DNAの改修者

kujibiki

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第478話 【閑話】脱走計画

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「なんだか今日は製作所周りに人が多いですよね~」

「魔道具の販売日でもないのにね~」

「ユッカ、エチカ、何を暢気な事を言っているのよ。ほらっ、シャルル様のお名前が発表されたって…。今日はこのまま門扉を閉めておきましょう」

シャルル様の事を聞かれても困りますからね。

「そ…そうでした…」
「ミルキーの言う通りだね」

「本当にサンディさんとローザさんがおっしゃっていた通りになりましたね~」

シャルル様の容姿は意外に知られていないそうですが、探しに来る人が増えるとのことでした。

「セレスは知らないと思うけれど、シャルル様が以前『男性選手権』で優勝された時も街ではこんな感じだったんだよ。それにあの時とは違って今では“シャルル”と名前の付く場所が2箇所もあるからそれで集まってきたんだよ。“シャルル巻き”のお店も人でいっぱいかもね…」

「……、ところでシャルル様ってどこにおられるのかしら…。親睦会以降顔を見せてくださいませんが…」

そういえばウテナはシャルル様が『男性選手権』で優勝されるところを見ていたのよね。
シャルル様も前もって教えて下されば良かったのに…。
それにあれ以来マイヤさんやトイカさんも来られません。

「それはやっぱりサマンサ様とオーリエ様のパートナーになられたからお屋敷では…」

「タニア~、違うわよ。サマンサ様達がシャルル様のパートナーになられたんだからね…」

その上サンディさんとローザさんまでがシャルル様のパートナーになっているだなんて…、羨ましすぎます。

「そうでした…、そんな事ってあるんですね…」

ローリーの言う通りですがルージュ領はどうなってしまうのでしょうか。

「あぁ~、シャルル様に会いたいですよ~」
「また親睦会して欲しいですぅ~」
「次こそはあのシャルル様の抱き枕を…」

ハァ~。
「ユッカとエチカ、ウテナもお気楽ね…」

シャルル様のようにたくましくて格好良い男性は早くパートナーを見つけられると思っていましたが、こんなに早くパートナーが決まったと聞くとなんだかとても寂しく感じます。
もうこれまでのように接していただけないのではないでしょうか…。

「どうしてそこでミルキーがため息をつくのよ」

「とにかく皆も作業に戻るわよ。ようやく“シャルルの風”の月産5000個を達成出来そうなんだから…。達成してシャルル様に褒めていただきましょう! 私も会いたいんだからねっ」

「そ…そうね。今年中の目標でしたね」

セレスの言う通り私達はシャルル様の為に頑張るだけなのです。
それに私達がシャルル様のパートナーになれる可能性は無いのですから…。

「「セレスとローリーはを持っているから良いよね~」」
「羨ましいです!」

「……」
せめて私もは欲しいですよ…。



XX XY



「スカ、コタ、聞いた!?」

「あぁ、ソク…。あのオーリエ様のパートナーが決まったみたいだな」

「俺はサマンサ様がもう一度パートナーを選ばれたことに驚いたよ。くそ~、俺が狙っていたのに…」

「本当にコタの趣味は分からないよ。でもそのサマンサ様のパートナーもあいつなんだよね…」

シャルルと名前だけ発表されましたが間違いないでしょう。

「ソクも噂で聞いているだろう。サマンサ様は若返ったように、オーリエ様もとっても女性らしくなったそうなんだぞ。くぅ~、一度ゆっくり見てみたい…」

「確かに街の人達が話していたのを聞いた事はあるね。でも僕には興味はないよ…」

おそらく“男”になったのでしょうが、一人の男性が複数の、それも母娘のパートナーになるなんて前代未聞です。

「それにしても忌々しいガキだ。思い出しただけでも反吐が出る…。あいつのせいで10年も収監されるんだぞ」

「「……」」
『スカのせいだろ』と、言いたいところですが僕とコタは口を出しません。
それについては収監時に散々罵り合っているので今さらなのです。

「それでどうしてスカが震えているんだよ…」

「コタ…、お前は知らないからそんな事が言えるんだ。俺はあのガキに殺されかけたんだぞ」

「そうだったね、本当によく生きていたよ…」

コタも先に気を失わされていたけれど、僕はスカが一瞬で蹴飛ばされて海に叩き込まれていたのを見ています。
あれでも手加減していたようなので本気で蹴られていたら即死だったかもしれません。
悔しいですがあのスカを蹴り飛ばすほどたくましくて、僕をたばかるほど賢い男性にはもう二度と会いたくはありませんね。



