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第543話 風の谷
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あれから数日、レニエがパートナーになるという予想外の事は起こりましたが、王都の公衆浴場の改修は順調です。
ホーリーに案内され下見に来た時から思っていましたが、その元補給所と言われる石造りの建物は山間や木々が生い茂っているような場所ではなく小さな丘に囲まれていて、どこか古代ローマにありそうな建物でした。
建物の内部は都合よく大小いくつかホールに分けられており、バルトリア王国王都に作った公衆浴場のように外観にこだわることや大きな間取りの変更もほとんど必要なさそうです。
(このまま改修を進めると本当にテルマエ・ロマエになりそうだな…)
コンセプトを決めかねていましたがそのつもりで内部の装飾にこだわってみようと思います。
XX XY
コンコン、コン。
ガチャ…。
「ただいま~」
屋敷に帰ってくるとリビングに向かう前にルーシャの執務室に寄ってみます。
“誕生の儀”が近いメルモアに代わり、シエラも業務に復帰しています。
「シャルル様、お帰りなさいませ~」
『お帰りなさい、シャルル』
(エンジェルとシャーロットは寝ているのか…)
エンジェルとシャーロットは母乳を飲んだところらしく、ルーシャの執務室の隅にある小さなベッドで寝ています。
『久しぶりに“シャルル巻き”のお店の皆さんに会いましたが、あんなに変わっていただなんて驚きましたよ』
「シャルル様のおかげですね」
「きっかけは僕だとしても彼女達が頑張っているからだよ…」
この数日、夜はエマ達を順番にエルスタイン領都の屋敷へ招待し、セックスをしてあげました。
今回のセックスでエマとヒナが自然に受精したので、順番が最後だったパスチェもアイに頼んで受精させました。
パスチェは機会が合ったと大喜びでしたが、エマ達よりも年上ですし、あまりネンネ達から遅れると可哀想だと思ったのです。
ニト、ルカ、ジル、ケイ、キオは残念がっていましたが、屋敷の岩風呂に入りに来ても良いよと伝えると大喜びしていました。
「子供達を見てとても驚いていましたよ~」
『フフ…、抱かせてあげると慌てていましたね』
「ハハ…、そうだろうね」
子供は一日ごとに成長していくなぁ。
シエラとの子供であるシャーロットも顔立ちがしっかりしてきたように見えます。
「そろそろパートナーが集まれる場所も考えないとね…」
『そうね。屋敷に集まる人数が増えましたからね…』
「王都の公衆浴場が完成したら本格的に考えてみるよ」
元々今年中にパートナーが集まれる場所を作るつもりでしたし、それに遅かれ早かれ子供たちが増えて大きくなってくると寝所を分ける必要もあるのです。
当分はリビングから離れていない所に子供達をまとめておけるキッズルームみたいなのを作っておいても良さそうです。
「そうそうシャルル様、このシャツとっても便利ですよ~」
「ごめんね。もっと早く気付ければ良かったよ」
シエラ達は授乳の度にシャツを捲るか上半身裸になっていたようなので、授乳しやすい形を考えてクーシア達にシャツを作ってもらったのです。
男性下着の前開きと同じ要領で両乳首の辺りで縦にスリットを入れて普段は少しだけ布が重なるようにしてあり、スリットに指を掛けるだけで乳房がボロンッと現れるようになっています。
『胸を支えてくれる“すらいむ”も最高ですよ』
「ハハ…」
メンテールやルーシャは胸が大きいのでスリットを設けると乳圧で飛び出すんじゃないかと心配しましたが、普段はスライムが滲み出た母乳を吸収する為に胸に張り付いているので杞憂でした。
『でも、この間まで知らなかったのが残念ですけれどねっ!』
「受胎中に過剰な刺激はダメだから…(そんな事を言うなら…)」
僕はルーシャのスライムに【接続】し、“イケないモード”を発動させます。
『ひぅっ!? どうして…?』
「ルーシャ様…?」
「……」
シエラもしてあげようっと…。
(“イケないモード”!)
