DNAの改修者

kujibiki

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第123話 お菓子の発表

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暖かくなってきた頃、いよいよ街の広場で新しいお菓子が発表されることになりました。

“あかべりーシャルル”は作るのに手間もお金も掛かるので今回は発表することはなく、予定通り“あかべりーのシャルル巻き”を100個用意して領民に試食してもらうことになりました。

それからもう一つ、シャルル巻を考えた後に作ってみた物を発表する予定です。
昨日までには広場に発表する為の場を設け、領都内に告知がされています。

「お母さんが発表してくれるの?」

『そうですよ。領主ですが領都の都市長でもありますからね。それにシャルルに関することは私がしないと…』

「司会は私がします」と、シエラお姉ちゃんが胸を張って言っています。

「僕も壇上に立つの?」

『今はまだシャルルの紹介はしないつもりです。お菓子と名前だけの発表ですね』

「そうなんだ。良かったぁ。顔を知られるとなんだか街にも来づらくなるしね」

『たぶんそう言うと思っていましたよ』

「ありがとう、お母さん」

『フラン、準備は間に合いそうですか?』

「時間までには間に合います」と、フランお姉ちゃんをはじめ、屋敷の手の空いていたお姉ちゃん達が全員で運び込んでいます。

「それにしてもシャルル様、“もい”を使った新しいお菓子まで考えられるとはさすがです」

「前にクーシアと話した時から考えていたんだよね」

「あ~、あの女の子ですか…」

「“もい”の味にバラつきがあったらつぶして混ぜればいいんじゃないかってね」
「あとは、フランお姉ちゃんが教えてくれた“りんこパフ”の応用だよ」
「甘味料と卵の黄色い部分、クリームや油分を混ぜて形にしたものを焼いてもらってね…」

『“あまもい”でしたね。あれも甘くて舌触りが良くてまったりとして美味しい物でした』

「あれなら大きさも揃えられるし、焼いてあるから日持ちもするんじゃないかな?」
「油分が多そうだから食べ過ぎると太っちゃうけどね。ねぇ~トリスお姉ちゃん」

「だ、大丈夫です。食べ過ぎませんよ…」



たくさんのメイドのお姉ちゃんが準備をしているのに気付いた領民が広場に集まりだしました。

『そろそろ時間ですね』

「はい」

まずはシエラお姉ちゃんが壇上にあがります。
僕とトリスお姉ちゃんは少し離れた物陰から発表を見る事にします。

壇の前には二つのテーブルが用意されていて、フランお姉ちゃんは“あかべりーのシャルル巻き”の方のテーブルで、ロッキお姉ちゃんは“あまもい”の方のテーブルで配る準備をしています。

「みなさ~ん、お集まりいただきありがとうございます」

「先日より告知していました通り、本日はこの領都、いえ、このエルスタイン領で人気になるはずのお菓子を2種類、皆様にご紹介したいと思います」

パチパチパチパチッ…。

「「「「「わぁ~~~っ」」」」」
「「「どんなお菓子だろ~~~」」」
「「「「2つもあるのか~」」」」

「これから、そのお菓子をご紹介するわけですが、今後は皆さんで工夫して販売していただいてもかまいません」

「ただ、そのお菓子の形には名前がありますので、皆さんが販売する時は領都の新しい名物になるように名前をきちんと表示してくださいね」

「では、これから領主でありますルーシャ様から一言挨拶をしていただきます」

紹介されたお母さんが壇上に上がると、領民の声が一層大きくなります。

パチパチパチパチッ…。

「「「「わぁ~~~、ルーシャ様だわ…」」」」
「「「「「なんて、お綺麗なんでしょう~~!!」」」」」

『みなさん、お集まりいただきありがとうございます』

『今回、このような形でお知らせさせていただくのは、皆さんにエルスタイン領の新たな名物となるお菓子知っていただきたいと思ったからです』

『先ほど少し説明がありましたが、今回発表させていただく2種類のお菓子は、これから皆さんで自由に工夫して下さってかまいません』
『ただ、その内の一つは形にも名前がありますのでご注意ください』

『では、一つ目から…』

お母さんはそう言いながらシエラお姉ちゃんの方を見ます。

「では、まずはこちらの方をご覧ください!」

シエラお姉ちゃんの手が向けられた壇上から見て左の方にはロッキお姉ちゃん達が立っていて、テーブルを覆っていた布が取られます。

「一つ目は“あまもい”です!」

「「「「「“あま…もい”…?」」」」」
「「なに、小さくて良く見えない…」」
「「「うわぁ~、とっても甘い匂いがするわ~」」」

“あまもい”のテーブルの近くにいた人達がザワザワとしだしました。

「これは、皆さんもよく知っている“もい”を加工したものです」
「基本的な作り方を掲示しておきますので、試食の後ご興味がある方は作ってみて下さい」

『皆さん、“もい”をどうしてわざわざ加工するのかと思われる方もいることでしょう』
『“やきもい”も美味しいですが、一つ一つ大きさや味も違っているのはご存知のとおりです』
『その問題点を解決したのがこの“あまもい”となります』

