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婚約パーティー 残り25日

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アランは王宮にある執務室で不満げに議事録を書いていると 入り口に人の気配を感じて顔を上げる。

 戸口に立っていたのは赤毛でガタイのいいキャメロン男爵だ。 誰か探しているようで、辺りをキョロキョロと見回している。
 すぐにその探している人物が思い当たる。
 アランは議事録を書くのをやめて憐れみの目で男爵を見る。
伯爵たちに、いいように利用されているからだ。 

下級貴族である男爵は議会での権限が無い。
だから、自分の考えた事業計画を上級貴族である伯爵達に頼んで提出してもらっている。
しかし、その案件が男爵の物だとは言う事は報告された ことは一度もない。
 手柄を横取りされたばかりなのに 諦めないとは
愚かしい限りだ。
私だったらもっと別の手段をとる。

目障りだ。とっとと帰ってもらおうとアランは自分から声をかける。
「会議は、終わりました」
「そうか。それで、どうなった。私の案件は、通過したか?」
 嬉々として聞きに来る男爵の姿に呆れる
(懲りない男だ)
男爵にとっては残念な結果だが伝える。 現実は変わらないんだから、知るなら早い方がいい。
「 ヘルマン伯爵の案件と いうことで通りました」
「なっ」
 男爵が絶句する。
馬鹿なのか、人が良いのか・・。いつか、誰かが自分の言うことを聞いてくれると信じている。 
おめでたい人だ。

男爵の考える事業計画は、よくできている。
 目の付け所が良い。財力もあるし、人望もある 。しかし、 有能でも認められない。
それが、この世の中だ。
私だって父親が優秀なら、こんな書記風情の仕事などしていない。 実力主義の世界なら、よかった。そしたら、古狸たちを一掃できる。
「 残念です」
「いや・・いいんだ」
そう思って 見送ろうとしたが、一計が浮かぶ。
それに、今回は運が良い。
横取りしたのが、あのボンクラのヘルマン伯爵だ。 親が伯爵なら、どんな出来損ないでも伯爵になれる。世襲制度の悪い所だ 。だが、その家が繁栄するか 没落するかは 本人の力量次第。

今回も裏切られたと 肩を落として出て行こうとする伯爵を 呼び止める。
「 キャメロン男爵」
 男爵が 元気無く振り返り。
私もヘルマン伯爵は好きではない。
王族の血が入っている事を何かにつけて自慢するし、 貧乏貴族だと私を見下す態度にも腹が立つ。当の本人には、ただの太った豚だ。
 これはヘルマン伯爵を懲らしめるいいチャンスだ。
 男爵にヒントを提示しよう。 そうすれば自分の手を汚さずに憂さ晴らしができる。
「ヘルマン伯爵が、提出していますので、こ・れ・か・ら・先・も・へルマン伯爵主導になります」
「・・・」
 何を言っているんだと 男爵が 怪訝そうな顔になる。 しかし、私の意図が伝わるとニヤリと笑う。

 議会に出入りしている者なら、ヘルマン伯爵のことは、よく理解している。どんな性格で、どんなに頭が悪いか。
 事業計画が議会を通ったとしても まだ、草案の状態。 無能なヘルマン伯爵が、その先を詰めるのは無理だ。 そうなれば男爵に頼らざる おえなくなる。ないがしろにしたら、どうなるか分かわかるなと、他の伯爵たちにも 自分の存在を認めさせる良い機会になるだろう。
 お灸をすえるなり、好きにすればいい。
「 君、名前は?」
「 アラン・ラングフォードです」
 男爵に名前を聞かれて、アランは素直に教える。
 たとえ下級貴族でも『貸し』を作るのは良い事だ。男爵が頷くと 軽く手を挙げて去っていく。

1人になったらアランは、仕事に戻る。
 ヘルマン伯爵のことだ。男爵に脅されるなどプライドが許さない。 だから、自分で何とかしようとする。しかし、 自分で考えた事では無いから書類に書いてないことを聞かれたら、へルマン伯爵が どう言い訳するか楽しみだ。
支離滅裂なことを言って恥をかくだろう。 その姿を想像すると、つまらない仕事も苦にならない。

 結局、別の伯爵が後を引き継ぐことになる。
それはヘルマン伯爵が失脚することを意味する。
 そうなったら清々する。
無能な者は、議会に必要ない。
( いい気味だ)
 アランは続きを書きながら薄く笑う。

*** 残り26日

アランは、婚約パーティーに出すワインの試飲に来ていた。 小さなクラッカーの上に乗ったキャビアを食べてから、ワインを飲む。 口の中に二つの味が混ざり合って 美味しさを引き立てあう。
やはり、こちらのワインの方が美味しい。
 値段は少々 はるが、その価値はある。
「 こちらをもらおう」
「ありがとうございます、では、ご用意させていただきます」
 会計しようと店員の後ろ歩きながら、明日の婚約パーティーに手抜かりが無いかと、確かめる。
 料理も花も手配してある。 酒は今調達した。
リネン類はアイロンが かけられ、銀のカトラリーは今日中に全て磨き上げられるだろう。
 それと、シャーロットにドラマチックな二人の出会いを書いた手紙を渡した。

