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第339話 シャルルとの遭遇
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「シャルル様、あと数日でいよいよ“シャルルの風”の販売となりますね」
「そうだね、従業員の皆もマイヤお姉さんも頑張ってくれているよ」
「サマンサ様、領民への告知はどうするの?」
「大丈夫です。発売日が確定すればいつでも領都中に告知出来るようになっていますよ」
「そうなんだ…」
「グリシャやサンディ、ローザはこの間の休暇時にお土産で頂きましたが、ソニア達他の者は朝から並んで購入するそうです」
「シャルル様、その節はありがとうございます。いただいた“シャルルの風”のおかげで髪がしっとり・さらさらになりました」
サマンサ様の側にいたグリシャさんが頭を下げお礼を言っています。
「良かった。もっと早くあげられたら良かったのだけれど…」
「ソニアお姉さんにもあげられると良かったけれど、マイヤお姉さん達も国中に向けて生産しているし、出来るだけ領民と同じように購入してもらいたいからね」
「シャルル様のお考えは分かっておりますよ」
「それで…、そろそろ各領主の皆様へ前もってお譲りする分を届けておこうと思っているのです」
「そうだったね…」
「ローマン帝国では商人や商会を介さず、各領や都市に『シャルル魔道具販売所』という直販店を作ってもらって、そこでしか販売できないようにしてもらっているけれど、バルトリア王国ではどうなるんだろう?」
「そうでしたか…、私としたことが迂闊でした」
『シャルル魔道具販売所』を設けさせて領民に公平な価格で渡るように考えておられるのですね…。
「私が各領都に向かいますので、事前にお譲りする分を届ける際に『シャルル魔道具販売所』を設けることを説明してきます」
「そうしてもらった方が良いかな。それに各領の分は各領が受け取りに来ることになっているそうだよ」
エルスタイン領都の分はロクサーヌお姉さんが運んで来てくれているけれど…。
「なるほど…。さすがです、シャルル様」
各領内の流通も各領の判断に任せるという事ですね…。
「さてと…、僕達はこれからシャルル巻きのお店に行ってくるよ」
「えっ、シャルル巻きの…?」
「この間渡した“シャルルの渦”の感想も聞きたいし、その後、魔道具製作所に“シャルル巻き”を差し入れしようかと思ってね」
「あの“シャルルの渦”は凄い魔道具ですね。あれなら誰でも簡単に“ばななん”の飲み物を作れますし、他の調理にも使えるとソニアが喜んでいましたよ」
「シェリー様もすぐに発明品として登録して下さったのでびっくりしたよ」
「それは発明者と魔道具製作所の運営者が共にシャルル様だからです」
「“シャルルの渦”を見てケチをつける者はいませんよ。そんな者がいればシェリー様ならすぐに排除されますね」
「“ばななん”が名物のルージュ領では出来るだけ早い販売をお願いしたいところですよ」
「もちろん、ルージュ領都でも生産するつもりだけれど、“シャルルの渦”はシェリー様にもお願いして王都で他領分も作ってもらおうかなぁと思っているんだ」
「シャルル魔道具製作所では今は“シャルルの風”で手一杯だからね」
「それに容器の大きさにも違いがあって手間も掛かるから…」
「そうでしたか…」
「ダメだったかな…?」
「とんでもない。ルージュ領都でも作っていただけるだけで感謝しかありません。シャルル様の判断は間違っておられませんよ」
「それにシェリー様にお任せするのであれば私には何の異議もありません」
「ありがとう、サマンサ様。今度シェリー様に相談してみるよ」
「じゃあ、シャルル巻きのお店に行くけれど、サマンサ様も一緒に行く?」
「もちろん、お供いたします…」
XX XY
「お母様、早くぅ~」
「アデル急かさないで…、“シャルル巻き”は逃げませんよ」
