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サイテハの洞窟へ

LV41 狂乱の戦神

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 皆が見守るなか、ジンと魔人の壮絶な殴り合いで繰り広げられていた。鈍い音が何度も辺りに響き、互いの血しぶきが飛ぶ。二人の戦いは一見一歩も譲らず、互角の戦いをしているように見えていたが、実際は魔人の方がやや優勢であった。

「ジンさんの方が体力的に厳しいな。」
 いち早く気付いたのはジョンであった。

 通常、人間と魔人では肉体の構造上圧倒的な体力差があるのだ。

 ジョンの発言から間もなく、徐々にジンの息が乱れ、魔人の攻撃に押されていく。

「これは年寄りにはキツイぜ。魔人さんよ、少しは老人を労わってくれよ」

「何を言う。こんな強者はお前が初めてだ。誇りに思え!」

 ついにジンが膝をついた。

「ちょっとたんま」
 
 膝をついたジンは、魔人に前へ手の平を突き出す。

「もう終いか?」

「魔人さんよ、大人しく帰ってくれるとか無理だよな?」
 ジンが魔人に問うと、当然の如く魔人は答える。

「無理だな、お前らは皆殺しだ」
 ジンは力をふらふらと立ち上がると、集まっている冒険者達へ大声で叫ぶ。

動ける者は協力して倒れている者を運べ、逃げろ! 一時撤退だ。その間、俺が魔人を食い止める」

「ほう、お前にそんな余力があるのか」
 魔人は嘲《あざ》笑う。

「本気の本気でやるだけさ……」

 緊急事態にモコはフミヤを呼ぶ。

「フミヤさーん、何を一人でぶつぶつ言ってんのー? ジンさんが逃げろって言ってるよ!」

 ドライアドとの会話に夢中のフミヤは、事態の深刻さに気付いていなかった。

 フミヤは、ドライアドに言われ、自身のステータス画面を覗き込む。

「神スキルとありました?」

「うん、一番下にあったよ」

「そこに神達の名前やスキル名が出ているでしょ?」

「このスキル、すごい名前だな……。狂乱の戦神……アレース。あー、あの結局役に立たなかった神だ」
 
(やっと呼んだな……俺を必要か?)
 フミヤの頭へ、直接語りかけられる。

「えっ、呼んでませんけど……。しかも、必要とか一言も言ってないし!」

(良かろう! 力を貸そうぞ)
 
 *アレースは暇だった。

「えっ? うそ、いらないって!」

 意図せず、フミヤの『狂乱の戦神』が発動する。

「あああああああぁーー‼」
 フミヤの目が真紅に染まる。

 ――と次の瞬間、魔人の顔を鷲掴みにし 持ち上げるフミヤの姿がそこにあった。

 その動きに誰一人気付いている者はなく、目の前にいるジンですらいつの間にそうなったのか分からなかった。

「な、なんだお前は‼」
 驚き慌てる魔人。

 次第に魔人は震えだす。

「まさか……そんな」

「フミヤ、おまえ……」

 ジンの声にフミヤは反応しない。意識がここにはないようだ。

 フミヤが意図せず使用した『狂乱の戦神』は、狂人化《きょうじんか》の上位互換スキルであった。

 フミヤはニヤッと笑うと魔人を放り投げる。目にも止まらぬ速さで投げられた魔人は大きな岩に激突。見上げる程の大きな岩は崩れ、魔人はその下敷きになった。

「うがーー!」

 崩れた岩を押しのけ、魔人は立ち上がる。頭から流れる血を気にもせず、魔人はフミヤから目を切らない。

「そんな馬鹿な。人間の中に狂神化《きょうじんか》を使えるなどいるわけがない!」
 魔人は震えが止まらない。

「ありえない、絶対ありえない‼」
 魔人はありったけの魔力を込め、魔法を放つ。

「全力の魔衝撃をくらえ」

 巨大な漆黒な衝撃波の前に微動だにしないフミヤは両手でかき分けるように正面からその衝撃波をくぐり抜ける。

 そして、フミヤは先にあるジョンの落とした剣を拾い、魔人へと一直線へ突き進んだ。

 フミヤが魔人の首を跳ねる。

「う……嘘だろ…………」

 皆があれだけ苦戦した魔人を、フミヤは一瞬で始末してしまったのである。

 起きた出来事に理解が追い付かず、皆は立ち尽くしている。目の色が元の色に戻り、正気となったフミヤはその場で気絶し倒れた。

 *フミヤはピクピクしている。
 *フミヤは瀕死状態である。

 ドライアドは言う。
「神系のスキルは強力すぎて、使う者に大きな負荷がかかります。気を付けて使ってくださいね。あら? フミヤ様、聞こえています?」

 *フミヤは死にかけてます。

 こうしてなんとか魔人を退けた一行というかフミヤ。

 ただ、かなりの大打撃を受けた部隊は半数以下にまで減っていた。
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