DNAの改修者

kujibiki

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第193話 タイロンの“シャルル巻き”

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迎賓館の部屋に案内されてゆっくりする間もなく、リリアンお姉さんが戻ってこられたことが知らされ、僕たちはもう一度執務館の方へ向かうことになりました。

「ルーシャ様、お久しぶりです。お手間を取らせてしまったようで申し訳ありません」

『いいえ、私達が突然に来たのですから仕方がありません』

「領主会議の帰りだとか…」

『ええ、エバーミット様のパートナーがお亡くなりになられて、今年はいつもより早めに領主会議があったのです』

「そうでしたか…」
「そちらの男の子はもしかして…」

『ええ、私の息子のシャルルよ。シャルル…』

「初めましてリリアンお姉さん、シャルル・エルスタインです。お母さんがいつもお世話になっています」

「ひゃぁ~、なんてかわいくて、格好良くて、たくましい男の子なの~」と、しゃがんで抱き付かれました。
リリアンお姉さんの髪が僕の鼻先をくすぐってムズムズします。

「あ~、とても良い匂いがするわ~」

『リリアン…』

「だってお会いしたかったんですもの…、“シャルル巻き”はタイロンでも大人気ですよ」
「今晩、タイロンで採れる果実を使った“シャルル巻き”をお出ししますのでぜひ召しあがってくださいね」

「リリアンお姉さんありがとう。とっても楽しみだよ」

「シャルル…、“シャルル巻き”ってなぁに?」

『あっ、そうだわ。それからもう一人紹介しておくわ。エリシア様よ』

エリシアも僕とお母さんの後ろから出てきてリリアンお姉さんに挨拶をしています。

「えっ!? エリシア様がなぜこんなところに…」

『色々あって、しばらくかどうかはわからないけれど、私の屋敷に滞在されることになったのよ』

「そんなことが…」

「それで、“シャルル巻き”って…?」

『エリシアさん、“シャルル巻き”は名前の通りシャルルが考えたエルスタイン領の名物になっているお菓子なのよ』

「えっ!? シャルルが考えたお菓子ですって…」

「エリシア様も一度食べたらもう虜ですよ」と、リリアンお姉さんが言っています。

「え~、早く食べてみたいです…」と、エリシアが僕の手を両手でとってグッと胸に当てるように寄り添ってきます。

「何だかエリシア様がシャルル様のことをとっても慕っておられるように見えるのですが…、ま、まさか王女様がシャルル様のパートナー候補ですか?」

『それはどうかしら…、シャルルが“男”になったらシャルル自身が決めるでしょうから…』
『リリアンは“誕生の儀”は考えていないのですか?』

「一応理想の男性は公言しているんですけれど、希望に添った男性が見つからなくて…」

『そんなことを言っていると、ナモアイのエリシモアみたいになっちゃうわよ』

「エ…エリシモアと一緒にしないで下さいよ。私はもっと品があって純情ですよ」

「……」
話に出てくるエリシモアさんて、私の名前と一文字違いなんですね。
どんな方なのかちょっと興味が湧きます。

『そういえば、明日は収穫祭なんですってね』

「はい、せっかくですからルーシャ様もぜひ領民に挨拶をお願いします」

『え~、面倒ですねぇ』

「領主の言葉とは思えないですよ」
「シャルル様も楽しいお祭りですからぜひ参加してみて下さい」

(参加…?)
「う、うん…」

「ではルーシャ様、明日は一日忙しくなりそうなので今から領内会議をしておきましょうか。夕食の時間までに終わらせましょう」

『そ、そうね…』



皆で夕食を食べた後、リリアンお姉さんが言っていたシャルル巻きが出てきました。

「シャルル様、これがタイロンで人気の“きうーいのシャルル巻き”なんですよ」

「これがシャルルの考えた“シャルル巻き”…」と、僕の向かい側に座っているエリシアも目をキラキラとさせています。

目の前に切り分けられた“きうーいのシャルル巻き”を見ると、綺麗な緑色をした果物が小さく切られた物が入っているのが見えます。

「すごいよ! クリームの白色にとても合う緑色の果物なんだね」

この緑色はまるでキルシッカお姉ちゃんの髪色のようです。

「そうでしょう。その“きうーい”っていうのがこれなのよ」と、少し濡れた土の色のような、手の平でころっとした大きさの丸い物を見せてくれました。

「そ、その茶色くて小さい塊がこの果実なの?」

「そうですよ。これを横に切ると…」

リリアンさんがその切り口を見せてくれると、緑色の果肉の中心が少し白く、そのまわりに濃い色の小さなツブツブが見えます。

「これは白いところも濃いツブツブのところも食べられるのよ」

「へぇ~、“きうーい”ってこんな果実だったんだぁ」

「さぁ、皆さん召し上がってみてください」

エリシアやお姉ちゃん達も待ちきれなかったのかすぐに食べだしています。

(僕も食べよっと…)
パクリ…。

「お、美味しいよ、リリアンお姉さん」

『本当ね。とっても美味しいわ』

「この“きうーい”が“あかべりー”より甘酸っぱいんだね。とっても爽やかでクリームに良く合っているよ」

「これが“シャルル巻き”なの…、とっても美味しい…」
「生地がふんわりしていて、クリームの量もちょうど良いです。見た目もとってもかわいいわ」

「ありがとう、エリシア」
「でも、僕も“きうーいのシャルル巻き”は初めて食べたよ。これはタイロンの人たちの工夫なんだよ」

「本当にシャルル様のおかげで名物が出来て良かったです。このタイロンでもたくさんお店が出来たんですよ」

「ルーシャ様、これってすごい売上なんじゃ…」

『作り方や形についてはシャルルが考えたので“シャルル巻き”と決めていますが、私達はお金を取っていませんよ』

「それじゃあ誰でも自由に作って売っても良いのですか…?」

『ええ、シャルルの意向で領民の皆さんの自由にしてもらっています』
『ですから、エルスタイン領内には色々な“シャルル巻き”があると思いますよ』

「そ、そんなことが出来るだなんて…」
ドラさんやホアさんのように強欲で意地汚い男の人もいるのに…、なんて清廉な方なんでしょう。

「都市長として本当に尊敬しますよ」

「でも、王都の商人が知ってしまったら…」

「大丈夫だよエリシア。“シャルル巻き”はもうエルスタイン領では名物として知られているからね。変なことをされても反対に領民のみんなが排除してくれるよ」

『そうよね。エルスタイン領民を怒らせるとどうなるか思い知ることになるわ』

「……」
私は“シャルル巻き”のあまりの美味しさに更に2切れも食べてしまうのでした。
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