アデルとヨルンが先に小走りでお店に向かいました。
今年に入ってから二度目ですが、相変わらずこの広場は人でいっぱいですね。
大樹の周りでたくさんの人が“シャルル巻き”を食べているのが見えます。
「「「いらっしゃいませ~」」」
「え~っとあなたは…たまに来られる…」
「いつものように6人なのですが席は空いていますか?」
「すいませ~ん。今はシャ…、奥の席も埋まっているのです」
「少しお待ちいただくか、お急ぎなら大樹の周りの空いているテーブル席でご自由に食べていただくことになりますが…」
「そうですか…?」
“シャルル巻き”を1個食べるだけなら外でもかまいませんが、せっかく来たのですから最低3個は食べたいですからね。
お母様も店内の方が安心でしょう。
「では、少し待ちますね。席が空けば呼んでくださいますか?」
「はい、かしこまりました」
お店の奥の方を見ると、確かに数人が座っていて、厨房にいる店員さんも数人が出てきていてお話をされているようです。
あの方達は…もしかして…。
「アデル、どうかしましたか?」
「あっ、お母様…、今は店内が満員でめずらしく奥の席も空いていないそうなのです」
「それは残念ですね」
「しばらく待って席が空けば呼んでいただけることになっているのですが、奥の席にいらっしゃるのはサマンサ様達じゃないでしょうか…」
「えっ、サマンサ様ですか!?」
アデルの言葉に店の奥を眺めると、確かにそれらしい人物といつもそばにおられるメイドさんが座っているのが見えます。
あの席に座ると店内が見渡せて良いけれど、店頭からも良く見えるのね。
「どうです? お母様…」
「アデルの言うようにサマンサ様の可能性が高いですね」
「ではご一緒させていただきましょうよ!」
「あの場所のテーブル席なら私達が一緒でも座れそうですよ」
「そうねぇ。でも何かご用事で集まっておられるとしたら…」
「では、店員さんにご迷惑じゃないか聞いてもらいましょう」
私が先ほどの店員さんに用件を伝え、奥の席でやり取りをされると、女性が立ち上がってこちらを伺いました。
「お母様、やっぱりサマンサ様のメイドの方がおられますよ」
「そうみたいですね」
その後少し何かを話し合われた後、店員さんがこちらに戻ってきて、ご一緒していただけるということでした。
「エンターシャ様とアデルさんがルージュ領都に来られるだなんて…」
「サマンサ様、突然ご一緒させていただきたいと無理を言って申し訳ありません」
「アデルが領主会議の時に連れてきていただいてから数回食べに来ているんですよ」
「そうでしたか、少し狭くなりますがどうぞこちらへ…」
「本当にすいません。皆さんゆっくりされているところを…」
サマンサ様に促され席に着くと、同じ席にはサマンサ様のメイドの方、それから男性が一人、そしてこの“シャルル巻き”の店員と同じ服を着た女性が3人座っていました。
「サマンサ様、こちらの男性の方は…」
「本当はまだ内緒にしておきたかったのですが、こちらの方がこの“シャルル巻き”のお店を運営されているシャルル様です」
「えぇ~っ! あなたがシャルル様ですか~!?」
「アデルさん、声が大きいですよ」
「す…すいません、サマンサ様…」
「初めまして、シャルルといいます。何度もお店に来ていただいているようで嬉しいです。たくさん食べていってくださいね」
「は…い…、たくさん…食べます…」
「アデルったら…。私はジャトワン領領主エンターシャ・ジャトワンと申します。こちらは娘の…」
「ア…アデル・ジャトワンです。こんなに美味しいお菓子は初めて食べました。考えられた方にお会いできて光栄です」
その後、今回一緒に来ていたトリスお姉ちゃんとメンテールお姉ちゃん、エリオンお姉ちゃんを紹介し、エンターシャ様のメイドの方達も紹介していただけました。
その中の一人はメンテールお姉ちゃんと同じ土属性のカラードのようですが、不思議なことに紹介はアデル様がして、紹介されたヨルンというお姉さんはニッコリ頷かれるだけでした。
