最強勇者の夫～陰であなたを支えます。

亡者の大森林へ向かえ

LV146 急変

　魔法国家ムジャールを出て三時間が経った頃、急に船内が慌ただしくなってくる。

「今度は前方より魔物の大群です」

「いえ、飛空艇の両側からも魔物が現れました」

　魔物の襲撃である。

「何故だ！　何故こうも早く魔物に襲われる？　しかも待ち構えていたようにこんな大群が……」
　ジーガが魔物の群れに動揺する中、セレナスが勇者に的確に指示を送る。

「前方に魔力砲を放て、南の勇者は右の入り口・北の勇者は左の入り口よりデッキに出て敵の迎撃を頼む。東の勇者は後方のデッキにて敵の侵入がないか確認を頼む」

　それぞれが足早に持ち場へついていく。

「ラッキーだな！」
と、ライガが言う。

「そうですね。右のデッキには私達のパーティーだけ」

「ああ、これならベレッタの正体はバレないし安心だな」

「ようやく自由に暴れられるのぅ」
　ベレッタは久々の戦闘が嬉しそうだった。

「退屈してたんだ。頼むから瞬殺しないでくれよ。俺達の分も残してくれよな」

「わかっておるわ。ライガ」

　ヴィオラのパーティーは他の連中とは違い実に楽しそうであった。

「おおぉー、大物じゃぞ！　アレを見ろ。巨大な竜がイチ・ニー……五匹もおるでないか」
　ベレッタ達の見る先に、30m級の巨竜がこちらに向かって真っ直ぐ飛んできている。
　
 　＊ベレッタはスキル『人間化』を解除した。

「ベレッタ、飛空艇の前方へは行かないでね。みんなに見えちゃうから」

「任せとくのだぁーー」
と言ったベレッタは、背中の羽を広げ竜へと一直線に飛んで行った。

「ベレッタパーーーーンチ」

　
　ベレッタの右拳が巨竜の眉間にクリーンヒットすると凄まじい音を立てると共に
竜の頭が粉々に吹き飛び、そのまま落下していく。

「おい、弱すぎるでないか！　魔界にいた黒龍はもう少し頑張っておったぞ」
　右方向より現れた魔物の群れのほとんどは、ベレッタの攻撃を目の当たりにして動揺し動きが止まっていた。
　しかし、仲間をやられた巨竜達は怒りベレッタに一斉攻撃をかける。

「おお、来たな竜ども！」
　ベレッタのかかげた右手に強大な魔力を溜める。すると、かかげた右手の上に特大の黒い魔力玉ができ上がった。

　＊ベレッタは破球を唱えた。

　前方から襲い掛かる竜二体と大量の魔物を巻き込み破球は一直線に飛んで行く。破球に飲み込まれた多くの魔物達は跡形もなく消え去ってしまった。

「完全に天災だな」
　それを見たダンがボソっと呟いた。

＊魔物達は逃げ出した。

「もう終わりなのか。拍子抜けじゃのぅ」
　ベレッタは落胆し、元の右デッキに戻った。

「おい、お前手加減しろって言っただろ？　俺ら戦ってもないのに逃げていっただろ！」
　ライガは怒っていた。

「仕方ないではないか。これでも手加減したのだぞ」

　他の勇者達が外で魔物と戦うなか、ライガとベレッタは言い争いながら飛空艇内へと戻って行く。
　
　だが、飛空艇内では誰も予想していない事が起こっていた。

「こ、これは……」
　船内の中央ルームに戻ったファリスは驚いた。

　数人の精鋭魔術師とセレナスそして、大魔術師ジーガまでもが意識を失い床に横たわっていたのだ。