DNAの改修者

kujibiki

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第99話 領主会議ーバルゼ領編13

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『さぁ、出発しましょう』

お母さんの合図で魔動力車が動き出します。
今日はいつも通りトリスお姉ちゃんとキルシッカお姉ちゃんが運転席に乗っています。

『シエラは…、朝食の時も思いましたが羨ましいぐらい艶々ですね』

「シエラ、この間より肌も瑞々しいじゃないですか」

「やっぱり、そうですよね…」
見た目だけじゃなく身体もとても快調に感じます。

『何か新しい発見でも?』

「いいえ、トリスの言うような感覚には気付きませんでしたが、気持ち良さに我慢しないことにしたんです」

『我慢しない…ですか…』

「私はまだ気持ち良さを知ったばかりなのであの感覚に戸惑いはありますが、身を委ねるっていう事ですよね?」
あれ以上身体が反応すればどうなってしまうのでしょう…。

「恥ずかしいけれど、そうね…」

『そうすれば、トリスの言っていた感覚が分かるかもしれませんね』

((ゴクリ…))

「お母さん達どうしたの? そんな真剣な顔をして…」

『いえ、なんでもありませんよ』

「シエラが綺麗になったことを話をしていただけですよ」

「そうだね、本当に綺麗だよね」

「嬉しいです。シャルル様のおかげです…」

『あ~、早くバルゼ領都に着かないかしら。私もシャルルと一緒にお風呂に入りたくなってきちゃったわ』

「今日はどこまで行く予定なの?」

「え~と、今日はバルゼ領の都市の一つ、ブローナに向かいます」

「バルゼ領は果物と野菜が豊富なんだよね」
町を出発してから段々と森が少なくなり、今は見渡す限り果樹園や畑になっています。

「確かバルゼ領では“りんこ”を使った“りんこパフ”というお菓子が有名ですよ」
「他領にもある果物ですが領によって種類や色などが若干違いますね」

「お肉の動物に種類があるのと同じなんだね」
「“りんこパフ”かぁ、楽しみだよ」

果実の名前は何となく聞いたことのあるような気もするけれど…。



夕方になる前にブローナが見えてきました。
高さはそれほどありませんが、横に長い石塀が一本造られています。

「この都市は塀で囲われているわけじゃないんだね」

『そうね。農作業がし易いことが重視されているから、攻められる可能性がある方向にだけ塀が造られているのよ』

「そうなんだ…」
中央付近には魔動力車用の大きな門扉と通用門があるのですが、他にも小さい出入口が見えます。

門に着くと警備の人が確認の為に現れ、しばらく待たされることになりました。

「門で待たされるのって初めてだね」

『ええ、そうね。なぜかしら? 領主一行ならほぼ素通りなのですが…』

「お待たせいたしました。どうぞあちらまで魔動力車をお進めください」

そんな声が運転席のキルシッカお姉ちゃんに掛かり、再び動き始めました。

少し先に女性3人が立ち並んでおり、その女性達の前でもう一度止まるように魔動力車が誘導されます。

乗客室の僕たちが魔動力車から降りると、真ん中に立っていた女性がお辞儀をしてから挨拶をしてきました。

「ルーシャ様、ブローナにお越しいただきありがとうございます。私はここの都市長を任されていますティルマといいます」

『ティルマさん、お出迎え頂きありがとうございます』

「……」
ティルマお姉さんはキルシッカお姉ちゃんと同じ薄褐色の肌をした女性でした。
顎の下で切りそろえられた灰色の真っ直ぐな髪で、左眼がメンテールお姉ちゃんと同じ黄色の土属性のカラードです。

『どうして、こんな門のところで…?』

「はい、それは先日、ルーシャ様達が盗賊の襲撃を受けたと連絡が入っていたからです」

「二人の盗賊を確保したとの連絡と同時にルーシャ様達が無事だということは聞いておりましたので、町には向かわずブローナに到着されるのをお待ちしておりました」
「ルーシャ様に捕らえられた二人もすでにこちらで収監しています」

『わざわざ、ご報告ありがとうございます。盗賊と争いにはなりましたがみんな無事です』

「そちらの男の子がシャルル様でしょうか?」

『はい、そうですが、どうかされましたか』

「シクスエス様から今回の領主会議にはルーシャ様のご子息が来られることを聞いておりましたので…」

『シャルル、ご挨拶を…』

「はじめまして、ティルマお姉さん、シャルル・エルスタインです」

「うっ…、かわいい…。9歳と聞いておりましたが、とてもたくましくて格好良い男の子ですね」

(そうでしょ、そうでしょ。自慢の息子ですもの…)
『実は盗賊を捕まえたのもシャルルなんですよ』

「えっ!?」
「ルーシャ様、そんなご冗談を…。捕まえていただいたのは盗賊の首領と副首領で、首領は火属性のカラードだったのですよ」

『まぁ、そういうことにしておきましょうか…』

「……?」

『それでは、私達はもう宿に向かってもいいのかしら?』

「良ければぜひ皆さんでブローナの迎賓館に来ていただき、夕食を召し上がって行ってください」

人気料理をいただけるとのことで、僕たちはティルマさんに付いて迎賓館に向かうことにしました。



ティルマお姉さんは気さくな方で、シエラお姉ちゃん達も一緒に円卓で夕食を頂く事が出来ました。

「みなさんお待たせしました。これがブローナの人気料理の“野菜やき”です」

「これはエルスタイン領の穀物を粉末にして水で溶いた物にブローナで取れた野菜を刻んだものを混ぜて焼いた料理なんですよ」
「果実を煮込んで少し辛めに味付けした調味料を付けて召し上がってください」