シエラのスライムにも【接続】して指示をします。
「うっくっ、こ…これって…!?」
子宮に入れている【触手】まで勝手に動いてる~っ!?
「二人ともどうしたの? エンジェルとシャーロットは僕が見ておくけれど…」
「『……っ!』」
僕が白々しくそう言うと二人は慌てて執務室から出て行きました。
自室に戻ったのでしょう。
「あっ、夕食前だった…」
フランに言って二人の夕食を夜食にしておいてもらわないと…。
XX XY
翌日、公衆浴場の作業をする前にリリアンの管轄する都市タイロンに転移し、そこから久しぶりに【飛行】を使って王領に入ってみることにします。
エルスタイン領都と王領の領界には南北に連なる長大な山脈があり、以前魔動力車で旅をした時に山々に沿った一本道を通りましたが、確かその時に大戦で無くなってしまった国や都市の他、未開地があるかもという話をしていたのを思い出し、空を飛んでみたら何か発見できるかなと思ったのです。
(ほとんど未開地だな…)
上空に上がってみると地平線は360度丸く続いていて、改めてローマン帝国は広大で、僕達が使っている大地は一部分でしかないのが分かります。
王領に入る前に少し領界に沿って北にあるカプランド領方向に飛んでみるか、それとも南のバルゼ方向に向かって飛んでみるか…。
(よし、まずは北に飛んでみようか!)
《マスター、向こうで山脈が分かれているようですよ》
小さくなって右肩に乗っているマオがそう伝えてきます。
《本当だね…。地上から見ていたら一連の山脈に見えるのか…》
そちらへ近づくほど、どうして気付かなかったんだというぐらいの土地が見えてきます。
既にタイロンから距離もあるし、道が無ければ行くことも気付くことも出来ないか…。
平地は少ないようですが森や砂地、丘陵地が見えてきます。
《ご主人様、都合が良いじゃないですか。ご主人様の領地にしましょうよ~》
今度は左肩に乗っているアイがそう言ってきます。
《そんな面倒な事は考えていないけれどね…》
僕としてはパートナー達が一堂に集える場所や建物があれば良いのです。
(シャルル島がもう一回り大きければなぁ)
現状は“カカオ”の自生地でもあるのでヴィラ以外に余計な建物は建てたくありません。
“カカオ”もどこかで増やせるように考えてもおかないとな…。
《かなり飛んで来たけれど想像以上に広いな…》
ご主人様(マスター)、あんな所に小さな山が!?
《えっ、あれって山なの…?》
確かに見た目は岩山のようですが上半分がなく真っ平らなのです。
頂上に降り立つと、アイとマオも元の大きさになって横に並び立ちます。
ルーシャの屋敷が二つ三つは余裕で入りそうなほどの広さです。
▲▲□□□□□□ ▲
▲滝□□湖□□□□ ▲
▲□□□□□□□ ▲
▲▲ ▲
▲ ■ ▲
▲ 今ココ ▲▲
▲▲ ▲
▲ ▲▲
▲ ▲
▲ ▲
▲ ▲
▲▲ N ▲▲
▲ 上 ▲
▲ ▲
▲ ▲
▲▲▲ ▲▲
▲ ▲
▲▲▲
【王領】 ▲▲▲【エルスタイン領】
▲▲▲
▲▲▲
これは盛土ではないな…。
明らかにこの場にあった岩山を人工的に平らにしてあるようです。
段々になっている箇所もあるし…。
(草花が見える部分は土が入れてあるのかな…)
どこかで見たような感じ…、そう、石積みではないけれど前世で見知った日本のお城の跡地のようなのです。
建物が建っていた痕跡も薄っすら感じられます。
「ご主人様、向こうに滝や湖も見られますよ」
「そうだね…」
ここから更に北の方を眺めると、アイの言うように大きな湖が見えます。
ここに来るまでに川も多かったので、山脈で挟まれている土地ゆえに水源は豊富そうです。
内陸なので海はありませんが、高い山々に挟まれている感じといい、雰囲気はあの“風の谷”のようにも思えます。
(うん、とっても綺麗な景色だ…)
グレイスの王領とは比較するまでもなくかなり小さいですが、この山脈で囲われた土地に都市をいくつか設けると立派な領になりそうです。
もしここに城みたいな物が建っていたとしたら、主要都市だったのかな…?
