DNAの改修者

kujibiki

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第337話 シャルルの渦

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「おはよう、マイヤお姉さんいる~?」

「シャ、シャルル様…、ケープノット領都におられなかったのですか?」

「ごめん、ごめん。マイヤお姉さんが登録用の製作に数日掛かるって言っていたからカイオスに行って、そのまま海まで足を延ばしてきたんだよ」

「海ですって? 確かあそこの海は良い噂を聞きませんよ」

「そうみたいだね。男性は攫われるから近付いちゃいけないと言われたよ」

「とりあえず何事も無くて良かったです。登録用の魔道具もお店で使われる為の物も準備が出来ていますよ」

「ありがとう。これから王都に行ってグレイス様にお会いしてくるよ」

「シャルル様、私は今度はいつルージュ領都へ行けば良いですか?」

「そうだった…。初回販売時の前後でお願いするよ。その時はまた迎えに来るからね」

「はいっ! 楽しみにしておきます。“シャルルの渦”も計画を立てて少しずつ生産しておきたいと思います」

「うん、よろしくね!」



僕達はマイヤお姉さんから“シャルルの渦”を受け取ると“転移の祠”に向かいます。

「さぁ、今度は王都に行くよ!」

「シャルル…、王都の“転移の祠”は…」

「うん、分かっているよ。まずはエルスタイン領都の“転移の祠”に戻って、魔動力車を降りて【転移】するから…」

王都の“転移の祠”はグレイス様の個人的な場所に繋がっていますが、エリシアもいるし、僕達だけなら許してもらえるでしょう。

「ちょっとした旅が出来て楽しかったですね」

「シャルルと一緒にいると世界が広がりますよ」

「オーリエとユナにも喜んでもらえて良かったよ。今度はエリシアの故郷だね」

「「楽しみです!」」



エルスタイン領都の“転移の祠”に戻ってくると、登録用の“シャルルの渦”本体と大小の容器を持って降り、続けて王都に【転移】をします。

「す、すごい…」
「小さな祠ね」

「昔の脱出用みたいよ…。シャルルに発掘してもらうまでは無かったんだから…」

通路を進み、階段を上がり王城内に入ると、出口は当初の衣裳部屋ではなく1階分下にある小さな小部屋に繋がっていて、そこから廊下に出るようになっていました。
さすがにいきなりグレイス様の私室には繋がらないように改修されていました。

「良かったよ。いきなりグレイス様の私室に繋がっていなくて…」

エリシアに付いてリビングまで行くと、ミレーヌお姉さんが慌てて駆け入ってきました。

「エリシア様、シャルル様、皆様…、突然どうされたのですか?」

「もちろんお母様に用があって来たのよ」

「……、グレイス様は執務室におられます」

「分かったわ」



コンコン、コン。

「はい…」

ガチャ…。
「グ…グレイス様、エリシア様が…」

「お母…」

「シャルル様~!」

バフッ…。

エリシアがグレイス様に挨拶をするよりも早く、グレイス様がエリシアを押しのけて僕に駆け寄り抱き締めてこられました。

「お、お母様、娘を弾き飛ばすなんて…」

「あら…、エリシアも来ていたのですか?」

「本当にひどいですよ」

「エリシアさん、私の所も同じですよ。私達よりシャルルが大切なのですから…」

「そうそう、私もお母様よりシャルルの方が大切だもの…」

「ユナさん、オーリエさん…」
「そ、そうね。わ…私もシャルルの方が大切だわ」

「理解した? エリシア…」
「あなたのようにいつも一緒にいられない分、私は扉が開いた瞬間にシャルル様の匂いを感じることが出来るのよ」

「それは…凄いと言うより怖いですよ」

「グ…グレイス様、もういいかな…」

「シャルル様、すいません。抱き締めたままでしたね。ではこちらへ…」

長椅子に案内されると、僕の横にグレイス様が密着して座り、向かい側にオーリエ、エリシア、ユナが座り、その後ろにトリスお姉ちゃんとキルシッカお姉ちゃんが立っています。