このシャルルという男性の側に座っている女性達はなんて艶やかで若々しいのかしら。
まだ10代くらいなの…? それにしても…。
「サマンサ様が羨ましいですわ。領都にこんなに美味しいお菓子のお店があって…」
「食べ過ぎないようにするのも大変なのですよ。エンターシャ様もお分かりのはずじゃ…」
「そ、そうですね。三日食べないと禁断症状が出てきますよ」
(ハハ…)
アデル様達はすぐにおかわりをして2個目を食べていました。
これだけ美味しそうに食べてもらえるなら僕も嬉しいかな…。
ただアデル様の側にいるヨルンお姉さんは最初に「お・い・し・い」と、ひとこと言ったっきり声を出さないのが気になりました。
「シャルル様、ヨルンが何か…?」
僕がヨルンお姉さんを見ていたのをアデル様が気付いて声を掛けてくれます。
「ううん、全然言葉を話さないんだなぁって思ってね」
「ヨルンは昔から滅多なことでは声を発しないのです」
「そうなんだ…」
ニッコリとはしていますが、時折声が出せないのが辛そうに見えます。
「ヨルンお姉さん、ちょっと質問してみても良いかな? 答えるのは指と首を使ってくれればいいから…」
ヨルンお姉さんはアデル様とエンターシャ様を一度見るとコクンと頷きます。
「一、声が出せないのは生まれつき?」
「二、いつからか声が出せなくなった?」
僕はそう聞きながら指を立てていきます。
そうするとヨルンお姉さんは指を二本立てました。
「そうなんだ…」
「じゃあ、昔は声を出せていたんだね」
僕がそう聞くとコクンと頷きます。
「じゃあ、次ね」
「一、声が出せなくなった原因がなんとなく分かっている」
「二、声を出せなくなった原因が分からない」
そうすると、指を一本立てました。
なるほどねぇ~。
「一、原因は病気?」
「二、原因は食べ物か何かを口にして…?」
「三、身体の外からの傷や衝撃?」
僕がそう聞くと指を二本立てました。
「そうなんだ、何かを食べてのどかどこかを痛めたんだね」
外傷なら水属性の【治療】魔法で感単に治っていたのだろうけど…。
「じゃあ、最後の質問」
「一、出来れば話せるようになりたい」
「二、別にこのままで良い…」
そう聞くと、ヨルンお姉さんは目に涙を溜めながら指を一本立てるのでした。
「「ヨルン…」」
「ごめんね。嫌なことを聞いちゃって」
ヨルンお姉さんは涙を拭いながら首をフルフルと左右に振っています。
「ヨルンお姉さん、良かったら少しブラウスのボタンを外してのどから鎖骨下ぐらいまでを見せてくれるかな?」
「「「シャルル様!?」」」
「シャルル様、どうかされたのですか?」
「うん、ちょっとヨルンお姉さんの声が出せないのが気になってね」
「サマンサ様、どういうことですか?」
「まぁまぁ、エンターシャ様、ここはシャルル様におまかせしましょう」
皆が驚いている間にヨルンお姉さんは僕が言ったようにブラウスのボタンを外し、少し上を向くようにしてのど元を僕に見せてきました。
「ありがとう、ヨルンお姉さん。ちょっとそのままね」
僕は前にオーリエを診たように“異常”箇所を考えながらヨルンお姉さんののどを見ます。
そうすると想像していた通り、のどの首の根元に近いところで光が点滅しているのが見えたのです。
「やっぱり…」
僕は席から立ちヨルンお姉さんの側に行くと、光が点滅している所に触れ優しく指を動かしながら異常が治るように念じていきます。
「「シャルル様…?」」
しばらくして指を離し、もう一度光が点滅していたところを見ると光は消えていました。
なんとか今回も異常を無くせたようです。
「ヨルンお姉さん、触ってごめんね。でも明日になったら声を出せるようになっているから…」
僕がそう言うとヨルンお姉さんは目を見開いて驚いていましたし、アデル様やエンターシャ様も驚いているようでした。
本当はすぐに声は出せるはずですが、お店の中で驚かれても困るので明日と言っておいたのです。
