ダイヴのある風景

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第三章

第三章 ⑤

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「お互いが自己紹介をしたので、よおくわかりましたあ」花江がまた右手を上げる。「でもお、わからないことはまだありまあす。第一グループのみなさんは、どうしてここにきたのですかあ? あたしたちはあ、猫ばあさんの調査のためにここにきたんですよお」
「俺たちは、浮葉町の人間なのさ」ジャックが言った。「つまり、隣町からやってきたってことだ」
「隣町から? そんなに遠くからここへ?」信良が驚く。
「いや、そんなに遠くはないよ。最近、浮葉町へ来たことがあるかい?」
「いや、ないけど。幼い頃に、一度っきり」信良が首を振る。
「ああ、それなら間違いなく国道を通って来たんだと思うね。正規のルートでね」
「正規のルート?」僕は驚いた。「それ以外のルートがあるんですか?」
「そう。あるのさ。実は、この森を抜けていけば、浮葉町に出るんだよ。それが、この落葉町と浮葉町をつなぐ最短距離さ。ちょっと危ないルートだけどね」
「へえ。それは知らなかったな。つまり、あなたたちは、その正規でないルートを通って、ここへ来たってわけですね?」
「そういうことだ」
「ちょっと危ないルートと言いましたよね?」冴子が割って入る。
「それ、どういうことですか? 女でもだいじょうぶなんでしょう?」冴子はそう言いながら、リリィに目を向けた。
 その視線を受け止めたリリィが、煙を吐いた。「あたしが来れたのだから、たいした危険じゃない、って、あんた今考えたわね? それに、お絹さんもいることだし、って」
 冴子が口を開けようとするのを、リリィは煙草を持った手でさえぎる。「それだけじゃないのよね。あんたが一番知りたいのは、その危険なルートを、あんたが無事に通過できるか、ってことでしょ?」
 冴子が驚いた顔でリリィを見る。その表情は、すぐに微笑みに変わった。「ええ。そういうことです」
「お前、浮葉町へ行くつもりなのか?」信良が驚いて冴子を見る。「どうしてまた」
「まあまあ。話をすっ飛ばしちゃ困るねえ」ジャックが両手を上げて場を制する。「とにかく、話を戻そう。危険なルートっていうのは、別に野犬が出たり熊が出たりするわけじゃないよ。ましてや、恐竜なんて出るわけがない」
 そりゃ、出るわけないね。
「逃げたり戦ったりする危険なら、女性には無理だ。そんな動的な危険じゃなく、もっとおとなしい静的な危険だよ」ジャックがうなずく。「たとえば、途中にはキノコのたくさん生えている場所がある」
「あ、わかったぜ。毒キノコって言いたいんだろ?」信良が目を輝かせる。「そういう毒キノコに引っかからないようにってことだね。でも、毒キノコって、見た目に毒々しい色をしているから、すぐわかっちゃうんじゃない?」
「ノンノン」ジャックが人差し指を立てて振る。「そう思っているやつが多いけど、それは違うんだな。毒キノコのほとんどは、すごく地味な色をしているのさ。逆に美味いキノコでも、赤や黄色の派手な色をしているものもある。一概には言えないってことだ」
「ええ? そうなんですかあ? 花江は色で区別できるのかと思ってましたあ」
「あと、虫が食べているから安心だ、って言う人もいるが、毒キノコだって虫は食べちゃうからね。それも判断材料にはならない」
「じゃあ、それぞれのキノコについて個別の知識がないと危険だってこと?」
「そーゆーこと」
 でも、と僕。「そもそも、途中でキノコなんて食べなきゃいいだけの話では?」
 ジャックがじっと僕を見つめる。そして、にやりと笑った。「君はもっと心に余裕を持ったほうがいいね。そのほうが、人生を楽しめると思うよ。先輩からの助言だ」
 冴子が必死に笑いをこらえているのを横目で見ながら、僕は口を尖らせた。
「まあ、キノコはともかく」とジャックが僕たちを見回す。「道中には、折れた木が飛び出たところや草木で隠れた穴なんかもあってね。それを知ってりゃ、リリィやお絹さんのような女性でもだいじょうぶなんだけど、知らなきゃゾンビのような死に損ないでも危ない」
 ゾンビのおじさんが、包帯の間からフシューと空気を抜いた。軽い抗議のようにも聞こえる音だ。
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