 シャーロットには 友人たちに、結婚相手も自力で見つけられなくて 政略結婚しようとしていると、思われるのが 癪だからだと伝えてある。
 つまらない見栄を張る私にシャーロットが、呆れているようだったが。 これも作戦だ。
口の軽い友人達に、シャーロットが 何かの拍子に 政略結婚だと言ったら、今までのことが水の泡になる 。だから口止めの意味もある。

 作戦が成功すれば 恋愛結婚だという お墨付きを 友人達からもらえる。 これで、婚約パーティーを無事乗り越えれば 枕を高くして寝れる。

*****

 マロニアは母に付き合わされて、来たくもないワインセラーに来ていた。今度会う貴族への手土産だそうだ。ワインに早々に興味を失ったマロニアは、 ふらふらと ワインセラー内を見て回っていると話声が聞こえる。
 私たち以外にも 客がいたのね。

 誰だろうと 棚の間から覗く。
あの人だ!
この前 劇場でチケットを譲ってくれたあの人が 店員と何か話をしているのが見える。
背が高くて、すらりとした体型。金髪に金色の瞳。 間違いない。どうして、此処に?
偶然の再会が嬉しくて一歩前に出ると、私の足音に気付いたのか あの人が振り返る。

 マロニアは手を挙げて合図を送る。
「こん」
しかし、私に気付かなかったのか店員と一緒にどこかへ歩いて行く。
「に・・・・ちは・・」
ゆっくりと手を下ろす。
目があった。そう思ったのに・・。
 自分の想像と違う展開に 悩む。

 どうして無視するの?もしかして覚えていない?チケットを譲ってくれたでしょ? ハンカチを貸してくれたでしょ? そんな私には印象に残らない?
(・・・)
 相手も私との再会を待ち望んでいると思っていたのに・・。 縁が なかったんだ。諦めよう。
そう思ったが、ハンカチのこと思い出す。 
そうだ。 諦めるのは早い。まだ縁が、切れてはいない。
 無視されたと決まったわけじゃない。
 ここは、薄暗いから 気づかなかっただけだ。

ハンカチを口実に、話しかければいいんだ。 そう思って追いかけようとしたが、ハッとして途中で自分の服を見る。
 去年流行したドレスだ。母とのお出かけだから手抜きをしてしまった。 髪型も決まっていない。
女優として少しは名が知られているのに、こんな格好見せられない。
 残念だけど、次の機会にしよう。
 逃げ腰になっている自分をごまかす。
完全武装でないと本当に無視されそうで怖い。
 それに、一目惚れさせるくらい一番綺麗な私を見てほしい。乙女のつまらない見栄だ。

 きっと、もう一度会えるわ。
そう自分を勇気づけると母の元へ向かう。

 ***残り25日

アランは最後の招待客を部屋に案内する。
ぐるりと見回す。両親と親戚たちは暖炉の前で、おしゃべり、友人達は木陰でタバコを吸っている。

婚約パーティーと言っても 親戚や友人たちを招いた 、こじんまりとした食事会だ。
ようは、シャーロットと私が 本当に恋愛結婚すると思わせるためのパフォーマンスだ。
そして、ここにいる全員に証人になってもらおう。 
 利用できるものは最大に利用する 。もし、友人たちが、起こっても酒でも 奢れば許してくれるだろう。

 シャーロットに指輪を贈ってから、5日後に婚約パーティーにしたのも適当に決めたわけではない。 ちゃんと理由がある。
あまり早いと、私との婚約のショック状態で 感情のない 人形みたいでは困るし、 逆に遅すぎると  やけっぱちになって、とんでもないことをしでかしそうだ。 だから、シャーロットの性格を考えて、どう行動するか計算してみた。

シャーロットのことだ。私との婚約にショックで落ち込んでも、 絶対反撃しようとしてくるはず。 それこそ、こちらとしては願ってもないチャンスだ。
私たちを出し抜く為に計画を練っているはず。
その計画を成功させるためには、私たちに気取られては困る。 だから『私は諦めました』『言う通りにします』と、 従順なふりをして 私たちを油断させようするから、私が何を言っても調子を合わせる。まさに、私にとってはグッドタイミングだ。

「 アラン様。グラハム伯爵様たちが いらっしゃいました」
「わかった。案内してくれ」
小間使いに、指示するとアランは出席者に声をかける。
「 皆さん。席についてください」

グラハム伯爵の到着の知らせに幕は切って落とされた。
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