ヨルンお姉さんはコクリと一度頷くとブラウスのボタンを留め服を調えるのでした。
「そうだね、従業員の皆もマイヤお姉さんも頑張ってくれているよ」
「サマンサ様、領民への告知はどうするの?」
「大丈夫です。発売日が確定すればいつでも領都中に告知出来るようになっていますよ」
「そうなんだ…」
「グリシャやサンディ、ローザはこの間の休暇時にお土産で頂きましたが、ソニア達他の者は朝から並んで購入するそうです」
「シャルル様、その節はありがとうございます。いただいた“シャルルの風”のおかげで髪がしっとり・さらさらになりました」
サマンサ様の側にいたグリシャさんが頭を下げお礼を言っています。
「良かった。もっと早くあげられたら良かったのだけれど…」
「ソニアお姉さんにもあげられると良かったけれど、マイヤお姉さん達も国中に向けて生産しているし、出来るだけ領民と同じように購入してもらいたいからね」
「シャルル様のお考えは分かっておりますよ」
「それで…、そろそろ各領主の皆様へ前もってお譲りする分を届けておこうと思っているのです」
「そうだったね…」
「ローマン帝国では商人や商会を介さず、各領や都市に『シャルル魔道具販売所』という直販店を作ってもらって、そこでしか販売できないようにしてもらっているけれど、バルトリア王国ではどうなるんだろう?」
「そうでしたか…、私としたことが迂闊でした」
『シャルル魔道具販売所』を設けさせて領民に公平な価格で渡るように考えておられるのですね…。
「私が各領都に向かいますので、事前にお譲りする分を届ける際に『シャルル魔道具販売所』を設けることを説明してきます」
「そうしてもらった方が良いかな。それに各領の分は各領が受け取りに来ることになっているそうだよ」
エルスタイン領都の分はロクサーヌお姉さんが運んで来てくれているけれど…。
「なるほど…。さすがです、シャルル様」
各領内の流通も各領の判断に任せるという事ですね…。
「さてと…、僕達はこれからシャルル巻きのお店に行ってくるよ」
「えっ、シャルル巻きの…?」
「この間渡した“シャルルの渦”の感想も聞きたいし、その後、魔道具製作所に“シャルル巻き”を差し入れしようかと思ってね」
「あの“シャルルの渦”は凄い魔道具ですね。あれなら誰でも簡単に“ばななん”の飲み物を作れますし、他の調理にも使えるとソニアが喜んでいましたよ」
「シェリー様もすぐに発明品として登録して下さったのでびっくりしたよ」
「それは発明者と魔道具製作所の運営者が共にシャルル様だからです」
「“シャルルの渦”を見てケチをつける者はいませんよ。そんな者がいればシェリー様ならすぐに排除されますね」
「“ばななん”が名物のルージュ領では出来るだけ早い販売をお願いしたいところですよ」
「もちろん、ルージュ領都でも生産するつもりだけれど、“シャルルの渦”はシェリー様にもお願いして王都で他領分も作ってもらおうかなぁと思っているんだ」
「シャルル魔道具製作所では今は“シャルルの風”で手一杯だからね」
「それに容器の大きさにも違いがあって手間も掛かるから…」
「そうでしたか…」
「ダメだったかな…?」
「とんでもない。ルージュ領都でも作っていただけるだけで感謝しかありません。シャルル様の判断は間違っておられませんよ」
「それにシェリー様にお任せするのであれば私には何の異議もありません」
「ありがとう、サマンサ様。今度シェリー様に相談してみるよ」
「じゃあ、シャルル巻きのお店に行くけれど、サマンサ様も一緒に行く?」
「もちろん、お供いたします…」
XX XY
「お母様、早くぅ~」
「アデル急かさないで…、“シャルル巻き”は逃げませんよ」
アデルとヨルンが先に小走りでお店に向かいました。
今年に入ってから二度目ですが、相変わらずこの広場は人でいっぱいですね。
大樹の周りでたくさんの人が“シャルル巻き”を食べているのが見えます。
