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第297話 クリスの面接
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「すごいよね~、このお風呂…」
「本当ねぇ~」
「癒されますぅ~」
「まるで夢のようね…」
まだお店は開店はしていないけれど、毎日お店の準備をしながら“シャルル巻き”を作って練習しています。
先日、このお店兼住居に引っ越ししてからようやく慣れてきたところです。
「みんな知ってた?」
「私達の選んだベッド、実は1人用では最高の物だったんだよ」
「え~っ、そうだったの?」
「シャルル様がまとめてお支払いされていたから知らなかったよ」
「キオがあんなこと言うから…」
「ひどいよヒナ…、皆もあれが良いって言ってたじゃない…」
「この建物に私達の家財を含めると、私達全員が一生掛かっても払える金額じゃないわよね」
「この間、ルカ姉さん達が話しているのを聞いたけれど、私達にお給金もくださるそうなのよ」
「シャルル様の為に一生懸命に働かないとね」
「「「おぉ~~~っ!」」」
「ジル達、まだ入っているの~。早く代わってねぇ~」
「「「「は~い」」」」
「こんな素敵なお風呂に毎日入れるなんて…」
シャルル様が説明されたように、私達の身長では浴槽の縁から流れ入ってくるお湯が頭の後ろに掛かってくるけれど、窓を開けて外を見ながら入っていると島にいた時のような開放感があって嬉しくなります。
「島ではお湯を浴びるのも面倒だわって言っていたエマが毎日お風呂に入るようになるだなんて…ね」
「ニトも同じじゃない…。私はシャルル様の為に身体を綺麗にしているのよ。シャルル様も毎日清潔にって言っておられたでしょう」
なんだか毎日お風呂に入って泡を使って身体を洗っていると、少しずつ肌も綺麗になってきたような気がします。
「はいはい…」
「身体を綺麗にしてからじゃないとあのフカフカのベッドには入りたくないものね」
「ルカの言う通りね」
初めての私の部屋、私だけのベッド…、汚したくないもの…。
「もしかしたらサマンサ様の迎賓館のベッドよりフカフカかもね…」
「それにしてもシャルル様はいつ開店されるおつもりなんでしょう」
「エマ、それはやっぱりあの制服が出来てからじゃない?」
シャルル様に連れて行かれたクーシアさんという方のお店で裸になって採寸されたのは驚きましたが、メイドの皆さんが着ておられるような服になると聞くと楽しみで仕方がありません。
「クーシアさんてシャルル様と同じ日に生まれたそうよ。私達より年下なのにすごいわね」
日常の服も同じクーシアさんのお店でいっぱい買っていただきました。
脚を出したり、肩を出したり、おへそが見えるようになっている変わった服ばかりでしたがとっても着心地が良い物ばかりでした。
「まさか“転移の祠”を使ってシャルル様が住んでおられる他国の領都にまで行けるなんてね」
「ニト、驚くところはそこじゃないですよ。シャルル様は【転移】を発動されたのですよ」
男性なのに魔力をお持ちだという事を教えていただきました。
「本当ね。シャルル様なら何でも出来そうで気が付かなかったよ」
浴場から脱衣場に出ると、そこは4人が同時に身支度出来るぐらい広く、洗面器が2つもありました。
それにシャルル様が発明された“シャルルの風”という魔道具が2個も備え付けてあるのです。
タオルで拭いきれない濡れた髪も熱風と冷風ですぐにしっとり・さらさらになるのです。
「こんな魔道具まで使わせてもらっていいのかしら…」
「ルカ、メルモアさんも言っていたじゃない。私達がお店を始めると、私達がシャルル様の顔になるのよ。出来る限り綺麗に身だしなみを整えて働くことが大切なのよ」
「そ、そうね…。綺麗になってシャルル様に喜んでもらわないとね」
私達は髪を乾かすと、先にお風呂から上がったみんながいるリビングへ向かうのでした。
「本当に大きな家ね…」
こうして皆と一緒に住めることに感謝します。
「シャルル様、私達頑張りますから…(ボソッ)」
XX XY
「エマ、ニト、ルカ、おはよう」
「あっ、シャルル様、おはようございます。ルージュ領都におられたのですか?」
「ううん、今エルスタイン領都から来たところ…。今日はねこちらのネンネお姉さん達を連れてきたんだよ」
クリスお姉さんも僕が何をしているのか知りたいということで付いてきています。
「ネンネです」
「イリナです」
「パスチェです」
「「「よろしくお願いしま~す」」」
「ク…クリスです…」
「シャ…ルル様そちらの方々は…?」
「うん、僕の国の王都で“一口かすとら”っていうお菓子屋さんをしているお姉さん達なんだ」
「クリスお姉さんはただ付いてきただけだけど…」
「たまたま僕のところに会いに来ていてね、少しの間だけ接客などを手伝ってもらおうと思っているんだよ」
「でもこのお店はエマ達に任せているんだから、ネンネお姉さん達が年上でも気にしないようにね」
「開店するときっと混雑すると思うから、ネンネお姉さん達の接客の仕方など学ぶところも多いはずだよ」
「「「はい!」」」
こんなに広いお店が混雑する?