「「「「「おぉ~、なるほど…」」」」」
「「「「「どんな味なんだろう…」」」」」

「続きまして、こちらの方をご覧ください」
シエラお姉ちゃんの手が向けられた壇上から見て右の方にはフランお姉ちゃん達が立っていて、覆われた布が取られていきます。

「二つ目は“あかべりーのシャルル巻き”です」

「「「「「あの、“あかべりー”?」」」」」
「「「「「“シャルルまき”…?」」」」」
「「「あの形は…、お菓子なの?」」」

今度は“あかべりーのシャルル巻き”が並んでいるテーブルの近くの人達がザワザワとしだしました。

「これには、皆さんもよく知っているエルスタイン領の“あかべりー”が使われています」

「私達は今回“あかべりー”を使用しましたが、今後はみなさんで自由に果実を変えてもらっていただいて結構です」
「ただ、この形には“シャルル巻き”という名前がありますから、皆さんも商品の販売の際には気を付けて下さい」

「こちらにつきましても基本的な作り方を掲示しておきますので、試食の後にご興味がある方は作ってみて下さい」

『皆さん、今回2種類のお菓子を発表させていただきましたが、どちらもこの領の新たな名物として、そして皆さんが日々喜んで食べていただける物と思っております』

『今回、試食していただけるのはこの領都だけとなりますが、エルスタイン領の各都市でも同時に発表されています』
『ぜひ、皆さんでこの美味しさを広めていただけることをお願いします…』

「では、皆さん。各お菓子とも800人分は用意してあります」
「慌てず、並んで受け取って下さい。以上です!」

シエラお姉ちゃんの話が終わると、目の前に集まっていた領民がそれぞれ近い方に二つに別れていきました。

受け取った人達から感嘆の声が聞こえ、機転の利く人はすぐにもう一方のお菓子の方の列に並び直しています。

「あっ!?」

「どうされました、シャルル様?」

「うん、あそこのシャルル巻の方に並んでいるのクーシアだね」

「あっ、本当ですね…」

「きっと、シャルル様のお名前が付いているのでこちらの方に並ばれたのかもしれませんね」

「そうだよね…」
「トリスお姉ちゃん、“あまもい”を一つでいいから取ってきてくれないかな?」
「“あまもい”はクーシアと話をしていて思いついた物だから、食べておいて欲しいんだよ」

「分かりました。すぐに用意しますね」と、トリスお姉ちゃんはロッキお姉ちゃんの方へ駆けていきました。

僕はクーシアが“あかべりーのシャルル巻き”を受け取って列から出てくるところで声を掛けます。

「クーシア、発表会に来ていたんだね」

「あっ、シャルル様!?」

「しぃ~っ! 声が大きいよ」

「す、すいません」

「良かったね。シャルル巻が手に入って」

「はい! お菓子の名前が発表された時に、シャルル様が考えられたんだってすぐに分かりましたよ」

「ハハ…、やっぱりそうだよね…」

「食べてみても良いですか?」

「う、うん。感想を聞かせてもらえると嬉しいよ」

パクリ…。
「おっ…、美味しい~!! なんてフワフワな生地なの…」
「クリームは中に巻いてあるから手もそんなに汚れないし、中に入っている“あかべりー”の甘酸っぱさがとっても美味しく感じます」
「クリームばかりじゃないから、食べごたえもありますね」

「そう、良かった!」

「確かにこれはルーシャ様のおっしゃられていたようにエルスタイン領の新しい名物になりますよ」

「シャルル様、お持ちしました」

「ありがとう、トリスお姉ちゃん」

「クーシアさん、こんにちは…」

「ト、トリスさん、こんにちは…」と、クーシアが慌てて挨拶をしています。

「クーシア、こっちも食べてみてよ」
トリスお姉ちゃんに取ってきてもらった“あまもい”をクーシアに差し出します。

「えっ…、良いんですか?」

「うん、これはこの前クーシアと話をしていて思いついたんだから…」
「こっちの感想も聞かせてほしいな」

「はい…」

パクリ…。
「なっ、なにこれぇ~。これが“もい”を使ったお菓子ですか~!?」
「なんて舌触りがなめらかで、甘くてまったりしているんでしょう」

「一つの大きさは手のひらに載るくらいの大きさしかありませんが、一つ、二つでも十分満足感があります」

「これはけっこう油分もあるから美味しくても食べ過ぎちゃダメだよ」

「は、はい…」
「でも、これなら“やきもい”の当たりはずれを気にしなくて良いですね」

「まぁ、味については好みもあるだろうし、“やきもい”が無くなることもないよ」

「シャルル様、本当にすごいです!」

「クーシアにも喜んでもらえて良かったよ」

「シャルル様、そろそろ…」

トリスお姉ちゃんに声を掛けられてテーブルの方を見ると、もうどちらも配り終える所でした。

「じゃあ、またねクーシア」

「はい、シャルル様…」

まさか、こんなにもシャルル様に気を掛けられていることが分かって、自然と顔がにやけてしまうのでした。



「では、皆さん。試食していただくお菓子も無くなりましたので、これで発表会は終了とさせていただきます」

「「「「「えぇ~っ!!」」」」」
「「「「「もっと食べた~い」」」」」

「これからもしこれらのお菓子を作って販売しようとされる方は、掲示板に書かれていることを必ず守ってくださいね」

何箇所かに置かれている掲示板の前にはすでに人だかりが出来ています。
皆にもこれらのお菓子に興味をもってもらえたようです。

「お母さん、シエラお姉ちゃん、お疲れ様…」

『これでシャルルの名前が広まりますね』

「各都市でも上手く流行れば良いのですが…」

「そんな事気にしないでいいよ。美味しいお菓子が出来たんだし後は領内の人達に任せておこうよ」

その後、僕とトリスお姉ちゃんも後片付けを手伝って、みんなで屋敷に戻るのでした。
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