「……それでだけれど、ルージュ領都がお祭り騒ぎの間に脱走をしようと思うんだ」

ようやく都合の良い機会が訪れました。
脱走するだけならいつでも可能ですが、逃げ切れる確率を上げるのならこの機会を逃すわけにはいきません。

「「ソク、本当かっ!?」」

「領都に人が集まってきているし、警備も手薄になってきたからね」

強制労働と言っても鎖で繋がれている訳でもありませんし、作業中に街の者と言葉を交わす事も可能で、こうして情報も入ってくるのです。

元々、収監といっても男性の場合は喧嘩など軽微な犯罪ぐらいでほとんどが1ヶ月ほどで釈放されるので、すでに1年以上収監されている僕達は存在こそ有名ですが空気みたいなものなのです。

それに男性は魔法が使えませんし、体力もないので脱走するなんて思っても見ないでしょう。
ですが、この一年ちょっとの労働で三人共少し体力が増えたと思えるようになってきたのは時期的にも好都合でした。

「それで、計画は…?」

「計画と言ってもとりあえず三方に分かれて逃げるだけだね。名残惜しいけれど僕達は別々に行動だ。一緒にいると見つかる可能性が高いからね」

ハハ…、別に名残惜しいことはありません。
元々スカに協力したことが間違いだったのです。
この二人は僕にとって本当の足枷にしかならないのです。
今度は僕が利用させてもらいましょう。

「そ…そうだな…」

「俺もそう思うよ」

「スカとコタはあてはあるのかい?」

「そうだな…、俺はローマン帝国に行く!」

「本気かスカ…? あいつのいる国じゃないか…」

「良く考えろよ、コタ…。あいつはオーリエ様達のパートナーになるんだぞ。それにこの国にいるより安全だ」

「……」
さっきもコタが悔しがっていましたが、あのシャルルと呼ばれていた男性はサマンサ様のパートナーでもあるのです。
(あれ…?)
そもそもシャルルと呼ばれていた少年はエルスタイン領、領主様のご子息だったのでは…。
あれほど立派な体躯をした男性がわざわざ異国のオーリエ様達のパートナーになる理由が分かりません。
むしろ魔動力船にいた女性達の誰かをパートナーにすれば良いとも思えるのです。

「それも良いかもな…。食べ物も美味しかったし…。俺もスカに付いて行くよ」
「それで、ソクはどうするんだ?」

「僕はまだ検討中。おそらくこのバルトリア王国内で逃げるよ」

ハハ…、幸運にも二人は逃げ道が一本の方角を選んだようです。
これで時間稼ぎが出来るかな…。

「おいおい大丈夫なのか? ソクは俺達より顔が知られているんじゃないのか…」

「密告されれば危ないかもね」

当初の計画ではルージュ領の港町に向かった後はどこか小さな町でスカの目的を果す予定でしたが、魔動力船で追われる事になって逃げ切ることが出来れば、そのまま海路でパレス領のとある港町へ向かうことも考えていたのです。
その港町へたどり着ければほとんど知られていない島々への海路があるのです。
言い伝えでは島々の更に先には別の大陸があるとかないとか…。
とにかく領界を越えてパレス領に入ってしまえば海上と違って身を隠すことも簡単でしょう。

「そうか、お互い上手く逃げ切ろう」

「決行は今度の領都外での沿道作業中だよ…。これまで通りなら数日で順番が回ってくるからね」

僕達三人は一組で色々な作業をさせられています。
僕は商会の魔動力車の荷物に紛れさせてもらって…、二人にはわずかな路銀を渡しておくだけで気分良く逃げてくれるでしょう。
囮ですから出来るだけ遠くへ逃げてもらわないといけませんからね。

