DNAの改修者

kujibiki

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第446話 相対

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攫われてから何日経ったでしょうか…。

あれから便所とお湯が浴びられるだけの浴場が付いた部屋に移されました。
この部屋に移ってから手の拘束は解かれ、監視する者達も頭から布を被って顔を隠しているので目隠しも取れています。
しかし、部屋の中には身体を隠す場所はなく、食べている時や寝ている時はもちろん排便時やお湯を浴びている時も見られているのです。
それにお湯を浴びられたのは良かったのですが、“シャルルの糸”が無いとこんなに不便だったのかという事に改めて気付かされます。
あぁ~、せめて“シャルルの糸”があればなぁ~。
……シャ…ルル…、会いたいです…。



ガチャ…。

「エリカ様、ようやく男性が見つかりましたよ~。あなたが捕らえられていることもマーガレット様に知らせておきました。三日後エリカ様の卵子を採取させていただきますから…」

「そ、そんな…」

「きっちり受精卵にしてエリカ様に受胎してもらいますからね…」

フフ…、マーガレット様も要求に従われるでしょうからエリカ様の後に卵子を採取させていただくつもりです。

「嫌よっ! 卵子を採取しても良いから、せめて領民と同じ“誕生の儀”にしてちょうだい!」

「そんな慣習に反することはしませんよ。6ヶ月間自分のお腹を見ながら苦悶し、産まれてきた子供の成長を見ながらマーガレット様と一緒に人生を嘆けばいいのです」

「ひどいっ、ひどすぎます…」



XX XY



あれから三日経ち、私はデイジーが運転する魔動力車に乗って指定された場所に向かっています。
今は前方が見易いように私も運転席のデイジーの隣に座っています。

「この辺りが指定された場所ね」

「マーガレット様、本当にそのエリカ様を攫ったという盗賊に会われるのですか? やはり危険すぎますよ」

「もうそれしか仕方が無いのです。あれから毎日盗賊を捕まえていますがエリカに繋がる情報はありませんでした。捕らえた者達は本当にただの盗賊だったのです」

なぜだか分かりませんが、“誕生の儀”の実験の関係者である首謀者は盗賊達を利用して時間稼ぎをしているようにも思われます。

「まさかあの実験がこんなことになるなんてね…」

「そう…ですね…」

私も“卵子の提供をしてみる?”と言われたことはありますが、あの時はなぜか提供したいとは思えませんでした。
マーガレット様のお考えも分かるのですが、領民には受け入れられなかったということなのでしょう。

「デイジー、先に言っておきます。もし私が同じように連れ去られた場合、5日経っても私達が戻らず、それまでに首謀者から何の連絡もなければ、カーミラに言って全力でこの辺りの盗賊達を一斉捕縛するのです。残念ながらその時は盗賊達の被害を考慮しなくてもかまいません。ただそれまでの間はこれまでと同じように捕縛を続けてください」

「わ…分かりました…」

「だ…大丈夫です。お金目当てでもありませんし、私達に危害を加えるつもりはないのでしょう」

エリカを攫って私と相対することが目的のようです。
“誕生の儀”の実験については改めて意図を説明し、納得してもらえなければ謝罪をするしかありませんね…。



「マーガレット様、前方に人が…」

「えぇ、見えているわ」

周囲は森や丘で囲まれていますが、この辺りだけは木々もなく平坦な土地で、まさに待ち伏せされて襲われそうな場所に見えます。

ドスッ…、バシュッ…、ズシャ…。

「なっ…」

いきなり魔動力車の前に【砂矢】がいくつか打ち込まれ、デイジーが慌てて魔動力車を止めます。
ここで止まれって事なのね…。
私が魔動力車から降り立つとデイジーも反対側から降りています。

「ようこそ、マーガレット様。必ず来ていただけると思っていました」

「あなたが首謀者ですか、エリカはどこです!?」

目の前に現れたのは三人。いずれも頭から布を被っていて顔は見えません。
特に警戒している様子も無いので見えない所に仲間が潜んでいるのでしょう。

「慌てなくてもこれから付いて来ていただければ会えますよ」

「そんなこと…、付いて行ってエリカに会える保証がありません」

「ふ~む……、この状況でマーガレット様に選択肢はないのですが…。良いでしょう、あちらの丘を見て下さい」

首謀者らしき女性が近くにある丘の方へ手を向けると、エリカとその両側に二人の仲間がいるのが見えました。

「エ、エリカ~~~っ!」

「お母様~~~っ! 来てはダ(ウグゥ…)」

少し離れていますが、姿と聞こえる声はエリカに間違いありません。
何かを言いたそうにしていますが口を塞がれているようです。

「これで分かったでしょう。抵抗せずに付いてくるのです。目的が達成されれば二人とも解放してあげますよ…」

「目的? あなたは“誕生の儀”の実験について私と話をしたいのではないのですか? 必要があれば改めて意図の説明や謝罪をさせていただきます」

「そ、そんなこと…、今さら遅いのです。謝罪をされたところで息子の精子が不本意に搾取されたことに変わりはありません。とにかくマーガレット様には付いて来ていただければ良いのです」
「さぁ、魔動力車の運転手は帰してください。それとも一緒に捕らえましょうか? 一人ぐらい増えてもかまいませんよ」

「……」
やはりこうなりますか…。
何か目的があるようですが達成されれば解放されるようです。

「フフ…、運転手さんもご心配なく。私達は盗賊ではありません。早ければ10日ほどで解放してあげます」
「しかし、邪魔をするような行動を取るとお二人の安全は保障できませんからね」

「マ…マーガレット様…」

「デ…デイジー、では待ってください。それまでの間は任せます…(ボソッ)」

私がそう言うとゆっくり頷いていたので意図したことが分かったのでしょう。
再び魔動力車に乗り込むとその場から離れていきました。

「……では、マーガレット様こちらへ…。拘束するつもりはありませんが不審な行動をされるとエリカ様の身の安全は保障できませんよ」

「わ…分かりました」

こんな場所から一体どこへ連れて行こうというのでしょう。
三人に取り囲まれ誘導されます。



しばらく歩かされると森の中に小屋が建っているのが見えました。
どうやらそこへ向かっているようです。
こんなところを拠点にしていただなんて…、岩山や斜面、木々によって近づかないと分からないぐらいです。
ただ建物の前面は木が切り倒されており円く平地になっていて空も見えています。

「早くエリカに会わせて下さい!」

「しばらくすれば会えますよ。作業が終わればね…(ボソッ)」

「えっ、何て?」

「なんでもないです。マーガレット様は少し休んでいて下さい。これより陽の昇る方角にある小さな村でしか飲まれていないめずらしい飲み物も用意してありますし、この建物も見た目よりは中も広く綺麗にしてあるのですよ…」

エリカ様と話をされる前に続けてマーガレット様の卵子も採取しておきましょう。



XX XY



「あふぅ、う~ん…」

あれ、私…、いつの間に寝ていたの…。
出されためずらしい飲み物を飲んでから…記憶が…。

「お…お母様、気が付いたのね」

私が気付いた時に隣にお母様が寝ていて驚きました。
まさか本当にお母様の卵子まで採取するだなんて…。

「エ…エリカ…、良かった…大丈夫みたいで…」
「う、つぅ…」

なんだか腹部に痛みが感じられます。

「お母様、私達はあの者達に卵子を採取されたのですよ…」

「えっ、エリカ、何を言って…?」

卵子を採取って“誕生の儀”の時に行う事よね。この痛みは確かに覚えが…。

「あの者達は私達に“誕生の儀”をさせるつもりなのです。私もお母様の前に卵子を採取されてしまいました」

「な…何ですって!?」

ガチャ…。
「お二人とも気が付かれたようですね」

「あなた、私達の卵子を採取したのですか!?」

「はい、その為に来ていただいたのですから…」

「なぜ、そんなことを…」

「……、もう一度説明することになりましたが仕方がありませんね。これは元々マーガレット様に復讐する為の計画なのですよ…」

「復讐ですって…?」

「私の息子はマーガレット様の実験の為に精子を搾取され無作為に選ばれた女性と“誕生の儀”をさせられました。詳しくは後でエリカ様に聞かれるといいですが、同じようにマーガレット様の娘であるエリカ様にこちらで選んだ精子で“誕生の儀”をしてもらい、マーガレット様にも母親として同じ思いを経験してもらうのです」

「ただそれだけでは面白くないのでマーガレット様にも実験に参加してもらい、その年齢で再び“誕生の儀”が出来るか試していただこうと言う訳です」
「成功すればフリーノース領にとってとても有意義な実験になると思いませんか?」

「……、そ…そんなつもりじゃ…」

「まぁ、エリカ様はともかくマーガレット様の方はまだ受精卵になるかどうかも分かりませんから結果次第ですけれどね…」
「要するに受精卵をお二人の子宮に戻して受胎していただければ解放しますよ。ですから受精卵が出来るまでしばらくゆっくりしていてください」

「既に卵子が採取されてしまった以上あなたの行動を止める事は出来ませんが、領民と同じように施設の容器で育てれば良いじゃないですか」

「エリカ様が男性であればそれで納得していたかもしれませんが、これはマーガレット様の実験に対する私達の憤りでもありますからね。お二人の、又はエリカ様の子宮で成長する様を見て後悔していただくのが私達の復讐でもあるのです」
「そうそう、エリカ様にも申しましたがこちらで選んだ精子はきちんと男性に説明し納得していただいてから採取させていただいておりますので…」

「くっ…」

首謀者の女性はそう言い残すと部屋から出ていきました。
お母様も今は返す言葉もなく呆然としています。
作業の間は眠らされていて何をされたのか分かりませんがお腹の中が少し痛いです。

「エリカ、ごめんね。あなたを巻き込んでしまって…。まさかこんなことになるなんて…」

「お母様、済んでしまった事は仕方がないです。今はどうにかして逃げるか受精卵を胎内に戻されないように考えないと…」

首謀者の恨みは理解できますが受胎する訳にはいきません。

「お母様、助けは来ないのですか?」

「実は初めて相対した時に10日ほどで解放されると言っていたのです。10日経てばデイジーの判断でカリーナ達が全力をあげて捜索してくれるはずなのですが…、まさか私達に“誕生の儀”をする為の時間だったとは…」

「10日後だなんて…、それじゃ遅いわ…」
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