199 / 567
第199話 タイロンの収穫祭6
しおりを挟む
「では、次は『綱引き』ですね。その後の最後の競技は男性しか参加できませんので私達にはこれが最後の競技になります」
「1チーム6人ですから私達全員で参加できますよ」
「シャルル様と一緒に参加出来て嬉しいです」
「これは何としても1番を取らなければなりませんね」
お姉ちゃん達の気合が入る中、僕たちは競技の参加受付をすまし普通の広場に向かいます。
広場にはすでに長くて太い綱がいくつか並べてありました。
「もしかしてこれを…?」
「そうみたいです。引き合ってこちらに引っ張り込めたら勝ちですね」
「純粋な力比べなんですね」
周りを見ると、待ってましたと言わんばかりに体格の良い女性が集まってきています。
「なんだか、お揃いのチームシャツって格好いいね」
お揃いのシャツを着ているのはこの競技に出る為だったのか…。
「本当ですね。迫力があります」
「シャルル様、エルスタイン領都に戻ったらクーシアさんに作ってもらいましょうよ」
「それは良いねぇ」
「シャルル様とお揃いのシャツが着れるなんて幸せですよ」
「そんな大袈裟な…」
大体いつ着るんだろう…。
「では、いよいよ『女性騎馬戦』に続く人気の『綱引き』の始まりです!」
「まずは対戦相手を決めますので、代表者様はこちらへ来てクジを引いてください」
「シャルル様、私が引いてきますね」と、ヌエットお姉ちゃんが進行役のお姉さんのところへ行きました。
「シャルル様、どうされますか? なんだか勝手の分からない競技ですが…」
「そうだね。引っ張り合うのは分かるけれど…」
「一気に全チームが競技をしますから、他チームを見ることができませんね」
「とりあえず、引っ張られても動かないように考えようか…」
「順番は前から、トリスお姉ちゃん、ヌエットお姉ちゃん、エリシア、メルモアお姉ちゃん、シエラお姉ちゃん、そして僕が一番端にしよう」
「「「「はい」」」」
XX XY
「いよいよ『綱引き』ですね。ルーシャ様のチームはすべての競技で入賞されていますよ」
『シャルルがいますものね。タイロンの領民の方には今回は運が悪かったと思っていただくしかありませんね』
「ルーシャ様、とても気楽にご覧になられていますね」
『おそらくこの『綱引き』もシャルル達が1番ですよ』
『リリアンに先に結果を言ってしまうのは申し訳ありませんが…』
「そ、そんなこと…」
「この『綱引き』は収穫祭だけじゃなく、日ごろから領民たちの間で行われていて、専用のチームがいくつもあるんですよ」
『あ~、それでいくつかのチームはお揃いのシャツを着ているのね』
「ですから、そう簡単に勝てるわけが…」
XX XY
「シャルル様~、クジを引いてきました。私達の対戦相手はあちらの方達です」
ヌエットお姉ちゃんの示した先を見ると、赤色のお揃いのシャツを着た体格の良いお姉さん達がすでに綱のところに立っていました。
「赤色だけになんだか威圧感がありますね」
「胸の大きさなら私の圧勝なんですが…」
「メルモアさん、冗談言っていないで…、皆さんシエラさんぐらいの身長はありますよ」
「そうですよ。魔力の勝負じゃないんですよ」
「そうですよ、メルモア。トリスの言う通りです。どうみても筋力では向こうが上でしょう」
「そ、そんなぁ、シエラ先輩、私達が負けるのですか…」
「トリスお姉ちゃんもヌエットお姉ちゃんも大丈夫だよ。僕が引っ張られないようにするから相手の力が抜けた時にお姉ちゃん達が一気に引っ張ってよ」
「「シャルル様~」」
「そ、そうよ、シャルル様がおっしゃったようにすればきっと勝てるわ」
「では、『綱引き』の1回戦を始めます」
「勝った方がその場に残り、負けた方は退場となります」
「一本の綱に一人の審査員がいますので、みなさん思い切って引っ張り合ってください」
「では全チームの皆さん、位置について綱を持ってください」
隣で戦うチームを見ると、綱の端にいる人は腰から肩に綱を引掛けて動かないようにしていました。
僕も見よう見まねでそのようにして準備をします。
「では、1回戦目を始めます」
パァーン!!
