上 下
34 / 46

姉妹

しおりを挟む
 クロエは 母様が 最初から記憶があったのに嘘、をついていたことを知って驚いた。だけどそれは、姉によるモラハラが原因だった。だから、父様に言っても 見当違いだと取り合ってくれないと諦めて、口をつぐんでいたんだ。
事実、父様は 義理の姉が妻になり変わろうとしたと言う話を認めなかった。妻より、義理の姉の話を信じたんだ。

 そのことに傷ついた母様が部屋を出と行こうとしてることに気づいた。引き止めようとした時、 急に
ネイサンが 証人がいると言って 皆 驚かせた。


「いいえ、本当のことです。証人 承だっています」
母様が驚いたように振り返って、ネイサンを見つめる。 すると、ネイサンが母様に向かって かすかに頷く。
「メイドのエマが夫人が持って来たお茶を飲んだそうです」
「えっ?」

(あっ……そう言えば、言っていた)
伯母が眉をひそめる。それもそのはず。伯母の知らないところで起きたことだ。私も思い出した。
「高級茶だと言っていたので、興味があったようです」
驚いている伯母の前でネイサンが肩を竦める。
褒められた行為ではないが、今回ばかりは ありがたかった。
「忘れたの? あの日。高いお茶だからと、散々自慢したでしょ」

「夫人と同じ頃、眠りこけるエマを他のメイドが見ています」
「それに、自分で淹れると言ってメイドを下がらせたわ」
母様が思い出させようと、当日のことを話した。すると、伯母の顔色がサッと変わる。
言い逃れ出来ない証人が出て来たんだから そうなる。
「ぐぐっ」
音が聞こえるほど歯ぎしりして悔しがる伯母の姿に、ゾクリと背中に冷たい物が流れる。
「まさか、お姉様が私に酷い事をするとは思わなかったから何一つ警戒せずに飲んだわ。……まさか、そんことを考えていたなんて……」
瞳を伏せる母様に、伯母が今にも襲いかかりそうな顔で体を震わせる。伯母のその形相に父様も、これが本当にあったことだと受け入れてくれたようだ。
「私は妻である キャサリンの言葉を信じます」
「あなた……」
母様が自分を信じてくれたことに嬉しそうにお父様を見上げる。
「疑ってすまなかった」
「ううん。良いの。 あなたの気持ちもわかるから」
「辛かっただろう」
その言葉に 母様が唇を震わせる。 そんな母様を大事そうに、父様が
抱き締める。寄り添い合う二人の姿に嬉しくなって 笑みが浮かぶ。こうでなくちゃ。


「これで答えは出ましたね」
ネイサンが、そう言って伯母を見る。そうだ。これで、伯母を助けようとする者は誰もいなくなった。もう逃げられない。
ネイサンの隣に立つと、これで終わった頷くと、ネイサンも頷いた。 これでいつもの日常が戻ってくる。しかし、伯母が私たちに向かって、ケッと唾を吐く。
もはや、マナーもない。伯母の恨みの深さが現れている。

 正体を現した伯母は、正真正銘の犯罪者だ。
「はっ、何を言っているの? この出来損ないのどこが良いの? 頭だって、見た目だって、私の方が上なのよ」
怒りで火照ってた顔で、母様を顎でしゃくる。
「それを妻だからと信じる? 馬鹿らしい。貴男がそこまで愚か者だとは思わなかったわ」
そう言う伯母の眉が釣りあがり、目は血走り、激昂するその顔は、とても人の顔には思えない。
人の底に潜んでいるどす黒いモノが現れていた。

「どう足掻いても 罪は免れません」
しかし、そんな伯母に対しても ネイサンは冷静な態度で接する。 でも私は無理だ。悪意にさらされて体が強張る。
ギロリと伯母が母様を見た。その視線から守るように、父様が母様の前に出る。すると今度は、私を睨みつけて来た。すると、父様が私たちを守ろうと両腕を広げる。
それでも恐ろしさはなくならない。クロエは怖いと母様と取り合う。
「観念して罪を認めて下さい」
「ああ、もう五月蝿い! 五月蝿い!」
ネイサンがそう言うと開きなおった伯母が、吐き捨てるように言う。そして、自分をぐるりと取り囲んでいる私たちを順番に 見据える。その視線には殺気が混じっていて、後ずさりしたくなる。だけど、誰も視線を外そうとはしなかった。 負けたくないという気持ちが勇気を与えてくれる。