どれだけの人が来るのでしょうか…。
「ネンネお姉さん達はこちらのエマ、ニト、ルカに色々と教えてあげてくれると嬉しいかな」
「上に来客用の部屋も用意してあるから…」
「「「はいっ」」」
「シャルル様のお店を手伝わせていただくなんて感激です」
「まさか“シャルル巻き”のお店だなんて…」
「エマさん達が羨ましいよ~」
「エマ達、お店用の制服が出来次第開店するからね」
「「「はい!」」」
「それから、開店初日は“シャルル巻き”70本、560人分でいくから…」
「2日目からは100本ぐらいにして様子を見よう…」
「は…い…? シャルル様、今なんと…」
「うん、“シャルル巻き”70本だよ」
「もちろん、一日でだよ。前日からの下準備分も含めてだから…」
「「「……」」」
「あれ…?」
これは開店前日からフランお姉ちゃんに来てもらって最終指導してもらわないといけないようです。
XX XY
「トリスお姉ちゃん、キルシッカお姉ちゃん運転お疲れ様」
僕達はネンネお姉さん達をルージュ領都に残し、エルスタイン領都の屋敷に戻ってきました。
「キルシッカお姉ちゃん、お店はどうだった?」
「はい、シャルル様の考えられたとおり出来ていると思います。テーブルや椅子も配置されていてお店らしくなっていましたね」
「なんだかエマさん達の身だしなみも良くなって綺麗になっていましたよ」
「うん、元が綺麗だからね」
島での生活がどんなものだったかは聞いていませんが、皆ちょっと細身です。
今はちゃんと3食食べて毎日お風呂に入ってゆっくり寝るように言ってありますので、オーリエのように異常がなければこれから女性らしい体型になっていくでしょう。
「クリスお姉さんもバルトリア王国に行った感想は?」
「あの…、その…、言葉が見つかりません」
ネンネさん達にちょっと手伝って欲しいとおっしゃるからどんなことかと思っていれば、“転移の祠”を使ってバルトリア王国まで行かれるなんて…。
“転移の祠”を見たのも初めてですし、バルトリア王国のことも名称しか知りませんでした。
シャルル様のされていることはちんけな商人とは世界が違いすぎます。
あんな馬鹿な商人の側で人生を無駄にしていただなんて…。
本当にヌエットさんの言う通りですね。
「シャルル様が私に言っておられた運送と言うのは…」
「今の所は本当に計画段階なんだ」
「もしかしたら魔道具を運んでもらうことになるかもしれないし、バルトリア王国から港町に届いたものを運んでもらうかもしれない…」
「それに僕はまだ各領都とそれを繋ぐ都市や町にしか行ったことが無いんだよ」
「各領都の向こう側に何があるかも知らないから、旅をしながら美味しい物などを探してもらってもいいかなと思っているんだ」
「シャルル商会ですよ!」
「えっ!?」
「トリスお姉ちゃんだから気が早いって…」
「シャルル様は商会を立ち上げようとされているのですか!?」
「まぁ、近いものにはなるのかなぁ」
「シャルル様~、お戻りでしたか~!」
「どうしたのヌエットお姉ちゃん」
「ルーシャ様がお呼びです。そちらのクリスさんと一緒に執務室にお願いします」
「うん、分かったよ」
そういえば昨日ネンネお姉さん達も紹介していなかったな…。
コンコン、コン。
「はい…」
ガチャ…。
「シャルル様、さぁどうぞ。ルーシャ様もお待ちです…」
「お母さん、遅くなってごめんね」