開始の合図と同時に相手チームが一気に腰を下しました。
あっと思った時には、ズルズルとかなり引っ張られてしまっています。
あんな引っ張り方なのか~。
僕も意表を突かれてしまいました。
『やー、せい…、やー、せい…、やー、せい…』
相手チームが呼吸を合わせ、上下運動をしながら脚を突っ張って引っ張っていきます。
「シャルル様~!」
僕の目の前にいるシエラお姉ちゃんが少し振り返り、僕に指示を仰いでいるようでした。
「大丈夫だよ、シエラお姉ちゃん。力を入れて元の位置に戻すから体勢を整えて…」
「お姉ちゃん達、引っ張るよ~!」
「「「「はいっ!」」」」
(えっ!? あの体勢から私達が引き戻される…?)
相手側の前3人は、出足の攻勢に足をすべらせて踏ん張ってもいないのに…。
いくら足が速いシャルル様でも、こんなに力があるわけが…。
そうすると、シャルル様の前にいる二人にこんな力が…?
『やー、せい…、やー、せい…、やー、せい…』
掛け声をかけて、力を合わせてもビクともしなくなりました。
反対にゆっくりと私達が引き込まれています。
「お姉ちゃん達、力の入れ方を合わせて~!」
「「「「「はいっ」」」」」
『シャ、ルル…、シャ、ルル…、シャ、ルル…』
「えっ…」
少し恥ずかしですが、お姉ちゃん達の力が入るなら仕方がありません。
よし、お姉ちゃん達の体勢も元に戻ったし、僕も力を入れていこう。
(おいおい…、引き込まれているぞ)
急に相手の引き方が揃ってきた…わ。
でも、引き方が揃ったぐらいでこんなに簡単に私達が動かされるなんて…。
皆がきっちり踏ん張っているはずなのに、留まることなくゆっくり引っ張られていきます。
「そこまで! 勝者、領主チーム!」
「やったねみんな~」
「「シャルル様~」」
「最初に一気に引っ張られた時はダメだと思いましたよ」
「メルモア、そんなに簡単に諦めちゃダメでしょう」
「え~、シエラもすぐにシャルル様~って言っていたじゃない…」
「まぁまぁ、お姉ちゃん達…」
1回戦が終わり、綱の本数が半分になりました。
「す、すごいです。なんと1回戦で優勝候補の1チームが領主チームに敗れてしまいました~」
『オォ~~~ッ』
「「波乱の幕開けだわ~」」
「「「シャルル様~」」」
「しかし、領主チームの次の対戦相手も優勝候補の1チームです」
『ワァ~~~!!』
「「「「頑張って~」」」」
「「倒せ~!」」
「では、2回戦目を始めます」
パァーン!!
開始の合図と同時に今度は僕達も腰を下して踏ん張ります。
先ほどのチームに比べて引っ張られている感じは無いですが、お姉ちゃん達は必死に脚を伸ばして突っ張っています。
互いに突っ張っている時間が長くなり、どうしようかと思っていると、相手チームの後尾にいる人の顔がチラッと見えた時に少し笑っているように見えました。
「あっ…」
その瞬間、フッと相手側が軽くなり、脚を突っ張って引っ張っていたトリスお姉ちゃん達前の3人が尻もちをついてしまいました。
「今だよ、みんなっ!」
『おー、いす…、おー、いす…、おー、いす…』
(あれ?)