 効き目がないとわかると、出てこようと伯母が身を乗り出す。パリパリと氷にヒビが入ってパラパラと欠片が落ちる。
大丈夫だろう。そう思っいても、
もしかしたらと考えてしまう。無意識に父様の服をつかむ。
「無駄です」
 ネイサン首を振って意味がないと伝える。 しかし、諦めの悪い伯母は 何度も体を動かして 必死にもがく。 それは私たちは 傍観していた。最後の悪足掻きだ。と知っているから。その証拠に それ以上は、ヒビは広がらなかった。無理だと悟ったのか、伯母が諦めたように大きな溜め息をつく。
「はぁ~。上手く行くはずだったのに、とんだ伏兵がいたわね」
そう言ってネイサンと私を見据える。



 私の計画は完璧だった。それなのに何処で間違えたの?
マーガレットは、あの日の事を思い返してみた。

 遅効制の眠り薬を滲みこませた 茶葉を使ってお茶を飲ませて、いったん家まで帰ってアリバイ作りをした。御者の格好をして、人目を引かないように 馬車の家紋を黒く塗り潰した。
そうやって戻って来た時には 妹は鏡台の前で、うたた寝していた。
それを見て片方の口角だけで笑う。相変わらず単純で騙され易い。妹をベッドに寝かせると、邪魔な家具を部屋の隅に押しやって昨日の夜作っておいた。魔法陣の描かれた布を広げて魔法石にヒビを入れた。
双子石をポケットから取り出して一つを妹にもう一つを自分の胸に置いた。
(そうだ。手順に間違いは無かった)

 魔法陣が光り、双子石が、じわじわと温かくなってきた。
全てが順調だった。
明日の朝になれば私はキャサリンになっている。
妹を不幸に出来るかと思うと笑みが浮かぶ。 私が本物だと涙ながらに訴える 妹。それを相手にしない夫。絶望の表情を浮かべる 妹の顔が見れる。
(ああ楽しみだ)
期待に胸を躍らせてゆっくりと目を閉じた。

 成功するはずだった。するはずだったのに……。
急に心臓を貫かれたような痛みに、のた打ち回った。それからは全てが狂ってしまった。 全てを元通りするのに朝までかかってしまった。

 どうして、いつも、いつも、妹ばかり、幸せになるの?
それに引き換え 私は不幸ばかり。
私は長子として爵位を継ぐために厳しく育てられた。それに比べて妹はただ笑って遊びほうけていた。今迄の嫌な記憶が次々と思い浮かぶ。
ずっとそうだった。姉だからと多くのモノを 譲ってきた。 ただ 私の後に生まれただけなの 不公平だ。
「お姉様。……どうして、こんな事をするの? 私たち姉妹でしょ」
それなのに妹が無神経にその理由を聞いてくる。自分の胸に手を当てれば分かりそうなものなのに。
手を自分の胸の前で組んで、悲しそうな顔をして被害者面する。
そう言う可愛い子ぶりっこしてるところが、前々から気に入らなかった。その顔を見ると、傷つけたい、 惨めにしたい、 そんな気持ちが 胸の中にどんどん積もっていった。我慢も限界だ。

*****

 母様が伯母に向かってその理由を問う。しかし私は、そんなことして欲しくない。きっと、聞いても理解出来ない。
「母様……」
それを引っ張ってやめさせようとするけど、 母様はこちらを見ようともしない。 そのことが聞きたくて仕方なかったことなのだろう。
だけど、聞いても何一つ良い事は無い。お金の為に妹に、なり代わろうとして、失敗したら、今度は
口封じの為に殺そうとした。
そんな思考の人間だもの、
私たちと同じ考えなんかじゃない。犯罪者の心理など共感できるものとは思えない。
「どうして? だったら教えてあげる」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

処理中です...