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厄災

LV293 マーキング

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 赤鬼は火の海の中を平然と進む。フミヤの体には女神守護の薄膜が張られ、それにより、火を打ち消している。女神守護は火だけではなく、熱も打ち消していた。ファリスの環境変化最適化には限界がある。故に、ファリスはフミヤにくっ付くように歩を進める。少しでも女神守護の打ち消し効果の影響を受けるためである。

「女神守護で包む?」

「いえ、フミヤさんはこのまま進んでください。消耗し過ぎると体力が持たない事も考えられるので……」

 『火災』の規模は広い、何せ500kmの火の海である。

 フミヤはスキル万華鏡LV1を使用した。

 フミヤの脳に全方向から『火災』の情報が入って来る。それはまるで、衛星で地形全体を眺めているようだった。

「この方向に150kmくらい先? 何かが蠢《うごめ》いてる」

「たぶんそれですね。行きましょう!」

「お前等、150kmって言ったら相当な距離だぞ」

 フミヤは赤鬼を見て言う。

「名案がある」

「……」


「走れーー!」

「お前、後で殺す!」

 ラオ老の召喚した赤鬼の体長は約5メートル。当然歩幅も大きい。フミヤとファリスは赤鬼の肩に乗り、赤鬼は走っている。

「すみません。赤鬼さんが走った方が早いのです」

 ファリスは怒る赤鬼を宥める。

「私達が走った場合、時速約25km。しかし、赤鬼さんはの歩幅が私達の3倍くらい大きいので、今の速度であれば三時間で目的地に辿り着けます」

「三時間‼」

「はい」

「小娘、ヌシの方がワシよりよっぽど鬼じゃ」

 赤鬼とラオ老には盟約がある。青鬼と赤鬼は人間の魔力が大好物である。ラオ老は召喚時において、大量の魔力を鬼に捧ぐ。鬼はその魔力を糧とし、魔力量に見合った働きをするまで戻る事も命令を拒否する事もできない。
 
 火災に入る直前、ラオ老は赤鬼の指揮権をファリスに譲渡した。そうした今、赤鬼はファリスの命令に絶対服従するしかなかった。

 ――走り続ける事一時間。

「うげ!」

「キャッ!」

 フミヤとファリスは尻もちをついた。赤鬼が消えたのだ。

 全力で走った赤鬼は、ラオ老との対価である魔力分の働きを終え、何も言わずに消えていった。

「アイツ、何も言わずに去って行きやがったな」

「……仕方がありません。自分で走りましょう」

「ゆっくりでいいじゃん」

「私の『カルポシ・クーロ』にも時間制限があります。フミヤさんの女神守護も同じはずです」

「俺、たぶんそんなに持たないよ」

「わかっています。だからこそ、少しでも進んで限界がきたらマーキングをして戻りましょう」

「次は続きから開始って訳ね」

 二人は全力に近い速度で走る。

「仕方ない、進めるだけ進もう!」

「お願いします」

 ――30分後、限界を迎えた二人は撤退を余儀なくされる。

 ファリスはマーキングを施し、「プ・ロフタ・イラー(開くゲート)」を発動。二人はトーレムグレイグ勢の待つ場所へと一旦戻るのだった。
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