前3人が尻もちをついていて、その向こうに見える女性も足を突っ張っているわけじゃないのに、引っ張ってもビクともしません。
まるで壁に繋いだ綱を引っ張っているよう…。
「みんな、何をしているのっ! 立っているのは3人だけよ」
『おー、いす…、おー、いす…、おー、いす…』
どれだけ力を合わせても、少しも動くことはありませんでした。
何なのこの力は…。
相手の前3人がゆっくり体勢を整えると、次第にこちらが引き込まれ始めました。
(うそ…、引っ張られる…)
まるで、魔動力車に引っ張られるように、相手側の引っ張る力が途切れることなく引き込まれるのでした。
「そこまで! 勝者、領主チーム!」
「やったぁ~!」
「「シャルル様~」」
「目の前の3人が尻もちをついた時はもうダメだと思いましたよ」
「メルモア、そんなに簡単に諦めちゃダメでしょう」
「いやぁ~、あれはちょっと焦ったよね…」
「「すいません。シャルル様~」」
「すいません、皆さん…」
「大丈夫、問題ないよ。相手チームの作戦が良かったんだよ。驚いたよね…」
「1回戦目は上下に揺さぶられましたしね…。意外に奥の深い競技です」
「これで3チームに絞られたことですよね。一応入賞しましたよ」
「そうだね。1番はどうやって決めるんだろう…」
「みなさん、いよいよ綱引きも大詰めです」
「領主チームも残っている波乱の展開です」
「そして、前回優勝チームも残っています」
「「「すごいわ~」」」
「どのチームが勝つんだろう…」
「「シャルル様に勝って欲しいわ~」」
「ここからは、各チームが相手2チームと順番に戦うことになります」
「どちらのチームにも勝てば、文句なしの優勝です!」
「まずは準決勝の1回戦に領主チームの登場です!」
「ここまで、タイロンの強豪チームと当たっても難なく突破してきています」
「見た目は普通のお姉さん達なのですが、いったいどこにそんな力があるのでしょう」
「では、準決勝1回戦を始めます!」
パァーン!!
開始の合図と同時に僕達も相手チームも腰を下して踏ん張ります。
さすが準決勝です。
綱を持っている手に相手の力が伝わってきます。
「お姉ちゃん達呼吸を整えて…、相手が疲れてきたら一気にいくよ」
「「「「「はい!」」」」」
(た、確かに強いわね…)
とても初参加とは思えないわ…。
前の3人を見ていると、そんなに力があるように見えないのだけれど、引っ張っても、揺さぶってもビクともしないわね…。
「みんな、力を抜いたら持っていかれるわよ。頑張って!」
『そー、らん…、そー、らん…、そー、らん…』
「じゃあいくよ、みんな!」
「「「「「はい!」」」」」
『シャ、ルル…、シャ、ルル…、シャ、ルル…』
な、なに? この引っ張られる力は…。
今までは手加減でもされていたの?
最初からこの力で引っ張られていたら一瞬で負けて…。
「そこまで! 勝者、領主チーム!」
パチパチパチパチッ…。
「「「シャルル様~~~っ!」」
「「「格好いい~~っ」」」
「やったぁ~!」
「「シャルル様~」」
「シャルル~、勝ちましたよ~!」
「お姉ちゃん達、すごいよ!」
「……」
シャルル様は私達を褒めて下さっていますが、シャルル様の前にいた私には分かっています。
私の後ろからとても強い力で引っ張られていたのですから…。
「どうしたの、シエラお姉ちゃん?」
「いえ、何でも…。私達の後ろにシャルル様がいて下さって本当に安心できました」
「負けたチームはこのまま、次の対戦です」
「領主チームは一度離れて下さいね」
2回戦が始まると、観客が声援を送るまでに勝負がついてしまいました。
僕達と戦ったチームに力は残っていなかったようです。
さて、皆さんお待ちかね、今回の収穫祭を締めくくる綱引きの決勝戦です」
パチパチパチパチッ…。
「「「どっちも頑張れ~~~っ!」」
「領主チームは初参加、前回優勝チームは先ほど準決勝を戦ったばかりです」
「どちらも互角と言っていいでしょう!」
「では、決勝戦を始めます!」
パァーン!!