「分かった…」

「もっと早くても良かったんじゃないか…?」

「コタ…、馬鹿だね…。サマンサ様とオーリエ様が喜ばしい時に逃げるから良いんだよ。もしかしたら脱走に気付かれても『放っておけ』とおっしゃるかもしれないよ」

「そ…そうかな…」

「可能性だけれどね…」

ハハ…、そんな訳はないでしょう。
どうせスカとコタはここへ戻って来ることになるんだから…。



XX XY



「サマンサ様、領都内にパートナー発表をした件ですが、オーリエ様はともかくサマンサ様の発表はまずかったのではありませんか。女性達が騒然としているそうですよ」

「こんな例外なことはありませんからね…」

私の年齢の事もありますし、ましてや母娘が同じ男性とパートナーになったと言うことに驚いているのでしょう。

「それにシャルル様のお名前を発表したせいで、街では再び“シャルル様を探せ”状態になりつつあるようです」
「シャルル様を一目見たさに“シャルル巻き”のお店や『シャルル魔道具製作所』の前にはたくさんの女性が集まっているそうですよ。これではシャルル様にご迷惑が…」

「グリシャの言いたいことも分かりますが発表しない訳にはいきませんよ。これから私のお腹も益々大きくなってくるのですからね」

今のところシャルルをお披露目する事は考えていませんが、後々のことを考えると領主としてパートナーの名前だけは公表しておかないといけません。
おそらくシェリー様とエンターシャ様もそうされていることでしょう。

「せめて各都市ではシャルル様の名前は出さない方が良いでしょうね」

「そう…ね…」

30歳を超えた女性が再び“誕生の儀”をしたとなればさらにどうなることやら…。

「グリシャ達については発表出来なくて申し訳ないけれどね…」

「も…もちろんです。私達メイドまで同じ男性のパートナーになって、子宮で受胎したことが知られればとんでもない騒ぎになると思います」

私はシャルル様のパートナーになれただけで幸せですから…。

「確かに今はまだ大丈夫だと思いますが、それも時間の問題でしょうね…」
「“シャルル巻き”のお店のネンネさん達も既にパートナーですし、他の従業員達もパートナー候補になっているそうですからね。それに今後『シャルル魔道具製作所』の従業員もパートナー候補になればいずれ隠すことは出来ないでしょう」

ローマン帝国での領主会議ではどんな発表になっているのでしょうか…。
新たにパートナーが増えているかもしれませんね。

「“シャルル巻き”のお店は従業員が10名で、確か『シャルル魔道具製作所』の従業員は30人でしたよね…。全員がシャルル様のパートナーになったら…、凄いとしか言えないですね…」

そうなる未来しかない…と言うのも分かってしまいますけれどね…。
そう言えばサラ達もパートナー候補でした…。



XX XY



コンコン、コン。

ガチャ…。
「マーガレット様、シャルル様のお部屋が完成しました」

「そう、ようやく完成ね。後はシャルル様に来ていただくだけです」

「ですが、魔道具製作所の方がまだなのでは…?」

「そうなのよね~。シャルル様の発明品の製作を任せるにはどこも決め手に欠けるというか…」

既に“シャルルの風”が知られているので、大きな所に話を持ちかけると“シャルルの風”も生産させて欲しいだとか厚かましく言ってくるのです。
シャルル様の厚意をなんと思っているのでしょう…。
サマンサ様とシェリー様にも怒られてしまいますよ。
やはり一から募集を掛ける必要が…、シャルル様も最初は少人数でも良いとおっしゃっていましたし…。

「そうだわデイジー、『シャルル魔道具製作所』を見学させていただくことになっていたのです。早速サマンサ様に後日伺う旨を伝えておいてくれるかしら」

「かしこまりました。シャルル様もルージュ領都におられると良いですね」

領主会議の時はあまり話せませんでしたから、私もシャルル様とゆっくり話をしてみたいです…。

「フフ…、そうね。“シャルル巻き”のお店にも案内してもらいたいですし…」

そうなるとやっぱりエリカも連れて行かないとうるさいわね…。
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