「うゎ~、美味しそうだねぇ」
テーブルに並べられたそれを見ると、円く焼かれた料理なのが分かります。

「シャルル様、熱いですから気をつけて召し上がってくださいね」

僕は“野菜やき”を一口大に切り、ティルマお姉さんに注意してもらったので、口でフーフーと冷ましてから食べます。

「あつっ、はふっ…あふっ…」
「おいしいよ! 野菜がたくさん入っていてふっくらしているし、調味料も甘辛くておいしい~」
「お肉にもこの調味料が合いそうだね」

「お肉ですか…、考えてもみなかったわ。ありがとうシャルル様、今度試して見るわね」と、ティルマお姉さんは何か思いついたように言っています。

『シャルル、この“野菜やき”は熱いんですか?』

「うん、見た目より中が熱いから気をつけてね」

『フーフーしてほしいなぁ』

「あっ、ルーシャ様、ずるいですぅ」

「フーフー? 私もして下さい、シャルル様」
僕の両隣に座っていたお母さんとメンテールお姉ちゃんがそういってきました。

「仕方が無いなぁ」

僕は自分の“野菜やき”を食べやすい大きさに切ってから、口でフーフーと冷まして「あ~ん」とお母さんの口元に運びました。

『あ~んっ!』
パクッ…。
『はふ…、あふ…、お、おいしい~』

「シャ、シャルル様、私も…」

メンテールお姉ちゃんもフーフーがどういったものか分かったようで、すでに口を開けて待っています。

「フーフー。はい、メンテールお姉ちゃん、“あ~ん”」

「あ~ん…」

開けていた口をもう一度開けなおしてパクリと食べました。

「美味しいです。シャルル様~」

「ルーシャ様、メンテール、羨ましいです」
シエラお姉ちゃんがお母さんの向こうから残念そうな顔をしてこちらを見ていました。

「えっ、なに、今の?」

ティルマお姉さんが瞬きもせず、何かとんでもないようなものを見た顔をしています。

『ティルマさん、これは“フーフー”って言うんですよ』

“フーフー”って名前が付いているんだ…。

『こうやって、シャルルに食べさせてもらうといつもより美味しいのよ』
『はい、シャルル、私の“フーフー”したのも食べて』と、お母さんが口でフーフーしてから“あ~ん”と食べさせてくれました。

「うん、おいしいねお母さん」

「シャルル様、私の“フーフー”したものもどうぞ」と、メンテールお姉ちゃんも「あ~ん」と言って僕の口元に運んでくれます。

パクリ…。
「メンテールお姉ちゃんありがとう。おいしいよ」

「「「……」」」

キルシッカお姉ちゃんもメンテールお姉ちゃんの向こうからジィ~ッとこちらを見ていました。
ごめんね。席が離れているから…。

「ル、ルーシャ様、私もシャルル様に“フーフー”してもらいたいのですが…」

『どうしようかしら、他言無用ですよ。それでもいいのなら…』

「わ、分かりました。お願いします!」

『シャルル、悪いけれどお願いできるかしら』

「う、うん。いいよ」

席を立ちティルマお姉さんの側まで行くと、ティルマお姉さんの“野菜やき”を食べやすい大きさに切って、“フーフー”と冷ましてから「あ~ん」と言いながら口元に運んであげました。

ティルマお姉さんも恐る恐る「あ~ん」と言いながら口を開けて、パクリと一口で食べられました。

「うっ……」

「やっぱり、最初はシャルル様の“あ~ん”には耐えられないのね」

トリスお姉ちゃんの言うように、ティルマお姉さんは目を見開いたまま固まってしまったようです。

「シャルル様~」

シエラお姉ちゃんが悲しそうな声を出すので、席から立っているついでにシエラお姉ちゃんとトリスお姉ちゃん、キルシッカお姉ちゃんにも“フーフー”をしてあげるのでした。

「やっぱり、シャルル様に“フーフー”してもらうと自分で食べているのと味が違います!」

「本当に…」

「……」

トリスお姉ちゃんと、シエラお姉ちゃんは固まらずに感想を言っていましたが、初めてしてあげたキルシッカお姉ちゃんは言葉も無く固まってしまいました。

「そ、そんなバカな…」

ティルマお姉さんが再起動したようです。

「ル…ルーシャ様、本当に自分で食べるより美味しく感じました」

『そう言ったでしょ。いいこと、他言無用よ』

「わ、分かっております。ですが、あまりの驚きに意識が飛んでしまいました。シャルル様、ぜひもう一度お願いします」と言って、今度はティルマお姉さんが自分の“野菜やき”を持って僕の側に来ます。

結局、皆が僕の側に集まって“あ~ん”をし合うことになってしまうのでした。
僕が動かなくても良いのは助かりますがゆっくり食べられません。

「ふぅ~、もうお腹がいっぱいだよ」

『そうですね。あまりの美味しさに食べ過ぎました』

「私も食べなれた物がこんなに美味しく感じるなんて驚きです。“フーフー”とは興味深いですね。今度屋敷の者と試してみます」

『ティルマさん、シャルルにしてもらったことは本当に誰にも言わないように…』
きっと、シャルル以外の誰かに“フーフー”をやってもらっても味が変わることも無いと思いますけれどね…。

「はい…、肝に銘じておきます」

皆が美味しいと言ってくれるのは嬉しいですが大袈裟な気もします。
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