この辺りがこの土地の中心ぐらいなのかもしれません。
湖より北側はどんな風になっているか分かりませんが、パートナー達が集まる場所には打って付けだと言えるでしょう。
「マスター、どこかに出入口があったのでしょうか?」
「山脈に囲まれているからね。どこかにトンネルがあったんだよ…」
昔、トトの管轄するスローキにも長いトンネルを通って入った記憶があります。
おそらく大戦時に塞がれたか、もしかすると昔は山道がいくつかあったのかもしれません。
「大戦があったとしても滅びる事は無さそうですけれどね」
「何か問題があったのでしょうか…」
「……」
アイとマオの言いたいことも分かります。
ここにいた人々は今の王領やエルスタイン領に逃れたのでしょうか…?
XX XY
「そんな所があったのですか…」
「うん、まだ全部は調べていないけれどかつては国だったかもしれないね…」
あの後、王都の公衆浴場の作業をした後、おやつの時間に王城へ行って今朝見た土地についてグレイスに話しました。
ちょうどアーサーの授乳中で、グレイスに抱きかかえられながら一生懸命に母乳を吸っています。
もちろんグレイスにも授乳用の服を渡しています。
ホーリーは授乳中は席を外しているようです。
「まさかあの山脈の間にね~」
「王領内にもそれ以上の未開地があるんだよ」
【飛行】して分かったのですが、チェスカが管轄しているナンバスから続く町や村といっても既存の街道沿いの一部に過ぎないのです。
「大戦前はいくつも国や領があったそうですからね…」
「それで、僕があの土地を使ってみても良いかな…?」
「もちろん、発見者はシャルルなのですから…。ですが一応領としておいてくれませんか」
「ハハ…、もしかして僕が国として復活させると思っているの? 今のところ公にするつもりはないし、領名も必要無いからね」
ただ、いずれ“風の谷”と呼ばれるようになると嬉しいと思います。
いつかあの土地を継ぐ可能性のある子供にはナ○○カと名付けておこうかな…。
「それで話は変わるけれど、公衆浴場は案外早く完成しそうなんだ。従業員はどうするの?」
「従業員についてはシェリー様の考えを参考にさせていただこうと思っています」
「ただ、ドナさんのような支配人をどうするかですね…」
「グレイスに幼馴染みはいないの?」
「いない事も無いですが、シェリー様とドナさんほどの関係でもありませんし…」
「領民の為の公衆浴場だからドナのように一般の領民で街でも目立つような存在が良いね…」
「募集するにしても今からだと大事だよね~」
そう考えると本当に適任者だったと思います。
「う~ん、そうですねぇ~」
「じゃあ、とりあえず王城お抱えの治療院の女性にしてもらうというのはどう?」
いずれナースの役割をしてもらえると助かりますし、支配人は今後何かの催しで決めても面白いかもしれません。
「あ~、なるほど。シャルルと出会ってから健康すぎて存在をすっかり忘れていましたよ」
「でも、治療院の仕事ではなくなるからちゃんと説明してあげてね。無理やりはダメだよ」
「フフ…、もちろんです。セイラも私達を見れば反対にお願いしてくるでしょう」
「……」
セイラという女性なのか…。
次の機会に会える段取りをしておくそうです。
そして、その話のついでに王城の調理責任者と食材管理責任者を紹介してもらう事になりました。
シェリーの王城と同じで、ずいぶん前から来ているのに会ったことがありません。
「シャルル様、お待たせしました。こちらが調理責任者のアナ、もう一人が食材管理責任者のルゥです」
