上 下
5 / 23

護衛騎士の証言 (1)

しおりを挟む
 
エミカが王宮を出ていったと知った時のカイト様の慌てっぷりといえば、本当にやばかった。
 地雷踏んだりしたら睨み殺されそうなくらい。
 追放命令を出したと言った高官殿を本当に殺そうとしていたし。
 僕――タイザック・ウル・スクワァート始め、側近達が必死で止めたんだが。



 学園から帰ったその日。
 カイト様は学園で何か良いことがあったらしく、珍しくとても上機嫌だった。
 まあ、顔には出てないのだが。
 僕はいつものように護衛騎士としてカイト様についていた。

「エミカ、いるか?」

 カイト様が自室のドアを開け、そこにいると思われるエミカに聞こえるように声をあげた。
 だが、返事は帰ってこない。
 カイト様に続いて僕も部屋に入る。彼はエミカを探すが、どこにも見つからない。

 おかしい、と僕は思い始めた。
 エミカはだいたい、カイト様が名を呼ぶとすぐにとんでくる。学園から帰った時は、必ずカイト様の自室にいるはずだ。
 時々カイト様を驚かそうと隠れている時もあるが、こんなに彼が探しているのに出てこないことはない。
 
「エミカ!」

 カイト様もそう思ったのか、自室を出て王宮内を探すために部屋を出た。
 護衛騎士である僕は彼から離れる訳にはいかないから、彼について行こうとした時――

「カイルドルト殿下。何か問題でもありましたか?」

 ファクトリー高官殿がカイト様に話しかけた。
 カイト様は高官殿を一瞥してから、小さく頷いた。

「エミカの姿が見えない」
「ああ、エミカですか」

 高官殿はわざとらしくそう言った。

「エミカに何かしたのか?」

 カイト様はゆっくりと目を細めた。高官殿には当たらないようにしているのだろうが、僕の立っている所にはガンガン当たっている。
 恐ろしいまでの冷気が。
 高官殿はビクビクしている僕に気づかないまま、話す。

「実は、彼女はカイルドルト殿下を暗殺しようと企んでいたのです」

 暗殺!?
 カイト様は少し目を見開いた。さすがの月の貴公子様も驚いたんだろう。

「エミカはそんな事するはずがないだろう。はったりか?」

 やばい。カイト様がお怒り。
 でも魔力・剣の能力共に高いカイト様にそんなはったりかますだろうか。
 いや、しない。僕だったら確実に。
 死にたくないから。

「いいえ、事実です。彼女の私室から、毒薬が発見されましたので」

 エミカと毒薬。全く結びつかない。
 嘘なのか、と思ったが、高官殿の後ろにいた護衛騎士が袋に入った液体状の薬を見せた。
 暗殺などに使われる事の多い、毒薬だ。

「殿下暗殺未遂の疑いで、追放命令を出しました。国王陛下とカルバート殿下のご命令でもあります。監視もつけています。エミカはもう居ませんよ。殿下には新たな侍女をつけるのでご安心を。もちろん、信用出来る者ですよ」

 高官殿はそれだけ言って、踵を返して歩いて行った。
 カイト様は高官殿の宣言を聞いてから、フリーズしてしまっている。

「カイト様? 大丈夫ですか?」

 僕が話しかけても動かない。
 すると、右手がぴくりと動いて、左腰に帯刀している剣に向かった。
 止めなくてはいけないやつだ、これ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

処理中です...