DNAの改修者

kujibiki

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第366話 追跡

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「さてと…、さっさと“シャルルの風”を売り切るぞ」

「そうですね、ここまで来たら早いに越したことはありませんね」

ユーグラを中心に近郊の町を回り、先日バルゼ領方面の町で模倣品を売った後、ようやくこの王領方面の町が最後になります。

「やはりユーグラで売らなかったおかげで模倣品については気付かれていないのだろう」

もしかしたら他の都市近郊の町でもまだ売れるかもしれないな…。

「ドラ様、つまらない考えはやめてくださいよ。欲を出すととんでもないことになりますよ」

「わ…分かっている。王都に戻ったら俺もそろそろパートナーを見つけて“誕生の儀”をしないといけないからな…」

「そ、そうですよ…」

(本当に良かったわ…)

ドラさんは私が商会からパートナー候補にお願いされていることは知らなかったわね。
こんな馬鹿な男性のパートナーになって“誕生の儀”をするのなら一生一人の方が良いわよ。



“シャルルの風”の模倣品を売り出すと、この町でも順調に売れていきました。
最初は領民も価格に驚いていましたが、ケープノット領都まで買いに行くことを思えば本物の5倍以上の価格でも売れるのです。

ドラさんのように商人なら手に入り難い物は高くても当たり前だと思うのかもしれませんが、本物を持っている私にとっては良心が痛みます。

今は各領都にしかありませんが、『シャルル魔道具販売所』を設けてどこでも同じ価格で手に入るようにされているシャルル様は本当に高潔な方ですね。
一体どんな方なのでしょう…。

「よし、クリス、販売終了だ」

「えっ…、もう売り切れたのですか?」

この辺はさすが商人というところでしょうか、見かけによらず手際が良いです。

「何を言っているんだ、毎回お昼までには売り切っているだろう」
「さて、早めの昼食を食べたら王都まで帰るとするか…」

「はい…」

なんとか無事に売り切れたようですね。
手元に模倣品が無くなったというだけで少し気分が安らぎます。



XX XY



「アネモネ様、ようやく町に着きましたね」

「エンリ、着いた早々悪いですがすぐに“シャルルの風”の模倣品が販売されていないか確認を行ってください」

「はい!」

急いだおかげでユーグラを出発して2日目のまだ昼食の時間が終わった頃ですね。
町を見る限り平穏そのもののようですが、先回りできたのでしょうか…。



「アネモネ様、大変です! “シャルルの風”が…」

「どうしたのです?」

「そ、それが“シャルルの風”が今朝この町で販売されていたそうなのです」

「なんですって!?」

一足遅かったですか…。

「それでその販売していた者は?」

「お昼過ぎまでは町にいたようですが、その後町を出て行ったようです」

「まだそんなに時間は経っていませんね…」

王都の商人ならやはりこの町から領界を越えて王領に戻るつもりなのでしょう。

「これから王領に向けて追いかけてみますよ」

「わ、分かりました…」



XX XY



「シャルル様、ユーグラから王領方面にある町に着いたようです」

「そうみたいだね」

今日はアシュリと一緒に乗客室に座っていて、クリスとフラネルが運転席にいます。

ユーグラを経由せずケープノット領都方面の町からこの王領方面の町まで直接来ましたが急いでも2日掛かってしまいました。

2日前、ケープノット領都方面の町に着いた時にクリス達に調べてもらったらやはり模倣品は販売されてしまっていたのです。

販売されていたことによって益々この王領方面にある町が、クズが最後に立ち寄る町になる可能性が高くなりました。

「アシュリ、町の中心に着いたらこの間と同じように模倣品が販売されているか調べてくれるかな」

「分かりました」



「うん、良い天気だね~」

アシュリ達が街を調べている間、僕は魔動力車の側で留守番です。
まぁ、こんな機会がなければこの町に来ることもなかったことでしょう。

《ご主人様、似合ってますか~?》

アシュリ達が魔動力車から離れるとアイは大きくなって僕の側に立ちそう伝えてきました。
前の世界の僕なら目のやり場に困るようなおへその見える小さいTシャツにホットパンツ姿です。

《うん、とっても…。他の人には見えていないよね…?》

淫乱で変態なのですが、アイの見た目は本当に清楚でどこから見ても美しい女性なので似合わない服はないでしょう。

《大丈夫ですよ。でもご主人様、淫乱と変態は余計ですよ。ご主人様のせいなのにぃ~》

《あっ、心まで読んだな…》

ケープノット領都から王領に向かおうとするといくつも山々を越えていくことになりましたが、この辺りは比較的平地や丘陵地が多いようです。
でも、遠くに見える領界辺りは同じように山脈を越えていくしかなさそうです。

《もっと簡単に移動できたらなぁ~》

《ご主人様ならいずれ出来るようになりますよ。黒い靄のおっさんもその内自分でも魔法が創れるようになるかもしれないと言っていたじゃないですか》

《そういえばそうだったね…》

以前は魔力があっても魔法は使えないって思っていたからなぁ。
それがシエラやルーシャとセックスすることで水属性と風属性の魔法が使えるようになったんだから急いで欲張り過ぎかな…。
まずは早く火属性と土属性の魔法を使えるようにしないとなぁ。