「「「いらっしゃいませ~」」」
「え~っとあなたは…たまに来られる…」
「いつものように6人なのですが席は空いていますか?」
「すいませ~ん。今はシャ…、奥の席も埋まっているのです」
「少しお待ちいただくか、お急ぎなら大樹の周りの空いているテーブル席でご自由に食べていただくことになりますが…」
「そうですか…?」
“シャルル巻き”を1個食べるだけなら外でもかまいませんが、せっかく来たのですから最低3個は食べたいですからね。
お母様も店内の方が安心でしょう。
「では、少し待ちますね。席が空けば呼んでくださいますか?」
「はい、かしこまりました」
お店の奥の方を見ると、確かに数人が座っていて、厨房にいる店員さんも数人が出てきていてお話をされているようです。
あの方達は…もしかして…。
「アデル、どうかしましたか?」
「あっ、お母様…、今は店内が満員でめずらしく奥の席も空いていないそうなのです」
「それは残念ですね」
「しばらく待って席が空けば呼んでいただけることになっているのですが、奥の席にいらっしゃるのはサマンサ様達じゃないでしょうか…」
「えっ、サマンサ様ですか!?」
アデルの言葉に店の奥を眺めると、確かにそれらしい人物といつもそばにおられるメイドさんが座っているのが見えます。
あの席に座ると店内が見渡せて良いけれど、店頭からも良く見えるのね。
「どうです? お母様…」
「アデルの言うようにサマンサ様の可能性が高いですね」
「ではご一緒させていただきましょうよ!」
「あの場所のテーブル席なら私達が一緒でも座れそうですよ」
「そうねぇ。でも何かご用事で集まっておられるとしたら…」
「では、店員さんにご迷惑じゃないか聞いてもらいましょう」
私が先ほどの店員さんに用件を伝え、奥の席でやり取りをされると、女性が立ち上がってこちらを伺いました。
「お母様、やっぱりサマンサ様のメイドの方がおられますよ」
「そうみたいですね」
その後少し何かを話し合われた後、店員さんがこちらに戻ってきて、ご一緒していただけるということでした。
「エンターシャ様とアデルさんがルージュ領都に来られるだなんて…」
「サマンサ様、突然ご一緒させていただきたいと無理を言って申し訳ありません」
「アデルが領主会議の時に連れてきていただいてから数回食べに来ているんですよ」
「そうでしたか、少し狭くなりますがどうぞこちらへ…」
「本当にすいません。皆さんゆっくりされているところを…」
サマンサ様に促され席に着くと、同じ席にはサマンサ様のメイドの方、それから男性が一人、そしてこの“シャルル巻き”の店員と同じ服を着た女性が3人座っていました。
「サマンサ様、こちらの男性の方は…」
「本当はまだ内緒にしておきたかったのですが、こちらの方がこの“シャルル巻き”のお店を運営されているシャルル様です」
「えぇ~っ! あなたがシャルル様ですか~!?」
「アデルさん、声が大きいですよ」
「す…すいません、サマンサ様…」
「初めまして、シャルルといいます。何度もお店に来ていただいているようで嬉しいです。たくさん食べていってくださいね」
「は…い…、たくさん…食べます…」
「アデルったら…。私はジャトワン領領主エンターシャ・ジャトワンと申します。こちらは娘の…」
「ア…アデル・ジャトワンです。こんなに美味しいお菓子は初めて食べました。考えられた方にお会いできて光栄です」
その後、今回一緒に来ていたトリスお姉ちゃんとメンテールお姉ちゃん、エリオンお姉ちゃんを紹介し、エンターシャ様のメイドの方達も紹介していただけました。
その中の一人はメンテールお姉ちゃんと同じ土属性のカラードのようですが、不思議なことに紹介はアデル様がして、紹介されたヨルンというお姉さんはニッコリ頷かれるだけでした。
このシャルルという男性の側に座っている女性達はなんて艶やかで若々しいのかしら。
まだ10代くらいなの…? それにしても…。