「あ…ありがとう、ホーリー」
覚えやすいけれど続けて言えないな…。
「シャルル様とお話しできて光栄です」
「ようやくシャルル様とお近づきになれましたよ~」
「これまで王城に滞在した時は美味しい食事をありがとう」
これまで王城ではホーリーとミレーヌが両脇を固めていたからなぁ。
アナお姉さんはミレーヌと同期だそうで、スレンダーで髪も短く見た目は格好良い男性に見えます。
その為、今着ている昔のメイド服が全く似合っていないのが残念です。
ルゥお姉さんはアナお姉さんより若いそうですが、女性らしい体型と少し癖のある長めの髪のせいで大人っぽい雰囲気です。
でも、口調は軽くて親しみやすい感じです。
「これからもよろしくね」
「「はいっ」」
「じゃあ二人には一度『シャルルの湯』に見学に行ってもらおうかな。それにチェルシーお姉さんとベラお姉さんにも紹介しておいた方が良さそうだね。知り合っておくと情報交換も出来るから…」
当然二人は何も聞かされていないので不思議そうな顔をしています。
「シャルル、せっかくですからフランさんに指導していただいて王城でも美味しい物が食べられるようにして下さい」
「グレイス様、酷いです。私の料理が美味しくないみたいじゃないですか…」
「そ、そういう訳じゃないのよ。でもルーシャ様のお屋敷でフランさんの料理を食べると…。これまで食べた事の無い料理ばかりですからね…」
「食べたことの無い料理…?(ゴクリ…)」
「それは食材管理責任者としても興味がありますよ~!」
「まぁ、この王都での『シャルルの湯』用に新しい料理も考えているからね。フランと試作して完成したらアナお姉さんにも覚えてもらわないといけないし…」
これ以上フランに負担を掛けさせたくないと思っていたので良い機会かもしれません。
「「それは楽しみです~」」
「「シャルル様が料理を…?」」
「じゃあグレイス、早速二人を連れて行くよ。二人ともメイド服は目立つから私服に着替えて玄関に集合ね!」
「「は…はい…」」
ホーリーに案内され下見に来た時から思っていましたが、その元補給所と言われる石造りの建物は山間や木々が生い茂っているような場所ではなく小さな丘に囲まれていて、どこか古代ローマにありそうな建物でした。
建物の内部は都合よく大小いくつかホールに分けられており、バルトリア王国王都に作った公衆浴場のように外観にこだわることや大きな間取りの変更もほとんど必要なさそうです。
(このまま改修を進めると本当にテルマエ・ロマエになりそうだな…)
コンセプトを決めかねていましたがそのつもりで内部の装飾にこだわってみようと思います。
XX XY
コンコン、コン。
ガチャ…。
「ただいま~」
屋敷に帰ってくるとリビングに向かう前にルーシャの執務室に寄ってみます。
“誕生の儀”が近いメルモアに代わり、シエラも業務に復帰しています。
「シャルル様、お帰りなさいませ~」
『お帰りなさい、シャルル』
(エンジェルとシャーロットは寝ているのか…)
エンジェルとシャーロットは母乳を飲んだところらしく、ルーシャの執務室の隅にある小さなベッドで寝ています。
『久しぶりに“シャルル巻き”のお店の皆さんに会いましたが、あんなに変わっていただなんて驚きましたよ』
「シャルル様のおかげですね」
「きっかけは僕だとしても彼女達が頑張っているからだよ…」
この数日、夜はエマ達を順番にエルスタイン領都の屋敷へ招待し、セックスをしてあげました。
今回のセックスでエマとヒナが自然に受精したので、順番が最後だったパスチェもアイに頼んで受精させました。
