DNAの改修者

kujibiki

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第186話 王領編15

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ナンバスを出発し、今日は王領とエルスタイン領の領界の近くにある王領側の町に向かっています。

「なんだか長かった気がするね~」

『フフッ…、シャルル、まだエルスタイン領にも入っていないんですよ』

「そうですよシャルル様、まだエルスタイン領都に着くまでは数日は掛かりますよ」

『それにタイロンでは領内会議もしないといけませんからねぇ…』

「まぁ、ルーシャ様はお元気と言うことなので、どんどん仕事もしてもらいましょう」

『シエラ、ひどいわ…』

「シャルル様、もしかしたら領都に戻るまでに私と一緒の部屋になる可能性もまだありますよ」

「そうだね。メルモアお姉ちゃん」

『あの山々の向こうがエルスタイン領なんですよ…』

ナンバスを囲んでいた森を抜けると、所々で作物を作っているのが見え、ずっと先には山々が連なって見えています。

「シャルル、ほら見て…。この辺にもミルクを出す動物がいるみたいよ」

「本当だね」
「でも、今日は“ふとう狩り”ができると良いよね」

『チェスカさんもこれから向かう町には“ふとう狩り”が出来るところがいくつもあると言っていましたし、また宿で聞きましょう』

「うん、そうだね」

『とっても美味しい“ふとう”が食べられそうですね』

「……?」



町に着くと、いたるところに“ふとう”の果樹園が見え、どの果樹園でも人が一生懸命に収穫をしているようでした。

「“ふとう”だらけだね」

「王都やナンバス近郊では“ふとう”を搾った飲み物が人気ですから…。もちろん果実としても人気ですよ…」

宿に着くと、今日はトリスお姉ちゃんと一緒の部屋でした。

「トリスお姉ちゃんと二人なのも久しぶりだね」

「そうですよ、シャルル様。今日は私が一人で丁寧に洗って差し上げますからね」

「うん、ありがとう」



僕達は一度部屋に荷物を置き、“ふとう狩り”に行くために再び宿の玄関に集まります。

「シャルル様、もしかしたら“ふとう狩り”が難しいかもしれません」

「どうしたのシエラお姉ちゃん」

「宿の者に“ふとう狩り”が出来そうなところを聞いたのですが、明日“ふとう”の品評会があるそうで、どこの果樹園も忙しいそうなのです」

それであんなに多くの人が収穫をしていたのか…。

「エリシア、品評会っていつものことなの?」

「数年前からですね。果実自体に美味しさの差はあってもいいのですが、飲み物にするために大量に搾って混ぜると、やはり美味しさの違いがあるのかもしれませんね…」

「そうなんだ…」

「一箇所だけ品評会に出さないだろうと思われるところを聞いていますが、行ってみないことには…」

「そうだね。町の皆さんの邪魔にはなりたくないし…、でも、まだ時間はあるからとりあえずその教えてもらったところに行ってみようよ」

「そ、そうですね」



XX XY



「えっ、シエラお姉ちゃんここ?」

『町外れなので小さい果樹園かと思いましたが、想像以上に立派な果樹園ですね』

「こんなに大きな果樹園がどうして品評会に出さないのでしょうか…」

「とりあえずここなら“ふとう狩り”をさせてもらえるかもしれないね」

「そうですね。早速聞いてみますね」

僕たちが果樹園の受付らしい建物に入り、シエラお姉ちゃんが「すいませ~ん」と声を掛けてみると、「は~い」と奥から女性が出てきました。

「いらっしゃませ。どのようなご用件でしょうか」

「あの~、こちらで“ふとう狩り”は出来るでしょうか?」

シエラお姉ちゃんがそう聞くと、その女性は少し気を落としたような顔をしました。

「どうしたの? やっぱり迷惑なのかな?」

「い、いえ、そんなことは…」
僕がいきなり声をかけたので少し驚いているようです。

「み、皆さん、もしよければ狩られた“ふとう”を譲っていただけないでしょうか」と、真剣な顔で言ってこられました。

『どうかされたのですか?』

「実は…、私も品評会に出したかったのですが、収穫する人手を取られてしまって…」

「人手を取られたってどういうことなんですか?」
エリシアが割って入ってきて聞いています。

「はい、この果樹園は町では美味しい“ふとう”が採れると言ってもらえるほどだったのですが、王都の商会の方がここの果樹園を驚くほど安い価格で譲れと言ってきたのです」

「……」

「それを断りましたら…、収穫直前に人手を取られてしまって、私一人では規定量の収穫に追いつかなくて…」

「その商会の方というのは、まさか…ドラさんと言う方じゃ…」

僕も一瞬エリシアが言っているようにクズの顔が思い浮かびました。

「いいえ、確かホアと名乗っていました」

「ホアさん…」

「エリシア、そのホアっていう人知っているの?」と、果樹園の女性に聞こえないように聞きます。

「ええ、パートナー候補だった内の一人よ」

「エリシアさんのパートナーってろくな人がいないんですね」と、トリスお姉ちゃんも厳しい言い方をしています。

『それよりも王都の商会が腐っていますね』

「本当ですね、ルーシャ様」