「サマンサ様が羨ましいですわ。領都にこんなに美味しいお菓子のお店があって…」
「食べ過ぎないようにするのも大変なのですよ。エンターシャ様もお分かりのはずじゃ…」
「そ、そうですね。三日食べないと禁断症状が出てきますよ」
(ハハ…)
アデル様達はすぐにおかわりをして2個目を食べていました。
これだけ美味しそうに食べてもらえるなら僕も嬉しいかな…。
ただアデル様の側にいるヨルンお姉さんは最初に「お・い・し・い」と、ひとこと言ったっきり声を出さないのが気になりました。
「シャルル様、ヨルンが何か…?」
僕がヨルンお姉さんを見ていたのをアデル様が気付いて声を掛けてくれます。
「ううん、全然言葉を話さないんだなぁって思ってね」
「ヨルンは昔から滅多なことでは声を発しないのです」
「そうなんだ…」
ニッコリとはしていますが、時折声が出せないのが辛そうに見えます。
「ヨルンお姉さん、ちょっと質問してみても良いかな? 答えるのは指と首を使ってくれればいいから…」
ヨルンお姉さんはアデル様とエンターシャ様を一度見るとコクンと頷きます。
「一、声が出せないのは生まれつき?」
「二、いつからか声が出せなくなった?」
僕はそう聞きながら指を立てていきます。
そうするとヨルンお姉さんは指を二本立てました。
「そうなんだ…」
「じゃあ、昔は声を出せていたんだね」
僕がそう聞くとコクンと頷きます。
「じゃあ、次ね」
「一、声が出せなくなった原因がなんとなく分かっている」
「二、声を出せなくなった原因が分からない」
そうすると、指を一本立てました。
なるほどねぇ~。
「一、原因は病気?」
「二、原因は食べ物か何かを口にして…?」
「三、身体の外からの傷や衝撃?」
僕がそう聞くと指を二本立てました。
「そうなんだ、何かを食べてのどかどこかを痛めたんだね」
外傷なら水属性の【治療】魔法で感単に治っていたのだろうけど…。
「じゃあ、最後の質問」
「一、出来れば話せるようになりたい」
「二、別にこのままで良い…」
そう聞くと、ヨルンお姉さんは目に涙を溜めながら指を一本立てるのでした。
「「ヨルン…」」
「ごめんね。嫌なことを聞いちゃって」
ヨルンお姉さんは涙を拭いながら首をフルフルと左右に振っています。
「ヨルンお姉さん、良かったら少しブラウスのボタンを外してのどから鎖骨下ぐらいまでを見せてくれるかな?」
「「「シャルル様!?」」」
「シャルル様、どうかされたのですか?」
「うん、ちょっとヨルンお姉さんの声が出せないのが気になってね」
「サマンサ様、どういうことですか?」
「まぁまぁ、エンターシャ様、ここはシャルル様におまかせしましょう」
皆が驚いている間にヨルンお姉さんは僕が言ったようにブラウスのボタンを外し、少し上を向くようにしてのど元を僕に見せてきました。
「ありがとう、ヨルンお姉さん。ちょっとそのままね」
僕は前にオーリエを診たように“異常”箇所を考えながらヨルンお姉さんののどを見ます。
そうすると想像していた通り、のどの首の根元に近いところで光が点滅しているのが見えたのです。
「やっぱり…」
僕は席から立ちヨルンお姉さんの側に行くと、光が点滅している所に触れ優しく指を動かしながら異常が治るように念じていきます。
「「シャルル様…?」」
しばらくして指を離し、もう一度光が点滅していたところを見ると光は消えていました。
なんとか今回も異常を無くせたようです。
「ヨルンお姉さん、触ってごめんね。でも明日になったら声を出せるようになっているから…」
僕がそう言うとヨルンお姉さんは目を見開いて驚いていましたし、アデル様やエンターシャ様も驚いているようでした。
本当はすぐに声は出せるはずですが、お店の中で驚かれても困るので明日と言っておいたのです。
ヨルンお姉さんはコクリと一度頷くとブラウスのボタンを留め服を調えるのでした。
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