ホーリーお姉さんがお茶を用意してくれると、そのままグレイス様の後ろに控えられました。

「シャルル様、突然来ていただいたのは嬉しいですが何かご用ですか?」

「うん、新しい魔道具を作ったからグレイス様に登録をお願いしたくって…」

「新しい発明品という事ですか…」

グレイス様が驚いている間にトリスお姉ちゃんの方を見ると、持ってきていた“シャルルの渦”をテーブルの真ん中に並べてくれました。

「これが新しい魔道具…?」

「うん、“シャルルの渦”っていうんだよ」
「簡単に言えば調理用の魔道具かな…」
「グレイス様も飲んだことのある“ばななん”の飲み物を作る時などに使う物なんだよ」
「食材を細かく刻んだり混ぜるから、色々使えると思うんだ…」

「例えば…、ホーリーお姉さん、“あかべりー”とミルク、甘味料はあるかな?」

「す…すぐにご用意します…」

そう言ってホーリーお姉さんは部屋から飛び出していきました。



「これは凄いですね。実演はホーリーが戻ってこないとダメですが、“ばななん”の飲み物を知っているだけに間違いなく発明品ですよ。ただちに登録いたします」

「まだ販売日は決まっていないけれど、これは登録が完了したらグレイス様が使ってください」
「こっちにも“よーぐる”があれば“ふとう”と混ぜると美味しいかも…、“柔らかクリーム”と混ぜてもいいね」

「“よーぐる”はミルクがあれば作れるそうですから、またサマンサ様に教えていただきますよ」
「そうそう、その“ふとう”ですが、私にも『ムーラン・シャルル』の“ふとう”を譲っていただけないでしょうか」

チェスカだけが『ムーラン・シャルル』の“ふとう”を食べていたなんて…。

「グレイス様なら良いけれど、生産量のこともあるからムーランお姉さんに聞いてからにしてね」

「も、もちろんです。ありがとうございます」



ガチャ…。
「お…お待たせいたしました…」

「ありがとう、ホーリーお姉さん。じゃあ作ってみるね」

そう言ってから食材を大きい方の容器に入れ、【刻む】と【混ぜる】の両方のボタンを押します。
【刻む】ボタンには“刀”の模様が、【混ぜる】のボタンには“渦巻き”模様の印が付けられています。

ブシュ…、グシュ…。

“あかべりー”は元々小さくて柔らかいので調理は一瞬です。
今回はちょっと果肉が細かくなり過ぎないように早目に止めてみました。

「シャルル様、私が…」

トリスお姉ちゃんがそう言って僕から容器を受け取ると、人数分のコップに注いでいきます。

「綺麗ね。ミルクが少しピンク色になっているわ」

「“あかべりー”が刻まれているから良い匂いがします」

「さぁ、ユナもオーリエも飲んでみて…」
「グレイス様も…」

「そうですね。ではいただきます…」

ゴク…、ゴクッ、ゴクリ…。

「「「美味しい~~~!」」」
「“あかべりー”とミルクがこんなに合うなんて…」
「甘酸っぱくて何杯でも飲めそうです」
「「シャルル様、美味しいです」」

「これは文句のつけようがないですね。色々と試したくなりますよ」

「ミルクだけ飲むのは苦手だったのですが、これなら気になりませんよ」

グレイス様はもちろん、ホーリーお姉さんが予想以上に喜んでくれていました。

「シャルル様、すぐに登録させてマイヤさんに登録証を送っておきますね」

「ありがとうございます」

「それでシャルル様、今日はこちらに泊まって下さるのですよね? ぜひ私と一緒にお願いしますね、ねっ?」

「う、うん…」

「嬉しいです! あぁ、今日はなんて良い日なのかしら…」
「今日の仕事はもうおしまいよ!」

私の部屋の浴場もシャルル様の岩風呂のように横になって洗って差し上げられるように改修しておいて良かったです。

「お…お母様…。仕方がないですねぇ」
「じゃあ、せっかくですから今日はオーリエさんとユナさんと一緒に寝ましょうか」

「「楽しそうですね」」
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