193 / 567
第193話 タイロンの“シャルル巻き”
しおりを挟む
迎賓館の部屋に案内されてゆっくりする間もなく、リリアンお姉さんが戻ってこられたことが知らされ、僕たちはもう一度執務館の方へ向かうことになりました。
「ルーシャ様、お久しぶりです。お手間を取らせてしまったようで申し訳ありません」
『いいえ、私達が突然に来たのですから仕方がありません』
「領主会議の帰りだとか…」
『ええ、エバーミット様のパートナーがお亡くなりになられて、今年はいつもより早めに領主会議があったのです』
「そうでしたか…」
「そちらの男の子はもしかして…」
『ええ、私の息子のシャルルよ。シャルル…』
「初めましてリリアンお姉さん、シャルル・エルスタインです。お母さんがいつもお世話になっています」
「ひゃぁ~、なんてかわいくて、格好良くて、たくましい男の子なの~」と、しゃがんで抱き付かれました。
リリアンお姉さんの髪が僕の鼻先をくすぐってムズムズします。
「あ~、とても良い匂いがするわ~」
『リリアン…』
「だってお会いしたかったんですもの…、“シャルル巻き”はタイロンでも大人気ですよ」
「今晩、タイロンで採れる果実を使った“シャルル巻き”をお出ししますのでぜひ召しあがってくださいね」
「リリアンお姉さんありがとう。とっても楽しみだよ」
「シャルル…、“シャルル巻き”ってなぁに?」
『あっ、そうだわ。それからもう一人紹介しておくわ。エリシア様よ』
エリシアも僕とお母さんの後ろから出てきてリリアンお姉さんに挨拶をしています。
「えっ!? エリシア様がなぜこんなところに…」
『色々あって、しばらくかどうかはわからないけれど、私の屋敷に滞在されることになったのよ』
「そんなことが…」
「それで、“シャルル巻き”って…?」
『エリシアさん、“シャルル巻き”は名前の通りシャルルが考えたエルスタイン領の名物になっているお菓子なのよ』
「えっ!? シャルルが考えたお菓子ですって…」
「エリシア様も一度食べたらもう虜ですよ」と、リリアンお姉さんが言っています。
「え~、早く食べてみたいです…」と、エリシアが僕の手を両手でとってグッと胸に当てるように寄り添ってきます。
「何だかエリシア様がシャルル様のことをとっても慕っておられるように見えるのですが…、ま、まさか王女様がシャルル様のパートナー候補ですか?」
『それはどうかしら…、シャルルが“男”になったらシャルル自身が決めるでしょうから…』
『リリアンは“誕生の儀”は考えていないのですか?』
「一応理想の男性は公言しているんですけれど、希望に添った男性が見つからなくて…」
『そんなことを言っていると、ナモアイのエリシモアみたいになっちゃうわよ』
「エ…エリシモアと一緒にしないで下さいよ。私はもっと品があって純情ですよ」
「……」
話に出てくるエリシモアさんて、私の名前と一文字違いなんですね。
どんな方なのかちょっと興味が湧きます。
『そういえば、明日は収穫祭なんですってね』
「はい、せっかくですからルーシャ様もぜひ領民に挨拶をお願いします」
『え~、面倒ですねぇ』
「領主の言葉とは思えないですよ」
「シャルル様も楽しいお祭りですからぜひ参加してみて下さい」
(参加…?)
