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9 呂の申し出
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「暗瞬様は、蒼の国に 行かれた事が ありますか?」
少しでも蒼の国の事が知りたいと思った明芽(ミンメイ)は、暗瞬(アンシュン)様に訪ねる。
すると、思いもよらぬ答えが 返ってきた。
「土地だけなら あるぞ」
「・・土地だけ?」
怪訝な顔で聞き返す。 一国分の土地が 15年間も放置されたまま 何て事があるの?
とっくに新しい国が出来ていても おかしくないのに・・。 何故 ?
「忌み地 とされて 今は誰も住んでいない。だが、お前が望むなら連れて行ってやるぞ」
(忌み地・・)
その言葉に 切なさと同時に納得もする。
ただ同然で土地を手に入れても 噂が消えなければ 誰も住みたがらない。
でも、 私にとっては故郷。
例え 忌み土地とだとしても 一度は訪ねたい。
「ありがとうございます。 では、お時間がある時に 連れて行ってください」
「・・・」
不意に暗瞬様が、真顔になる。 どうしたのかと思っていると 急に私を強く抱きしめる。
「暗瞬様?」
「逃げ遅れていたら お前も死んでいた。そう思うと 怖くて堪らない。 こうして巡り会うこと もなかったんだから」
呟かれた切実な思いに触れて 明芽は 自分も同じ気持ちだと 暗瞬様の背中に手を回す。
暗瞬様と出会えたのは 奇跡に違いない。
*****
暗瞬は、明芽からする 花の香りを嗅ぎながら、呂鉄千(ロ テッセン) のことを考えていた。
忠臣ならば、二人の元へ 一度は訪ねてきても可笑しくない。 しかし 山で気配を感じたことが無い。
そうなると 呂本人か どうかも疑わしい。
大勢の武官や文官を見てきたが、 呂からは小物の匂いしかしない。
その呂が、どうして 明芽に拘る?
貧しいくせに養うと言ったり・・。
国が滅んだ今 何の 義務がある。
国の再興? 紫水晶? どれもピンとこない。
何より 満の国の武官が ずっと明芽を探し続かる理由は何だ?明芽が、生きている事を知っていたのか?
(・・・)
明芽の周りには 不穏な空気が漂っている。
これは偶然か? それとも必然か?
呂を 脅せば簡単に吐くだろうが 、所詮あいつは使い捨ての駒だ。 大した情報は得られない。
やはり、答えは自分で探すしかないか・・。
しかし、 いくら待っても呂が、戻ってこない。
このまま呂を待つほうが いいのか?
それとも自分で確かめに行った方が いいのか?
それが問題だ。
暗瞬は、その場で行ったり来たりする。
明芽のことを考えると 心配で心配で1秒たりとも離れていられない。
しかし ・・明芽の身の安全を考えれば 真実を知るのは早いに越したことはない。
「暗瞬様。 何か気になることでもあるんですか?」
「あっ、・・否・・ 大した事では無い」
適当に誤魔化すと 明芽が両手を腰に当てながら詰めよってくる。
「言ってください!」
真剣な表情のせいか 、たれ目が少しつり目になっている。 それは、それで新鮮だが、これでは 話すまで開放してくれそうにない。
「 ちょっと・・ 行きたいところがあるんだが・・少し遠くて・・」
「 子供じゃないんですから 留守番ぐらい一人で出来ます」
「 しかし・・」
「 平気ですから、行ってください。 ここで、ちゃんと待ってますから」
行きたい気持ちは山々だが 明芽を見知らぬ土地の、 しかも見知らぬ男の家に 一人残して行くのは 落ち着かない。
「 だが ・・」
「私を信用しられないんですか?」
「 もちろん信じている。 信じてるけど・・」
「 もう!本当に大丈夫ですか」
「 でも・・」
明芽が私の背中を押して 外に追いやろうとグイグイ押す。
しばらく押し問答をした末 渋々出かけることにする。 暗瞬は、くるりと振り返って 明芽の両肩に手を置く。
「 分かった。 すぐ帰ってくるから 知らない人が訪ねてきても 戸を開けちゃだめだよ」
「ふふっ、 お父様みたいです 」
「おとっ」
(確かに年齢的には あるかもしれないけど・・)
明芽とのやり取りで 改めて歳の差を感じて、凹んでいると 明芽が私の手をとる。
「早く帰ってきてくださいね」
