DNAの改修者

kujibiki

文字の大きさ
上 下
21 / 567

第21話 領主会議

しおりを挟む
今日は一年ぶりの領主会議が行われます。

今年はこのエルスタイン領都で行われるので移動期間も無く、仕度も簡単で本当に助かります。

各領都には“転移の祠”と言う物があるのですが、それを使うには魔力を魔道具に溜めないといけないので少し面倒です。

まぁ、領主会議に合わせて領内を視察するのも各領主の慣習ですから、往路、又は復路のどちらかで使用するのが普通です。
確かエバーミット様はいつも帰りに利用されていましたね…。

大戦前は行ったことのある場所へなら領間だけでなく、大陸間さえも転移できた者がいたと聞いたことがありますが、今ではどの魔法属性の者が使えたかさえも分かりません。
使えた者は高位の存在だったのでしょう。

さておき、昨晩はシャルルとも一緒に眠れたので体調も万全ですし、鏡にドレス姿を映すと肌の張りや髪の艶が良いのが一際分かります。

『ふふ~ん、良い感じ…』
元々化粧は薄い方ですが、化粧をしなくても良いのではないかとも思えます。

コンコン、コン。

「はい…」

ガチャ…。
「ルーシャ様、準備はよろしいでしょうか。そろそろお時間ですよ」

そう声を掛けてきてくれたのは、メイドの一人のメルモアでした。

彼女は火属性のカラードで、歳は…シエラと同じでしたね…。
赤毛でウェーブがかった髪を頭の後ろで束ねていて、朱色の瞳は髪の色と同系統なのであまり違和感はありません。

身長は私と同じくらいですが、私よりも少し細いのに出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるという、なかなか羨ましい体型をしています。

火属性の魔法は比較的攻撃的な魔法が多く、実際に気の強い女性が多いのですが、彼女の場合少し垂れた目がそんなことを感じさせないようなフンワリとした雰囲気を醸し出しています。

他領で領主会議があるときは、シエラとこのメルモアをお供につけるのですが、今回は自領なのでメルモアだけに付いてもらっています。

『それで、他の領主様はもうお着きに?』

「はい、皆さんすでに会議室におそろいです」

『では、行きましょうか…』

はぁ、早く終わらせてシャルルとゆっくり過ごしたいものです…。



XX XY



『皆さん、お待たせして申し訳ありません』

私は各領主様の顔を見ながら挨拶し、席に着きます。

「「「なっ!?」」」

『ど…どうかされましたか皆さん!? 目が怖いくらい開いていますよ…』

「一年ぶりにお顔を拝見いたしましたが、あまりに若々しいお姿に驚いてしまいました…よ」

そう言ってくださったのはケープノット領の領主エバーミット様でした。

「確かルーシャ様は数年前にお子さんを出産されてましたよね…?」

そう尋ねてこられたのはバルゼ領の領主シクスエス様です。

『若々しいだなんてありがとうございます。そうですね…、出産してもう3年になりますわ』
実は自慢したいぐらいなのですがそうは言えません。

「ご謙遜を…、私達と年齢もそう変わらないのにそれはちょっと反則ですよ!」

優越感から顔がにやけそうになりますがここも我慢です。

『反則も何もサリー様も変わりなくお綺麗ですよ』

彼女はカプランド領の領主で、皆と違うことを気にする少し煩わしい性格なのです。

「なにか特別な美容方法でも発見されたのではないのですか?」

サリー様がいきなり追求めいたことをおっしゃられます。

「確かに…、昨年もお綺麗になられたなぁと思っていたのですが、今日お会いして確信しましたよ」

『いえいえ、シクスエス様、本当に特に何も変わったことはしていませんよ…』



ルーシャ様がいきなり他の領主様に詰め寄られています。
おそらくこうなるとは予想できていました。

シャルル様を出産されてから、年々お綺麗になられているのですから…。
他の領主様の側に控える顔見知りのメイド達も“どうしてあんなに…”って顔をしています。
かくいう私もそう思っています。

元々ルーシャ様はお綺麗な方です。
そんな方が見る度に若々しくなられているように感じるのですから、おそらく屋敷の者達もそう思っていることでしょう。

同僚のシエラも最近女性らしくなってきたように感じられます。
そう、“女性らしい”のです。

女性というのはもちろんですが、つい“女性らしい”と思ってしまった感覚は何なのでしょうか…。
この分かりそうで分からない感覚に胸がモヤモヤします。
でも、そこに違いがあるのはなんとなく分かるのです。

もし聞けばルーシャ様は教えてくださるでしょうか。
それともシエラを問い詰めようかしら…。
そう思っている間に会議が始まりそうです。



『……さて、みなさん。領主会議を始めたいと思います』

まだ皆さんは納得されていないようですが、早く終わらせたいですね。

『何か各領内で懸案事項はありますか?』

「ルーシャ様の美容方法について…」

エバーミット様まで…。
一つ年上でしとやかな女性と尊敬してましたのに…。

「やはりご子息の出産に何か秘密があるのでしょうか? 今日は紹介していただけるのですか?」

シクスエス様するどい…。
ですが、ここで動揺して顔に出すわけにはいきません。

『息子には会議が早く終わるようでしたらご紹介する時間を設けてみましょう。早く終わればですけれど…』

「では、早く終わらせちゃいましょう!」

サリー様もシャルルに会う気満々のようです。

『では、改めまして懸案事項はありませんか?』

「「……」」

「では、私から…」

『エ…エバーミット様、何か領内でご懸念があるのですか?』
エバーミット様が急に真顔になって発言されました。

「ええ、実は男性の精子についての問題なのです」

「男性の数が各領で減少傾向にあるのは、これまでの領主会議でも報告し合っているのでご理解されていると思います」

「元々この世界には男性が少ないと言われている上に新たに誕生する子供も女性の方が若干多いのですから、この傾向は変わらないでしょう」

「…であれば、問題は当然精子の数となります。男性は1回、奇跡的に2回しか精子を採取できません」

「私の領内では男性の数が想定よりわずかに減ってきています。一時的なものかもしれませんが、精子の確保、“誕生の儀”について前もって検討しておいた方が良いと思うのです」

「「『……』」」
私を含め、他のお二人もエバーミット様の話を真剣に聞いています。

「現在は女性がパートナーとなる男性を見つけてから、その男性から精子を採取するようにしていますが、若いうちから定期的に精子を採取することを義務づけていかなければならないかもしれません」

「要するに、パートナーとなる女性だけではなく、他の女性も希望すれば余分に確保出来た精子によって“誕生の儀”を行えるようにするのです」

「これには男性の精神的・肉体的苦痛が伴いますし、採取した精子の保管方法も検討しなければなりません。今、急に変化を求めるわけではありませんが、こうして領主会議の議題として発案しておくことで、じっくり検討できるのではと考えているのです」

会議の場がシーンとします。

確かにいずれは検討しなくてはいけない課題です。
男性が少なくなれば当然“誕生の儀”をしない、出来ない女性が増えていくのです。

『エバーミット様、確かにそうですわね』

「おっしゃるとおりですわ、エバーミット様」

「そういえば、私のところの領地も一時的だと思われますが減少傾向ですね」

シクスエス様とサリー様も同意を示されています。



その後、昼食や休憩を挟みながら、一般的な警備・農業・工業・商業について報告や確認をして会議をまとめていきました。

『では最後に、最初にありましたエバーミット様からのご提案は今後の長期計画として、男性への対応や精子などの保存方法について検討していきましょう。一般女性の“誕生の儀”に対しての何かしらの施策も必要になってくることでしょう』

「「「異議なし」」」

そう締めくくって今回の領主会議を終えるのでした。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

処理中です...