 ここには幻術をかけてあるし、 結界だって何重にも仕掛けてある」
信じられないと 角英が 首を振りながら ゆっくりと後ずさる。
「何をそんなに驚いている。暗瞬の方が格が上なのは分かりきってる事だろう」
「 何を言って・・」
永春様の馬鹿にした口調に 角英が 怪訝な顔をしていたが 思い出したように 命令する。
「 そうだ。永春。暗瞬を殺せ 」
「 もう用は済んだ。 お前とは、ここまでだ 」
しかし、永春様が 手のひらを返して首を振って あっさり否定する。
それを見て明芽は 胸の前で手を組む。
良かった。 やっぱり、敵ではなかったのね。
私を攫うのに加担したのに 暗瞬様に使いを出してくれたりと 矛盾した行動をとっていたから 心配していた。
「私の手下になりたいと言ってきたのは 貴様だぞ。それを忘れたとは言わせない」
「信じてたのか? 意外に初だな。 私は、ここの敷地に入りたかった だけだよ」
怒った角英が 永春様に詰め寄る。
すると 永春様が、五月蝿いとばかりに肩を竦める。 その態度に角英が さらに怒りながら 自分の胸をたたく。
「 天界を追放されたお前を 拾ってやったの私だぞ。 恩を仇で返す気か!」
「 誤解しているようだけど 追放されてない。 それに、人間界で探しモノをするために 利用しただけだ。 出なかったら 誰が お前みたいな 下級の妖魔を相手にするものか」
(天界?探し物 ?)
永春様が 見下したように 冷たい視線を送ると 角英の顔が、みるみる猿に変わっていく。
怒りすぎて人間の姿を 維持できなくなっている。
『明芽。こっちへ おいで』
その事に気づいたお父様が 私を背に隠す。
「 貴様! 最初からそのつもりで 」
「それより良いのか? もうすぐ結界が破れそうだけど」
今にも襲いかかりそうな 勢いで 角英が 責め立てる 。しかし、永春様は、 顔色ひとつ変えず 空を指差す。
つられて見ると 細かくひびが入って 真っ白になっている。
「くそっ!くそっ!」
もうすぐ暗瞬様が、来ると知って角英が 悪態をつくと 自分の毛を毟取って息を吹きかける。 その動作に ハッとして 明芽は 大声でお父様たちに注意する。
「 お父様 。永春様。 気をつけて」
角英の毛が幽鬼に触れると 命が吹き込まれたように 私たちを次々に襲いかかってくる。
お父様と永春様が 素早く私の前に回り込む。
「仙剛様。戦えますか?」
『 問題ない』
二人が、そう言うと 迫り来る幽鬼たちの中に 自ら飛び込んでいく。
「 ご武運を」
そう言って、二人を送り出す。
永春様が印を結んで 小さな紙を飛ばして 幽鬼たちに貼り付ける。 すると その側から幽鬼たちが光となって消えていく。
それとは対照的に、お父様は、もげた自分の腕を 剣のように振り回して 幽鬼たちを攻撃している。 肉が削げて、骨が折れても 気にしないで自分の腕を使い続けている。
その凄まじさに 永春様が言葉をなくしている。
「・・ 何と言うか・・ 凄いの一言に尽きるね」
戦うお父様を見て 明芽は、こめかみを押さえる。
(解る。解る。永春様の気持ち解る)
豪放磊落な性格なのは 性分らしい。 生前には どんな事をやらかしたか・・。
想像するのも怖い。なのに、嫌いになれない。
むしろ、好きかもしれない。 お母様が好きになった理由が分かる。
「 いいんです。気を使わないでください」
二人の足手まといに、ならないようにしよう。
幽鬼達に見つからないように 腰をかがめるて移動する。
倒しても倒しても数が減らない。
このままでは、さっきの繰り返しだ 。何か手助けは出来ないかと やきもきしながら見ていると 角英が逃げて行く姿が目に入る。 一瞬、追いかけようとしたが ぐっと我慢する。
追いかけて行ってまた捕まったら 元も子もない。
沢山の幽鬼たちに囲まれて 2人が苦戦している。
自分も力になりたいが 武器になりそうなものも落ちていない 。
じれったい気持ちで戦況を見ていると 永春様が指笛を吹く。
「円!こい」
(円って誰?)