「うん’」
新婚の夫を送り出す妻のように 明芽が見上げてくる。 そんなクリクリした目で見つめられたら もう頷くしかない。
「分かった。 行って来るよ。 でも その前に」
「えっ?きゃっ」
「おまじないだよ」
「おまじない?」
嘘八百を 言いながら明芽を抱きしめると すっぽりと自分の腕の中に収める。
まるで私の腕の中で 飼っているようだ・・。
「そう、こうすると無事帰って来られるんだよ」
明芽の頭のてっぺんに 自分の顎を乗せて その小動物の癒しを堪能する。
(もう手遅れなのかもしれない ・・)
一度手にしたものを手放すのは難しい 。
一緒に居れば、居るほど 愛着が湧く。
明芽の温かさが 自分も包み込んでくれる。
このまま 身も心も温めて欲しい。ずっと・・ 。
そんなこと思っている自分の気持ちを 断ち切るように 暗瞬は明芽の背中をさするふりをして 護符を貼り付ける。
「じゃあ・・行ってくるよ」
「 いってらっしゃいませ」
笑顔で明芽に手を振られながら 暗瞬は出発する。
**呂の申し出**
暗瞬様と入れ替わりに 呂が40代半ばの男の人を連れて帰ってきた。 武人らしく 大きな体で、存在自体が怖く感じられる。
脅されたわけでもないのに 理由なく心が ざわついて仕方ない。
私に気づくとその男が 深々と頭を下げる。
**
卓を挟んで 明芽は緊張しながら呂の話を聞いていた。
「明芽様。 こちらは白(ハク)さ・・です。私と同じ蒼の国の武官をしていた者です」
「蒼の国の?」
「はい。そして、私と一緒に 蒼の国を再興したいと思っている同志です」
「 蒼の国の再興?」
突然の話に明芽は言葉がない。
身を乗り出して訴えてくる呂の顔は真剣そのもの。 本気で言ってるの?
「 そうです。 黄家の公主で あられる明芽様が 現れた今こそが その機会なのです」
「・・・」
しかし 、その熱意が明芽を冷静にさせる。
政の何たるかも 知らない私が 女帝になって国を治めるなど 到底 出来るとは思えない。
お母様も自分の出目について 何も言っていなかったし、 国の再興を望んでいたなら そう言っていたはずだ 。
明芽は 母との最期の姿を思い出す。
お母様が亡くなった時、その姿は 老婆のようだった。髪は 真っ白で 顔には 深いシワがあり、 背も曲がって 目も あまり見えていなかった。
42歳だと言っても 誰も信じないだろう。
それほど わずか10年で 変わり果てていた。
私が幼い頃のお母様は 美しく優しく笑っていた だが、病に伏してからは 私の心配ばかり。
『明芽。 この先 辛い決断をしなくては 、いけないことがあるでしょう。 でも 私の望みは、 あなたが愛する人を見つけて 幸せになること。だから 自分の気持ちを大切にすると約束して』
それが最期の言葉だった。
お母様は こうなることを予期していたの?
辛い決断とは これの事だったのだろうか?
今となっては知る由もない。
「 そんなことが簡単にできるんですか?」
「 大丈夫です。明芽様が王座に着けば、 散り散りバラバラになった 蒼の国の民達も 集まるはずです」
自信満々に言うが そんなに容易なこと?
彼らは 罪から逃れるために国を捨てた。戻ってくれば 自分の罪を認めたことになる。
「 そうでしょうか?」
「 私に、お任せください」
「 でも 、土地は更地になっていて 何もないと聞いています。 それをどうする気ですか?」
問題は、それだけではない。
忌地とはいえ 既に誰かが自分のものに しているはず。返してくれと言って 返してくれるものだろうか?
民が住むためには 家はもちろん ありとあらゆる工事をしないとイケない。そんなお金をどうやって 捻出するの? 私からすれば 呂の話は 寝物語のようなものだ。
私の質問に 呂が意気込んで返事をする 。
「そのことで、 是非 会って頂きたい方が います。 その方は 力も金も人も持っています。 その方に協力していただければ 万事うまくいきます」
「 ・・そんなに旨い話があるとは思えません」
明芽は 首を振って否定する。
いくら、世間知らずでも それくらいは分かる。
仮に、呂の話を信じれば その人物には一国を賄えるほどの 財があるらしい。 そんな大富豪と 一介の 兵士の呂が どこで知り合ったの?
