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第7話:お湯をかけて3分待つ(2)

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「まったくお前は何やってるんだ。こんな所でブリザードを使うなんて」

「その方が早く冷えるって思ったんだもん。それより早く身体も溶かしてよ、ご主人!」

 そう言う彼女の顔は、まだゾンビとスケルトンの間をさまよっているが……あえて言う必要もないだろう。

 しばらくすると、身体はゾンビとして完全に元通りになった。

「これにこりたら、魔法を詠唱する前に俺にひと声かけてくれ。どうにもお前は行動が早すぎる。一呼吸おいてみろ」

 膨れづらの彼女を近くで見る。
 ふとゾンビ特有の臭いがしなくなっていることに気がついた。

 もしかして……と、スライスしてあったキノコを見る。
 あれが臭い消しとなったのだろうか?
 人間なら即死するキノコで消臭するなど考えもしないので、そういう効能があるとは知らなかった。
 不幸中の幸いとは、この事だ。

「さあ、ご主人。いい具合に身体も冷えたし、手もくっついたし、マルス村へ急ぎましょ。早く行って先回りしなきゃ!」

 「早く、早く」と言い続けているエリスにため息がこぼれる。
 一体誰のせいで遅くなったと思っているんだ。

「待て。マルス村への最短ルートは途中で砂漠がある。このまま行けば、凍結はしなくとも干からびる可能性がある。だから……お前はこれを持っていけ」

 ゾンビは本来、術者の命令でちりになることはあっても、その体液のために干からびることは、ほとんどない。
 だが……勇者のゾンビは規格外だ。
 何が起こってもいいように、対処しておいたほうがいい。

 俺はさっきの湯を入れた容器に蓋をして、エリスに渡した。

「え? ご主人が持ってけばいいじゃない」

「俺は荷物持ちじゃない。それに、持てない事情もあるんだよ。他のはいくつか持ってやるから、それは任せた」

「まあ、そこまで重くないからいっか」

 途中で転んで毒キノコ入りの湯を浴びたら死んでしまう。
 ここは既に死んでいるエリスに持ってもらおう。

「では、出発するぞ! コーティングはまだ考え中だから、途中でコールドを何回か唱えていってくれ。少なくとも腐敗して、身体の一部が落ちることはないはずだ」

「りょうかーい」

「忘れ物はないか? 聖剣とロザリオは俺が持っているが、他に特別な持ち物などはないだろうな?」

 勇者専用装備なんかを置き忘れていたら洒落にならない。

「大丈夫。私は聖剣とロザリオさえあれば戦えるよ!」

 ……こいつ、今自分がゾンビであることを完全に忘れているな。
 まあいい、ここで問答していてもらちがあかない。
 出発するとしよう。

 俺は荷物袋を背負い、聖剣リガールを肩にかけ、ロザリオを首からさげた。
 聖剣が肩の肉を圧迫している。
 できれば、ここに捨てていきたい。

「頑張って持ってねー、聖剣リガールは重いけど、魔王を倒すときに絶対にいるから」

 じゃあ、魔王は一生倒せないじゃないか!?
 やはり、この勇者はどこか拔けている。

 森を抜けると、日差しがより強くなる。
 砂漠越えは難関になるぞ。
 あの辺りのモンスターは、ランク外の俺の手には負えない。
 勇者エリスなら楽勝なのだが……。

 俺は勇者を見る。
 肝心の彼女がコールドを暴発させているのを見ながら決意した。
 一応、戦う準備はしておこう。

 ただ、クリエイト・アンデッドは使いづらい場所だ。
 できればナイフか剣が欲しいところなのだが……。

 ……剣、か。

 目は自然と自分の肩へと向いていた。
 試しに、この聖剣とやらを使ってみるか。
 
 暖かい日差しと、後ろから降り注ぐ氷の雨を浴びながら、俺はそんな馬鹿げたことを考えていた。
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