パスチェは機会が合ったと大喜びでしたが、エマ達よりも年上ですし、あまりネンネ達から遅れると可哀想だと思ったのです。
ニト、ルカ、ジル、ケイ、キオは残念がっていましたが、屋敷の岩風呂に入りに来ても良いよと伝えると大喜びしていました。
「子供達を見てとても驚いていましたよ~」
『フフ…、抱かせてあげると慌てていましたね』
「ハハ…、そうだろうね」
子供は一日ごとに成長していくなぁ。
シエラとの子供であるシャーロットも顔立ちがしっかりしてきたように見えます。
「そろそろパートナーが集まれる場所も考えないとね…」
『そうね。屋敷に集まる人数が増えましたからね…』
「王都の公衆浴場が完成したら本格的に考えてみるよ」
元々今年中にパートナーが集まれる場所を作るつもりでしたし、それに遅かれ早かれ子供たちが増えて大きくなってくると寝所を分ける必要もあるのです。
当分はリビングから離れていない所に子供達をまとめておけるキッズルームみたいなのを作っておいても良さそうです。
「そうそうシャルル様、このシャツとっても便利ですよ~」
「ごめんね。もっと早く気付ければ良かったよ」
シエラ達は授乳の度にシャツを捲るか上半身裸になっていたようなので、授乳しやすい形を考えてクーシア達にシャツを作ってもらったのです。
男性下着の前開きと同じ要領で両乳首の辺りで縦にスリットを入れて普段は少しだけ布が重なるようにしてあり、スリットに指を掛けるだけで乳房がボロンッと現れるようになっています。
『胸を支えてくれる“すらいむ”も最高ですよ』
「ハハ…」
メンテールやルーシャは胸が大きいのでスリットを設けると乳圧で飛び出すんじゃないかと心配しましたが、普段はスライムが滲み出た母乳を吸収する為に胸に張り付いているので杞憂でした。
『でも、この間まで知らなかったのが残念ですけれどねっ!』
「受胎中に過剰な刺激はダメだから…(そんな事を言うなら…)」
僕はルーシャのスライムに【接続】し、“イケないモード”を発動させます。
『ひぅっ!? どうして…?』
「ルーシャ様…?」
「……」
シエラもしてあげようっと…。
(“イケないモード”!)
シエラのスライムにも【接続】して指示をします。
「うっくっ、こ…これって…!?」
子宮に入れている【触手】まで勝手に動いてる~っ!?
「二人ともどうしたの? エンジェルとシャーロットは僕が見ておくけれど…」
「『……っ!』」
僕が白々しくそう言うと二人は慌てて執務室から出て行きました。
自室に戻ったのでしょう。
「あっ、夕食前だった…」
フランに言って二人の夕食を夜食にしておいてもらわないと…。
XX XY
翌日、公衆浴場の作業をする前にリリアンの管轄する都市タイロンに転移し、そこから久しぶりに【飛行】を使って王領に入ってみることにします。
エルスタイン領都と王領の領界には南北に連なる長大な山脈があり、以前魔動力車で旅をした時に山々に沿った一本道を通りましたが、確かその時に大戦で無くなってしまった国や都市の他、未開地があるかもという話をしていたのを思い出し、空を飛んでみたら何か発見できるかなと思ったのです。
(ほとんど未開地だな…)
上空に上がってみると地平線は360度丸く続いていて、改めてローマン帝国は広大で、僕達が使っている大地は一部分でしかないのが分かります。
王領に入る前に少し領界に沿って北にあるカプランド領方向に飛んでみるか、それとも南のバルゼ方向に向かって飛んでみるか…。
(よし、まずは北に飛んでみようか!)