開始の合図と同時に僕達と相手チームが持つ綱がピーンっと張りました。
「おーっと、一瞬で勝負がつくかと思われましたが、綱が動きません!」
進行役のお姉さんの言葉に熱が入っています。
『せー、えす…、せー、えす…、せー、えす…』
『シャ、ルル…、シャ、ルル…、シャ、ルル…』
お姉ちゃん達も必死で頑張っていますが、僕が力を入れないと少しずつ引き込まれている感じです。
さすが前回優勝チームです。
揺さぶり方も力の合わせ方も、今日戦った中では一番でした。
「さぁ、お姉ちゃん達いくよ~」
「「「「「はいっ」」」」」
少しずつ引き込んでいたようだけれど、まったく動かなくなったわ。
まるでこちらの力が計られているみたい…。
長引くと私達も辛いから一気にいこうって決めていたのに、それでも動かないのね…。
やっぱりシャルル様が相手チームの司令塔なのかしら…。
男性が混ざっている相手チームは実質5人と変わらないのに…。
「えっ!?」
急にとてつもない力で引っ張られ始めました。
『シャ、ルル…、シャ、ルル…、シャ、ルル…』
僕はお姉ちゃん達の掛け声に合わせて、ゆっくり引っ張り始めます。
いきなり強く引っ張るとお姉ちゃん達も倒れてしまいそうなので気を付けないと…。
「そこまで! 勝者、領主チーム!」
パチパチパチパチッ…。
「「「すごいわ~~~っ!」」
「「「格好いい~~っ」」」
「「シャルル様、1番ですよ~」」
「そうだね。やったね!」
「まさか私達が1番になるなんて…」
「シャルル様がいれば当然ですよね」
シャルル様を小さな頃から見ている私にとってはなんら不思議でもありません。
「さすがです、シャルル様」
XX XY
「えぇ~っ! ルーシャ様のおっしゃられた通りシャルル様達が1番になられましたよ~」
『だからそう言ったでしょ』
もしかしたらシャルルが一人で引っ張っても勝てたでしょうねぇ。
「……さて、収穫祭の締めくくりは私が行かないとダメなのであちらに向かいますね」
「1チーム6人ですから私達全員で参加できますよ」
「シャルル様と一緒に参加出来て嬉しいです」
「これは何としても1番を取らなければなりませんね」
お姉ちゃん達の気合が入る中、僕たちは競技の参加受付をすまし普通の広場に向かいます。
広場にはすでに長くて太い綱がいくつか並べてありました。
「もしかしてこれを…?」
「そうみたいです。引き合ってこちらに引っ張り込めたら勝ちですね」
「純粋な力比べなんですね」
周りを見ると、待ってましたと言わんばかりに体格の良い女性が集まってきています。
「なんだか、お揃いのチームシャツって格好いいね」
お揃いのシャツを着ているのはこの競技に出る為だったのか…。
「本当ですね。迫力があります」
「シャルル様、エルスタイン領都に戻ったらクーシアさんに作ってもらいましょうよ」
「それは良いねぇ」
「シャルル様とお揃いのシャツが着れるなんて幸せですよ」
「そんな大袈裟な…」
大体いつ着るんだろう…。
「では、いよいよ『女性騎馬戦』に続く人気の『綱引き』の始まりです!」
「まずは対戦相手を決めますので、代表者様はこちらへ来てクジを引いてください」
「シャルル様、私が引いてきますね」と、ヌエットお姉ちゃんが進行役のお姉さんのところへ行きました。
「シャルル様、どうされますか? なんだか勝手の分からない競技ですが…」
「そうだね。引っ張り合うのは分かるけれど…」
「一気に全チームが競技をしますから、他チームを見ることができませんね」
「とりあえず、引っ張られても動かないように考えようか…」
「順番は前から、トリスお姉ちゃん、ヌエットお姉ちゃん、エリシア、メルモアお姉ちゃん、シエラお姉ちゃん、そして僕が一番端にしよう」
「「「「はい」」」」
XX XY
「いよいよ『綱引き』ですね。ルーシャ様のチームはすべての競技で入賞されていますよ」
『シャルルがいますものね。タイロンの領民の方には今回は運が悪かったと思っていただくしかありませんね』
「ルーシャ様、とても気楽にご覧になられていますね」
『おそらくこの『綱引き』もシャルル達が1番ですよ』
『リリアンに先に結果を言ってしまうのは申し訳ありませんが…』
「そ、そんなこと…」
「この『綱引き』は収穫祭だけじゃなく、日ごろから領民たちの間で行われていて、専用のチームがいくつもあるんですよ」
『あ~、それでいくつかのチームはお揃いのシャツを着ているのね』
「ですから、そう簡単に勝てるわけが…」
XX XY
「シャルル様~、クジを引いてきました。私達の対戦相手はあちらの方達です」
ヌエットお姉ちゃんの示した先を見ると、赤色のお揃いのシャツを着た体格の良いお姉さん達がすでに綱のところに立っていました。
「赤色だけになんだか威圧感がありますね」
「胸の大きさなら私の圧勝なんですが…」
「メルモアさん、冗談言っていないで…、皆さんシエラさんぐらいの身長はありますよ」
「そうですよ。魔力の勝負じゃないんですよ」
「そうですよ、メルモア。トリスの言う通りです。どうみても筋力では向こうが上でしょう」
「そ、そんなぁ、シエラ先輩、私達が負けるのですか…」
「トリスお姉ちゃんもヌエットお姉ちゃんも大丈夫だよ。僕が引っ張られないようにするから相手の力が抜けた時にお姉ちゃん達が一気に引っ張ってよ」
「「シャルル様~」」
「そ、そうよ、シャルル様がおっしゃったようにすればきっと勝てるわ」
「では、『綱引き』の1回戦を始めます」
「勝った方がその場に残り、負けた方は退場となります」
「一本の綱に一人の審査員がいますので、みなさん思い切って引っ張り合ってください」
「では全チームの皆さん、位置について綱を持ってください」
隣で戦うチームを見ると、綱の端にいる人は腰から肩に綱を引掛けて動かないようにしていました。
僕も見よう見まねでそのようにして準備をします。
「では、1回戦目を始めます」
パァーン!!
開始の合図と同時に相手チームが一気に腰を下しました。
あっと思った時には、ズルズルとかなり引っ張られてしまっています。
あんな引っ張り方なのか~。
僕も意表を突かれてしまいました。
『やー、せい…、やー、せい…、やー、せい…』
相手チームが呼吸を合わせ、上下運動をしながら脚を突っ張って引っ張っていきます。
「シャルル様~!」
僕の目の前にいるシエラお姉ちゃんが少し振り返り、僕に指示を仰いでいるようでした。
「大丈夫だよ、シエラお姉ちゃん。力を入れて元の位置に戻すから体勢を整えて…」
「お姉ちゃん達、引っ張るよ~!」
「「「「はいっ!」」」」
(えっ!? あの体勢から私達が引き戻される…?)
相手側の前3人は、出足の攻勢に足をすべらせて踏ん張ってもいないのに…。
いくら足が速いシャルル様でも、こんなに力があるわけが…。
そうすると、シャルル様の前にいる二人にこんな力が…?
『やー、せい…、やー、せい…、やー、せい…』
掛け声をかけて、力を合わせてもビクともしなくなりました。
反対にゆっくりと私達が引き込まれています。
「お姉ちゃん達、力の入れ方を合わせて~!」
「「「「「はいっ」」」」」
『シャ、ルル…、シャ、ルル…、シャ、ルル…』
「えっ…」
少し恥ずかしですが、お姉ちゃん達の力が入るなら仕方がありません。
よし、お姉ちゃん達の体勢も元に戻ったし、僕も力を入れていこう。
(おいおい…、引き込まれているぞ)
急に相手の引き方が揃ってきた…わ。
でも、引き方が揃ったぐらいでこんなに簡単に私達が動かされるなんて…。
皆がきっちり踏ん張っているはずなのに、留まることなくゆっくり引っ張られていきます。
「そこまで! 勝者、領主チーム!」
「やったねみんな~」
「「シャルル様~」」
「最初に一気に引っ張られた時はダメだと思いましたよ」
「メルモア、そんなに簡単に諦めちゃダメでしょう」
「え~、シエラもすぐにシャルル様~って言っていたじゃない…」
「まぁまぁ、お姉ちゃん達…」
1回戦が終わり、綱の本数が半分になりました。
「す、すごいです。なんと1回戦で優勝候補の1チームが領主チームに敗れてしまいました~」
『オォ~~~ッ』
「「波乱の幕開けだわ~」」
「「「シャルル様~」」」
「しかし、領主チームの次の対戦相手も優勝候補の1チームです」
『ワァ~~~!!』
「「「「頑張って~」」」」
「「倒せ~!」」
「では、2回戦目を始めます」
パァーン!!