『かまいませんよ。シャルルがちょうど屋敷に戻ってきていたところで良かったです』
僕がお母さんの座っている向かい側に座ると、一緒に来ていたクリスお姉さんが緊張しながら挨拶をしていました。
『あなたが昨日こちらに来られたクリスさんですか…』
シエラお姉ちゃんも僕達にお茶を出すとお母さんに勧められ横に座っています。
「ルーシャ様、こちらの方は王都の“一口かすとら”のお店で見た頭のおかしい商人のメイドだったそうです」
「……」
(頭のおかしいって…、まぁ確かにそうだけど…)
こちらのメイドの方々のドラさんに対する印象は最悪のようです。
『そう言われると、どこかで見たことがあると思っていたのよね』
『その“一口かすとら”の店員さんも一緒に来たと聞いたけれど…』
「うん、今はルージュ領都のお店で短期間手伝ってもらっているんだよ」
『そうなの…』
なんだかまたもやシャルルの為に周りが動いているようね。
『それでクリスさんはどうしてこんなところまで来たのかしら…?』
「あの商人にあきれ果てた時にシャルル様と皆さんの関係を思い出しシャルル様に仕えたいと思ってやってきました」
「“ふとう”の町で“一口かすとら”の店員さん達に会うまではシャルル様の所在を知らなかったのですが、運よくムーランさんとも知り合えこうして一緒に来ることが出来ました」
「“一口かすとら”のお姉さん達はムーランお姉さんのところで収穫のお手伝いをしていたそうだよ」
『まぁ、あの娘たちはまったく問題はありませんが…』
『あなたがここにいることであの者から厄介ごとが起こるんじゃないか心配です』
「そ、それは…、大丈夫だと思います」
「すでに新しい護衛もいるようですし、あの商人はエルスタイン領は穀倉地帯だからと興味が無さそうでした」
「それよりも…、あの者が“シャルルの風”の模倣品を作ろうと言い出したので嫌気がさして我慢できずに辞めてきたのです」
「あのクズがそんなことを…」
「まぁまぁ、シエラお姉ちゃん落ち着いて…」
『商人なら発明品の模倣がどれだけ重罪か分かっているでしょうに…』
『それに本当に模倣品を作って売っているのをグレイス様に知られれば本人はもとより商会は潰されるでしょうね』
グレイス様はシャルルに害を成す者には容赦されないでしょう。
『まぁ、いいわ。それでシャルルはどうするつもりなの?』
「それがねぇ、まだどうなるか分からないけれど良かったら運送をしてもらおうかと思っているんだよ」
「いずれ領内や領間、国同士の流通が大切になってくると思うんだよ」
「今はロクサーヌお姉さんがケープノット領都から“シャルルの風”を運んで来てくれているだけだけれど、エルスタイン領都から各都市に物を運ぶことがあると思うんだ…」
『そ、そうね。シャルルの言う事はもっともだわ』
「屋敷のお姉ちゃん達は自由に動けないから、もしクリスお姉さんがそう言った仕事でも良いなら任せても良いかなぁと思っているんだよ」
「……」
『どうですかクリスさん? シャルルはそう言っていますが…』
「……はい、シャルル様のされようとしていることは私の頭ではとても考えられることではありません」
「しかし、私が少しでもシャルル様のお役に立てるというのなら、これほど信頼できる主人はいないと思います」
シエラお姉ちゃんがクリスお姉さんの言葉を聞いてウンウンと頷いています。
『分かりました。クリスさんのことはシャルルに任せます』
『屋敷のメイドとは別の立場になりますから、雇用についてはシャルルと決めてください』
『ですからシャルルがクリスさんを辞めさせるのも自由です』
『しかし、先ほども言いましたがあなたの存在がシャルルの害になるようでしたら、私があなたをエルスタイン領から追放します』
『それからこの屋敷にいる間は一般のメイドと同じ扱いにします』
『いいですね』
「は、はいっ!」
「シャ、シャルル様、何でもしますのでよろしくお願いします」
「う、うん…」
お母さんの許可は出たけれど大変なことになってきちゃったなぁ~。
『それからシャルル、今度サマンサ様の所に行く時に“シャルルの風”を3個持って行って欲しいの。シェリー様がすでに登録されているはずだから他の領主様用にね』
「そうだったね。さすがお母さん、気付かなかったよ」
「ルーシャ様…」
『クリスさん、少し席を外してもらえますか?』
「は、はい…」
お母さんがそう言うと、クリスお姉さんが執務室から出ていきました。
「どうしたのお母さん?」
『ええ、シャルルからお願いされていた黒い石が研磨、整形されて戻ってきましたから渡そうと思って…』
「あっ…、やっとできたんだね」
「シャルル様、こちらです…」
シエラお姉ちゃんが布を掛けられた石をテーブルの目の前においてくれました。
すぐに布を取ると、白い石の時のように色味はほとんどなくなり透明の綺麗な玉になっています。
「白い石と同じくらいの大きさだね」
僕がそう言いながら触ると内部に黒光りする点が現れ、一瞬で透明な石を黒い光で満たしてしまうと、今度は時が戻るかのように小さな点に戻ってから霧散しました。
『なっ、何だったの今のは…』
「白い石の時とは違う反応でしたね…」
「……」
実は光が「待ってて…ますたー」と言ったような気がしたのですが、お母さん達には何も言いませんでした。
“ますたー”ってなんだろう?
「本当ねぇ~」
「癒されますぅ~」
「まるで夢のようね…」
まだお店は開店はしていないけれど、毎日お店の準備をしながら“シャルル巻き”を作って練習しています。
先日、このお店兼住居に引っ越ししてからようやく慣れてきたところです。
「みんな知ってた?」
「私達の選んだベッド、実は1人用では最高の物だったんだよ」
「え~っ、そうだったの?」
「シャルル様がまとめてお支払いされていたから知らなかったよ」
「キオがあんなこと言うから…」
「ひどいよヒナ…、皆もあれが良いって言ってたじゃない…」
「この建物に私達の家財を含めると、私達全員が一生掛かっても払える金額じゃないわよね」
「この間、ルカ姉さん達が話しているのを聞いたけれど、私達にお給金もくださるそうなのよ」
「シャルル様の為に一生懸命に働かないとね」
「「「おぉ~~~っ!」」」
「ジル達、まだ入っているの~。早く代わってねぇ~」
「「「「は~い」」」」
「こんな素敵なお風呂に毎日入れるなんて…」
シャルル様が説明されたように、私達の身長では浴槽の縁から流れ入ってくるお湯が頭の後ろに掛かってくるけれど、窓を開けて外を見ながら入っていると島にいた時のような開放感があって嬉しくなります。
「島ではお湯を浴びるのも面倒だわって言っていたエマが毎日お風呂に入るようになるだなんて…ね」
「ニトも同じじゃない…。私はシャルル様の為に身体を綺麗にしているのよ。シャルル様も毎日清潔にって言っておられたでしょう」
なんだか毎日お風呂に入って泡を使って身体を洗っていると、少しずつ肌も綺麗になってきたような気がします。
「はいはい…」
「身体を綺麗にしてからじゃないとあのフカフカのベッドには入りたくないものね」
「ルカの言う通りね」
初めての私の部屋、私だけのベッド…、汚したくないもの…。
「もしかしたらサマンサ様の迎賓館のベッドよりフカフカかもね…」
「それにしてもシャルル様はいつ開店されるおつもりなんでしょう」
「エマ、それはやっぱりあの制服が出来てからじゃない?」
シャルル様に連れて行かれたクーシアさんという方のお店で裸になって採寸されたのは驚きましたが、メイドの皆さんが着ておられるような服になると聞くと楽しみで仕方がありません。
「クーシアさんてシャルル様と同じ日に生まれたそうよ。私達より年下なのにすごいわね」
日常の服も同じクーシアさんのお店でいっぱい買っていただきました。
脚を出したり、肩を出したり、おへそが見えるようになっている変わった服ばかりでしたがとっても着心地が良い物ばかりでした。
「まさか“転移の祠”を使ってシャルル様が住んでおられる他国の領都にまで行けるなんてね」
「ニト、驚くところはそこじゃないですよ。シャルル様は【転移】を発動されたのですよ」
男性なのに魔力をお持ちだという事を教えていただきました。
「本当ね。シャルル様なら何でも出来そうで気が付かなかったよ」
浴場から脱衣場に出ると、そこは4人が同時に身支度出来るぐらい広く、洗面器が2つもありました。
それにシャルル様が発明された“シャルルの風”という魔道具が2個も備え付けてあるのです。
タオルで拭いきれない濡れた髪も熱風と冷風ですぐにしっとり・さらさらになるのです。
「こんな魔道具まで使わせてもらっていいのかしら…」
「ルカ、メルモアさんも言っていたじゃない。私達がお店を始めると、私達がシャルル様の顔になるのよ。出来る限り綺麗に身だしなみを整えて働くことが大切なのよ」
「そ、そうね…。綺麗になってシャルル様に喜んでもらわないとね」
私達は髪を乾かすと、先にお風呂から上がったみんながいるリビングへ向かうのでした。
「本当に大きな家ね…」
こうして皆と一緒に住めることに感謝します。
「シャルル様、私達頑張りますから…(ボソッ)」
XX XY
「エマ、ニト、ルカ、おはよう」
「あっ、シャルル様、おはようございます。ルージュ領都におられたのですか?」
「ううん、今エルスタイン領都から来たところ…。今日はねこちらのネンネお姉さん達を連れてきたんだよ」
クリスお姉さんも僕が何をしているのか知りたいということで付いてきています。
「ネンネです」
「イリナです」
「パスチェです」
「「「よろしくお願いしま~す」」」
「ク…クリスです…」
「シャ…ルル様そちらの方々は…?」
「うん、僕の国の王都で“一口かすとら”っていうお菓子屋さんをしているお姉さん達なんだ」
「クリスお姉さんはただ付いてきただけだけど…」
「たまたま僕のところに会いに来ていてね、少しの間だけ接客などを手伝ってもらおうと思っているんだよ」
「でもこのお店はエマ達に任せているんだから、ネンネお姉さん達が年上でも気にしないようにね」
「開店するときっと混雑すると思うから、ネンネお姉さん達の接客の仕方など学ぶところも多いはずだよ」
「「「はい!」」」
こんなに広いお店が混雑する?