「 この日の為に ずっと準備を進めていました。 ですから 明芽様は何も心配しなくて結構です」
明芽は 呂の 口ぶりが気に入らない。
前から計画してたと言っているが どうして実行するのが 今なの? 信の やり取りしていたんだから いつでも尋ねてこられたのに 。まるでお母様の死を待っていたように思える。
「 どなたなのですか その奇特な方は?」
「 それは会ってからの お楽しみです」
( 楽しみ?)
「私の知っている方ですか?」
呂 のもったいぶった物言いに ミンメイは眉をひそめる。 元蒼の国の貴族? それとも豪商?
でも、蒼の国のことは何一つ覚えていない。
コホン!
「その・・ですから・・」
白が咳払いをすると 呂が急に しどろもどろ になって しきりに後ろに座っている白の様子をうかがっている。 それを見て明芽は 本当の首謀者は 白かもしれないと勘ぐる。
だが 白は何も言わないで 私の顔だけを見ている。 私が女帝に、相応しいか見定めているの?
「 ・・少し考えさせてください」
このまま 呂達に押し切られるのは本意ではない。 それに 大事なことなので 簡単に結論を下すことは出来ない。 本音を言えば 呂達の話を聞いても 少しも心が動かされなかった。
それでも最後まで聞いたのは、国の再興のために 民が集結しているなら 話を聞くのが筋だと思ったからだ。
(正直 時間が欲しい・・)
昨日まで普通の娘だったのに 突然 帝の娘と言われて。 今度は国を再興するから 女帝になれと言われても 困惑するばかり 。
「分かりました。 大事な事なので よく考えて下さい 」
意外なことに 呂達があっさりと 引き下がると白と一緒に出て行く。
明芽は戸を少し開けて 並んで帰る二人の様子を伺う。
呂が白に向かってペコペコと頭を下げている。
やはり 、この話をお膳立てしたのは白で間違いない。 しかし、白は 最後まで言葉を発さなかった。 どうして?
二人の姿が完全に見えなくなると 明芽は肩の力を抜いて息を吐く。
( 早く暗瞬様に会いたい・・)
少しでも蒼の国の事が知りたいと思った明芽(ミンメイ)は、暗瞬(アンシュン)様に訪ねる。
すると、思いもよらぬ答えが 返ってきた。
「土地だけなら あるぞ」
「・・土地だけ?」
怪訝な顔で聞き返す。 一国分の土地が 15年間も放置されたまま 何て事があるの?
とっくに新しい国が出来ていても おかしくないのに・・。 何故 ?
「忌み地 とされて 今は誰も住んでいない。だが、お前が望むなら連れて行ってやるぞ」
(忌み地・・)
その言葉に 切なさと同時に納得もする。
ただ同然で土地を手に入れても 噂が消えなければ 誰も住みたがらない。
でも、 私にとっては故郷。
例え 忌み土地とだとしても 一度は訪ねたい。
「ありがとうございます。 では、お時間がある時に 連れて行ってください」
「・・・」
不意に暗瞬様が、真顔になる。 どうしたのかと思っていると 急に私を強く抱きしめる。
「暗瞬様?」
「逃げ遅れていたら お前も死んでいた。そう思うと 怖くて堪らない。 こうして巡り会うこと もなかったんだから」
呟かれた切実な思いに触れて 明芽は 自分も同じ気持ちだと 暗瞬様の背中に手を回す。
暗瞬様と出会えたのは 奇跡に違いない。
*****
暗瞬は、明芽からする 花の香りを嗅ぎながら、呂鉄千(ロ テッセン) のことを考えていた。
忠臣ならば、二人の元へ 一度は訪ねてきても可笑しくない。 しかし 山で気配を感じたことが無い。
そうなると 呂本人か どうかも疑わしい。
大勢の武官や文官を見てきたが、 呂からは小物の匂いしかしない。
その呂が、どうして 明芽に拘る?
貧しいくせに養うと言ったり・・。
国が滅んだ今 何の 義務がある。
国の再興? 紫水晶? どれもピンとこない。
何より 満の国の武官が ずっと明芽を探し続かる理由は何だ?明芽が、生きている事を知っていたのか?
(・・・)
明芽の周りには 不穏な空気が漂っている。
これは偶然か? それとも必然か?
