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四代家綱の時代

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 先代の三代将軍家光に比べると一般的な知名度は大きく劣る四代家綱。
 理由は彼の在位中、国内を大きく揺るがす大事件などが極小であったからで
あろう。
 父の家光は彼自身の能力が高いというよりは、土井大炊利勝や松平信綱はじ
めとする重臣たちの支えと乳母の「春日局」の存在が大きかった。
 春日局の功績は「大奥の制度」を整備していったこと、女性よりも男色を好む
家光の性癖を巧みに見抜き、彼を中年期にしてようやく、上手い方法で女性に
開眼させて、直系の男子を三人残すことに成功させたことだ(春日局は生前に
第一子の家綱誕生は見届けている)。
 そのなかで成人まで育った、綱重(甲府藩主)、綱吉(館林藩主)の存在も
徳川宗家継承に大いに役立つことになる。
 家光が亡くなってすぐ「由比正雪の乱」が起きて世間を驚愕させる。
 この乱自体の計画性や実行力は甚だ軽率と言うか、実行しても成功する確率
は極めて低かったろうが、家光までに大名家を数多く改易した結果、浪人たち
の不平が肥大化していく傾向は幕府首脳部にも痛切に伝わり、以降「武断政治」
と呼ばれるものから「文治政治」に転換する契機にはなった。
 これも保科正之・松平信綱・阿部忠秋などの賢臣らが幼い家綱を支えたから
であろう。
 実際に、家光薨去の1651年春の時点で、戦国の生き残りと言える大名は
誰もおらず、伊達政宗・立花宗茂・細川忠興・黒田長政などといった名将・
猛将も既にこの世に無く、全て二世、三世の「戦国の世」を知らないお坊ちゃん
大名たちが家督を継いでいる。
 もはや幕府に戦で対峙して見ようという気概のある大名は皆無であった。
 生き残りの中では、気骨もあり、戦国の空気をギリギリ肌で覚えている加賀
の太守前田利常は、幕府の目につきやすい自分のキャラを自覚しており、
波風が立たぬように、わざと愚者を装うなどの努力すらしていた。
 さて、プライドの高い家光は、弟の駿河大納言忠長滅亡のあと、世間では
「将軍家」「尾張家」「紀州家」を持って「徳川御三家」と呼称する向きを
嫌って、幼い頃より唯一、仲の良かった叔父である頼房の「水戸家」の家名
を上げている。
 しかし江戸に近い水戸に領地を持つ「水戸家」に尾張や紀州のように50万石
60万石を与えるわけにはいかず、やはり家格的に水戸家は一段や二段は落ちる
とみなされるのが一般的であった。
 家綱の時代には、将軍家のご連枝ということで、綱重に甲府藩を、綱吉には
館林藩を立ち上げさせたので、これらが「尾張家」「紀州家」に並ぶかそれに
接近する家格とみなされており、御三家の定義は以前はっきりしない。
 しかし御三家も、由比正雪の乱に担がれたとされる頼宣はしばらく健在で
あったが、豪胆であり戦国大名な気質を持つ頼宣は以降幕閣から最も警戒
されたため、頼宣は
「このまま紀州藩の党首に自分が居座るのは得策でない」
と嫡男光貞に家督を継がせる。
 水戸家も家綱治世当初は頼房が健在だったが、1658年のいわゆる明暦の
大火(振袖火事)で水戸家の小石川の屋敷も燃えてしまい、復興に向けての
陣頭指揮で過労がたたり、間もなく逝去して二代目の光国(後の光圀)が
家督を継いでいる。
 家康の実子は去り、孫にあたる光友・光貞・光圀の御三家当主になり、
世代交代の感が強くなったのも家綱の時代であろう。
 なお、家光の娘・千代姫を正室にしている尾張光友は、その間に嫡男綱誠
(後の尾張家三代目藩主)が誕生したこと、家光と緊張関係にあった初代
義直も既にこの世の人でないことから家格は大いに上がって、この頃から
徳川宗家以外の御一門では「筆頭格」というイメージが確定した。

  家綱は目立ちこそしないが、良き家臣の言うことに傾け、先代三人の将軍
のような自我を主張こそしない温厚な性格であったが、保科正之や松平信綱
らが去ると大老酒井忠清に権限が集中する結果になる。
 この下馬将軍ともいわれた酒井忠清は家綱治世を初期はよく支えて、有名
な「伊達騒動」のメイン立役者の一人でもある。
 問題はこの家綱が跡継ぎのいないまま40歳で薨去したことだった(側室
に身ごもっていたと言われる子がいたらしいが・・・)

                          <完>
 
 
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