助っ人を呼んだのかと振り返ると 大きな白い虎が 私の上を飛び越えて 幽鬼たにの中に着地したかと思うと暴れまわる。その戦いぶりは、10人分は ある。
これなら大丈夫そうだと ほっとしていると 見た事のある衣が目の前にある。 そのまま視線を上げると 角英が立っていた。
「どっ、 どうして此処に?」
「 お前を置いて、逃げるはずないだろう」
逃げたと思っていたのに・・。
拙い。 助けを求めて、お父様たちを見るが、遠い。 邪魔にならないようにと 離れたことが裏目に出た。
角英が腕を伸ばしてくる。明芽はその腕を払いのけると 幽鬼の中を必死に逃げる。
しかし、直ぐに追いつかれて角英に腕を掴まれた 。
「放して!放して!放しと言ってるでしょ」
「大人しくしろ」
降り解こうとすれば、するほど腕を握る力が強くなる。 痛みに身を 反らせていると 白い雪のようなものが空から降ってきた。
見上げると 青い空が見える。 白いモノがキラキラと光を反射しながら落ちてくる。 これは 雪では無い。壊れた結界の破片だ。 幻想的な風景に 心を奪われていると、その中から赤い流れ星が 黒い尾を引いて私 目掛けて堕ちてきた。
衝撃で突風が吹く。
風がおさまると その者が 角英を恫喝する。
「 その手を離せ!」
「暗瞬様・・」
暗瞬様が 角英の腕を掴もうとすると角英が 猿のように飛び退く 。
やっと逢えた。
目の前に暗瞬様が居る。
手を伸ばせば触れられるほど近くに。
諦めかけた時もあった。 心細さに泣きたい時もあった。 恋しくてたまらなかった。
今まで溜め込んでいた気持ちが 一気に溢れ出して 言葉にならない。
その顔が見たいのに 後から後から涙が止まらない。
***
暗瞬は角英と対峙しつつ 明芽の無事を確めようと後ろを振り返る。すると明芽が涙で くちゃくちゃな顔をしている。
「みっ、明芽。大丈夫か?怪我はないか」
「あ゛・・んしゅ・・ん・・ざま・・」
離れている間に何があったんだ。
「どっ、 どうした?」
走っていく足音に振り向くと角英が逃げていく。
明芽に 気を取られた隙をつかれた。
「 待て!」
私の声に振り返った角英が 幽鬼たちをこちらに向かって押し倒す。 倒れてく幽鬼達から守ろうと 暗瞬は明芽を抱きしめる。
「 危ない!」
しかし、暗瞬はハッとして明芽から身を離す。
瓦礫の下敷きになって 怪我をしたから、 体だけでなく衣にも血が ついている。
瘴気の化身である私の血に触れれば 死んでしまう。
厳号の袖が黒く腐って落ちた時の記憶が蘇る。
現実から逃げるように目を固く閉じる。
激しい後悔に襲われる。 走馬灯のように今までの出来事が頭を駆け巡る。
その笑顔、その仕草、その眼差し、その暖かさ その全てを失ってしまった。 なんて愚かな。
目を開けるのが怖い。 瘴気の毒で 黒く侵食された 明芽の屍を見たら気が狂ってしまう。
私が誰かを守ることなど出来無いのに 夢を見ていた。私でも人を愛することが出来ると・・。
私は人を殺める側の者だと言う 真実に目を瞑って 守ろうとしていたなんて・・。
嫌だ !
自分で、自分の愛する人を死に追いやるなんて。
絶望にかられた暗瞬は、全てを消し去りたいと絶叫する。
「あ゛ああああああ!!」
血も何もない。
(心中したわけでは無いのか?)
角英が 明芽を連れ去られた事に怒りもあったが、 殺されて無かったと安堵する。
しかし、角英が何をするか分からない。
一刻も早く明芽を助けなくては。
暗瞬は瘴気の姿になると、上空から 二人の行方を 探す。しかし、木々ばかりで 建物も人影もない。
明芽を連れては、そう遠くへは 行けないはず。
それに、そんなに時間は経ってない。
それなのに、何一つ手掛かりらしい物が 見つからない。
(一体どこ行ったんだ?)