どれだけの人が来るのでしょうか…。
「ネンネお姉さん達はこちらのエマ、ニト、ルカに色々と教えてあげてくれると嬉しいかな」
「上に来客用の部屋も用意してあるから…」
「「「はいっ」」」
「シャルル様のお店を手伝わせていただくなんて感激です」
「まさか“シャルル巻き”のお店だなんて…」
「エマさん達が羨ましいよ~」
「エマ達、お店用の制服が出来次第開店するからね」
「「「はい!」」」
「それから、開店初日は“シャルル巻き”70本、560人分でいくから…」
「2日目からは100本ぐらいにして様子を見よう…」
「は…い…? シャルル様、今なんと…」
「うん、“シャルル巻き”70本だよ」
「もちろん、一日でだよ。前日からの下準備分も含めてだから…」
「「「……」」」
「あれ…?」
これは開店前日からフランお姉ちゃんに来てもらって最終指導してもらわないといけないようです。
XX XY
「トリスお姉ちゃん、キルシッカお姉ちゃん運転お疲れ様」
僕達はネンネお姉さん達をルージュ領都に残し、エルスタイン領都の屋敷に戻ってきました。
「キルシッカお姉ちゃん、お店はどうだった?」
「はい、シャルル様の考えられたとおり出来ていると思います。テーブルや椅子も配置されていてお店らしくなっていましたね」
「なんだかエマさん達の身だしなみも良くなって綺麗になっていましたよ」
「うん、元が綺麗だからね」
島での生活がどんなものだったかは聞いていませんが、皆ちょっと細身です。
今はちゃんと3食食べて毎日お風呂に入ってゆっくり寝るように言ってありますので、オーリエのように異常がなければこれから女性らしい体型になっていくでしょう。
「クリスお姉さんもバルトリア王国に行った感想は?」
「あの…、その…、言葉が見つかりません」
ネンネさん達にちょっと手伝って欲しいとおっしゃるからどんなことかと思っていれば、“転移の祠”を使ってバルトリア王国まで行かれるなんて…。
“転移の祠”を見たのも初めてですし、バルトリア王国のことも名称しか知りませんでした。
シャルル様のされていることはちんけな商人とは世界が違いすぎます。
あんな馬鹿な商人の側で人生を無駄にしていただなんて…。
本当にヌエットさんの言う通りですね。
「シャルル様が私に言っておられた運送と言うのは…」
「今の所は本当に計画段階なんだ」
「もしかしたら魔道具を運んでもらうことになるかもしれないし、バルトリア王国から港町に届いたものを運んでもらうかもしれない…」
「それに僕はまだ各領都とそれを繋ぐ都市や町にしか行ったことが無いんだよ」
「各領都の向こう側に何があるかも知らないから、旅をしながら美味しい物などを探してもらってもいいかなと思っているんだ」
「シャルル商会ですよ!」
「えっ!?」
「トリスお姉ちゃんだから気が早いって…」
「シャルル様は商会を立ち上げようとされているのですか!?」
「まぁ、近いものにはなるのかなぁ」
「シャルル様~、お戻りでしたか~!」
「どうしたのヌエットお姉ちゃん」
「ルーシャ様がお呼びです。そちらのクリスさんと一緒に執務室にお願いします」
「うん、分かったよ」
そういえば昨日ネンネお姉さん達も紹介していなかったな…。
コンコン、コン。
「はい…」
ガチャ…。
「シャルル様、さぁどうぞ。ルーシャ様もお待ちです…」
「お母さん、遅くなってごめんね」
『かまいませんよ。シャルルがちょうど屋敷に戻ってきていたところで良かったです』
僕がお母さんの座っている向かい側に座ると、一緒に来ていたクリスお姉さんが緊張しながら挨拶をしていました。
『あなたが昨日こちらに来られたクリスさんですか…』
シエラお姉ちゃんも僕達にお茶を出すとお母さんに勧められ横に座っています。
「ルーシャ様、こちらの方は王都の“一口かすとら”のお店で見た頭のおかしい商人のメイドだったそうです」
「……」
(頭のおかしいって…、まぁ確かにそうだけど…)
こちらのメイドの方々のドラさんに対する印象は最悪のようです。
『そう言われると、どこかで見たことがあると思っていたのよね』
『その“一口かすとら”の店員さんも一緒に来たと聞いたけれど…』
「うん、今はルージュ領都のお店で短期間手伝ってもらっているんだよ」
『そうなの…』
なんだかまたもやシャルルの為に周りが動いているようね。
『それでクリスさんはどうしてこんなところまで来たのかしら…?』
「あの商人にあきれ果てた時にシャルル様と皆さんの関係を思い出しシャルル様に仕えたいと思ってやってきました」
「“ふとう”の町で“一口かすとら”の店員さん達に会うまではシャルル様の所在を知らなかったのですが、運よくムーランさんとも知り合えこうして一緒に来ることが出来ました」
「“一口かすとら”のお姉さん達はムーランお姉さんのところで収穫のお手伝いをしていたそうだよ」
『まぁ、あの娘たちはまったく問題はありませんが…』
『あなたがここにいることであの者から厄介ごとが起こるんじゃないか心配です』
「そ、それは…、大丈夫だと思います」
「すでに新しい護衛もいるようですし、あの商人はエルスタイン領は穀倉地帯だからと興味が無さそうでした」
「それよりも…、あの者が“シャルルの風”の模倣品を作ろうと言い出したので嫌気がさして我慢できずに辞めてきたのです」
「あのクズがそんなことを…」
「まぁまぁ、シエラお姉ちゃん落ち着いて…」
『商人なら発明品の模倣がどれだけ重罪か分かっているでしょうに…』
『それに本当に模倣品を作って売っているのをグレイス様に知られれば本人はもとより商会は潰されるでしょうね』
グレイス様はシャルルに害を成す者には容赦されないでしょう。
『まぁ、いいわ。それでシャルルはどうするつもりなの?』
「それがねぇ、まだどうなるか分からないけれど良かったら運送をしてもらおうかと思っているんだよ」
「いずれ領内や領間、国同士の流通が大切になってくると思うんだよ」
「今はロクサーヌお姉さんがケープノット領都から“シャルルの風”を運んで来てくれているだけだけれど、エルスタイン領都から各都市に物を運ぶことがあると思うんだ…」
『そ、そうね。シャルルの言う事はもっともだわ』
「屋敷のお姉ちゃん達は自由に動けないから、もしクリスお姉さんがそう言った仕事でも良いなら任せても良いかなぁと思っているんだよ」
「……」
『どうですかクリスさん? シャルルはそう言っていますが…』
「……はい、シャルル様のされようとしていることは私の頭ではとても考えられることではありません」
「しかし、私が少しでもシャルル様のお役に立てるというのなら、これほど信頼できる主人はいないと思います」
シエラお姉ちゃんがクリスお姉さんの言葉を聞いてウンウンと頷いています。
『分かりました。クリスさんのことはシャルルに任せます』
『屋敷のメイドとは別の立場になりますから、雇用についてはシャルルと決めてください』
『ですからシャルルがクリスさんを辞めさせるのも自由です』
『しかし、先ほども言いましたがあなたの存在がシャルルの害になるようでしたら、私があなたをエルスタイン領から追放します』
『それからこの屋敷にいる間は一般のメイドと同じ扱いにします』
『いいですね』
「は、はいっ!」
「シャ、シャルル様、何でもしますのでよろしくお願いします」
「う、うん…」
お母さんの許可は出たけれど大変なことになってきちゃったなぁ~。
『それからシャルル、今度サマンサ様の所に行く時に“シャルルの風”を3個持って行って欲しいの。シェリー様がすでに登録されているはずだから他の領主様用にね』
「そうだったね。さすがお母さん、気付かなかったよ」
「ルーシャ様…」
『クリスさん、少し席を外してもらえますか?』
「は、はい…」
お母さんがそう言うと、クリスお姉さんが執務室から出ていきました。
「どうしたのお母さん?」
『ええ、シャルルからお願いされていた黒い石が研磨、整形されて戻ってきましたから渡そうと思って…』
「あっ…、やっとできたんだね」
「シャルル様、こちらです…」
シエラお姉ちゃんが布を掛けられた石をテーブルの目の前においてくれました。
すぐに布を取ると、白い石の時のように色味はほとんどなくなり透明の綺麗な玉になっています。
「白い石と同じくらいの大きさだね」
僕がそう言いながら触ると内部に黒光りする点が現れ、一瞬で透明な石を黒い光で満たしてしまうと、今度は時が戻るかのように小さな点に戻ってから霧散しました。
『なっ、何だったの今のは…』
「白い石の時とは違う反応でしたね…」
「……」
実は光が「待ってて…ますたー」と言ったような気がしたのですが、お母さん達には何も言いませんでした。
“ますたー”ってなんだろう?
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