「「「シャルル様~」」」

調査の終わった皆が駆け寄ってくると、アイは再び小さくなり僕の肩に座ります。

「シャルル様、この町でも模倣品が売られてしまっていました~」

「それも今朝のようです…」

「間に合わなかったか…。アシュリ、フラネルありがとう」

「でもお昼過ぎまではこの町にいたそうで…、それにユーグラの都市長であるアネモネ様も少し前にこの町に来られてその販売していた者を追っていかれたそうです」

「へぇ~、アネモネ様が先に来られていたんだ」
「さすがクリスだね」

エバーミット様からの連絡を受けて僕と同じように王領方面の町に来られたのかな?
まだおやつの時間にもなっていないから追いかけられるかなぁ。

「じゃあ、僕達もアネモネ様の後を追おう。見つけられなければこの町に戻ってくればいいから…」

「「「はい!」」」



XX XY



「ねぇ、誰かが魔動力車でこちらに近づいてくるわよ」

「本当だね。もしかしてあれが依頼者の言っていた追っ手かしら?」

「何でもいいよ。とりあえず今日は陽が落ちるまで誰も王領に向けて通さなければいいんだから。報酬が良いわりに楽な仕事だね」

「そんな楽な仕事にどうしてこんなに人がいるのよ」

私達4人の他に仲間がそれぞれに2人ずつ計8人が道脇に控えています。

「心配性なんだろうね」

「あの依頼者にはカラードの護衛が付いていたようですが…」

「まぁ、良いじゃない。誰も通さなければやり方は自由だって言っていたしね。金目の物を持っていたらついでにいただこうよ」

「あなたは好戦的ですね。相手が多人数だったらどうするの?」

「魔動力車が一台だからね。こっちは全部で12人もいるんだから余裕だよ」
「そうだ、こうやって4チームが知り合ったのも何かの縁だから私達が一緒になって本当の盗賊になってみるのも良いんじゃない…?」

(((ハッ!!)))

「それは良いかもしれませんね」
「大きい仕事も出来るか…」
「考えてもいいかもね…、とりあえずこの仕事が終わってからかしら」



「どうして魔動力車が止まるのですか…」

ガチャ…。
「アネモネ様、前方に道を塞いでいる者達がいます」

「なんですって!? まさか盗賊ですか?」

まだ町からもそんなに離れていないし、山道に入ったところなのに…。

「レナ、相手は何人ですか?」

「よ…4人です」

「私達と同じ人数ですか…」
「4人だと盗賊ということはないのかもしれませんね…」

「アネモネ様、私とレナが話をしてきます。アネモネ様は魔動力車に乗っていてください。ダナを運転席に置いておきます」

「分かりました。エンリ頼みます」



「あなた達、ここで何をしているのかしら? 道を通して欲しいのだけれど…」

薄汚れた格好…、旅の者でもなさそうです。

「あぁ…、一応聞いておこうかな。どうしてここを通るんだい?」

「ひ…人を探しているのよ。商人らしき者が通らなかったかしら?」

「「「「……」」」」

「そうか…、残念だけれどここを通すわけにはいかないよ」

「金目の物を置いて帰るんだね」

「やっぱり盗賊なのね…」
「私達はユーグラの都市長様の一行なのよ。手を出したらただでは済まないわよ」

「そうなんだ…」
「チッ…」
「やれやれ…」
「あの依頼者、都市長に追われていたのね」

「それなら危害は加えないでおくから、さっきも言ったように金目の物を置いて帰るんだね」

「……、そちらこそ4人で何が出来るの。わざわざ痛み分けなんて嫌でしょ?」

「都市長のお供の方は意外に馬鹿なんですね。4人だけならこんなに余裕な訳がないでしょう」

「なっ!?」

そう言った別の盗賊の一人が片手を挙げると道脇から他の盗賊達が現れました。

「レナ、魔動力車に戻って!」

10人以上に囲まれている?
これではアネモネ様をお守りすることが…。

「は…はいっ」

「馬鹿だねぇ、怪我をしないで帰れる機会を棒に振っちゃって…」

「いきなり都市長が獲物とは私達にも箔が付きそうですね」

「さぁ、一気に片を付けましょうか…」

「くっ…、お前たちなんかに…」

なんとかアネモネ様をお守りしないと…。



XX XY



「……やっぱり多勢に無勢なんだね…。よく分かったよ」

みんなで一斉に襲うとすぐに都市長を含め4人が道に転がる結果となりました。

「ちょっとやりすぎなんじゃない…?」

全員どこか骨も折れているようだし、都市長と思われる人物は手の指が切れて側に落ちています。

「しつこく抵抗してきたし…、でもこれぐらいの人数で仲間になっておくと楽よね」

「みんな、都市長達を動けないように縛っておくんだよ。縛ったら金目の物をいただいて移動するよ」

「ちょっと、まだ追っ手が来るかもしれないわよ」

「もう来ないって…」

「待って、もう一台魔動力車がこちらの方へやってくるみたいだよ」

「じゃあ、ついでにアレからも金目の物をいただくとするか…、それで終わりにしよう」

ハァ~。
「仕方が無いわね。じゃあ他の皆は都市長達を道脇に移動させたら、さっきと同じように隠れておいてね…」
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