「う、うん…」
「ではルーシャ様、明日は一日忙しくなりそうなので今から領内会議をしておきましょうか。夕食の時間までに終わらせましょう」
『そ、そうね…』
皆で夕食を食べた後、リリアンお姉さんが言っていたシャルル巻きが出てきました。
「シャルル様、これがタイロンで人気の“きうーいのシャルル巻き”なんですよ」
「これがシャルルの考えた“シャルル巻き”…」と、僕の向かい側に座っているエリシアも目をキラキラとさせています。
目の前に切り分けられた“きうーいのシャルル巻き”を見ると、綺麗な緑色をした果物が小さく切られた物が入っているのが見えます。
「すごいよ! クリームの白色にとても合う緑色の果物なんだね」
この緑色はまるでキルシッカお姉ちゃんの髪色のようです。
「そうでしょう。その“きうーい”っていうのがこれなのよ」と、少し濡れた土の色のような、手の平でころっとした大きさの丸い物を見せてくれました。
「そ、その茶色くて小さい塊がこの果実なの?」
「そうですよ。これを横に切ると…」
リリアンさんがその切り口を見せてくれると、緑色の果肉の中心が少し白く、そのまわりに濃い色の小さなツブツブが見えます。
「これは白いところも濃いツブツブのところも食べられるのよ」
「へぇ~、“きうーい”ってこんな果実だったんだぁ」
「さぁ、皆さん召し上がってみてください」
エリシアやお姉ちゃん達も待ちきれなかったのかすぐに食べだしています。
(僕も食べよっと…)
パクリ…。
「お、美味しいよ、リリアンお姉さん」
『本当ね。とっても美味しいわ』
「この“きうーい”が“あかべりー”より甘酸っぱいんだね。とっても爽やかでクリームに良く合っているよ」
「これが“シャルル巻き”なの…、とっても美味しい…」
「生地がふんわりしていて、クリームの量もちょうど良いです。見た目もとってもかわいいわ」
「ありがとう、エリシア」
「でも、僕も“きうーいのシャルル巻き”は初めて食べたよ。これはタイロンの人たちの工夫なんだよ」
「本当にシャルル様のおかげで名物が出来て良かったです。このタイロンでもたくさんお店が出来たんですよ」
「ルーシャ様、これってすごい売上なんじゃ…」
『作り方や形についてはシャルルが考えたので“シャルル巻き”と決めていますが、私達はお金を取っていませんよ』
「それじゃあ誰でも自由に作って売っても良いのですか…?」
『ええ、シャルルの意向で領民の皆さんの自由にしてもらっています』
『ですから、エルスタイン領内には色々な“シャルル巻き”があると思いますよ』
「そ、そんなことが出来るだなんて…」
ドラさんやホアさんのように強欲で意地汚い男の人もいるのに…、なんて清廉な方なんでしょう。
「都市長として本当に尊敬しますよ」
「でも、王都の商人が知ってしまったら…」
「大丈夫だよエリシア。“シャルル巻き”はもうエルスタイン領では名物として知られているからね。変なことをされても反対に領民のみんなが排除してくれるよ」
『そうよね。エルスタイン領民を怒らせるとどうなるか思い知ることになるわ』
「……」
私は“シャルル巻き”のあまりの美味しさに更に2切れも食べてしまうのでした。
「ルーシャ様、お久しぶりです。お手間を取らせてしまったようで申し訳ありません」
『いいえ、私達が突然に来たのですから仕方がありません』
「領主会議の帰りだとか…」
『ええ、エバーミット様のパートナーがお亡くなりになられて、今年はいつもより早めに領主会議があったのです』
「そうでしたか…」
「そちらの男の子はもしかして…」
『ええ、私の息子のシャルルよ。シャルル…』
「初めましてリリアンお姉さん、シャルル・エルスタインです。お母さんがいつもお世話になっています」
「ひゃぁ~、なんてかわいくて、格好良くて、たくましい男の子なの~」と、しゃがんで抱き付かれました。
リリアンお姉さんの髪が僕の鼻先をくすぐってムズムズします。
「あ~、とても良い匂いがするわ~」
『リリアン…』
「だってお会いしたかったんですもの…、“シャルル巻き”はタイロンでも大人気ですよ」
「今晩、タイロンで採れる果実を使った“シャルル巻き”をお出ししますのでぜひ召しあがってくださいね」
「リリアンお姉さんありがとう。とっても楽しみだよ」
「シャルル…、“シャルル巻き”ってなぁに?」
『あっ、そうだわ。それからもう一人紹介しておくわ。エリシア様よ』
エリシアも僕とお母さんの後ろから出てきてリリアンお姉さんに挨拶をしています。
「えっ!? エリシア様がなぜこんなところに…」
『色々あって、しばらくかどうかはわからないけれど、私の屋敷に滞在されることになったのよ』
「そんなことが…」
「それで、“シャルル巻き”って…?」
『エリシアさん、“シャルル巻き”は名前の通りシャルルが考えたエルスタイン領の名物になっているお菓子なのよ』
「えっ!? シャルルが考えたお菓子ですって…」
「エリシア様も一度食べたらもう虜ですよ」と、リリアンお姉さんが言っています。
「え~、早く食べてみたいです…」と、エリシアが僕の手を両手でとってグッと胸に当てるように寄り添ってきます。
「何だかエリシア様がシャルル様のことをとっても慕っておられるように見えるのですが…、ま、まさか王女様がシャルル様のパートナー候補ですか?」
『それはどうかしら…、シャルルが“男”になったらシャルル自身が決めるでしょうから…』
『リリアンは“誕生の儀”は考えていないのですか?』
「一応理想の男性は公言しているんですけれど、希望に添った男性が見つからなくて…」
『そんなことを言っていると、ナモアイのエリシモアみたいになっちゃうわよ』
「エ…エリシモアと一緒にしないで下さいよ。私はもっと品があって純情ですよ」
「……」
話に出てくるエリシモアさんて、私の名前と一文字違いなんですね。
どんな方なのかちょっと興味が湧きます。
『そういえば、明日は収穫祭なんですってね』
「はい、せっかくですからルーシャ様もぜひ領民に挨拶をお願いします」
『え~、面倒ですねぇ』
「領主の言葉とは思えないですよ」
「シャルル様も楽しいお祭りですからぜひ参加してみて下さい」
(参加…?)