《マスター、向こうで山脈が分かれているようですよ》
小さくなって右肩に乗っているマオがそう伝えてきます。
《本当だね…。地上から見ていたら一連の山脈に見えるのか…》
そちらへ近づくほど、どうして気付かなかったんだというぐらいの土地が見えてきます。
既にタイロンから距離もあるし、道が無ければ行くことも気付くことも出来ないか…。
平地は少ないようですが森や砂地、丘陵地が見えてきます。
《ご主人様、都合が良いじゃないですか。ご主人様の領地にしましょうよ~》
今度は左肩に乗っているアイがそう言ってきます。
《そんな面倒な事は考えていないけれどね…》
僕としてはパートナー達が一堂に集える場所や建物があれば良いのです。
(シャルル島がもう一回り大きければなぁ)
現状は“カカオ”の自生地でもあるのでヴィラ以外に余計な建物は建てたくありません。
“カカオ”もどこかで増やせるように考えてもおかないとな…。
《かなり飛んで来たけれど想像以上に広いな…》
ご主人様(マスター)、あんな所に小さな山が!?
《えっ、あれって山なの…?》
確かに見た目は岩山のようですが上半分がなく真っ平らなのです。
頂上に降り立つと、アイとマオも元の大きさになって横に並び立ちます。
ルーシャの屋敷が二つ三つは余裕で入りそうなほどの広さです。
▲▲□□□□□□ ▲
▲滝□□湖□□□□ ▲
▲□□□□□□□ ▲
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▲ ■ ▲
▲ 今ココ ▲▲
▲▲ ▲
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▲▲ N ▲▲
▲ 上 ▲
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【王領】 ▲▲▲【エルスタイン領】
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これは盛土ではないな…。
明らかにこの場にあった岩山を人工的に平らにしてあるようです。
段々になっている箇所もあるし…。
(草花が見える部分は土が入れてあるのかな…)
どこかで見たような感じ…、そう、石積みではないけれど前世で見知った日本のお城の跡地のようなのです。
建物が建っていた痕跡も薄っすら感じられます。
「ご主人様、向こうに滝や湖も見られますよ」
「そうだね…」
ここから更に北の方を眺めると、アイの言うように大きな湖が見えます。
ここに来るまでに川も多かったので、山脈で挟まれている土地ゆえに水源は豊富そうです。
内陸なので海はありませんが、高い山々に挟まれている感じといい、雰囲気はあの“風の谷”のようにも思えます。
(うん、とっても綺麗な景色だ…)
グレイスの王領とは比較するまでもなくかなり小さいですが、この山脈で囲われた土地に都市をいくつか設けると立派な領になりそうです。
もしここに城みたいな物が建っていたとしたら、主要都市だったのかな…?
この辺りがこの土地の中心ぐらいなのかもしれません。
湖より北側はどんな風になっているか分かりませんが、パートナー達が集まる場所には打って付けだと言えるでしょう。
「マスター、どこかに出入口があったのでしょうか?」
「山脈に囲まれているからね。どこかにトンネルがあったんだよ…」
昔、トトの管轄するスローキにも長いトンネルを通って入った記憶があります。
おそらく大戦時に塞がれたか、もしかすると昔は山道がいくつかあったのかもしれません。
「大戦があったとしても滅びる事は無さそうですけれどね」
「何か問題があったのでしょうか…」
「……」
アイとマオの言いたいことも分かります。
ここにいた人々は今の王領やエルスタイン領に逃れたのでしょうか…?