気ばかり焦っているとキラリと光るものに目が留まる。その輝きに 引き寄せられる様に降りてみる。
拾い上げると、それは 紫水晶だった。
(これは・・)
馴染みの品に自然と微笑む。
間違いない。この近くに明芽が居る。
辺りを探る。しかし、それらしい建物が無い。
森の中を探そうとすると すぐに行き止まり 何かが行くてを阻む。 言えないソレに 触れると板塀に変わる。
板塀? どうしてこんな物を 隠しているんだ。
・・もしかして これは目眩ましか?
( 何を隠している・・)
手から 瘴気を出して 板塀を撫で付けると、 焦げた跡がある 城壁が現れる。
それを見て暗瞬はピンとくた。
間違いない。 ここは蒼の国だ。
この焦げが、何よりの証拠だ。
中に入ろうと城門の扉を押すと 侵入を拒むように パチパチと雷のよくなものが攻撃してくる。
強力な術式が使われている。
どうしたものかと城壁を見上げる。
「・・・」
結界は空へと続いている。どうやら、国全体を覆うよに術をかけているらしい。
術 を解くことも出来るが 壊す方が早いと 判断すると、 そのまま垂直に城壁を登っていく。
パチッパチッと私を捕らえようと 雷が追いかけてくる。 てっぺんまで登りきると 明芽を探しながら中心に向かう。
しかし、すぐにその足が止まる。
敷地を埋め尽くすほどの 幽鬼の数に我が目を疑う。
(これは・・どう言う事だ・・)
多分、15年前の 『十日 業火’』で、 亡くなった者たちだろう。 しかし、角英は、どうして わざわざ幽鬼を保管しているんだ?
ただの猿の妖魔では、使い道など無いのに・・。
解せないが 今は明芽を助ける方が先だと 考えるのをやめる。
どこだ。どこに居る。
必死に下を探していると動くモノを見つける。
数人が一箇所に集まっている。 その中にその見覚えのある衣が。私が 贈ったものだ。
「明芽・・」
その元気な姿に やっと肩の力を抜く。
(良かった。生きている)
亡骸が無かったから 死んでいないと予想はしていたが 自分の目で確認するまでは 安心出来なかった。
しかし、その中に見慣れなれ無い人間を見つけて首をひねる。
「んっ?・・明芽、永春、角英・・もう一人は誰だ?」
どこか懐かしさを感じさせる紫色の髪の男は 自由奔放に髪を遊ばせている。
(黒龍神?・・まさか・・否、無い。無い)
暗瞬の頭に嫌な中年男の顔が浮かんだが 、すぐに消し去る 。
兎に角 降りてみよう。
結界がパチッパチッと侵入者である自分を攻撃してくる。
( 正直、木の枝で 突かれる程度の痛みしか 感じ無い)
無視して 結界を壊そうと 自分の手のひらを置くと 力任せに押してみる。すると、バキッと乾いた音をたててヒビが入る。
(よし。行ける)
大丈夫だ。もう二度と明芽の手を離さない。
ヒビが結界全体に広がっていく。 もうすぐだ。 そしたら、この胸の中に もう一度 明芽を抱きしめることができる。
暗瞬は力を込めて押し続ける。
***
明芽は静かになった3人を見て 満足気に頷く。
これで話ができる。 そう思っていると 雷のようなバリバリという音が 頭上から聞こえる 。
一斉に皆が空を見る。
「 雷 ですか?」
「どこから聞こえてくるんだ?」
『 この音は何だ?』
空に大きな亀裂が入っている。
(まさか、空が裂けるの ?)