「う、うん…」
「ではルーシャ様、明日は一日忙しくなりそうなので今から領内会議をしておきましょうか。夕食の時間までに終わらせましょう」
『そ、そうね…』
皆で夕食を食べた後、リリアンお姉さんが言っていたシャルル巻きが出てきました。
「シャルル様、これがタイロンで人気の“きうーいのシャルル巻き”なんですよ」
「これがシャルルの考えた“シャルル巻き”…」と、僕の向かい側に座っているエリシアも目をキラキラとさせています。
目の前に切り分けられた“きうーいのシャルル巻き”を見ると、綺麗な緑色をした果物が小さく切られた物が入っているのが見えます。
「すごいよ! クリームの白色にとても合う緑色の果物なんだね」
この緑色はまるでキルシッカお姉ちゃんの髪色のようです。
「そうでしょう。その“きうーい”っていうのがこれなのよ」と、少し濡れた土の色のような、手の平でころっとした大きさの丸い物を見せてくれました。
「そ、その茶色くて小さい塊がこの果実なの?」
「そうですよ。これを横に切ると…」
リリアンさんがその切り口を見せてくれると、緑色の果肉の中心が少し白く、そのまわりに濃い色の小さなツブツブが見えます。
「これは白いところも濃いツブツブのところも食べられるのよ」
「へぇ~、“きうーい”ってこんな果実だったんだぁ」
「さぁ、皆さん召し上がってみてください」
エリシアやお姉ちゃん達も待ちきれなかったのかすぐに食べだしています。
(僕も食べよっと…)
パクリ…。
「お、美味しいよ、リリアンお姉さん」
『本当ね。とっても美味しいわ』
「この“きうーい”が“あかべりー”より甘酸っぱいんだね。とっても爽やかでクリームに良く合っているよ」
「これが“シャルル巻き”なの…、とっても美味しい…」
「生地がふんわりしていて、クリームの量もちょうど良いです。見た目もとってもかわいいわ」
「ありがとう、エリシア」
「でも、僕も“きうーいのシャルル巻き”は初めて食べたよ。これはタイロンの人たちの工夫なんだよ」
「本当にシャルル様のおかげで名物が出来て良かったです。このタイロンでもたくさんお店が出来たんですよ」
「ルーシャ様、これってすごい売上なんじゃ…」
『作り方や形についてはシャルルが考えたので“シャルル巻き”と決めていますが、私達はお金を取っていませんよ』
「それじゃあ誰でも自由に作って売っても良いのですか…?」
『ええ、シャルルの意向で領民の皆さんの自由にしてもらっています』
『ですから、エルスタイン領内には色々な“シャルル巻き”があると思いますよ』
「そ、そんなことが出来るだなんて…」
ドラさんやホアさんのように強欲で意地汚い男の人もいるのに…、なんて清廉な方なんでしょう。
「都市長として本当に尊敬しますよ」
「でも、王都の商人が知ってしまったら…」
「大丈夫だよエリシア。“シャルル巻き”はもうエルスタイン領では名物として知られているからね。変なことをされても反対に領民のみんなが排除してくれるよ」
『そうよね。エルスタイン領民を怒らせるとどうなるか思い知ることになるわ』
「……」
私は“シャルル巻き”のあまりの美味しさに更に2切れも食べてしまうのでした。
0
お気に入りに追加
183
あなたにおすすめの小説
チート狩り
京谷 榊
ファンタジー
世界、宇宙そのほとんどが解明されていないこの世の中で。魔術、魔法、特殊能力、人外種族、異世界その全てが詰まった広大な宇宙に、ある信念を持った謎だらけの主人公が仲間を連れて行き着く先とは…。
それは、この宇宙にある全ての謎が解き明かされるアドベンチャー物語。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。
大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。
ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。
主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。
マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。
しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。
主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。
これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる