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第三章
第三章 ⑥
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「さて。浮葉町へ行くことは可能だとわかったね。だから、この話はいったん置いておこう」ジャックが言った。「それよりも、もう少し俺たちのことを話しておかなければならない。今までは俺たち個々のプロフを概略的に話したんだけど、もっと重要なことがある。それは、最初に花江ちゃんが尋ねたことと密接な関係があるんだ」
「花江が尋ねたことって、第一グループのみなさんが、なぜここへ来たかってこと?」信良が言った。
「そう。実は俺たち五人は、この病院の患者だったんだよ」
これには僕も驚いた。冴子や信良、花江も驚いているようで、口をぽかんと開けたままジャックを見つめている。
「大切な部分だけをかいつまんで話そう。俺たちには共通点があるんだ。それは、記憶の一部が抜け落ちているってこと。つまり、記憶喪失だってことさ」
「記憶喪失、ですか?」僕はジャックの言葉を繰り返した。
「そうだ。みんな、ある一時期の記憶がないんだ。昔から今まで同じように生活してきたし、自分の周りの環境は、なにひとつ変わっていないはずなんだ。他のみんなだって同じだと思う」
第一グループの面々がうなずく。
「それなのに、ある特定の時期の記憶がない。特定の時期というのは人によって違うんだが、その時期に何をしていたか、まったく思い出せないんだよ」
「特定の時期って、どのくらいの期間なんですか? 三年とか、五年とか?」
「いや、たいした期間じゃない。せいぜい半年くらいのものだろう。他のみんなもそのくらいだと言っている」
「へえ、そうなんですか。それで、みんなこの病院に入っていたんですか?」
「そうだ。浮葉町と落葉町がまだ一つの町で双葉町という名前だった頃、両方の町から俺たちのような患者が集まってきていたんだ。町が二つに分かれてしまってからは、それぞれの町に専門の病院や診療所、あるいは専門機関などができたため、ここは廃止されてしまった。俺たちも今は浮葉町にある診療所の世話になっているが、ときどき散歩がてら、こうしてここまでやってくるのさ。そうすることによってなにか思い出すかもしれないと思ってね」
「今のところは、なんの進展もないがね」お絹さんが自嘲めいた笑いを浮かべた。
「俺たちのいる診療所は、俺たちのような患者をグループ分けしているんだ。全部で四つのグループがあるんだが、俺たちが第一グループってわけだ」
「いい加減にしさないよ、ジャック」リリィがふん、と鼻を鳴らした。「第一、第一、って。本当はグループごとに呼び名が付けられているでしょ。正式名称を使ったらどうなの?」
「いいや、それだけは勘弁してもらいたい」ジャックが眉をひそめる。
「正式な呼び名って、なんですか?」僕は尋ねる。
「ちくしょうめが」ジャックが歯を剥いた。へえ。彼のそんな表情は初めて見た。
「院長のやつ、焼き肉が大好物らしくてな、あろうことか、俺たち患者のグループに、肉の名前を付けやがった。ほら、タンとかカルビとかハラミとかあるだろ?」
「その中に、第一グループの名前があるんですか?」
「いや、ない。俺たちのグループ名は『生ハム』だ」
は? それのどこが焼き肉だ。
「花江が尋ねたことって、第一グループのみなさんが、なぜここへ来たかってこと?」信良が言った。
「そう。実は俺たち五人は、この病院の患者だったんだよ」
これには僕も驚いた。冴子や信良、花江も驚いているようで、口をぽかんと開けたままジャックを見つめている。
「大切な部分だけをかいつまんで話そう。俺たちには共通点があるんだ。それは、記憶の一部が抜け落ちているってこと。つまり、記憶喪失だってことさ」
「記憶喪失、ですか?」僕はジャックの言葉を繰り返した。
「そうだ。みんな、ある一時期の記憶がないんだ。昔から今まで同じように生活してきたし、自分の周りの環境は、なにひとつ変わっていないはずなんだ。他のみんなだって同じだと思う」
第一グループの面々がうなずく。
「それなのに、ある特定の時期の記憶がない。特定の時期というのは人によって違うんだが、その時期に何をしていたか、まったく思い出せないんだよ」
「特定の時期って、どのくらいの期間なんですか? 三年とか、五年とか?」
「いや、たいした期間じゃない。せいぜい半年くらいのものだろう。他のみんなもそのくらいだと言っている」
「へえ、そうなんですか。それで、みんなこの病院に入っていたんですか?」
「そうだ。浮葉町と落葉町がまだ一つの町で双葉町という名前だった頃、両方の町から俺たちのような患者が集まってきていたんだ。町が二つに分かれてしまってからは、それぞれの町に専門の病院や診療所、あるいは専門機関などができたため、ここは廃止されてしまった。俺たちも今は浮葉町にある診療所の世話になっているが、ときどき散歩がてら、こうしてここまでやってくるのさ。そうすることによってなにか思い出すかもしれないと思ってね」
「今のところは、なんの進展もないがね」お絹さんが自嘲めいた笑いを浮かべた。
「俺たちのいる診療所は、俺たちのような患者をグループ分けしているんだ。全部で四つのグループがあるんだが、俺たちが第一グループってわけだ」
「いい加減にしさないよ、ジャック」リリィがふん、と鼻を鳴らした。「第一、第一、って。本当はグループごとに呼び名が付けられているでしょ。正式名称を使ったらどうなの?」
「いいや、それだけは勘弁してもらいたい」ジャックが眉をひそめる。
「正式な呼び名って、なんですか?」僕は尋ねる。
「ちくしょうめが」ジャックが歯を剥いた。へえ。彼のそんな表情は初めて見た。
「院長のやつ、焼き肉が大好物らしくてな、あろうことか、俺たち患者のグループに、肉の名前を付けやがった。ほら、タンとかカルビとかハラミとかあるだろ?」
「その中に、第一グループの名前があるんですか?」
「いや、ない。俺たちのグループ名は『生ハム』だ」
は? それのどこが焼き肉だ。
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