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逃の章

第8話 6月10日(逃亡生活八日目)

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 羽柴秀吉は姫路城に二日程滞在した後、大阪方面へと再び動き出した。
 秀吉の活躍を讃える書物の一つ『惟任退治記』にはこう書かれている。
「諸卒揃わずといえども九日姫路を立つ、昼夜のさかいなく人馬の息を休めず尼崎に至る」

 そして秀吉は10日には明石-兵庫間を移動し、11日には尼崎まで辿りついたと書記『羽柴秀吉書状 金井文書』に記されている。

 それに対し明智光秀は約三日政務活動を行った後、9日の夕刻から夜にかけて下鳥羽へ出陣する。
 羽柴軍を迎え撃つべく、細川藤孝と筒井順慶に書状を送り応援を要請するも細川氏はこれに答えず。
 そして、羽柴の動きに尻込みをした筒井氏が光秀への派兵を延期し籠城の準備を始める。(要はビビっちゃった訳です)
 10日、明智は筒井氏をなんとか味方にしようと、筒井軍のいる洞ヶ峠の近くである京都南の男山に布陣した。結局筒井氏は明智の要請には答えなかった。



 一方、信長は

 宿屋でお茶をすすりながら三人で談笑していた。

「未だに影殿が無事であったとは信じられません。いかようにして逃げ延びたのですか?」
 成利は影武者の話に興味津々で合った。

「それはですな、明智兵が次々と押し寄せるなか斬っては捨て斬っては捨てと鬼人が如く敵をなぎ倒していったのでございます」

「おお、素晴らしい!」
 影武者の話を聞き、うっとりとする成利。
 その様子に少しヤキモチをやく信長であった。


 実際はと言うと……
 大量に押しかけた明智兵の頭上より運よく崩れ落ちた瓦礫が降り注ぎ、進入路を塞ぐ。
 瓦礫に埋もれた兵を見て動揺する兵士数人を斬り伏せ、信長と同じように明智兵の鎧をはぎ取る。

「信長は炎に呑まれ、姿を消していった」と、他方向より入ってきた明智兵に偽の情報を流し紛れ込む。信長を捜索ふりをして本能寺より脱出すると、明智軍と共に戦場を離れる。
といった具合でなんと生き延びたのである。


「それは何より、してこれからいかがなさいますか?」
 成利は信長と影武者に聞く。

「んー明智ちゃんがどっか行っちゃたみたいだし、どうしようかな」

「殿、恐らく明智は羽柴を迎え撃つべく城を出たのではと……」

「影ちゃんそれが問題なんだよ。どこにいるんだろねー」

 信長達は明智が出陣したという事は知っていたが、肝心な場所が分からない。

「とりあえず、村人に情報を聞きながら探しましょう」
 成利が刀を持ち立ち上がるとそれに続くように影武者信長が立つ。
 
「私もお供しま……」
 話し出す影武者のお腹が「ぐぅ」となる。

「あらら、影ちゃんお腹空いてるの?」
 
「ええ、申し訳ない。なにぶん今日まで無一文での生活でだったので……」

 影武者は本能寺から逃げ延びる際に金銭を所持していなかった。そのため、今日この日まで農家に野菜を分けてもらったり、川で取れた魚やそこら辺にいる虫などを食べてなんとか生きながらえていたのだった。

「うん!」
 信長は立ち上がった。
「美味しい食べ物屋さんに行こう!」


「本当ですか? 信長様」
 喜びをあらわにする影武者。

「じゃあ、情報収集を行いながら御飯屋へ行くとしましょう」
 成利も賛成し、三人は美味しい御飯屋と情報収集のために動き出す。


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