XX XY
「そんな所があったのですか…」
「うん、まだ全部は調べていないけれどかつては国だったかもしれないね…」
あの後、王都の公衆浴場の作業をした後、おやつの時間に王城へ行って今朝見た土地についてグレイスに話しました。
ちょうどアーサーの授乳中で、グレイスに抱きかかえられながら一生懸命に母乳を吸っています。
もちろんグレイスにも授乳用の服を渡しています。
ホーリーは授乳中は席を外しているようです。
「まさかあの山脈の間にね~」
「王領内にもそれ以上の未開地があるんだよ」
【飛行】して分かったのですが、チェスカが管轄しているナンバスから続く町や村といっても既存の街道沿いの一部に過ぎないのです。
「大戦前はいくつも国や領があったそうですからね…」
「それで、僕があの土地を使ってみても良いかな…?」
「もちろん、発見者はシャルルなのですから…。ですが一応領としておいてくれませんか」
「ハハ…、もしかして僕が国として復活させると思っているの? 今のところ公にするつもりはないし、領名も必要無いからね」
ただ、いずれ“風の谷”と呼ばれるようになると嬉しいと思います。
いつかあの土地を継ぐ可能性のある子供にはナ○○カと名付けておこうかな…。
「それで話は変わるけれど、公衆浴場は案外早く完成しそうなんだ。従業員はどうするの?」
「従業員についてはシェリー様の考えを参考にさせていただこうと思っています」
「ただ、ドナさんのような支配人をどうするかですね…」
「グレイスに幼馴染みはいないの?」
「いない事も無いですが、シェリー様とドナさんほどの関係でもありませんし…」
「領民の為の公衆浴場だからドナのように一般の領民で街でも目立つような存在が良いね…」
「募集するにしても今からだと大事だよね~」
そう考えると本当に適任者だったと思います。
「う~ん、そうですねぇ~」
「じゃあ、とりあえず王城お抱えの治療院の女性にしてもらうというのはどう?」
いずれナースの役割をしてもらえると助かりますし、支配人は今後何かの催しで決めても面白いかもしれません。
「あ~、なるほど。シャルルと出会ってから健康すぎて存在をすっかり忘れていましたよ」
「でも、治療院の仕事ではなくなるからちゃんと説明してあげてね。無理やりはダメだよ」
「フフ…、もちろんです。セイラも私達を見れば反対にお願いしてくるでしょう」
「……」
セイラという女性なのか…。
次の機会に会える段取りをしておくそうです。
そして、その話のついでに王城の調理責任者と食材管理責任者を紹介してもらう事になりました。
シェリーの王城と同じで、ずいぶん前から来ているのに会ったことがありません。
「シャルル様、お待たせしました。こちらが調理責任者のアナ、もう一人が食材管理責任者のルゥです」
「あ…ありがとう、ホーリー」
覚えやすいけれど続けて言えないな…。
「シャルル様とお話しできて光栄です」
「ようやくシャルル様とお近づきになれましたよ~」
「これまで王城に滞在した時は美味しい食事をありがとう」
これまで王城ではホーリーとミレーヌが両脇を固めていたからなぁ。
アナお姉さんはミレーヌと同期だそうで、スレンダーで髪も短く見た目は格好良い男性に見えます。
その為、今着ている昔のメイド服が全く似合っていないのが残念です。
ルゥお姉さんはアナお姉さんより若いそうですが、女性らしい体型と少し癖のある長めの髪のせいで大人っぽい雰囲気です。
でも、口調は軽くて親しみやすい感じです。
「これからもよろしくね」
「「はいっ」」
「じゃあ二人には一度『シャルルの湯』に見学に行ってもらおうかな。それにチェルシーお姉さんとベラお姉さんにも紹介しておいた方が良さそうだね。知り合っておくと情報交換も出来るから…」
当然二人は何も聞かされていないので不思議そうな顔をしています。
「シャルル、せっかくですからフランさんに指導していただいて王城でも美味しい物が食べられるようにして下さい」
「グレイス様、酷いです。私の料理が美味しくないみたいじゃないですか…」
「そ、そういう訳じゃないのよ。でもルーシャ様のお屋敷でフランさんの料理を食べると…。これまで食べた事の無い料理ばかりですからね…」
「食べたことの無い料理…?(ゴクリ…)」
「それは食材管理責任者としても興味がありますよ~!」
「まぁ、この王都での『シャルルの湯』用に新しい料理も考えているからね。フランと試作して完成したらアナお姉さんにも覚えてもらわないといけないし…」
これ以上フランに負担を掛けさせたくないと思っていたので良い機会かもしれません。
「「それは楽しみです~」」
「「シャルル様が料理を…?」」
「じゃあグレイス、早速二人を連れて行くよ。二人ともメイド服は目立つから私服に着替えて玄関に集合ね!」
「「は…はい…」」
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本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
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