「お姉さん、品評会用にはどれくらい足りないの?」

「後3籠分くらいです」

「それぐらいなら僕達で採れば十分に間に合うよ」

『そうね。シャルルの言うとおりだわ』

「み、皆さんありがとうございます!」

『じゃあ、私達はシャルル用と品評会用に2つに分かれて採りましょう』

「そうですね。その方が早いことは確かですね」

「ルーシャ様、シャルル用って…?」

『い、一応私達のお土産分よ…』
『では、シエラとメルモアとエリシアさんは品評会用を頼めるかしら』

「「はい」」
「シャルル様のお手伝いが出来ないのは残念ですが仕方がないですね」

こうしてシエラお姉ちゃん達は果樹園のお姉さんの指示されたところから収穫していき、お母さんとトリスお姉ちゃんはいつものように僕の指定した物を狩っていきました。



「シャルル様、こちらの収穫は完了しました」

「シエラお姉ちゃん早かったねぇ」

「まぁ、シャルル様に指定された物ではなく、状態の良いと思われる物を一気に収穫していきますから…」

「そうだったね。助かったよ」

「シャルル様の方もすごい量を狩られましたね」

「この果樹園には“ふとう”も“しろふとう”も両方あったんだよ」
「だからお母さん達には頑張ってもらったよ」

シャルル様の後ろを見ると、朝は元気だったルーシャ様がぐったりされていました。
品評会用の方で良かったかも…。



「皆さん本当にありがとうございます。これで品評会に出せそうです」

「良かったね。お姉さん」

「でも、シャルル、今回品評会に出せたと言っても問題が解決しそうにないわね」
「どうにかしてホアさんからこの果樹園を守らないと…」

『そうね、エリシアさんの言うとおりだわ』

「エ、エリシアさんて…、もしかしてエリシア様なのですか…」

「そ、そうですよ。私の元パートナー候補が迷惑をかけてすいません」と、気付かれたエリシアが頭を下げていました。

「そ、そんな…、頭をお上げ下さい。まさかエリシア様に収穫をさせてしまっただなんて…」

「気にしないでください。当然のことです」

「エリシアは領民想いで優しいね」

「なんだかシャルルにそう言って褒めてもらうと嬉しいですよ」

『さて、じゃあどうしましょうか…』

「お母さん、この果樹園にエルスタイン領の専属果樹園になってもらったらどう?」
「この果樹園で採れた“ふとう”はすべてエルスタイン領用に販売してもらうんだよ」

『提携果樹園にするってことね』

「それならゲスだったかに手は出されないんじゃ…」

「シャルル様、ホ・アです…」

『どうでしょうか? シャルルはそう言っていますが…、え~っと…』

「失礼しました。ムーランといいます」

『どうですか? ムーランさん』

「それは願ってもない事です。エリシア様が信頼されている方のお申し出なら…。それにしてもシャルル様って一体…」

「ムーランさん、こちらはエルスタイン領主のルーシャ様にそのご子息のシャルル様なんですよ」

「え~っ!? そ、そんな方々がこの果樹園に来てくださるなんて…」

『まぁ、これでその商会もここには手は出せないでしょう。あとは人ですね』

「それなら簡単だよ。この果樹園をこの町一番にすれば良いんだよ。そうすれば良い従業員も自然に集まってくると思うよ」

『本当ね。シャルルの言うとおりだわ』

「でも、一番になるだなんて…」と、エリシアは少し困った顔をしています。

『エリシアさん、実はそれが一番簡単なんですよ。シャルルが本気になったら国中で一番も確実です』

「ルーシャ様、それはさすがにシャルルでも…」

『仕方がないですね。いつものようにしましょうか。トリス、私達がお土産用に採った物を持ってきてくれるかしら…』

「はい…」と、トリスお姉ちゃんが一籠をみんなの前に持ってきました。

『エリシアさん、ムーランさん、どうぞ品評会用と食べ比べてみて下さい』

エリシアとムーランさんは品評会用を食べてみてから、僕たちのお土産用を食べてみました。

パク…、パクリ…。

「な、なんて美味しさなの~! こんな“ふとう”食べたことが無いわ」

「これが私の果樹園から採れた物ですって~!?」
「こんなに甘くて、芳醇な香りだなんて…。もう味だけなら別種としか言えません」

シエラお姉ちゃん達も食べ比べて驚いていました。
特にメルモアお姉ちゃんは理由が分からず困惑しているようです。

『どうでした? 美味しかったでしょう』

「ルーシャ様、これは一体…」

『すべてはシャルルのおかげです。国中で一番だったでしょう?』

お母さんがそう言うと、エリシアとムーランさんは黙って何度も頷いていました。

『シャルルが狩ったお土産用をすべて使ってしまうと、今後との味の差が大きくなってしまうかもしれませんので、一籠分を混ぜる程度でいいのではないでしょうか』

「そうですね。ルーシャ様のおっしゃる事はもっともです。今後、私もシャルル様の狩りとられた“ふとう”の味に近づけられるように頑張りたいと思います」
「ですから改めて、どうか私の果樹園をエルスタイン領の提携果樹園にしてください。よろしくお願い致します」

その後、僕たちは品評会用に“ふとう”を搾るお手伝いをしてから宿に戻るのでした。
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