『お前の仕業だな』
「ちっ、違う。俺じゃない」
『嘘をつけ!』
お父様が、角英の胸ぐらを掴んで 白状しろと詰め寄る。揉めている 二人の横で空を見て永春様が、冷静に 分析する。
「仙剛様、どうやら 結界を壊しているようです」
『結界?』
お父様が、角英を解放すると、自分も空を見上げる。
目が離せないでいると、 そのヒビの中心に しゃがんでいる人を見つけた。
目を凝らして見ると 赤い双方が輝いている。
(ああ、あの深紅の瞳は・・)
私の目印に気づいてくださったんだわ。
本当に来てくださった。 それだけで胸が、いっぱいだ。
「暗瞬様ー!!」
明芽は手を振って愛しい人の名を呼ぶ。
「ええ、暗瞬が無理やり結界を壊そうとしているんですよ」
『なるほど』
永春様の言うとおり 全体にヒビが入っている。
「そんなバカな・・。 ここには幻術をかけてあるし、 結界だって何重にも仕掛けてある」
信じられないと 角英が 首を振りながら ゆっくりと後ずさる。
「何をそんなに驚いている。暗瞬の方が格が上なのは分かりきってる事だろう」
「 何を言って・・」
永春様の馬鹿にした口調に 角英が 怪訝な顔をしていたが 思い出したように 命令する。
「 そうだ。永春。暗瞬を殺せ 」
「 もう用は済んだ。 お前とは、ここまでだ 」
しかし、永春様が 手のひらを返して首を振って あっさり否定する。
それを見て明芽は 胸の前で手を組む。
良かった。 やっぱり、敵ではなかったのね。
私を攫うのに加担したのに 暗瞬様に使いを出してくれたりと 矛盾した行動をとっていたから 心配していた。
「私の手下になりたいと言ってきたのは 貴様だぞ。それを忘れたとは言わせない」
「信じてたのか? 意外に初だな。 私は、ここの敷地に入りたかった だけだよ」
怒った角英が 永春様に詰め寄る。
すると 永春様が、五月蝿いとばかりに肩を竦める。 その態度に角英が さらに怒りながら 自分の胸をたたく。
「 天界を追放されたお前を 拾ってやったの私だぞ。 恩を仇で返す気か!」
「 誤解しているようだけど 追放されてない。 それに、人間界で探しモノをするために 利用しただけだ。 出なかったら 誰が お前みたいな 下級の妖魔を相手にするものか」
(天界?探し物 ?)
永春様が 見下したように 冷たい視線を送ると 角英の顔が、みるみる猿に変わっていく。
怒りすぎて人間の姿を 維持できなくなっている。
『明芽。こっちへ おいで』
その事に気づいたお父様が 私を背に隠す。
「 貴様! 最初からそのつもりで 」
「それより良いのか? もうすぐ結界が破れそうだけど」
今にも襲いかかりそうな 勢いで 角英が 責め立てる 。しかし、永春様は、 顔色ひとつ変えず 空を指差す。
つられて見ると 細かくひびが入って 真っ白になっている。
「くそっ!くそっ!」
もうすぐ暗瞬様が、来ると知って角英が 悪態をつくと 自分の毛を毟取って息を吹きかける。 その動作に ハッとして 明芽は 大声でお父様たちに注意する。
「 お父様 。永春様。 気をつけて」
角英の毛が幽鬼に触れると 命が吹き込まれたように 私たちを次々に襲いかかってくる。
お父様と永春様が 素早く私の前に回り込む。
「仙剛様。戦えますか?」
『 問題ない』
二人が、そう言うと 迫り来る幽鬼たちの中に 自ら飛び込んでいく。
「 ご武運を」
そう言って、二人を送り出す。
永春様が印を結んで 小さな紙を飛ばして 幽鬼たちに貼り付ける。 すると その側から幽鬼たちが光となって消えていく。
それとは対照的に、お父様は、もげた自分の腕を 剣のように振り回して 幽鬼たちを攻撃している。 肉が削げて、骨が折れても 気にしないで自分の腕を使い続けている。
その凄まじさに 永春様が言葉をなくしている。
「・・ 何と言うか・・ 凄いの一言に尽きるね」
戦うお父様を見て 明芽は、こめかみを押さえる。
(解る。解る。永春様の気持ち解る)
豪放磊落な性格なのは 性分らしい。 生前には どんな事をやらかしたか・・。
想像するのも怖い。なのに、嫌いになれない。
むしろ、好きかもしれない。 お母様が好きになった理由が分かる。
「 いいんです。気を使わないでください」
二人の足手まといに、ならないようにしよう。
幽鬼達に見つからないように 腰をかがめるて移動する。
倒しても倒しても数が減らない。
このままでは、さっきの繰り返しだ 。何か手助けは出来ないかと やきもきしながら見ていると 角英が逃げて行く姿が目に入る。 一瞬、追いかけようとしたが ぐっと我慢する。
追いかけて行ってまた捕まったら 元も子もない。
沢山の幽鬼たちに囲まれて 2人が苦戦している。
自分も力になりたいが 武器になりそうなものも落ちていない 。
じれったい気持ちで戦況を見ていると 永春様が指笛を吹く。
「円!こい」
(円って誰?)
助っ人を呼んだのかと振り返ると 大きな白い虎が 私の上を飛び越えて 幽鬼たにの中に着地したかと思うと暴れまわる。その戦いぶりは、10人分は ある。
これなら大丈夫そうだと ほっとしていると 見た事のある衣が目の前にある。 そのまま視線を上げると 角英が立っていた。
「どっ、 どうして此処に?」
「 お前を置いて、逃げるはずないだろう」
逃げたと思っていたのに・・。
拙い。 助けを求めて、お父様たちを見るが、遠い。 邪魔にならないようにと 離れたことが裏目に出た。
角英が腕を伸ばしてくる。明芽はその腕を払いのけると 幽鬼の中を必死に逃げる。
しかし、直ぐに追いつかれて角英に腕を掴まれた 。
「放して!放して!放しと言ってるでしょ」
「大人しくしろ」
降り解こうとすれば、するほど腕を握る力が強くなる。 痛みに身を 反らせていると 白い雪のようなものが空から降ってきた。
見上げると 青い空が見える。 白いモノがキラキラと光を反射しながら落ちてくる。 これは 雪では無い。壊れた結界の破片だ。 幻想的な風景に 心を奪われていると、その中から赤い流れ星が 黒い尾を引いて私 目掛けて堕ちてきた。
衝撃で突風が吹く。
風がおさまると その者が 角英を恫喝する。
「 その手を離せ!」
「暗瞬様・・」
暗瞬様が 角英の腕を掴もうとすると角英が 猿のように飛び退く 。
やっと逢えた。
目の前に暗瞬様が居る。
手を伸ばせば触れられるほど近くに。
諦めかけた時もあった。 心細さに泣きたい時もあった。 恋しくてたまらなかった。
今まで溜め込んでいた気持ちが 一気に溢れ出して 言葉にならない。
その顔が見たいのに 後から後から涙が止まらない。
***
暗瞬は角英と対峙しつつ 明芽の無事を確めようと後ろを振り返る。すると明芽が涙で くちゃくちゃな顔をしている。
「みっ、明芽。大丈夫か?怪我はないか」
「あ゛・・んしゅ・・ん・・ざま・・」
離れている間に何があったんだ。
「どっ、 どうした?」
走っていく足音に振り向くと角英が逃げていく。
明芽に 気を取られた隙をつかれた。
「 待て!」
私の声に振り返った角英が 幽鬼たちをこちらに向かって押し倒す。 倒れてく幽鬼達から守ろうと 暗瞬は明芽を抱きしめる。
「 危ない!」
しかし、暗瞬はハッとして明芽から身を離す。
瓦礫の下敷きになって 怪我をしたから、 体だけでなく衣にも血が ついている。
瘴気の化身である私の血に触れれば 死んでしまう。
厳号の袖が黒く腐って落ちた時の記憶が蘇る。
現実から逃げるように目を固く閉じる。
激しい後悔に襲われる。 走馬灯のように今までの出来事が頭を駆け巡る。
その笑顔、その仕草、その眼差し、その暖かさ その全てを失ってしまった。 なんて愚かな。
目を開けるのが怖い。 瘴気の毒で 黒く侵食された 明芽の屍を見たら気が狂ってしまう。
私が誰かを守ることなど出来無いのに 夢を見ていた。私でも人を愛することが出来ると・・。
私は人を殺める側の者だと言う 真実に目を瞑って 守ろうとしていたなんて・・。
嫌だ !
自分で、自分の愛する人を死に追いやるなんて。
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「あ゛ああああああ!!」
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