開始の合図と同時に今度は僕達も腰を下して踏ん張ります。
先ほどのチームに比べて引っ張られている感じは無いですが、お姉ちゃん達は必死に脚を伸ばして突っ張っています。
互いに突っ張っている時間が長くなり、どうしようかと思っていると、相手チームの後尾にいる人の顔がチラッと見えた時に少し笑っているように見えました。
「あっ…」
その瞬間、フッと相手側が軽くなり、脚を突っ張って引っ張っていたトリスお姉ちゃん達前の3人が尻もちをついてしまいました。
「今だよ、みんなっ!」
『おー、いす…、おー、いす…、おー、いす…』
(あれ?)
前3人が尻もちをついていて、その向こうに見える女性も足を突っ張っているわけじゃないのに、引っ張ってもビクともしません。
まるで壁に繋いだ綱を引っ張っているよう…。
「みんな、何をしているのっ! 立っているのは3人だけよ」
『おー、いす…、おー、いす…、おー、いす…』
どれだけ力を合わせても、少しも動くことはありませんでした。
何なのこの力は…。
相手の前3人がゆっくり体勢を整えると、次第にこちらが引き込まれ始めました。
(うそ…、引っ張られる…)
まるで、魔動力車に引っ張られるように、相手側の引っ張る力が途切れることなく引き込まれるのでした。
「そこまで! 勝者、領主チーム!」
「やったぁ~!」
「「シャルル様~」」
「目の前の3人が尻もちをついた時はもうダメだと思いましたよ」
「メルモア、そんなに簡単に諦めちゃダメでしょう」
「いやぁ~、あれはちょっと焦ったよね…」
「「すいません。シャルル様~」」
「すいません、皆さん…」
「大丈夫、問題ないよ。相手チームの作戦が良かったんだよ。驚いたよね…」
「1回戦目は上下に揺さぶられましたしね…。意外に奥の深い競技です」
「これで3チームに絞られたことですよね。一応入賞しましたよ」
「そうだね。1番はどうやって決めるんだろう…」
「みなさん、いよいよ綱引きも大詰めです」
「領主チームも残っている波乱の展開です」
「そして、前回優勝チームも残っています」
「「「すごいわ~」」」
「どのチームが勝つんだろう…」
「「シャルル様に勝って欲しいわ~」」
「ここからは、各チームが相手2チームと順番に戦うことになります」
「どちらのチームにも勝てば、文句なしの優勝です!」
「まずは準決勝の1回戦に領主チームの登場です!」
「ここまで、タイロンの強豪チームと当たっても難なく突破してきています」
「見た目は普通のお姉さん達なのですが、いったいどこにそんな力があるのでしょう」
「では、準決勝1回戦を始めます!」
パァーン!!
開始の合図と同時に僕達も相手チームも腰を下して踏ん張ります。
さすが準決勝です。
綱を持っている手に相手の力が伝わってきます。
「お姉ちゃん達呼吸を整えて…、相手が疲れてきたら一気にいくよ」
「「「「「はい!」」」」」
(た、確かに強いわね…)
とても初参加とは思えないわ…。
前の3人を見ていると、そんなに力があるように見えないのだけれど、引っ張っても、揺さぶってもビクともしないわね…。
「みんな、力を抜いたら持っていかれるわよ。頑張って!」
『そー、らん…、そー、らん…、そー、らん…』
「じゃあいくよ、みんな!」
「「「「「はい!」」」」」
『シャ、ルル…、シャ、ルル…、シャ、ルル…』
な、なに? この引っ張られる力は…。
今までは手加減でもされていたの?