呂を 脅せば簡単に吐くだろうが 、所詮あいつは使い捨ての駒だ。 大した情報は得られない。
やはり、答えは自分で探すしかないか・・。
しかし、 いくら待っても呂が、戻ってこない。
このまま呂を待つほうが いいのか?
それとも自分で確かめに行った方が いいのか?
それが問題だ。
暗瞬は、その場で行ったり来たりする。
明芽のことを考えると 心配で心配で1秒たりとも離れていられない。
しかし ・・明芽の身の安全を考えれば 真実を知るのは早いに越したことはない。
「暗瞬様。 何か気になることでもあるんですか?」
「あっ、・・否・・ 大した事では無い」
適当に誤魔化すと 明芽が両手を腰に当てながら詰めよってくる。
「言ってください!」
真剣な表情のせいか 、たれ目が少しつり目になっている。 それは、それで新鮮だが、これでは 話すまで開放してくれそうにない。
「 ちょっと・・ 行きたいところがあるんだが・・少し遠くて・・」
「 子供じゃないんですから 留守番ぐらい一人で出来ます」
「 しかし・・」
「 平気ですから、行ってください。 ここで、ちゃんと待ってますから」
行きたい気持ちは山々だが 明芽を見知らぬ土地の、 しかも見知らぬ男の家に 一人残して行くのは 落ち着かない。
「 だが ・・」
「私を信用しられないんですか?」
「 もちろん信じている。 信じてるけど・・」
「 もう!本当に大丈夫ですか」
「 でも・・」
明芽が私の背中を押して 外に追いやろうとグイグイ押す。
しばらく押し問答をした末 渋々出かけることにする。 暗瞬は、くるりと振り返って 明芽の両肩に手を置く。
「 分かった。 すぐ帰ってくるから 知らない人が訪ねてきても 戸を開けちゃだめだよ」
「ふふっ、 お父様みたいです 」
「おとっ」
(確かに年齢的には あるかもしれないけど・・)
明芽とのやり取りで 改めて歳の差を感じて、凹んでいると 明芽が私の手をとる。
「早く帰ってきてくださいね」
「うん’」
新婚の夫を送り出す妻のように 明芽が見上げてくる。 そんなクリクリした目で見つめられたら もう頷くしかない。
「分かった。 行って来るよ。 でも その前に」
「えっ?きゃっ」
「おまじないだよ」
「おまじない?」
嘘八百を 言いながら明芽を抱きしめると すっぽりと自分の腕の中に収める。
まるで私の腕の中で 飼っているようだ・・。
「そう、こうすると無事帰って来られるんだよ」
明芽の頭のてっぺんに 自分の顎を乗せて その小動物の癒しを堪能する。
(もう手遅れなのかもしれない ・・)
一度手にしたものを手放すのは難しい 。
一緒に居れば、居るほど 愛着が湧く。
明芽の温かさが 自分も包み込んでくれる。
このまま 身も心も温めて欲しい。ずっと・・ 。
そんなこと思っている自分の気持ちを 断ち切るように 暗瞬は明芽の背中をさするふりをして 護符を貼り付ける。
「じゃあ・・行ってくるよ」
「 いってらっしゃいませ」
笑顔で明芽に手を振られながら 暗瞬は出発する。
**呂の申し出**
暗瞬様と入れ替わりに 呂が40代半ばの男の人を連れて帰ってきた。 武人らしく 大きな体で、存在自体が怖く感じられる。
脅されたわけでもないのに 理由なく心が ざわついて仕方ない。
私に気づくとその男が 深々と頭を下げる。
**
卓を挟んで 明芽は緊張しながら呂の話を聞いていた。
「明芽様。 こちらは白(ハク)さ・・です。私と同じ蒼の国の武官をしていた者です」
「蒼の国の?」
「はい。そして、私と一緒に 蒼の国を再興したいと思っている同志です」
「 蒼の国の再興?」
突然の話に明芽は言葉がない。
身を乗り出して訴えてくる呂の顔は真剣そのもの。 本気で言ってるの?
「 そうです。 黄家の公主で あられる明芽様が 現れた今こそが その機会なのです」
「・・・」
しかし 、その熱意が明芽を冷静にさせる。
政の何たるかも 知らない私が 女帝になって国を治めるなど 到底 出来るとは思えない。
お母様も自分の出目について 何も言っていなかったし、 国の再興を望んでいたなら そう言っていたはずだ 。
明芽は 母との最期の姿を思い出す。
お母様が亡くなった時、その姿は 老婆のようだった。髪は 真っ白で 顔には 深いシワがあり、 背も曲がって 目も あまり見えていなかった。
42歳だと言っても 誰も信じないだろう。
それほど わずか10年で 変わり果てていた。
私が幼い頃のお母様は 美しく優しく笑っていた だが、病に伏してからは 私の心配ばかり。
『明芽。 この先 辛い決断をしなくては 、いけないことがあるでしょう。 でも 私の望みは、 あなたが愛する人を見つけて 幸せになること。だから 自分の気持ちを大切にすると約束して』
それが最期の言葉だった。
お母様は こうなることを予期していたの?
辛い決断とは これの事だったのだろうか?
今となっては知る由もない。
「 そんなことが簡単にできるんですか?」
「 大丈夫です。明芽様が王座に着けば、 散り散りバラバラになった 蒼の国の民達も 集まるはずです」
自信満々に言うが そんなに容易なこと?
彼らは 罪から逃れるために国を捨てた。戻ってくれば 自分の罪を認めたことになる。
「 そうでしょうか?」
「 私に、お任せください」
「 でも 、土地は更地になっていて 何もないと聞いています。 それをどうする気ですか?」
問題は、それだけではない。
忌地とはいえ 既に誰かが自分のものに しているはず。返してくれと言って 返してくれるものだろうか?
民が住むためには 家はもちろん ありとあらゆる工事をしないとイケない。そんなお金をどうやって 捻出するの? 私からすれば 呂の話は 寝物語のようなものだ。
私の質問に 呂が意気込んで返事をする 。
「そのことで、 是非 会って頂きたい方が います。 その方は 力も金も人も持っています。 その方に協力していただければ 万事うまくいきます」
「 ・・そんなに旨い話があるとは思えません」
明芽は 首を振って否定する。
いくら、世間知らずでも それくらいは分かる。
仮に、呂の話を信じれば その人物には一国を賄えるほどの 財があるらしい。 そんな大富豪と 一介の 兵士の呂が どこで知り合ったの?
「 この日の為に ずっと準備を進めていました。 ですから 明芽様は何も心配しなくて結構です」
明芽は 呂の 口ぶりが気に入らない。
前から計画してたと言っているが どうして実行するのが 今なの? 信の やり取りしていたんだから いつでも尋ねてこられたのに 。まるでお母様の死を待っていたように思える。
「 どなたなのですか その奇特な方は?」
「 それは会ってからの お楽しみです」
( 楽しみ?)
「私の知っている方ですか?」
呂 のもったいぶった物言いに ミンメイは眉をひそめる。 元蒼の国の貴族? それとも豪商?
でも、蒼の国のことは何一つ覚えていない。
コホン!
「その・・ですから・・」
白が咳払いをすると 呂が急に しどろもどろ になって しきりに後ろに座っている白の様子をうかがっている。 それを見て明芽は 本当の首謀者は 白かもしれないと勘ぐる。
だが 白は何も言わないで 私の顔だけを見ている。 私が女帝に、相応しいか見定めているの?
「 ・・少し考えさせてください」
このまま 呂達に押し切られるのは本意ではない。 それに 大事なことなので 簡単に結論を下すことは出来ない。 本音を言えば 呂達の話を聞いても 少しも心が動かされなかった。
それでも最後まで聞いたのは、国の再興のために 民が集結しているなら 話を聞くのが筋だと思ったからだ。
(正直 時間が欲しい・・)
昨日まで普通の娘だったのに 突然 帝の娘と言われて。 今度は国を再興するから 女帝になれと言われても 困惑するばかり 。
「分かりました。 大事な事なので よく考えて下さい 」
意外なことに 呂達があっさりと 引き下がると白と一緒に出て行く。
明芽は戸を少し開けて 並んで帰る二人の様子を伺う。
呂が白に向かってペコペコと頭を下げている。
やはり 、この話をお膳立てしたのは白で間違いない。 しかし、白は 最後まで言葉を発さなかった。 どうして?
二人の姿が完全に見えなくなると 明芽は肩の力を抜いて息を吐く。
( 早く暗瞬様に会いたい・・)
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