最初からこの力で引っ張られていたら一瞬で負けて…。
「そこまで! 勝者、領主チーム!」
パチパチパチパチッ…。
「「「シャルル様~~~っ!」」
「「「格好いい~~っ」」」
「やったぁ~!」
「「シャルル様~」」
「シャルル~、勝ちましたよ~!」
「お姉ちゃん達、すごいよ!」
「……」
シャルル様は私達を褒めて下さっていますが、シャルル様の前にいた私には分かっています。
私の後ろからとても強い力で引っ張られていたのですから…。
「どうしたの、シエラお姉ちゃん?」
「いえ、何でも…。私達の後ろにシャルル様がいて下さって本当に安心できました」
「負けたチームはこのまま、次の対戦です」
「領主チームは一度離れて下さいね」
2回戦が始まると、観客が声援を送るまでに勝負がついてしまいました。
僕達と戦ったチームに力は残っていなかったようです。
さて、皆さんお待ちかね、今回の収穫祭を締めくくる綱引きの決勝戦です」
パチパチパチパチッ…。
「「「どっちも頑張れ~~~っ!」」
「領主チームは初参加、前回優勝チームは先ほど準決勝を戦ったばかりです」
「どちらも互角と言っていいでしょう!」
「では、決勝戦を始めます!」
パァーン!!
開始の合図と同時に僕達と相手チームが持つ綱がピーンっと張りました。
「おーっと、一瞬で勝負がつくかと思われましたが、綱が動きません!」
進行役のお姉さんの言葉に熱が入っています。
『せー、えす…、せー、えす…、せー、えす…』
『シャ、ルル…、シャ、ルル…、シャ、ルル…』
お姉ちゃん達も必死で頑張っていますが、僕が力を入れないと少しずつ引き込まれている感じです。
さすが前回優勝チームです。
揺さぶり方も力の合わせ方も、今日戦った中では一番でした。
「さぁ、お姉ちゃん達いくよ~」
「「「「「はいっ」」」」」
少しずつ引き込んでいたようだけれど、まったく動かなくなったわ。
まるでこちらの力が計られているみたい…。
長引くと私達も辛いから一気にいこうって決めていたのに、それでも動かないのね…。
やっぱりシャルル様が相手チームの司令塔なのかしら…。
男性が混ざっている相手チームは実質5人と変わらないのに…。
「えっ!?」
急にとてつもない力で引っ張られ始めました。
『シャ、ルル…、シャ、ルル…、シャ、ルル…』
僕はお姉ちゃん達の掛け声に合わせて、ゆっくり引っ張り始めます。
いきなり強く引っ張るとお姉ちゃん達も倒れてしまいそうなので気を付けないと…。
「そこまで! 勝者、領主チーム!」
パチパチパチパチッ…。
「「「すごいわ~~~っ!」」
「「「格好いい~~っ」」」
「「シャルル様、1番ですよ~」」
「そうだね。やったね!」
「まさか私達が1番になるなんて…」
「シャルル様がいれば当然ですよね」
シャルル様を小さな頃から見ている私にとってはなんら不思議でもありません。
「さすがです、シャルル様」
XX XY
「えぇ~っ! ルーシャ様のおっしゃられた通りシャルル様達が1番になられましたよ~」
『だからそう言ったでしょ』
もしかしたらシャルルが一人で引っ張っても勝てたでしょうねぇ。
「……さて、収穫祭の締めくくりは私が行かないとダメなのであちらに向かいますね」
10
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界から元の世界に派遣された僕は他の勇者たちとは別にのんびり暮らします【DNAの改修者ー外伝】
kujibiki
ファンタジー
異世界で第二の人生の大往生を迎えた僕は再びあの場所へ飛ばされていた。
※これは『DNAの改修者』のアフターストーリーとなります。
『DNAの改修者』を読まなくても大丈夫だとは思いますが、気になる方はご覧ください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】ゲーム転生、死んだ彼女がそこにいた〜死亡フラグから救えるのは俺しかいない〜
たけのこ
ファンタジー
恋人だったミナエが死んでしまった。葬式から部屋に戻ると、俺はすぐにシミュレーションRPG「ハッピーロード」の電源を入れた。このゲーム、なぜかヒロインのローラ姫が絶対に死ぬストーリーになっている。世界中のゲーマーがローラ姫の死なない道を見つけようとしているが、未だそれを達成したものはいない。そんなゲームに、気がつけば俺は転生していた。しかも、生まれ変わった俺の姿は、盗賊団の下っ端ゴブリンだった。俺は、ゲームの運命に抗いながら、なんとかこの世界で生き延び、死の運命にあるローラ姫を救おうとする。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる